• 検索結果がありません。

衝突のときエネルギーはどうなるのか ?

ドキュメント内 物理学I教材 (ページ 79-82)

第 7 章 運動量保存則 71

7.2 衝突のときエネルギーはどうなるのか ?

FAB+FBA =0 (7.16)

である。従って,式(7.14)の最後の行は0になる(0の 積分は0)。従って,

mAvA(t1)−mAvA(t0) +mBvB(t1)−mBvB(t0) =0 となる。書き換えれば,

mAvA(t1) +mBvB(t1)

=mAvA(t0) +mBvB(t0) (7.17) となる。この式は, 2つの質点の運動量の和は時刻t1と 時刻t0で変わらない, ということだ。以上から, 「2つ の質点が, 外力の影響を受けずに運動する場合, 全運動 量は不変である」ということが示された。次の問で証明 するように, 質点が3つになっても, 同様の式が成り立 つ。この証明を,任意の個数の質点に拡張することも容 易にできる。つまり, 前述の運動量保存則が成り立つ!

● 問104 3つの質点A, B, Cが互いに内力のみを受

けて運動する系でも, 全運動量が保存することを示せ。

ヒント:式(7.12)のような式を, A, B, Cのそれぞれに ついて考え, 足し合わせればよい。ただし, Aに働く力 はFAB+FAC であることに注意。

● 問105 2つの質点A, Bが, x軸上を互いに逆向き に等速直線運動で運動し, 接近し, いずれ衝突する。質 点A, Bの質量はそれぞれ2.0 kgと3.0 kgであり,衝突 前の質点A, Bの速度はそれぞれ−4.0 m s1, 5.0 m s1 である。衝突後, 2つの質点はくっついて1つの質点に なる場合,衝突後のこの質点の速度を求めよ。

7.2 衝突のときエネルギーはどうなるのか ?

この「運動量保存則」は,前章までに学んだ「力学的エ ネルギー保存則」になんとなく似ているが, 正直なとこ ろ,どう違うのだろうか? そこで,以下の問を考えよう:

● 問106 問102の続きを考える。

(1) 衝突前の運動エネルギーの総和を求めよ。

(2) 衝突合体後の運動エネルギーを求めよ。

この現象では, 衝突合体で運動エネルギーが減って しまった。では,この減ったぶんのエネルギーはどこに 行ってしまったのだろう?

まず考えられるのは,ポテンシャルエネルギーである。

既に学んだ「力学的エネルギー保存則」では, 運動エネ ルギーとポテンシャルエネルギーの総和は一定なのだ から, 運動エネルギーが減った分, ポテンシャルエネル ギーが増えていれば, つじつまは合う。

しかし! この衝突ではポテンシャルエネルギーは変化 していない。ていうか,外力が無いからそもそもポテン シャルエネルギーは0である。もし外力(ボールの衝突 における重力など)があったらどうだろう? 外力が仕事 をすれば, それはポテンシャルエネルギーを変化させる だろう。ところが, 衝突の短い瞬間だけに注目すると, 物体の運動は小さい空間領域で発生するので, たとえ 外力があっても, 外力による仕事はほとんど無視できる (仕事=力×変位の「変位」が小さいから!)。従って,外 力がある場合でも, 衝突の前後で外力によるポテンシャ ルエネルギーの変化はほぼ0だ。従って, 外力があろう がなかろうが, 衝突の前後でポテンシャルエネルギーは 変化しない。

ならば外力以外の力によるポテンシャルエネルギー はどうだろう? 例えば, ボールどうしが衝突するとき, ボールは変形する。その変形は, ボールを構成する各部 分の弾性力に逆らって行われる(仕事がされる)ものな ので,弾性力によるポテンシャルエネルギーを増加させ る。しかもこの変形は, 衝突終了後も, ボールをぐにゃ ぐにゃと振動させることによって継続する。弾性力に よるポテンシャルエネルギーは, この振動の運動エネル ギーにも転化するだろう。

そのような振動は,やがて収まるだろう。それは,ボー ル内部の摩擦によるものである。そのとき, 振動のエネ ルギーは, 最終的にはボールの温度を上げる熱エネル ギーとなるだろう。

