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仕事とエネルギー

ドキュメント内 物理学I教材 (ページ 37-40)

第 3 章 仕事とエネルギー 29

3.2 仕事とエネルギー

のつりあい」が実現している。しかし,実は,「大きさを 持つ物体」についてはそれに加えて, 上述の「てこの原 理」に相当する,「モーメントのつりあい」というもの も実現する。モーメントとは,簡略に言えば,ある点(支 点)からの距離と,それに直交する力との積だ。そして, モーメントのつりあいとは, モーメントの合計が0にな るということだ。高校物理を学んだ人は聞いたことがあ るだろう。しかし, これをきちんと正しく記述し, 理解 するには, 数学で「ベクトルの外積」というのを学ばね ばならないので,今は詳述しない(後の章で学ぶ)。ただ し,ここでは,「仮想仕事の原理は,力のつりあいだけで なく, モーメントのつりあいまでも含んだ, 一般性の高 い法則だ」ということを認識しておこう。

● 問43 図3.4のようなジャッキについて, 半径rの ハンドルを1回転すると,上載物は∆yだけ持ちあがる とする。摩擦は無視する。

(1) ハンドルをまわすのに必要な力をF とする。ハン ドルを1回転するときに,君の手がなす仕事は

2πrF (3.8)

であることを示せ。

(2) 上載物の質量をmとする。ハンドルを1回転する ときに,重力のなす仕事は

−mg∆y (3.9)

であることを示せ。

(3) 次式を示せ:

2πrF−mg∆y= 0 (3.10)

(4) 次式を示せ:

F = mg∆y

2πr (3.11)

(5) m= 1000 kg, r= 0.2 m, ∆y = 0.003 mのとき, Fはどのくらいか?

よくある質問44 仮想仕事の原理の「仮想的な微小変位」は どうして仮想的である必要があるんですか? ... 「微小変位」

という考え方自体がそもそも仮想的です。バランスしている 系に少しでも変化を加えたら,バランスが崩れるかもしれな い。でも,「バランスを崩さない程度に小さな変位」というの が微小変位であって,そもそもそんなの厳密には現実的に無理 じゃね?という気持ちがあるから「仮想」なのです。

図3.4 ジャッキで物を持ち上げる。

よくある質問45 仮想仕事の原理に鳥肌が立ちました。自然 の不思議さを感じざるを得ません。... このような原理を見つ ける旅が,学問としての物理学なのでしょう。

3.2 仕事とエネルギー

さて, 仮想仕事の原理では, 「仕事」という量が重要 な働きをした。それにとどまらず, 仕事は, 物理学の全 般にわたって, 重要な役割を果たす概念だ。例として, 図3.1の例をもういちど考えよう。君がロープを引くこ とで

2T∆x

という仕事をしたとき, 同時に, 質量mの物体にかかる 重力が

−mg∆x (3.12)

という仕事をした。このとき, 仮想仕事の原理から, 両 者の和は0である。

君がロープを引くことによって君は仕事をし, 実際, 疲れる。しかしその努力は, 重力に逆らって物体が上昇 した,という結果(重力による負の仕事)に残っている。

この上昇した状態で物体に別のロープとか滑車とかてこ をつければ, 今度は物体が下がることによって, また別 の物体を持ち上げることができるだろう。

このような話は,お金のやりとりに似ていないだろう か? A君がB君に1000円を譲渡したとする。なぜそん なやりとりが起きたか, とか, それによって2人の関係 はどうなるか, という興味もあるが, 2人以外の人にし てみれば, お金のやりとりは2人の間で完結している(2 人あわせた収支は0である)。そして, A君からもらっ た1000円で,こんどはB君がCさんから何かを買うこ とができる。

物理学における仕事とは, この話の「お金」のような 役割をする。A君, B君, Cさん, ... とお金が手渡され

32 第3章 仕事とエネルギー ていくように, 君がロープを引くことでなした仕事は,

後々まで, 形を変えながら, 様々なところに受け渡され るのだ。そのように, 仕事を普遍化した量を, 物理学で は エネルギー という。エネルギーとは, 仕事が形を変 えた量, もしくは仕事に形を変えることができる量であ る。エネルギーは仕事と同じ次元を持ち, その単位は, SI単位系ではJである。

● 問44 エネルギーとは何か?

