―岩手県「ふうせつ花」製品に対する消費選好分析を通じて―
第 1 節 課題
国産農産物の需要創出をめぐっては、実需者側からのアプローチが多くなされている が、本章では再び前述のふうせつ花を事例に、消費者側の視点に立脚した分析を試みる。
具体的には、消費者が他社製品と比較して割高な価格帯を受容する要因について、ふう せつ花の店頭で実施した消費者へのアンケート調査の結果をもとに検討する。
第 2 節 調査方法とデータ (1) 調査概要
多くの豆腐メーカーが国産大豆の使用を敬遠するなか、ふうせつう花をはじめとする 零細豆腐メーカーでは、国産大豆を使用することで他社製品との差別化や価格競争から の脱却を目指している。同社はそうした取り組み の第一人者として同業者から注目されている。
そこで本研究では、ふうせつ花店舗の来店者に 対して書面でのアンケート調査を実施し、同社の 大豆製品が消費者に支持される要因を解明した。
調査は 2012 年 3 月 24 日~25 日に実施し、97 通の回答を得た。
(2) サンプルの属性
表1は回答者の属性を表している。まず居住地 域は県内(61.5%)が主だが、38.4%が県外から 来店している。性別は女性(65.9%)が多く、年 齢は30代(28.7%)が最も多いが、20代から60 代までの幅広い年齢層の来客があった。年収につ いては回答数が68 通に限定され、200-500万円
(51.4%)過半数を占めたが、500-1000 万円
度数 割合
岩手県内 56 61.5%
県外 35 38.5%
男性 32 34.0%
女性 62 66.0%
10代 0 0.0%
20代 15 17.9%
30代 27 32.1%
40代 19 22.6%
50代 7 8.3%
60代 15 17.9%
70代 1 1.2%
80代以上 0 0.0%
200万円以下 16 23.5%
200-500万円 35 51.5%
500-1000万円 17 25.0%
1000-1500万円 0 0.0%
1500万円以上 0 0.0%
表1 サンプル属性 属性/項目
資料:ア ンケー ト より作成 居
住 地 性 別
年 齢
所 得
38
(25.0%)、200万円以下(23.5%)も同程 度いた。
(3) ふうせつ花の店舗評価と製品評価 表2は、ふうせつ花の店舗および製品の 利用にかかわる調査項目の結果を示した。
まず顧客の来店頻度は半年に 1 回(25.8%) や、今回が初めて(21.6%)と低い傾向にあ る。次に同店ではドーナッツ・ワッフル (31.6%)や、ざる豆腐(29.7%)、湯波(14.8%) がよく購入され、各製品の食味については、甘みがある(30.0%)、香りが良い(28.9%) などの評価を得ている。また同店の製品および店舗については、安心感がある(18.3%)、
国産の原料を使用している(16.8%)、店内がきれい(14.9%)、高級感がある(14.4%)とい ったイメージが持たれていた。さらに同店の製品の価格について、普通(53.6%)と感じ る顧客が過半数を占めたが、割高(28.9%)が次いで多かった。
表3は、アンケート回答者の日常における豆腐消費に関する設問の結果である。まず
度数 割合
週1回以上 6 6.2%
月2,3回 3 3.1%
月1回 8 8.2%
2,3か月に1回 17 17.5%
半年に1回 25 25.8%
年に1回かそれ未満 14 14.4%
今回が初めて 21 21.6%
未回答 3 3.1%
ざる豆腐 46 29.7%
湯波 23 14.8%
揚げもの 9 5.8%
ざるおぼろソフトクリーム 10 6.5%
ドーナッツ・ワッフル 49 31.6%
その他 18 11.6%
甘みがある 54 30.0%
香りが良い 52 28.9%
食感が良い 41 22.8%
後味が良い 33 18.3%
高級感がある 30 14.4%
安心感がある 38 18.3%
珍しい商品がある 25 12.0%
贈答用に利用しやすい 11 5.3%
国産の原料を使用している 35 16.8%
このお店が扱う商品の味や
品質に信頼を寄せている 21 10.1%
社員や店員の人柄が好き 17 8.2%
店内がきれい(清潔感がある) 31 14.9%
高い 8 8.2%
割高 28 28.9%
普通 52 53.6%
割安 2 2.1%
安い 0 0.0%
未回答 7 7.2%
注: ※の設問は複数回答可
表2 ふうせつ花の利用について
資料: アンケートより作成 属性/項目
よく購 入す
るも の※
食味 につ いて
※
製品
・ 店舗 につ いて
※
価格 につ いて 来 店 頻 度
度数 割合 ほとんど毎日 19 19.6%