このように, 衝突の際に減った運動エネルギーは, 物 体内部の振動のエネルギーや熱になるのである。

このようなことのない衝突,すなわち,衝突によって全 運動エネルギーが変化しない(減らない)ような衝突を, 弾性衝突 とか,完全弾性衝突という。弾性衝突でない衝 突現象(全運動エネルギーが減る衝突)を, 非弾性衝突 という。上の例は,非弾性衝突である。

よくある間違い1 弾性衝突を「エネルギーが失われない衝 突」という... 弾性衝突でも非弾性衝突でも,熱エネルギーま で含めて全てのエネルギーを考えれば,エネルギーは失われま せん。どういう形のエネルギーについて話をしているのかに

74 第7章 運動量保存則 注意することが必要です。

よくある間違い2 弾性衝突を「運動量が失われない衝突」と いう... 弾性衝突でも非弾性衝突でも,運動量は変化しません。

それは式(7.17)であなた自身が証明したことです。

● 問107  

(1) 弾性衝突とは何か?

図7.2 1直線上を運動する2つの質点どうしの衝突。

上: 衝突前,中: 衝突の瞬間,下: 衝突後

● 問108 x軸上で, 2つの質点A, Bが,それぞれ速度 vA,vB で運動し(図7.2上),やがて互いに弾性衝突を起 こし(図7.2中), 衝突後はそれぞれ速度vA , vB で(こ こではダッシュ’は微分ではなく,「衝突後」を表すしる し), 再びx軸上で運動をする(図7.2下)。質点A, B のそれぞれの質量をmA, mBとする。2つの質点に外 力は働いておらず, 2つの質点どうしに働く力(内力)は 衝突時だけに働くとする。

(1) 運動量保存則と力学的エネルギー保存則より, 以下 の2つの式が成り立つことを示せ:

mAvA+mBvB=mAvA+mBvB (7.18) 1

2mAv2A+1

2mBvB2 = 1

2mAvA 2+1

2mBvB2 (7.19) (2) 式(7.18), 式(7.19)から次式を示せ:

mA(vA −vA) =−mB(vB−vB) (7.20) mA(vA 2−vA2) =−mB(vB2−v2B) (7.21) (3) 式(7.21)から次式を示せ:

mA(vA−vA)(vA +vA) =−mB(vB −vB)(vB +vB) (7.22) (4) 式(7.22)の両辺を式(7.20)で割って次式を示せ:

vA+vA=vB+vB (7.23)

(5) 式(7.23)を変形して次式を示せ:

vB−vA =−(vB−vA) (7.24) (6) 式(7.24)を変形して次式を示せ:

|vB−vA |

|vB−vA| = 1 (7.25)

式(7.24)によって, ぶつかる前後で相対速度は, 向き

が逆になることがわかった。つまり, ぶつかる前には互 いに近づいて来たが, ぶつかった後では互いに遠ざかっ ていく。これは直感的にも明らかだ。

ぶつかった後の相対速度の大きさ|vB −vA |, ぶつ かる前の相対速度の大きさ |vB−vA|で割ったものを 反発係数 とか跳ね返り係数と呼び, 慣習的にはeと表 す。すなわち,

e= |vB −vA|

|vB−vA| (7.26)

である。弾性衝突では, 式(7.25) からわかるように, e= 1である。非弾性衝突では, eは0から1の間の値 をとる。e= 0は,物体Bが物体Aにべちゃっとくっつ いてしまう場合だ。例えばゴルフボールとゴルフクラブ の衝突に関する反発係数は0.8程度である。

よくある質問72 eって,ネイピア数(自然対数の底)じゃ ないんですか? ... 記号がかぶってて,紛らわしいけど,ここで は違います。eは反発係数で, 0から1までの間の値をとりま す。ネイピア数はe= 2.718· · · だもんね。

● 問109 問108の続きを考える。

(1) 式(7.23)を使って,式(7.20)からvB を消去するこ とによって次式を示せ:

vA=mA−mB

mA+mB

vA+ 2mB

mA+mB

vB (7.27) (2) 式(7.23)を使って,式(7.20)からvAを消去するこ

とによって次式を示せ: vB= mB−mA

mA+mB

vB+ 2mA

mA+mB

vA (7.28) (3) mA=mBのとき,次式を示せ:

vA=vB (7.29)

vB=vA (7.30)

