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3.1 評価実験概要

次に,評価実験について述べる.評価実験の目的は,

前章で提案した ARCS 改良動機付けモデルの適用性確 認と改善点の把握である.評価実験は,「ARCS改良動 機付けモデルを元にした設計指針を利用する群」,と

「ケラーが提唱する ARCS 動機付けモデルを利用する 群」に分かれて画面設計及び開発を実施した.実験参加 者は,大学 3 年生でゲームデザインの授業を受けてい る学生で,「SGDP に含まれるARCS改良動機付けモデ ルを利用する群」をA群,「ケラーのARCS動機付けモ デルを利用する群」をB群とした.

図1 画面設計記述用紙(左A群用,右B群用)

評価実験では,表 1 に示す教材を設計及び開発を行 う.A群は設計指針が記述された用紙に,指示を参考に 画面設計を記述する(図1 左).B群は自由記述で教材の 画面設計を行う用紙(図1右)を利用した.実験参加者は,

表1の範囲で設計し要求定義書を記入していない.

表1 開発するゲームの開発目的の詳細

対象 ユーザ

新しくなる衣料品の「取扱い表示」を 知らない人

学習内容 新しくなる衣料品の「取扱い表示」[7]

について

開発目的 学習内容の理解を深める 利用環境 PC(ブラウザーゲーム)

開発環境 ノベルゲーム開発ツール ティラノビ ルダー(スタンダード版)[8]

3.2 結果

表 2 に評価実験の実験参加者人数と,画面設計数の 平均,最大数最低数ついて示す.A群には,教職課程を 履修している実験参加者を一名含んでいる.表 2 によ り設計指針を渡すか否かにより,設計画面数に大きな 差は現れないことを示していると考えられる.

表2 A群とB群実験参加者と記述内容の概要表

A群 B群

人数 (人) 29(※1) 28 設計画面数平均数 (枚) 9.55 9.82 設計画面数最大数 (枚) 14 15

設計画面数最小数 (枚) 3 5

※教職課程の実験参加者 評価実験より得られた次の 3 点画面設計の内容の比 較,ゲームの試遊による相互評価,画面設計書の内容と 開発したゲームの内容の比較を用いて,時節で分析結 果を示す.

3.2.1 画面設計の内容の比較

画面設計の内容の比較では,実験参加者が記述した 画面設計用紙を分析し,A群とB 群の特徴を比較する.

まず,A 群,B 群毎に画面設計全体の総合評価を行う ために主成分分析を実施した.

次に解析方法について述べる.最初に評価実験で回 収した要求定義書及び画面設計用紙にどの項目が記述 されているかを筆者が手作業で確認を行った.確認で

048

きた項目は,「OP画面タイトルのみ,オープニング画面 タイトルとボタン有り,ED,ストーリー,問題出題方 法,何かしらの問題を出題,教える,答え表示,選択肢,

プロローグ,成績表示,キャラクター選択,名前入力,

具体的な章の内容,学習内容,学習目的,現実世界,他 プレーヤー表示,褒める,進捗,レベル,システムの設 計」である.A群,B群毎に主成分分析を行い,画面設 計全体の記述項目のバランスの評価を行う.

まず,ARCS 改良動機付けモデルを利用したA群の 画面設計内容に対する分析結果について述べる(図2).

第1 主成分を縦軸,第2 主成分を横軸とした座標軸の A 群の主成分値分布をプロットしたものを示す.プロ ット番号がNo.1 の人が 14枚と最も多く画面設計を実 施しておりNo.29 は最も設計枚数が少ない3 枚で,番 号が小さくなるにつれて設計枚数が多いことを示して いる.

第1主成分に関しては,13要素中10個がARCS改 良動機付けモデルで設計する要素が主成分である.従 って第1主成分は,3つの要素はARCS改良動機付けモ デルに関連していると考えられる.

第2主成分には,問題の出題についての要素(問題出 題方法等),教材で学習できる内容を示す要素(具体的 な章内容等),OP画面タイトルのみ,ストーリーの要素 が含まれている.従って,第2主成分には,学習に必要 な教材の設定に関連していると考えられる.

図2 A群の画面設計結果の主成分分析

以上の各主成分の成分分析から横軸は,ARCS改良動 機付けモデルの設計度について示しており,正軸は設

計度が高く,負軸では設計度が低いことを示している.

また,縦軸は,学習に必要となる教材の設定についての 設計度を示しているため,正軸は設計が多くされてい ることを示し,負軸があまり設計されていないことを 示していると考えられる.

次に,ケラーの ARCS 動機付けモデルを利用する群 を B 群の画面設計内容に対する分析結果について述べ る(図3). A群と同様に,プロット番号が番号が小さく なるにつれて設計枚数が多いことを示している.

