第 5 章 高湿度環境における加硫ゴムのオゾン劣化機構の解明
5.2 実験
5.2.6 オゾン水暴露
オゾン水は Figure 5-3 に示すとおり，純度99.9％以上の高純度酸素ガスを流速 0.5
L/minでオゾン発生器（㈱恵南電機製LABO-ozone-250）に供給し，発生したオゾンを
23℃のイオン交換水1.0 L中にバブリングしながら攪拌することで調製，オゾン濃度は
diethyl-p-phenylenediamine 法（DPD 法）にて確認した．試料は CB配合加硫ゴム，
試験片形状は50 mm×20 mm×2 mmtとし，試験片5枚を温度23℃，オゾン濃度250
±20 pphmの水中で 2時間暴露後，ガラスビーカーに分取したオゾン水を120℃のホ ットプレート上で乾固させ，残留物を確認した．
Figure 5-3 Schematic illustration of the experimental setup for ozone water treatment.
102 5.3 結果と考察
5.3.1 湿度コントロール下でオゾン暴露した加硫ゴムのオゾン劣化挙動
CB配合加硫ゴムを20％伸張し，温度40℃，湿度20，35，50，60，70，80，90％
RHでそれぞれ48 時間オゾン暴露したゴム表面のマイクロスコープ像，及びオゾン暴 露後のゴム表面を擦り取った白色綿棒のマイクロスコープ像を Figure 5-4 に示し，比 較として同試料を80%RH空気暴露した結果を併示した．20％RHオゾン暴露したゴム 表面には大きなオゾンクラックが発生したが，クラックサイズは高湿度条件になるほど 小さくなり，50%RH以上では 10 倍ルーペによるクラックの観察が困難であるほど微 小なクラックへと変化した．これらのゴム表面を白色綿棒で擦り取ると，50％RH以上 の高湿度条件では黒粉が付着し，黒粉析出量は湿度上昇に伴い増加した．黒粉は80%RH 空気暴露したゴム表面には認められないことから，黒粉の発生は 50％RH 以上の高湿 度とオゾンが共存する環境下で生じる現象であることが明らかとなった．
オゾンクラックのゴム内部への成長に対する，オゾン暴露時の湿度の影響について検
討した．20％RH又は80％RHでオゾン暴露したCB配合加硫ゴム表面及び切断面，並
びにゴム表面を擦り取った白色綿棒のマイクロスコープ像を Figure 5-5 に示す．
20%RHでは2 mmから3 mm程度の大きなオゾンクラックがゴム表面から0.4 mmの
深部まで成長したが，80%RHでは微小クラックがゴム表面にのみ無数に発生したと同 時に，黒粉の析出が認められた．高湿度環境における加硫ゴムのオゾン劣化機構は，低 湿度環境で生じるCriegee機構14)と異なることが予想された．
オゾン暴露したCB配合加硫ゴム表面の分子構造をATR-FTIRにて測定した．Figure 5-6に（a）80%RH空気暴露，（b）20%RHオゾン暴露，（c）80%RHオゾン暴露，（d）
未処理ゴムのFTIRスペクトルを示す．80%RHオゾン暴露したゴム表面は，3400 cm
-1近傍のヒドロキシ基のピーク強度，及びアスタリスクで示したステアリン酸亜鉛と帰 属できる2919，2848，1539 cm-1のピーク強度が増大した．これらのピークは20％RH オゾン暴露したゴム表面にも検出されたが，吸収スペクトルはいずれも低い．80%RH オゾン暴露したゴム表面の分子構造は20%RHオゾン暴露時と異なり，ヒドロキシ基が 生成すると供にゴム内部に存在するステアリン酸亜鉛が多量に析出したことが明らか となった．
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Figure 5-4 Digital microscope images for surfaces of the CB filled IR (isoprene rubber) vulcanizates, and white swabs after rubbing test (20 magnifications).
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Figure 5-5 Digital microscope images for the surface and the cross section of the CB filled IR vulcanizates exposed with ozone at 20%RH and 80%RH (100 magnifications), together with white swabs after the rubbing test (20 magnifications).
Figure 5-6 ATR-FTIR spectra for the CB filled IR vulcanizates, exposed with (a) air at 80%RH, (b) ozone at 20%RH and (c) ozone at 80%RH in conjunction with (d) control.
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