2019特2‑6
2. 観測・データ解析
青海島通と見島宇津に水圧式の小型水位計(Rugged TROLL100, In-Situ社)を2012年8月下旬から設 置し,10 分間隔で2測点の水位を観測している(図1)。水位計設置時にDGPSを用い,東京湾平均海 面(TP)を測量した。水位計のセンサードリフトを調べるために,半年から1年に1回程度,水位デー タ収集時に大気圧を測定している。平成29年度の報告(26特1-6)に従い,気象庁の萩の海面気圧を 用い,水位計のセンサードリフトを補正した。ドリフト補正後,48時間のタイドキラーフィルター(花 輪・三寺, 1985, 沿岸海洋研究ノート)を施した。その後,青海島から見島の水位を差し引き,両島間の 水位差 ∆𝜂 を求めた。
図1の東経131度15分線は山口県漁業調査船「かいせい」の観測定線であり,2016年9月から約1 か月に1回の航走ADCP観測が行われている。「かいせい」のADCPデータと,2011年からの水産大学 校練習船による航走ADCPデータ(主に24時間50分の4.5往復観測)と組み合わせて調和分解するこ とにより,この定線(北緯34度33分~35度00分)では潮流調和定数が既知となった(都倉, 2020, 長 崎大学大学院水産・環境科学総合研究科修士論文)。本研究では,都倉(2020)から使用 ADCP データ 期間を追加し(2012年10月~2019年8月),この定線の青海島-見島間(北緯34度33分~34度46 分)を通過する4分潮(K1, O1, M2, S2)除去流の流量 𝑇(Sv ≡ 106m3s−1)と水位差 ∆𝜂(cm)の以下の 関係式を求めた。
𝑇 = 0.0361∆𝜂 − 0.474 ⋯ (1) ここで,𝑇 は東向きに通過する流量を正とする。
3. 結果
式(1)によって推定された2012 年9 月からの1 時間ごとの青海島-見島間を通過する流量を図2 に示す。数日~数十日の流量の変化に比べ季節変動は小さかったが,夏季に流量が増加する傾向を示し
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地球環境力学分野 一般研究
謝辞
水産大学校練習船「耕洋丸」・「天鷹丸」のADCPデータを使用させて頂きました。観測にご協力頂き ました船長をはじめとする乗組員の皆様に感謝いたします。
図1.青海島(Ohmijima)と見島(Mishima)の位置(〇)。太線はADCP定線(北緯34度33分~
35度00分)であり,そのうちの赤線は流量を見積もった範囲を示す(北緯34度33分~34度 46分)。等値線は20 m間隔の水深を表す。
図2.青海島-見島間通過流量。東向きを正とする。
研究組織
長崎大学 大学院 水産・環境科学総合研究科 滝川哲太郎(研究代表者)
九州大学 応用力学研究所 千手智晴(所内世話人)
福岡県 水産海洋技術センター 林田宜之(研究協力者)
山口県 水産研究センター 渡辺俊輝,廣畑二郎(研究協力者)
能登半島周辺海域における流況と漁況の関係性
~日本海における海況と橋立沖ズワイガニ資源量の関係性~
石川県水産総合センター 川畑 達
目的
石川県の主要な漁業のひとつに「底びき網漁業」がある. この漁業においてズワイガニは漁獲 金額の約35%を占めており, 最も重要な魚種となっている. しかし, 近年, 石川県ではズワイガ ニ漁獲量は減少しており, 特に橋立地区では例年と比較して3~4割程度漁獲量が減少している.
特に雌のズワイガニ(メスガニ)漁獲量の減少が著しく, 漁業者の経営を圧迫している. このよ うなズワイガニ漁獲量の増減の原因の一つとしてズワイガニが孵化してから着底するまでの浮 遊期の死亡率が関わっていると考えられる. 過去に日本海区水産研究所は資源変動要因分析調 査を行い, 幼生の浮遊時の流況が資源加入量に与える影響について検証した. ただし, この調査 では隠岐の資源加入量を推測しており, 石川県沖の資源加入量と海況の関係は明らかではない.
本調査では浮遊期の水温環境が石川県の資源加入に関係するかどうかを明らかにするため, 浮 遊期の水温と橋立地区のメスガニ漁獲量との関係を調べた.