エネルギーには, 様々な形態がある。熱もエネルギー だ。なぜか? 例えば気体に熱を加えると膨張し, まわり のものを移動させることができる。つまり, 仕事ができ る。だから熱はエネルギーである。

光もエネルギーの一形態だ。なぜか? 太陽光を浴びる と暖かくなる, つまり熱を受け取ることができる。熱は エネルギーなので,光はエネルギーを運ぶのだ。

熱は, 後に学ぶ「運動エネルギー」というタイプのエ ネルギーに帰着させて考えることができる。また, この 章の後半で学ぶ「ポテンシャルエネルギー」というタイ プのエネルギーもある。物質が化学反応するときに出 る熱や光は, 物質の分子レベルでのポテンシャルエネル ギーの変化によるものである。

さて,仕事について,もう少し,丁寧に数学的に意味づ けよう。

さきほど, 仕事とは, 「力と, その力が働く点が”力と 同じ向き”に動いた距離との掛け算」であると述べたが, それが成立するのは, その点の移動中に, 力がほとんど 変化しないことが必要である(でなければ, どの時点で の力を掛け算すればいいのかわからない)。では, 移動 中に力が次第に変化するような場合は, 仕事はどのよう に定義されるのだろうか?

いま,ある物体に力F がかかっているとき, それを力 の向きに∆xだけ動かす。 ∆xだけ動かす間にはF は 変化しないと考える。すると, その力がする仕事∆W は,

∆W =F∆x (3.13)

である。これは仕事の定義だ。これをたくさん繰り返す ことを考えよう。いま, 座標上で, 位置x0にある物体 を,位置x1まで運ぶとする。この間,物体にかかる力は 変化するかもしれないが,x0からx1 まではとても近く て, その間の力の変化は無視できるくらいに小さいとす る(逆に言えば, 力の変化が無視できるくらいに, x0と x1を近づける)。つまり, この間の力はF1 でほぼ一定

値とみなせる。このときの仕事∆W1は,上の式から,

∆W1≒F1∆x1 (3.14)

である(∆x1=x1−x0とする)。位置x1まで来た物体 は, こんどはx1のすぐ近くの位置x2まで運ばれ, その 間, 物体にかかる力はF2で一定であるとする(ただし F2はF1と同じとは限らない)。このときの仕事∆W2

は,同様に,

∆W2≒F2∆x2 (3.15)

である(∆x2=x2−x1とする)。以下同様に,物体をす こしずつx3, x4,· · · , xn まで順次運び(nは正の整数), 各ステップでは物体にF3, F4,· · · , Fn というそれぞれ 一定値の力がかかっていると,各ステップでの仕事は,

∆W3≒F3∆x3

∆W4≒F4∆x4

· · ·

∆Wn≒Fn∆xn (3.16)

となる。これらを辺々で合計すれば,

n

k=1

∆Wk

n

k=1

Fk∆xk (3.17)

となる。左辺は,物体をx0からxnまで運ぶときの全体 の仕事であり,これをWと書こう:

W ≒

n

k=1

∆Wk

n

k=1

Fk∆xk (3.18)

ここでnを十分大きくとって,x1, x2, ..., xnの分割を十 分に細かくすれば,すなわち,式(3.18)の極限として,

W = limn

∆x→∞k0 n

k=1

Fk∆xk (3.19)

を考えれば, 「数学リメディアル教材」の積分の定義よ り,次式が成り立つ:

仕事の定義(力が一定でない場合)

物体を位置aから位置bまで運ぶときの仕事は, W =

b a

F(x)dx (3.20)