週4,5回 19 19.6%
週2,3回 30 30.9%
週1回 19 19.6%
月2,3回 7 7.2%
月1回 1 1.0%
2,3か月に1回かそれ未満 0 0.0%
未回答 2 2.1%
50円以下 2 2.1%
50~70円 11 11.3%
70~90円 16 16.5%
90~110円 32 33.0%
110~130円 13 13.4%
130~150円 4 4.1%
150~200円 2 2.1%
200~300円 3 3.1%
300円以上 2 2.1%
未回答 12 12.4%
消費 回数
平均 購入 単価
表3 日常での豆腐消費について
資料: アンケートより作成 属性/項目
39
消費回数は週2、3回(30.9%)が最も多く、ほとんど毎日(19.6%)や週4、5回(19.6%)な ど、比較的消費頻度が高かった。次に平均購入単価は 90~110 円(33.0%)が最も多く、
70~90 円(16.5%)、110~130 円(13.4%)が続いている。吉田(3)は豆腐の平均価格につい て、国産大豆使用品を120円、輸入大豆使用品を60円と試算しており、回答者は日常 では一般的な価格で豆腐を購入していると考えられる。
第 3 節 高級志向豆腐の消費選好分析 (1) 個人属性別にみた店舗評価の推計結果
以上の結果について、本節では回答者の属性との関連性について、二項ロジスティッ ク回帰分析により推計する。
目的変数は、ざる豆腐をよく購入する場合を1、購入しない場合を0とし、説明変数 は個人属性を性、年齢、所得、回答者の居住地の4つとした。性と居住地はダミー変数 を導入し、性別は男性=1、女性=0、居住地は岩手県内=1、岩手県外=0 として推計
した。年齢および所得は、ダミー変数から階級値を推計し、連続変数として推計した。
推計に当たっては、全ての個人属性を説明変数に導入したが、Backward Selectionに よって、有意水準 20%以下の変数を減じた推計結果を示した。そして、AIC が最小と なるモデルを選択した。
表4は、ふうせつ花の店舗評価と回答者の個人属性との関連性を二項ロジスティック 回帰分析によって推計した結果を示している。ここでも擬似R2(0.030~0.101)は高 くはないが、3項目で統計的に有意な関係が見いだされた。
ふうせつ花の製品について『安心感がある』と回答した者の所得係数を見ると、-0.004 と負値を示しており、所得が若干低い階層に安心感をもたらしている。普段、所得の低
係数 係数 係数
所得 0.002 0.00* 所得 -0.004 0.00*** 岩手県内 -0.841 0.45* 定数項 -1.588 0.58 *** 定数項 1.321 0.57*** 定数項 -0.258 0.32 尤度比 2.92* 尤度比 9.51*** 尤度比 3.59*
AIC 86.69 AIC 88.23 AIC 120.40
擬似R2 0.034 擬似R2 0.101 擬似R2 0.030
注:3) ロジット分析の推計の際,性,年齢,岩手県内,所得等の全ての個人属性を説明変数に 導入したが,Backward Selectionによって,変数を減らした推計結果を示した。
表4 二項ロジスティック回帰分析推計結果(ふうせつ花店舗評価)
変数 高級感がある
変数 安心感がある
変数 店が綺麗
標準誤差 標準誤差 標準誤差
注:1) ***,**,*は,それぞれ有意水準1%,5%,10%で有意であることを示す。
注:2) 表中の評価項目以外についても計測を行ったが,尤度比検定(LR-test)の結果省略した。
40
い購入者が、安心感を求めて、高級なふうせつ花の大豆製品を購入していく姿がうかが える。また、同製品には『高級感がある』と回答した者の所得係数を見ると、0.002と 正値を示しており、比較的所得の高い階層でもふうせつ花の大豆製品は高級感があると 感じている。豆腐は一般的に嗜好品としては流通していないのに対して、ふうせつ花の 豆腐は既製品と比較して所得階層を問わず高級感のある嗜好品として認知されており、
特に高所得層が高級感を感じたと推測される。加えて、ふうせつ花の『店が綺麗』と感 じている者は、岩手県内の顧客の係数が負値(-0.841)を示しており、県外客に好印象 を与えている。県内客は同店の店構えに慣れているため、県外客との回答に差異がみら れたと推測されるが、同店は中山間地域にも関わらず、地域の観光スポットになってお り、清潔感溢れる店舗に加え、一般的な豆腐店とは異なる品揃え等の工夫によって、県 外客に好印象をもたらしていた。
(2) 個人属性別にみた高級大豆製品の消費者評価