方法
石川県水産総合センターで集計している橋立港のメスガニの日別漁獲量のうち1日1隻あた り1㎏以上の水揚げがあった漁船の漁獲重量をデータとして採用した. また漁獲量は出漁状況 に影響されるため, 本研究ではCPUE(隻日数当たり漁獲量)を資源量の指標として用いた.
メスガニが漁獲対象となる(漁獲加入する)年齢は9歳である. 一方, ズワイガニの産卵期は 2~3月で浮遊期は約3カ月間と知られており, 4月には多くの当歳個体が浮遊期にあると考えら れる. そこで, 九州大学応用力学研究所の海況数値モデルをベースに開発されたJADE2の各格 子点について, 4月1日の前後10日間の水深200mの平均水温を求め, 9年後のCPUEとの相関 分布を調べた. 次に上記から得られた, 相関の高い海域の水温を海況の説明変数とし, 日本海区 水産研究所が公表している日本海系群A海域のズワイガニ親魚資源密度指数を産卵親魚量の指 標として説明変数とし, 橋立沖のメスガニの9年後のCPUEを目的変数とした重回帰分析を行 った.
結果
JADE2の各格子点の水温と9年後のメスガニのCPUEの相関分布を調べたところ(図1), 隠 岐周辺で正相関, 大和堆周辺で負相関になっていることがわかった. これから, 隠岐周辺をA海 域, 大和堆周辺をB海域とした. またA海域およびB海域の水温には相関関係は見られなかっ たため, 両者の変数間の多重共線性はないと考えられる.
上記の関係を参考に気象庁の水温分布図を参照し, どのような海況であれば9年後に好不漁
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地球環境力学分野 一般研究
になるのかを調べたところ, 鳥取沖に冷水塊があると9年後に橋立沖でメスガニが不漁になる 傾向がみられた(図2).
次に各海域の平均水温と, 資源密度指数を説明変数として重回帰分析を行った結果, これら の変数により, 9年後のメスガニのCPUE変動をうまく予測できることが分かった(図3). 重 回帰分析の結果を下記に示す.
Y=20.70X1-35.47 X2+0.9796X3+73.51 (R2=0.7177)
Y:メスガニCPUE, X1:A海域平均水温, X2:B海域平均水温 , X3:資源密度指数
考察
本研究から隠岐周辺のA海域で冷水塊が発生すると9年後に橋立沖でメスガニが不漁になる 傾向があることが分かった. 詳細なメカニズムについては不明だが, 冷水塊が発生すると浮遊 幼生の生き残りが悪い, または橋立沖に稚ガニが着底しにくくなると推測される. 一方, B海域 の負相関の原因については確認できなかった. 今後, 石川県の他地区におけるメスガニの漁獲 やオスガニについての解析も行い, 県内ズワイガニ漁獲量を予測できるようにしたい.
図1. CPUEと水深200m水温の相関関係 赤色が正の相関, 青色が負の相関を表す.
色が濃いほど相関が高いことを示す.
図2. 水温分布図(気象庁より)
赤丸は鳥取沖の冷水塊を表す.
図3. CPUEおよび重回帰分析結果:漁期年は11月から翌1月とする.
