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ポテンシャルエネルギー

ドキュメント内 物理学I教材 (ページ 40-43)

第 3 章 仕事とエネルギー 29

3.3 ポテンシャルエネルギー

さて, 式(3.20) をみると, 仕事W は, 始点 aと終 点bの関数だ。特に, 始点a をどこかに固定して(そ れを基準点と呼ぼう), W をb だけの関数とみなし, 改めてb をxと書けば, W はxの関数W(x)だ。そ の意味は, 「基準点から位置 xまで物体を運ぶとき の仕事」である。この W(x) の符号を変えたものを ポテンシャルエネルギー*6という。すなわち,

ポテンシャルエネルギーの定義(1)

U(x) =−W(x) (3.36)

で定義される関数U(x)を, 「ポテンシャルエネル ギー」という。ここでW(x)は,物体を基準点から 位置xまで運ぶときに,物体にかかっている力がな す仕事である。

例3.5 上の例3.3で,地面を基準点とすれば,h0= 0と なり, h1を改めてhとおけば, W(h) =−mghである。

このとき,ポテンシャルエネルギーは,式(3.36)から,

U(h) =mgh (3.37)

である。(例おわり)

つまり, 物体を高く持ち上げるほど, 重力によるポテ ンシャルエネルギーは, 大きくなる。で, 持ち上げられ た物体は, てこや滑車を使えば, 別の物体を持ち上げる

「仕事」をすることができる。つまり,ポテンシャルエネ ルギーとは, 力を受けている物体が, ある位置にあるこ とによって持つエネルギー, つまり位置に付随するエネ ルギーである。

● 問47 ポテンシャルエネルギーとは何か?

*5化学や熱力学では,教科書によって,外力のなす仕事をdW するものと,気体がなす仕事(すなわちここでdWとあらわし たもの)dWとするものがあるので,気をつけよう。

*6「位置エネルギー」とか,単に「ポテンシャル」と言うこともあ る。

3.3 ポテンシャルエネルギー 35 ところで, 式(3.36)の右辺のW(x)は, 物体にかかっ

ている力がなす仕事だ。例えば例3.5では, 重力がな す仕事がそれに相当する。ところが, 現実的には, 重 力がかかっている物体が, ひとりでに重力に逆らって 上に移動したりはしない。誰かが重力に逆らう力をか けて, その物体を持ち上げねば, 物体は上に移動しな い。そのような「誰かの力」がなす仕事W(x)を考え ると*7,それは重力のなす仕事とは同じ大きさでありな がら符号が逆である(力の向きが逆だから)。すなわち, W(x) =−W(x)だ。それを使うと,ポテンシャルエネ ルギーは以下のように定義することもできる:

ポテンシャルエネルギーの定義(2)

U(x) =W(x) (3.38)

で定義される関数U(x)を,「ポテンシャルエネル ギー」という。ここでW(x)は,物体を基準点から 位置xまで運ぶときに,かかっている力に逆らって 誰かがなす仕事である。

例3.5では, 物体を地面から高さhまで君が持ち上げ るとすれば,君は物体に上向きにmgという大きさの力 をかけ, 上向きにhだけ移動させねばならないので, そ のとき君がなす仕事はW(h) = mghだ。従ってポテ ンシャルエネルギーは, 式(3.38)から, U(h) =mghと

なり, それは式(3.37)に一致する(つじつまが合って

いる)。

式(3.36)と式(3.38)は,互いに等価であり,どちらの 定義を採用してもかまわない。これらの2つの定義は, 教育的な意味で, 「わかりやすさ」に一長一短があるの だ。前者は,右辺にマイナスが出てくるのがちょっと不 自然でわかりにくい。後者は,そこに実在している力と は別の力を誰かが発揮すると想定するという点でわかり にくい。そこで, これらの欠点を解消した第3の定義が ある。すなわち,

*7ここでW(x)のダッシュは「微分」という意味ではない。単 W(x)と区別するための印である。

ポテンシャルエネルギーの定義(3)

U(x) =W′′(x) (3.39)

で定義される関数U(x)を,「ポテンシャルエネル ギー」という。ここでW′′(x)は,物体を位置xか ら基準点まで運ぶときに,物体にかかっている力が なす仕事である。

例3.5で, 物体が高さhから地面(基準点)まで落下 することを考えれば,下向きにmgという大きさの重力 がかかって, 下向きにhだけ移動するので,そのとき重 力がなす仕事はW′′(h) =mghである。従ってポテン シャルエネルギーは, 式(3.39)から, U(h) =mgh と

なり, それは式(3.37)に一致する(つじつまが合って

いる)。

もちろん, 式(3.36), 式(3.38), 式(3.39) は, 互いに 等価であり, どれを定義として採用してもかまわない (ちょっと考えれば,W′′(x) =W(x) =−W(x)である ことがわかるだろう)。教科書や学者によって,どの定義 を採用するかは, 様々だ。しかし, 物理学の実体として は,どれも同じことだ。

