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第 4 章 加硫ゴムに添加したアミン系老化防止剤のオゾン劣化防止

4.3 結果と考察

4.3.3 静的条件における 6PPD 析出形態とオゾン劣化防止効果の関係

ゴム表面に析出した黒色の 6PPD をより明瞭に観察するため,ゴムは乳白色の純ゴ ム配合を用い,温度-30℃,40℃,55℃の空気下でそれぞれ0時間,1時間,8時間,

24時間熱処理したゴム表面,及びブランクゴム表面のマイクロスコープ像をFigure 4-6に示す.-30℃では6PPD微小結晶がゴム表面全体を覆うように速やかに析出し,24 時間後も同様の析出形態を維持した.しかし,40℃で1時間処理したゴム表面は未処理 とほぼ同等の外観を示し,8時間後,24時間後と経過するにつれ,大きく成長した6PPD が局所的に析出した.一方,55℃で処理したゴムは速やかに赤褐色へと変色したが,

6PPDの析出は24時間後も認められなかった.6PPDは融点が53.5℃であり55℃では 液体となるため,ゴム表面にブリードしオゾン捕捉能を有する液膜を形成したことで,

ゴムの耐オゾン性を向上させたと予想された.

55℃での6PPD析出形態を確認するため,ワックスを含まない6PPD添加CB配合

加硫ゴムを20%伸張し,同一試験片を(a)55℃オゾン暴露,(b)23℃の空気下で伸張 開放,(c)ゴム表面をアセトンで拭き取り6PPDを除去,の順に処理した各ゴム表面の

SEM像をFigure 4-7に示す.55℃でオゾン暴露したゴムを伸張20%を維持した状態

で観察すると,平滑な面を示した(a).このゴムの伸張を 23℃下で開放すると,表面 全体に多数のひび割れが発生(b-1),倍率×5000 による拡大観察の結果,厚さ約 380 nmの皮膜がゴム全体をコーティングしていたことが判明した(b-2).ゴム表面をアセ トンを含ませた白色綿布で拭き取ると皮膜は黒褐色を呈し,ゴム自体にクラックの発生 は認められなかった(c).以上より,55℃では液状化した6PPDがブリードし,ゴム全 体を 6PPD 液膜で完全にコーティングしたことでゴムの耐オゾン性を劇的に向上させ たことが明らかとなった.ワックスはオゾンを物理的に遮断する効果のみ有するため,

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ワックスが軟化する温度では分子運動の活発化によりオゾンがワックス皮膜を容易に 透過し,十分なオゾン遮断効果を発揮できない(第 3.3.4項Figure 3-9及びTable 3-5).しかし,6PPDはそれ自体がオゾン捕捉能を有するため,液状化しても十分なオゾ ン劣化防止効果を発揮したと考えられる.

Figure 4-6 Surface morphology for the vulcanized pure gum compound with 4 phr 6PPD, heated at -30, 40 and 55 C in the presence of air under static condition, in conjunction with control: the vulcanized pure gum compound without 6PPD (1500 magnifications).

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Figure 4-7 Surface morphology for the vulcanized isoprene rubber with 4 phr 6PPD, exposed with 50 pphm ozone at 55 oC at a strain of 20 % under static condition.

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以上の結果から,静的条件下における6PPD析出挙動とオゾン劣化防止効果の関係 について考察した結果をFigure 4-8に示す.6PPD析出挙動は,加硫ゴムに対する 6PPDの溶解度及び拡散速度の温度係数,すなわち加硫ゴムがオゾンに暴露されてい る時の周辺温度が著しく影響する19,20).-30℃では6PPDは固体状であり,低温下ほ どゴムへの溶解度が低下するため,-30℃暴露と同時に6PPDは急速に過飽和状態と なり,析出量としては少量であるが微小な固体状6PPDがゴム表面全体を速やかに覆 うことで高いオゾン劣化防止効果を発揮する.40℃では固体状6PPDとゴムとの相溶 性がやや高まるため,ゴム表面への6PPD析出速度は緩やかとなり,大きく成長しな がら局所的に析出することで6PPDが密集する部分と疎の部分が存在,結果として斑 状になるため,6PPDが疎の部分からオゾンがゴムに作用しオゾン劣化が進行する.

55℃では6PPDが液体として存在するためゴム表面に均一にブリードし,オゾン補足

能を有する液膜でゴム全体を完全にコーティングするため高いオゾン劣化防止効果を 発揮する.静的条件では,オゾン暴露時の6PPD析出形態がゴムの耐オゾン性を決定 付けることが明らかとなった.

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Figure 4-8 Relationship between ozone resistance of the vulcanized isoprene rubber with 6PPD and surface morphology of 6PPD on the rubber.