ここでx0をaに,xnをbに,改めて書き換えた。F(x) はxの各点で物体が受ける力だ。この式(3.20)は,仕事

の定義式(3.13)を,「力が次第に変化する場合」に拡張

した(つまり,より一般性の高い)仕事の定義式である。

3.2 仕事とエネルギー 33 例3.3 質量mの物体が,地表付近でmgという大きさ

の重力を受けて,高さh0からh1まで変化する。重力の なす仕事を求めよう。座標軸を上向きにとると,重力は, 式(2.5)より,

F=−mg (3.21)

である。ここで右辺のマイナスは,重力が座標軸の向き とは逆向きであることを表す*2。従って,式(3.20)より,

W =

h1

h0

(−mg)dx

=−mg(h1−h0) =mg(h0−h1) (3.22) となる。もしh0> h1なら(つまり物体が下がるとき), W >0である。もしh0< h1なら(つまり物体が上が るとき),W <0である。つまり,重力に逆らって動く 場合は, 重力のする仕事はマイナスである, ということ になる。(例おわり)

よくある質問46 例 3.3で, 座標軸は下向きじゃダメです

か? ... いいですよ。その場合, F = mg となり, W =

mg(h1−h0)。これは本文の結果とは符号が逆のように見え ますが,今の場合はhが大きいと低いので,結局,物体が下が るとh0 < h1となり,そのときW は正になる。 という結論 は変わりません。本文で座標を上向きにとったのは,「高いと ころほどhが大きい」ほうが,我々の空間認識では直感に素直 だからです。

例3.4 質量mの物体Aが,質量M の物体Bから万有 引力を受けながら,物体Bからの距離がR0からR1ま で変化する。このとき万有引力のなす仕事を求めよう。

座標軸を物体Bから物体Aの向きにとると, 万有引力 は,式(2.1)より,

F=−GM m

x2 (3.23)

である。ここで右辺のマイナスは,万有引力が座標軸の 向きとは逆向きであることを表す*3。式(3.20)より,

W =

R1

R0

(−GM m x2

)dx=[GM m x

]R1

R0

=GM m( 1 R1 − 1

R0

) (3.24)

となる。(例おわり)

*2(2.5)では力の向きを考えず,力の大きさだけを考えていた

ことに注意せよ。

*3(2.1)では力の向きを考えず,力の大きさだけを考えていた

ことに注意せよ。

● 問45 バネ定数kのバネについた物体を,バネの自 然状態を原点として位置x0 から位置x1まで動かすと きに,バネの弾性力がなす仕事W は,

W =−1

2k(x21−x20) (3.25)

となることを示せ。ヒント: 式(2.13)よりF =−kxと し,式(3.20)を使う。

● 問46 気体を膨張させたり圧縮したりするときの仕 事を考えよう。ある気体が,断面積Aのシリンダー(筒 状の容器)に入っており,上面がピストンで蓋してある。

鉛直上向きにx軸をとり, シリンダーの底面でx= 0と する。ピストンはx軸にそって上下に動くことができ る。最初, ピストン(つまり蓋)はx= hにあって静 止しているとする(図3.5)。ピストンは十分に軽いとし, 重力を無視する。気体の圧力をP とする。

図3.5 気体の入ったシリンダー。

(1) 気体の体積V は,V =Ahと表せることを示せ。

(2) 気体がピストンに及ぼす力F1は,

F1=P A (3.26)

となることを示せ。

(3) 外部からピストンにかかる力(それを外力という*4) をF2とすると,

F2=−P A (3.27)

*4この外力が具体的に何によるものかは,ケースバイケースであ り,ある場合は誰かが手で押さえ込んでいるのかもしれないし, ある場合はシリンダー外部に充満する気体の圧力によるものか もしれない。この問題ではその詳細は気にしない。

ドキュメント内 物理学I教材 (ページ 37-40)

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