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本報告では、一般的なプログラミング言語運用のた めに paradigmatic modeが重要であり、TCGのプレイは

narrative mode で認知され得るという極めて単純な仮

説を前提にして論を進めている。しかし、Narrative 的 思考と TCG との関連は、TCG のカードテキストが Labov とWaletzky が行った Narrative の分析によって 示された構造に類似しているということに基づいてい るのみである。TCGとnarrative mode 思考あるいは認 知との関連に関する既往の研究・報告を見つけること はできず、今後、この仮説について検証を行わなけれ ばならない。また、類似の概念としては、富松らが、

いわゆるContextual Teaching and Learning のためのイ ンターフェースとしてカードゲーム様式を取り入れた

表1 ArduinoのpinMode() 関数呼び出のTCGのカード類似表現

Labov とW aletzkyの分析 A rduino関数 pinM ode() 遊戯王オフィシャルカードゲーム

「タイラントウィング」

A bstract 関数呼び出し トラップカード発動

O rientation void pinM ode(uint8_t pin, O U TP U T); タイラントウィング (※カード宣言)

C om plicating action この関数は、 引数pinで与えられた ピンをデジタル出力化し、

このカードは、 装備したモンスター の攻撃力を400ポイントアップし、

Evaluation と R esolution

さらに次の関数digitalW rite(pin, H IG H ); 呼び出しで、 デジタル出力 が可能となる。

さらに次のプレイヤーのバトルフェ イズ中、 2回の攻撃が可能となる。

C oda (なし) (ゲームでは次のステップに移る旨

が宣言される)

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試みがある [3]。Narrative と Contextual Teaching and

Learning との間の関連について記述を行っている文献

も存在するので[4]、Contextual Teaching and Learning の 方法論から、TCGのプレイ技能修得容易性やpopularity を評価する方針も考えられる。

本報告で提案した様式は、おそらくプログラミング 要素の表現力としては、従来のものに大きく劣る。例 えば、現代的なプログラミング言語に導入されている

「スコープ(同一の名前の別々の空間での管理)」の概 念を導入することは不可能であると思われる。また、

関数の呼び出しは可能でも、関数のプログラマあるい はプレイヤーによる定義も困難であろう。同様に、構 造体あるいは共用体のプレイヤーによる定義も困難で あろう。あるいは、教育用途としては、「条件分岐」と

「(1 次元)配列」程度の概念までしか表現できないと 考えられる。すなわち、本報告で提案する方式は、極 めて非力な論理表現能力しか持ちえない。

一方、本報告で提案する様式は、本当の意味で「誰 にでも修得できるプログラム」を志向するものである。

ここで「本当の意味で」とは、プログラミング技能の 修得困難性を直視するという意図で選択したものであ り、本稿著者はそのために提案方式の論理表現の幅が 制限されることを問題としない立場を採る。単純な条 件分岐と 1 次元配列までを取り扱うことを目標とする が、これは「現時点では」という意味ではなく、将来 的に無制限な拡張を行わないという意図を含む、

DehnadiとBornatは、「プログラミングの素養という

ものが存在し得るかどうか」を調査したが [5, 6]、これ は一方で、「生まれつき、あるいは大学に入学するまで に培われたセンスが重要であり、教育による伸びを期 待するのは難しい」ということを示唆している [7]。も しもそれがある程度の割合の学習者に当てはまるとす れば、2020 年度以降の日本の初等教育における情報教 育の義務化をもってしても、国民の多くがプログラミ ング可能になるといった未来像を実現することは不可 能であろう。本提案方式は、教育の他の用途としては、

近い将来、IoT デバイスなどが知能化され、「お手伝い ロボット・ドローン」のような知性体のようなものが

家庭などに導入された場合、それら知性体に(制限さ れた範囲内での)指示を与えるために用いることがで きる程度の「国民の多くが使用できるプログラミング 言語」を実現できれば理想的であると考えている1

本稿で提案する方式の他にも、プログラミング初学 者向けの言語、環境は複数存在する。そうしたものの 中で現時点で最も著名なもののひとつは、Scratch 言語 であると思われる [8]。Scratchは、初学者が正しい構文 の書き方を覚えることなくプログラムを実行可能であ ることと、直観的なオブジェクトをプログラミングの 対象とすることで、初学者向けの修得容易性を実現し ている。本稿の方式は、初学者教育を志向するという

点ではScratchの後塵を拝するものであるが、本稿筆者

は、Scratch では依然としてプログラミング困難な層は 存在すると考えている。本研究では小学生や中学生な どにも可能な遊びの世界とシームレスに接続可能なプ ログラミング言語・環境を志向した。その結果、TCG がプレイ容易性を持つのはそのNarrative 認知との親和 性によるものであるとの仮定を採り、TCG を模してゲ ーミファイされた教育用プログラミング言語・環境を 提案するものである。

3. 結言

Narrative的思考とTCGのカード表現に着目した新た

なプログラミング修得支援法について検討を行った。

文 献

[1] Bruner, J., (1986). Actual Minds,Possible Worlds.

Cambridge University Press.

[2] Labov, W. and Waletzky, J., (1967). Narrative Analysis :Oral Versions of Personal Experience, Helm, J. ed., Essays on the Verbal and Visual Arts, University of Washington Press, 12-44.

[3] Teles, S. and Tomimatsu, K., (2014). Contextual Teaching and Learning Using a Card Game Interface.