7.2 衝突のときエネルギーはどうなるのか? 75 (4) mA>> mBのとき,次式を示せ:

vA≒vA (7.31)

vB≒−vB+ 2vA (7.32)

式(7.29), 式(7.30)から, 2つの質点の質量が等しけ れば,弾性衝突によって速度が入れ替わる(図7.3),とい うことがわかった。追いついた方は追いつかれた方の速 度になり,追いつかれた方は追いついた方の速度になる。

この極端な場合は,片方が静止してもう片方がぶつかっ

図7.3 1直線上を等速直線運動する2つの質点どう

しの衝突。質量が等しく,なおかつ弾性衝突なら,速度 が入れ替わる。

てくる場合だ。ぶつかってきた方は衝突後に静止し, ぶ つかられた方がすっとんでいく。ビリヤードの経験があ る人は, それを知っているだろう。

ところで,式(7.31),式(7.32)から,片方の質量が極端 に大きいときは, 大きい方はほとんど速度を変えず(痛 くも痒くもない),小さい方は激しく速度を変える(ふっ とばされる), ということがわかった(図7.4)。小さな軽 自動車と大きなトラックの衝突事故で, 軽自動車に乗っ ていた人の方がダメージが大きいのはそのためだ。

図7.4 1直線上を等速直線運動する2つの質点どう

しの衝突。片方が極端に大きいときは,小さいほうが ふっとばされる。

● 問110 ボールを高さh0から初速度0で真下に落と して,バウンドさせる。ボールと地面の間の反発係数を eとしよう。空気抵抗やボールの回転は無視する。

(1) ボールが地面につく直前の速度をv0とする。力学 的エネルギー保存則から次式を示せ:

v20= 2gh0 (7.33)

(2) ボールが地面で跳ね返った直後の速度をv1とする。

次式を示せ:

|v1|=e|v0| (7.34)

(3) ボールは地面で跳ね返ったあと上向きに運動し, い ずれある点(それを到達点と呼ぼう)に達してまた 落ち始める。そのときの到達点の高さをh1として, 次式を示せ:

v21= 2gh1 (7.35)

(4) 次式を示せ:

h1=e2h0 (7.36)

(5) そのまま放っておけば,またボールは地面に衝突し て跳ね返り, また落ちて地面に衝突して跳ね返り, ...ということを繰り返すだろう。nを1以上の整 数として, ボールがn回バウンドしたあとの到達点 の高さをhnとすると, 次式を示せ:

hn=e2nh0 (7.37)

(6) e= 0.8,h0 = 10 mのとき,到達点の高さが0.1 m 以下になるまでに,何回バウンドするか?

● 問111 2つのボールを,わずかに隙間をあけて縦に 重ねて,高さhから(初速度0で)真下の地面に落とし, バウンドさせる。下のボールを「ボールA」とし, その 質量をmAとする。上のボールを「ボールB」とし, 質 量をmBとする。ボールBはボールAよりはるかに小 さく, mA >> mBとする。ボールAと地面の衝突や, ボールAとボールBの衝突は弾性衝突であるとする。

重力加速度をgとする。上向きに座標軸をとる。

図7.5 2段のボールの落下と跳ね返り。問111。

(1) 地面に衝突する直前(図7.5中左)のボールAの速 度の大きさをv0とする。v0=√

2ghであることを 示せ。

(2) ボールAが地面に衝突して跳ね返った直後は,ボー ルBはまだボールAの上空にあるとする(図7.5 中右)。このときのボールAの速度をvA, ボールB

76 第7章 運動量保存則 の速度をvBとする。次式を示せ:

vA=v0 (7.38)

vB=−v0 (7.39)

(3) その直後に, ボールBはボールAに衝突して跳ね 返る(図7.5右端)。衝突直後のボールBの速度を vB とする。これらの一連の衝突は,地面付近の狭い 範囲で起きるので, 重力によるポテンシャルエネル ギーの変化を無視しよう。すると式(7.32)が成り 立つことから,次式を示せ:

vB≒3v0 (7.40)

(4) ボールBは, ボールAに衝突して跳ね返ったあと, もとの落下開始点(高さh)の何倍の高さまで飛び 上がるか?

ドキュメント内 物理学I教材 (ページ 79-82)

関連したドキュメント