表5は、ふうせつ花の大豆製品と回答者の個人属性との関連性を二項ロジスティック 回帰分析によって推計した結果を示している。擬似R2(McFadden)は0.027~0.047 と、決して高くはないものの、いくつかの変数で統計的に有意な関係が見いだされた。
まず、ふうせつ花で最も購入されている『ドーナツ』の推計結果についてであるが、年 齢の係数は、-0.037と負の値を示しており、比較的若い顧客が購入している。同店のド ーナツは若者に人気が高かったことが統計的にも示され、同店での聞き取り調査の結果 とも一致する。
次いで購入されている『ざる豆腐』は、所得の係数が0.002と正の値を示しているた
係数 係数 係数
所得 0.002 0.00* 年齢 0.029 0.02* 年齢 -0.037 0.02**
定数項 -1.016 0.54* 定数項 -2.457 0.85*** 定数項 1.702 0.72**
尤度比 3.74* 尤度比 2.88* 尤度比 6.21**
AIC 94.30 AIC 106.28 AIC 129.39
擬似R2 0.040 擬似R2 0.027 擬似R2 0.047
注:1) ***,**,*は,それぞれ有意水準1%,5%,10%で有意であることを示す。
注:2) 表中の大豆製品以外についても計測を行ったが,尤度比検定(LR-test)の結果省略した。
注:3) ロジット分析の推計の際,性,年齢,岩手県内,所得等の全ての個人属性を説明変数に導入 したが,Backward Selectionによって,変数を減らした推計結果を示した。
表5 二項ロジスティック回帰分析推計結果(大豆製品)
変数 ざる豆腐
変数 湯波
変数 ドーナッツ
標準誤差 標準誤差 標準誤差
41
め、所得の高い顧客に購入されている。ざる豆腐(500~600円)は一般的な国産大豆 を使用した豆腐(120円前後)と比較して高価であり、高所得層が購入していた。
『湯波』の推計結果も、『ドーナツ』と同様に、年齢の係数が有意であるが、その係数
は0.029と正の値を示している。『ドーナツ』は若者に購入されるが、『湯波』は比較的
年齢層が高いことが明らかになった。
(3) 個人属性別にみた大豆製品の価格評価の推計結果
本節では、他社製品と比較して割高であるふうせつ花の大豆製品の価格について、ア ンケート回答者がどのように捉えているか考察する。
表2より、同社製品の価格について、「普通」という評価が53.6%と最も多く、次い で「割高」が28.9%となっている。他方で回答者が日常で購入している豆腐の価格帯は、
概ね50円から130円の範囲内であり、必ずしも高級品のみを志向していないことがわ かる。
こうした結果について表6では、同社製品の価格と回 答者の個人属性との関連性を順序ロジスティック回帰分 析によって推計した。
ここでも擬似R2(0.070~0.101)は高くはないが、尤度 比検定は統計的に有意である。まず、閾値(cut1~cut3)
はすべて有意水準 1~5%で有意であり、『割安』(cut1)
と『普通』(cut2)との間は符号も正負と逆になっており、
大きな差異がみられる。ふうせつ花の顧客層は、年齢の
係数が0.040と正の値を示しており、比較的年齢が高い
顧客が購入している。同店の大豆製品は在来品種の使用 等により他店のものにはない食味や香りを有している。
とりわけ湯波などの主力商品は原料の特性が発揮されや すく、これが高齢者層に支持されている(表5推計結果 参照)。したがって、大豆製品の製造および販売において、
高年齢層をターゲットとした販売戦略とそのニーズへの 対応が求められることが導出された。
以上、ロジスティック回帰分析の推計結果等によって、
係数 標準誤差 男性 -0.811 0.531 年齢 0.040 0.019 **
所得 0.001 0.001
cut1 -2.662 1.285 **
cut2 2.354 0.919 ***
cut3 4.352 1.023 ***
尤度比 10.55**
AIC 152.68 擬似R2 0.070
注:4) 限界効果については,紙面 の関係で省略した。
表6 順序ロジスティック回帰 分析推計結果(ふうせつ花にお ける大豆製品の値ごろ感)
変数 大豆製品の値ごろ感
注:1) ***,**,*は,それぞれ有意 水準1%,5%,10%で有意で あることを示す。
注:2) ロジット分析の推計の際,
性,年齢,岩手県内,所得等 の全ての個人属性を説明変 数に導入したが,Backward Selectionによって,変数を 減らした推計結果を示した。
注:3) cut(閾値)は『高い』を基準 カテゴリーとし,cut1は『割 安』,cut2は『普通』,cut3は 『割高』を示す。