International Journal of Asia Digital Art and Design, 18(2), 18-23.

[4] Jochen, K. and Andreas, M., (2014).

Context-based science education by newspaper story problems: A study on motivation and learning effects.

Perspectives in Science, 2(1-4), 5-21.

[5] Bornat, R., and Dehnadi S., (2006) Saeed Dehnadi

1「知能化」、「知性体」と記述したが、三宅が近著で示唆し たように、「知能」と「知性」の差は、現代や近未来において 重要な概念であると思われる[9]。

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and Richard Bornat, The camel has two humps

<http://www.eis.mdx.ac.uk/research/PhDArea/saeed/pa per1.pdf> (2017年7月1日)

[6] 小林史生, 北英彦, (2014). 学生のプログラミ ングの素養を調査する手法. コンピュータ利用教 育学会PCカンファレンス2014論文集, 66-69 [7] 小松香爾, (2015). プログラミング教育の問題

と対策, 経営論集, 25(1), 83-104

[8] Lifelong Kindergarten Group at the MIT Media Lab, (2006), Scratch <https://scratch.mit.edu/> (2017

年7月1日)

[9] 三宅陽一郎, (2017). <人工知能>と<人工知性>

詩想舎

ゲーム

(1) 遊戯王オフィシャルカードゲーム, バンダイ, 第1 版は1999.

A novel attempt of gamified programming support in trading card game style that focuses on narrative mode of thought

- (Subtitle) -

Kanami KUROSAKI

Seiya OHTSUKA

and Mitsuhiro OGAWA, Ph.D.

Faculty of Science and Engineering, Teikyo University 1-1 Toyosato-Dai, Utusnomiya, 320-8551 Japan

Graduate School of Science and Engineering, Teikyo University 1-1 Toyosato-Dai, Utusnomiya, 320-8551 Japan E-mail: ogawa@his.teikyo-u.ac.jp

Abstract Computer programming learning has still been difficult in some cases. This difficulty can be depending on a leaner, not language. As a method to support learning programming language for person who is not good at programming, Trading Card Game (TCG) is analyzed as game with certain logic. As a result, we tried to use TCG format as a narrative mode of thought expresser. Then, an Arduino function was tried to be translated as a form that follows TCG card text.

Currently, we are translating all examples in tutorials of Arduino and processing programming language to TCG format.

That may help people to understand a part of computer programming.

Keywords Programming Support, Gamify, Trading Card Game, Programming Education, Arduino

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日本デジタルゲーム学会 2017夏季研究発表大会 予稿集 Digital Games Research Association JAPAN Proceedings of 2017 Summer Conference

音響メディアとしてのデジタルゲーム

尾鼻 崇

中部大学 〒487-0027 愛知県春日井市松本町1200

E-mail: obanat@isc.chubu.ac.jp

概要 本発表では、聴覚文化(研究)のコンテクストにデジタルゲームを置くことで、我々がデジタルゲーム をプレイする際に「何をきいているのか」を問い直し、作品概念のゆらぎや音楽聴取の多様化が指摘される現代社 会における「音響メディアとしてのデジタルゲーム」の可能性を議論する。

キーワード ゲーム音楽, ゲームオーディオ, 音響メディア, 聴覚文化論, 音楽作品

1. 序論

我々の音楽をめぐる文化や聴取体験は、楽譜、録音 メディア、複製技術、デジタル技術、携帯型端末など を代表としたテクノロジーの変遷とともに、大きく変 化してきた。本発表は、Jonathan Sterne をはじめとす る聴覚文化論、音響メディア論における議論を参照し つつ、従来の聴覚文化ないしその歴史(研究)のコン テクストにデジタルゲームを置くことで、我々がデジ タルゲームをプレイする際に「何をきいているのか」

を問い直し、「音響メディアとしてのデジタルゲーム」

の可能性を見出す試みである。

本予稿では、本発表が射程とする領域を整備するた めに、音楽/音響メディアの歴史とそれを巡る議論を まとめておきたい。

2. 「作曲−演奏−聴取」のリニアな構造

中世ヨーロッパの時代では、音楽は一回性(ライブ)

のものであった。音楽家は聖職者か、もしくは宮廷に 仕える身分にあり、今日のような芸術家としての役割 ではなく、儀式のための奉仕者としての位置づけにあ った。これは音楽は元来「作るもの」ではなかったこ とを裏付けている。もちろん今日の五線譜に近しいメ ディアはギリシア時代から用いられていた。しかしそ れは、大まかな旋律を忘れないでおくためのメモ程度 の役割しか与えられてはいなかった。

その後、ひとつの音に明確な音価を与えようとする

「定量記譜法」が考案されて以降、「楽譜に表現される もの」の比重が増していく。これにより、音楽実践の

核が演奏から作曲へと移行することになる。すなわち 消え去るはずの音の響きを楽譜上に記し、より複雑に 構築/設計(composition)していくことが音楽という行 為となる。音楽がしばしば建築と関連付けられるのは、

ここに起因している。

それによって作曲家の仕事とは、机に向かって知的 作業を行う存在、という位置づけになる。ここに今日 に至る「音楽作品」という概念が誕生する。その後、

1501 年にヴェネツィアで世界初の楽譜印刷・出版が行 われることによって、我々がよく知る「作曲−演奏−聴 取」という音楽をめぐるリニアな構造が確立すること になる1

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