● 問48 バネ定数kのバネについた物体を考える。バ ネの自然状態を原点かつ基準点として,物体が位置xに あるとき, バネの弾性力によるポテンシャルエネルギー U(x)は次式のようになることを示せ。また,関数U(x) をグラフに描け。

U(x) =1

2kx2 (3.40)

● 問49 質量mの物体が, 質量M の物体から距離R だけ離れているときの, 万有引力によるポテンシャルエ ネルギーU(R)を考える。無限遠(R=∞)を基準点と すると,U(R)は次式のようになることを示せ。また,関 数U(R)をグラフに描け。

U(R) =−GM m

R (3.41)

実は, 式(3.41)は, 式(3.37)を一般化した式である。

前者から後者を導出できるのだ。やってみよう。今, 地 球の質量をM, 地球の半径をR0, 地表からの高さをh とすると, 地表から高さhにある,質量mの物体のポテ

36 第3章 仕事とエネルギー ンシャルエネルギーは, 式(3.41)より,

U(R0+h) =−GM m

R0+h=−GM m R0

R0

R0+h

=−GM m R0

1 1 +h/R0

(3.42) となる。ここで, h << R0, すなわち, 高さは地球の半 径に比べて十分に小さいとすると,

1 1 +h/R0

≒1− h R0

(3.43) である。これを上の式に代入すれば,

U(R0+h)≒−GM m R0

(1− h R0

)

=−GM m R0

+GM mh

R20 (3.44)

となる。ここで,地表での重力を考えれば, GM m

R02 =mg (3.45)

である。これを使って式(3.44)を書き換えると, U(R0+h)≒−GM m

R0

+mgh (3.46)

となる。ここで,

U(R0+h) +GM m R0

(3.47) をU(h)と書き換えれば(これは基準点を地表面に変更 することに相当する),式(3.37)を得る。

● 問50 以下の値をそれぞれ求めよ。必要な数値は, 各自,調べよ。

(1) 地上10 mの高さにある, 質量2 kgの物体に関す る,重力のポテンシャルエネルギー。

(2) 長さ10 m,直径2 mmの鉄線を1 mm伸ばしたと き,鉄線の弾性力のポテンシャルエネルギー。

(3) 月に関する,地球の重力のポテンシャルエネルギー。

● 問51 傾斜角θの滑らかな斜面に沿って,質量mの 物体を,斜距離Lだけ運びあげた。かかった仕事は? ま た,ポテンシャルエネルギーの変化は?

ここでひとつ注意。ポテンシャルエネルギーという考 え方は, 物体にかかる力が 保存力 (conservative force) という, ある種の力についてのみ, 成り立つ。保存力と

は,物体を移動させるとき,その力がなす仕事が,移動の 経路によらず, 出発点と到達点だけで決まる, というよ うな力である。

そもそも, ポテンシャルエネルギーU(x)とは, ある 特定の位置(基準点)から位置xまで物体を運ぶときに 力がなす仕事を用いて定義された。力が保存力でなけれ ば, このW(x)が移動の経路によってまちまちの値をと りうるので, W(x)の値がxで一意的に定まらない。つ まり,U(x)の値が一意的に定まらないのだ。

我々が考えうる力の多くは保存力である。数少ない例 外は,摩擦力だ。摩擦力は保存力ではない。

● 問52 保存力とは何か?

● 問53 上の問について,以下のような回答があった。

それぞれについて,正しいか, 正しくないか,正しくない ならどこがどのように間違っているかを述べよ。

(1) 「物体を移動させるとき, どの経路をたどっても仕 事が変わらないもの」

(2) 「物体を移動させるとき,その力がなす仕事が,移動 の経路によらず,出発点と到達点だけで決まること」

(3) 「物体を移動させるとき, その力がなす仕事が, 移 動の経路によらず一定であるような力」

(4) 「物体を移動させるとき, 移動の経路によらず一定 であるような力」

● 問54 摩擦力が保存力でないことを証明しよう。

(1) 物体を位置 x0 から位置x1 に運ぶときの仕事を W01とし,その逆戻り,つまり物体を位置x1から位 置x0に運ぶときの仕事をW10とする。もし力が保 存力なら, 0 =W01+W10となることを示せ(ヒン ト:物体をx0からx0まで運ぶ経路には,「何も動 かさない」とか「x0からx1までを往復する」など がある。)

(2) 摩擦力では,上の式が成り立たないことを示せ。

● 問55 傾斜角θの, 動摩擦係数µの斜面に沿って, 質量mの物体を, 斜距離Lだけ運びあげた。かかった 仕事は? また,重力のポテンシャルエネルギーの変化は?

ドキュメント内 物理学I教材 (ページ 40-43)

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