粒子散乱モデルと衛星・地上ライダ/レーダ解析技術の高度化
気象研究所 気象観測研究部 石元裕史
・要旨および目的
氷雲の雲微物理特性を明らかにするには、雲粒子の形状等による光学特性に敏感なアクティブセンサ を用いた研究が有効である。本課題では氷晶散乱特性の理論的研究を通して,九州大学応用力学研究所・
大気物理研究室が開発を行っている衛星搭載ライダ/レーダおよび地上アクティブセンサ複合観測シ ステム解析技術の高度化に貢献することを目指す。
・研究方法
氷晶散乱特性については、粒子形状や大気中での配向の設定、散乱計算手法などを検討し,気象研究 所で開発した氷晶モデルおよび散乱特性計算手法により氷晶散乱特性計算を実施する。得られた氷晶散 乱特性を解析し,解析アルゴリズムに応用する事でレーダ・ライダ解析技術の向上と高度化を図る。
・研究結果
氷晶モデルによるライダ単散乱特性については,六角柱や六角板・ドロクスタル形状の氷晶に加えて,
[1,7]によるボロノイ型不規則形状粒子モデル(例:図 1)の大規模散乱計算を実施した。ボロノイ形状粒 子による 3 次元ランダム配向後方散乱特性を開発した改良型幾何光学近似法(Geometrical Optics-Integral Equation: GOIE)[8]を用いて計算しデータベース化した。また,新たに 2 次元配向を考慮し たボロノイ型粒子の散乱特性の初期解析結果を得ることが出来た。さらに,粒子サイズを延長した散乱 特性データベースの整備拡張を行った。これらの大規模散乱計算を行うために,様々なテスト計算を実 施した。粒子サイズが 200μm を超える巨大粒子においてレーザ照射角度や波長,粒子形状に対して後 方散乱の特徴を解析した。この結果から,大きな粒子サイズで十分な計算精度で後方散乱計算を行うた めに必要な入射光に対する粒子の配向数等,計算の収束基準を確定した。得られた結果から粒子形状と 観測量との関係を解析し,ライダ比と偏光解消度の情報が粒子形状と配向の抽出に有益である事などが 新たに分かった[2]。降雪に関しては,開発を進める積雪マイクロ CT 情報を使った雪片・霰粒子モデル [4,5]の研究を実施した。
これら得られた成果は,日欧共同衛星 EarthCARE に搭載予定の高分解スペクトルライダや地上設置型 多視野角多重散乱ライダなどを対象とした氷晶粒子の散乱特性解析研究に貢献し,それらを応用した研 究成果は国際学術誌に発表された[2,3]。
図 1 ボロノイ型不規則形状粒子モデルの一例 z
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地球環境力学分野 一般研究
・成果報告 査読付き論文
[1] Letu, H., K. Yang, T. Y. Nakajima, H. Ishimoto, T. M. Nagao, J. Riedi, A. J. Baran, R. Ma, T. Wang, H. Shang, P. Khatri, L. Chen, C. Shi, J. Shi, 2020: High-resolution retrieval of cloud microphysical properties and surface solar radiation using Himawari-8/AHI next-generation geostationary satellite. Remote Sensing of Environment, 239, 111583.
[2] Okamoto, H., K. Sato, A. Borovoi, H. Ishimono, K. Masuda, A. Konoshonkin, N. Kustova, 2019:
Interpretation of lidar ratio and depolarization ratio of ice clouds using spaceborne high-spectral-resolution polarization lidar. Optics Express, 27, 36587-36600.
[3] Sato, K and H. Okamoto, 2020: Application of Single and Multiple-Scattering Theories to Analyses of Space-Borne Cloud Radar and Lidar Data, Springer Nature, Springer series in Light scattering, vol.5.
学会発表(主著)
[4] Ishimoto, H., M. Hayashi, Y. Mano, Development of fast radiative transfer model MBCRM for analysis of volcanic ash clouds measured by hyperspectral infrared sounder, 2019年合同衛星会議, 2019年10月, 米国
[5] Ishimoto, H.,S. Adachi, K. Masuda, X-ray micro-CT imagery of deposited snow in optical modeling of atmospheric ice particles,第18回電磁気と光散乱会議(ELS-XVIII), 2019年6月,中国
[6] 石元裕史, 足立アホロ, 安達聖, 積雪マイクロCTデータを用いた降雪粒子のモデル化とレーダー反 射特性の計算, 日本気象学会秋季大会, 2019年10月, 福岡
参考文献
[7] Ishimoto, H., K. Masuda, Y. Mano, N. Orikasa, A. Uchiyama, 2012: Irregularly shaped ice aggregates in optical modeling of convectively generated ice clouds, Journal of Quantitative Spectroscopy & Radiative Transfer, 113, 632-643.
[8] Masuda, K., H. Ishimoto, 2017: Backscatter ratios for nonspherical ice crystals in cirrus clouds calculated by geometrical-optics-integral-equation method, Journal of Quantitative Spectroscopy & Radiative Transfer, 190, 60-68.
・研究組織
研究代表者 気象研究所 石元裕史
研究協力者 九州大学応用力学研究所 佐藤可織 研究協力者 九州大学応用力学研究所 岡本 創