わが国では、米政策改革の実施以降、水田転作の促進にともなって大豆の作付が拡大し てきた。他方で、大豆加工品市場では、小売各社間の競争激化により製品の低価格化が進 行し、実需者の多くは国産大豆と比較して安価かつ大規模ロットの調達が可能な輸入大豆 の使用を拡大してきている。したがって、わが国では政策的に大豆が増産される一方、国 産大豆の需要は制約される傾向にある。
こうした実態に対して、本研究では、まずわが国の大豆生産に関わる政策の変遷を整理 し、今日の大豆需給構造に至る経緯を明らかにした。わが国における大豆生産は、水田転 作に関連して生産者と大口需要者のニーズをもとに政策的に方向づけされてきた。すなわ ち、高タンパクで多収量の大粒品種の普及は生産者の大豆作に対するインセンティブを高 め、また大口需要者が求める原料の安定供給に貢献している。こうした取り組みを通じて 国産大豆の需給ギャップが解消することは望ましいが、本論文では今日市場に流通する国 産大豆の加工品の多くが輸入原料使用品との明確な差異を創出しえず、消費者からの支持 を獲得していない現状を明らかにした。
これに対して、割高な国産原料使用品の価値の創造と普及においては、大手メーカーと の差別化を目指す中小・零細メーカーの果たす役割が大きく、本研究では実需者主導によ る国産大豆の新たな需要の創出に着目した。とりわけ製品の低価格化にともなって国産大 豆の使用が制約される現状を踏まえ、本研究では国産大豆使用品が輸入大豆使用品と比較 して価格が割高であることを前提としながらも、消費者からの支持を獲得する要件につい て、実態調査をもとに次のような要因を導出した。
まず岩手県「ふうせつ花」での調査事例では、卸売業者を通じた原料の取引が生産者・
卸売業者・メーカーの三者の連携を深化させ、価値創造のサイクルが誘発されていた。ま た加工および販売において形成されたメーカーの特徴やブランドが消費者の支持を獲得す るとともに、豆腐に対する消費者の価値観への変化を誘発していた。
本事例をもとに国産大豆の使用による差別化の促進、さらには国産大豆の需要創出の要 件について考察すると、原料の調達、加工、販売の各段階において優れた成果を発揮する のに加えて、それらが有機的に結びつくことの重要性が摘出される。すなわち調査対象メ ーカーのブランドは、原料である大豆の生産・流通・加工の各段階における価値の創造と 普及に裏づけされており、各要素が高価格帯での販売とブランドの維持に貢献している。
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こうした点から、本研究では同メーカー周辺における一連の取り組みを価値イノベーショ ンの成果と整理して、価値イノベーションの導入によって豆腐および国産大豆の需要が創 出されていることを指摘した。
次に同上メーカーの店頭におけるアンケート調査からは、次のような結論を得た。
第一に、国産大豆使用品は嗜好品化によってその割高な価格帯が消費者に受容される可 能性がある。豆腐を含む大豆加工品は、一般的に日配品として安価に流通するが、調査事 例では大豆製品が嗜好品に位置づけられ、新たな顧客を獲得していた。輸入大豆が日配品 向けの需要に対応する実態に対して、国産大豆は嗜好品向けの原料として使用が拡大し、
新規需要が創出される可能性がある。
第二に、各顧客層に対応した販売戦略の策定と製品開発が重要である。調査事例では、
食味が原料に強く由来する湯波等の製品が高齢層に支持されており、国産大豆ないし在来 品種特有の甘みや香りが評価されていた。これらの特性はライン製造での加工適性を有す る輸入大豆のそれとは異なるものである。したがって国産大豆は、高齢層向けの製品開発 においてその特長が発揮される可能性がある。他方で若年層からはドーナッツなどの菓子 類が支持されていたことから、それぞれのニーズに対応した製品開発と販売戦略が求めら れる。
以上の岩手県における調査結果に対して、千葉県習志野市における調査事例では国産大 豆の特性が消費者レベルで必ずしも認識されておらず、実需者と消費者の間でその認識に ギャップが生じていた。すなわち、一部店頭で原料の産地・品種名が強調されているにも かかわらず、それらが消費者には十分に浸透していなかった。千葉県は特色ある大豆産地 として業界の関係者には周知されているが、そういった特性が消費者レベルでは認知され ていなかった。したがって、地産大豆や国産大豆の普及に意欲的な事例が存在するとされ る千葉県においても、都市部では国産大豆の特性が消費者に十分に認知されていない実態 が明らかとなった。
なお本研究における実態調査では、大多数の消費者がスーパーなどで豆腐を購入してい る現状にあって、特定の豆腐店での来店者を調査対象としている。これにより国産大豆製 品を支持する消費者像やその動向を明らにしたが、国産大豆の需要創出を考える上では、
国産大豆を必ずしも支持していない消費者も含めた調査の実施が不可欠であり、今後に残 された課題の一つである。しかしながら、実需者からの国産大豆の品質および加工適性に 対する評価は必ずしもよいとはいえず、現状ではそれらにイメージや信頼等を付加価値と
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して販売している。そうした実態を摘出できたことは、本研究の重要な成果と位置づけら れる。
以上の結果より、国産大豆の普及と新たな需要創出に向けては、安心感などの漠然とし たイメージに依拠することなく、都市部の消費者に対してもより明確な商品コンセプトや 情報を発信するなどの戦略的な普及・販売が求められている。現在の供給側に立脚した大 豆増産に対して、需要側における出口戦略の策定が強く求められている。
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