第1主成分には,OP画面タイトルとボタン有り,エ ンディング,プロローグ,問題出題方法,成績表示が含 まれている.これらの要素は,シリアスゲームを開発す る際に考慮する基本構成の要素である.本主成分はシ リアスゲームの基本構成度を示すと考えられる.

第2主成分に関しては,負の値に注目してみるとOP 画面タイトルとボタン有り,エンディング,ストーリー の3つの要素である.これらは,教材の流れを示せる要 素であるため,教材内の起承転結を表す成分であると 考えられる.次に,正の値には,学習を支援する要素,

OP画面タイトルのみ,プロローグ,キャラクター選択,

名前入力,選択肢が含まれている.このことからこの複 数の要素には,学習の細かい設定やゲーム内の各設定 を含んでいる.

図3 B群の画面設計結果の主成分分析

以上の各主成分の成分分析から,横軸はシリアスゲ ームの基本構成度を示すと考えられ,正の値が大きく なるにつれて構成度が高くなり,負の絶対値が 0 より 離れている場合は低なると考察することができる.横

No.1

No.2

No.3 No.4 No.5

No.6 No.7

No.8 No.9 No.10

No.11 No.12

No.13 No.14

No.15 No.16

NO.17

No.18 NO.19

No.20

No.21

No.22 No.23

No.24 No.25

No.26 No.27

No.28

/3 /2 /1 0 1 2 3 4

/2 /1 0 1 2 3 4 5 6

Bteam

OP,ED

1 2

3 4 6

7

No.1

No.2

No.3

No.4 No.5

No.6

NO.7

NO.8 No.9

No.10 No.11

No.12 No.13

NO.14

No.15 No.16 No.17

No.18

No.19

No.20 No.21 NO.22

No.23 No.24

No.25 No.26 NO.27

No.28 No.29

/2 /1 0 1 2 3 4

/3 /2 /1 0 1 2 3 4 5 6 7

Ateam

5

9 10

8

ARCS

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軸は,正の値が大きいほど学習の細かい設定やゲーム 内の各設定を画面設計用紙に記述していることがわか ると言える.また負の絶対値が 0 より離れている場合 は,教材内の起承転結を表す成分を設計用紙に記述し ていると考えられる.

3.2.2 ゲームの試遊による相互評価

最後に,実験参加者が開発したゲームの相互プレー を実施した結果について示す.本評価では,Moodle上 で提出されたゲームをプレーしてもらい「よかったゲ ーム」をあげてもらい,その中で順位をつける形式をと った.よかったゲームに挙げられた本数は,A群は20 個B群19個,TOP10ランクイン数A群は4個B群6 個であった.図3及び図3にTOP10に入った人には印 をつけてある.

3.3 考察

相互評価では,「よかったゲーム」として評価したた め,図3で示したようなストーリー,OP,EDの設計が 十分に考えられたものが面白いと評価された.その中

でA群のTOP10に選ばれた作品はARCS改良動機付け

モデルの設計度が高い分類に入っている.このことか ら,動機付けの設計を行うことで面白いと感じさせる ことができると考えられる.そして,ストーリーを記述 する設計指針についても検討を行う必要があることが 示された.

4. おわりに

本稿では,学習教材の構築方法・設計方法を考慮した のが,シリアスゲーム型学習用教材構築法を利用し,ノ ベルゲーム開発に有効であるか否かの確認した.

今後,設計書の内容と開発されたゲームの比較や,設 計指針に教える画面設計やストーリーを記述する設計 指針についての検討を実施することが課題である.

文 献

[1] Robert M. Gagn´e, John M. Keller, Katharine C. Golas, Walter W. Wager , 鈴木 克明 (訳), 岩崎 信 (訳) (2007). イ ン ス ト ラ ク シ ョ ナ ル デ ザ イ ン の 原 理 北大路書房

[2] 鈴木克明(2006).e-Learning 実践のためのインスト ラクショナル・デザイン 日本教育工学会論文誌 Vol29 No.3,197-205.

[3] Moodle Pty Ltd(2001).Moodle Overview 2017.2.9

<http://moodle.org/>(参照2017.02.12)

[4] 吉田幸二,古市昌一,黒田正博,市村洋,水野忠 則,酒井三四郎(2001).企業内教育におけるモチ ベーションを高める遠隔教育の実践とその評価 教育システム情報学会誌 Vol. 18 No.2,189-199.

[5] 古市昌一(2014).コミュニケーション能力の向上 を目的としたシリアスゲームの開発 (特集 人を活 性化させる技術) 自動車技術Vol. 68 No. 5,63-69.

[6] 粟飯原萌,杉沼浩二,古市昌一(2017).ARCS改良 動機付けモデルの提案及びシリアスゲーム型学習 用教材構築法への応用 日本デジタルゲーム学会 Vol.9 No.2, 15-30

[7] 消費者庁(2015)洗濯表示<http://www.caa.go.jp/polici es/policy/representation/household_goods/guide/wash_

01.html.> (参照: 2017.5.25).

[8] ティラノビルダー(2015). ティラノビルダー<http:

//b.tyrano.jp/> (参照: 2017.5.25)

An Application and Evaluation of SGLM to Novel Game Development

Megumi AIBARA

i

, Atushi KOBAYASHI

i

, Masakazu FURUICHI

i

iNihon University, Graduate School of Industrial Technology 1-2-1 Izumi-cho, Narashino, Chiba, Japan E-mail: cime14001@g.nihon-u.ac.jp, furuichi.masakazu@nihon-u.ac.jp

Abstract SGLM considers theory of teaching material construction and element of game construction based on SGDP.

In this article, we make formative evaluation using Novell game development evaluation was conducted for five people.

Keywords Serious Game,ARCS motivational model,Learning Material Development Method

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日本デジタルゲーム学会 2017夏季研究発表大会 予稿集 Digital Games Research Association JAPAN Proceedings of 2017 Summer Conference

協調性向上を目的としたシリアスゲーム “Line H!tter” の開発と評価

鈴木 雄次郎

粟飯原 萌

古市 昌一

日本大学大学院 生産工学研究科 数理情報工学専攻 〒275-8575 千葉県習志野市泉町 1-2-1 E-mail: ciyj17007@g.nihon-u.ac.jp

概要 近年,子供が外で遊ぶ機会が減少し,協調性を学ぶ機会が少なくなってきているという問題がある.原因 は少子化による子供の減少や公園や自然などの遊び場の減少,インターネットを通じた SNS などのコミュニケー ションツールの発達による実世界上での直接的な関わりの減少などさまざまである.これによって引き起こされる 問題として,“いじめ”や“ひきこもり”などの問題が考えられる.そこで,本研究ではこのような問題を解決するた め,協調性の向上を目的としたシリアスゲーム“Line H!tter”を開発した.本稿では試作したゲームシステムと評価 方法について説明する.

キーワード シリアスゲーム,Kinect,協調性,協働動作,

1. はじめに

元来,子供のコミュニケーション能力(協調性・社 会性)は,家庭及び学校などの教育現場や,野球や卓 球などのスポーツ,鬼ごっことなどの遊びを通して身 につけてきた.しかし近年,外で遊ぶ機会が減少し,

協調性を学ぶ機会が少なくなってきているという問題 がある.原因は,都市化に伴う自然や遊び場の減少,

少子化など様々である.他にもSNSなどのインターネ ットを通じたコミュニケーションツールの発達によっ て,現実での関わりが減少していることも考えられる.

協調性の能力の減少によって引き起こされる問題とし

て,“ひきこもり”や“いじめ”などがある.また,現代は

国際化が進んでおり,国際社会を生き抜くためにはコ ミュニケーション能力が必要である.他にも,社会に 出て直面する世代間コミュニケーションの問題を克服 する能力など多様なコミュニケーション能力が必要で ある.児童生徒が不登校となったきっかけとして考え られる状況として,友人関係をめぐる問題約 20%を占 めるというデータもある[1].これらのことから協調性 を学ぶことは重要であり,その獲得の機会が減少して いることは問題である.

そこで,本研究ではこの問題を解決する一方法とし て,協調性の向上を目的としたシリアスゲーム”Line H!tter”を開発した.本稿では本システムの概要と評価方 法について示す.

2. 関連研究

2.1 Line Ho!ckey

Line Ho!ckey[2]はチーム型テーブルトップ型シリア スゲームとして協調性や社会性を学ぶために開発され た.これは大型のマルチタッチ機能とユーザ識別機能 を 有 す る テ ー ブ ル ト ッ プ 型 HMI(Human Machine Interface)であるDiamondTouchを利用し,指を使った単 純な操作でチーム協調型対戦ゲームを実現したもので ある.内容はフィールド(ゲームステージ上)のボー ルを2人のチームメンバーがタイミングよくディスプ レイをタッチすることでラインを生成し,強調してラ インの始点と終点とを動かしてボールを弾き,ゴール に入れてチーム対抗で得点を競うゲームである.

しかし,商品化されていない DiamondTouch が必要 なため,学校や病院,一般家庭などで機材を揃えるの は困難である.

2.2 とびとび

とびとび[3]は子どもの協調性向上支援を目的とし た大縄跳び訓練シリアスゲームである.Kinect[5]を使用 し,プレイヤーの動きをゲーム内のキャラクターに反 映させ体験する.仮想空間内のキャラクターが大縄跳 びを回す.2~4人のプレイヤーはKinectの正面に立ち,

自身の分身となる3D のキャラクターを使用し次々と 縄の中に入る.回している縄にタイミングが合うよう

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関連したドキュメント