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表現の自由・知る自由に対する制約と審査基準

ドキュメント内 表現の自由・知る自由に対する制限 ―平成 (ページ 74-98)

1 はじめに

立憲主義の原則から引き出される基本的人権の制約根拠は、他者に加えられる危険の防止 と国家の存続維持のための制約に限られる。この点、性的秩序の維持や美観風致の維持のた めの制約も許容した最高裁と学説との間に不一致がみられた。

では、同じく立憲主義の原則から引き出される、基本的人権に対しては最小の規制である ことについては最高裁と学説とは一致するのだろうか。本章では、人権に対する規制立法の 審査に注目する。

2 判例にみる違憲審査の方法と基準 (1)目的と手段の審査

こんにち一般的に、裁判で憲法に関する問題が争われる場合、立法の目的とその目的を達 成するための手段が審査される。この規制目的と手段の審査という手法は、尊属殺重罰規定 違憲判決で注目されたところで、以降、定着したものと考えられる1。初期の最高裁は、目的 が正当であれば、つまり公共の福祉に合致していれば合憲としていたが2、その目的を達する 手段を別に審査することで、人権を規制する立法が突破しなければならない要件を加重し、

人権保障を強化する姿勢をみせた。

(2)「二重の基準論」の受容と審査基準の類型

また、当初、最高裁は、人権の種別に応じて規制の程度を変化させるというような対応は していなかった。こうした最高裁の姿勢に対して、学説はアメリカの判例理論に学んだ「二 重の基準論」の採用を求めるようになった3。わが国でこの理論は「人権カタログのなかで、

精神的自由は立憲民主政の政治過程にとって不可欠の権利であるから、それは経済的自由に 比べて優越的地位を占めるとし、したがって、人権を規制する法律の違憲審査にあたって、

経済的自由の規制立法に関して適用される『合理性』の基準は、精神的自由の規制立法につ

1 最大判昭和48年4月4日刑集27巻3号265頁(尊属殺重罰規定違憲判決)。

2 この公共の福祉の内容について裁判所と学説とが一致していないことは前章で確認した。

3 高橋和之『体系 憲法訴訟』(岩波書店、2017年)23頁

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いては妥当せず、より厳格な基準によって審査されなければならないとする理論4」として知 られている5

やがて、精神的自由の重要性を強調する判決がみられるようになる。まず、最高裁は、小 売市場開設距離制限事件で「個人の経済活動の自由に関する限り、個人の精神的自由等に関 する場合と異なつて、右社会経済政策の実施の一手段として、これに一定の合理的規制措置 を講ずることは、もともと、憲法が予定し、かつ、許容するところ」と述べ、精神的自由と 経済的自由が異なることを示した6。猿払事件で「憲法21条の保障する表現の自由は、民主 主義国家の政治的基盤をなし、国民の基本的人権のうちでもとりわけ重要なものであり、法 律によつてもみだりに制限することができないものである。」と述べ7、薬事法の距離制限規 定違憲訴訟で「職業の自由は、それ以外の憲法の保障する自由、殊にいわゆる精神的自由に 比較して、公権力による規制の要請がつよく、憲法22条1項が『公共の福祉に反しない限 り』という留保のもとに職業選択の自由を認めたのも、特にこの点を強調する趣旨に出たも のと考えられる」と述べているのが8、それを表している。

では、精神的自由であればすべて厳格な審査が要求されるのかというと、そうではない。

最高裁は法廷メモ事件では、表現の自由から情報摂取の自由が派生し、情報の摂取を補助す るために傍聴人がする筆記行為は「その見聞する裁判を認識、記憶するためになされるもの である限り、尊重に値」すると述べるが、「筆記行為の自由は、憲法21条1項の規定によつ て直接保障されている表現の自由そのものとは異なるものであるから、その制限又は禁止に は、表現の自由に制約を加える場合に一般に必要とされる厳格な基準が要求されるものでは ない。」とし、表現の自由そのものと、そうでない自由とでは審査基準が異なることを示し ている。

したがって、最高裁の審査基準には、さしあたり、表現の自由の規制立法に対する厳格な 基準と、その他の自由に対する、厳格な基準ほどではない基準(中間的審査基準、厳格な合 理性の基準)、経済的自由に対する基準(合理性の基準)の3つが考えられる。

4 芦部信喜『憲法 第7版』(岩波書店、2019年)104-105頁

5 新正幸『憲法訴訟論 第2版』(信山社、2010年)は、「自由の原理」に整合しないとし て二重の基準論に批判的な立場をとる(281頁以下)。この批判の狙いは「精神的自由の

『優位』を低下させるところにあるのではなく、『劣位』におかれた経済的自由の地位を本 来あるべき正当な地位に回復せしめようとするもの」と説明する(同556頁以下)。

6 最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号586頁(小売市場開設距離制限事件)

7 最大判昭和49年11月6日刑集28巻9号393頁(猿払事件)

8 最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁(薬事法距離制限事件)

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3 学説にみる審査基準 (1)アメリカ型審査基準

学説も裁判所と同様の3類型を採用する。むしろ、アメリカの判例の影響を受けた学説に裁 判所が影響を受けたといえよう。裁判所が採用した審査基準、すなわち、「明確性」「より 制限的でない他の選びうる手段」「必要最小限度」「明白かつ現在の危険」といった要素9を 3類型に配分すると、およそ次のように序列化される10

①緩やかな審査基準 a)合理性の基準

裁判所が目的・手段の審査において、単純に合理的であるか否かを判断し、立ち入った審 査をしないものである。つまり、広範な立法裁量を認めるもので、立法者の権限の逸脱や濫 用が認められない限り、合憲の結論に至る。結果、基本権を侵害されたと主張する者にとっ ては不利な結論になりやすい。このような審査は、租税法規11、社会福祉立法12、経済活動 規制13の分野における一般的傾向とみられる14

b)合理的関連性

規制目的とその目的を達成する手段との間に合理的な関連性が認められるか否かを審査す る手法である。これは、①禁止の目的、②この目的と禁止される行為との関連性、③禁止す ることにより得られる利益と禁止することにより失われる利益との均衡、の3点から検討され

9 3類型の下位カテゴリーにある個々の基準を指す。「テスト」「審査」「法理」と呼ばれる ものもあるが、本稿ではさしあたり審査基準を構成する「要素」とする。

10 戸松秀典『憲法訴訟 第2版』(有斐閣、2012年)287-331頁

11 最大判昭和60年3月27日民集39巻2号247頁(サラリーマン税金訴訟)「その立法目的 が正当なものであり、かつ、当該立法において具体的に採用された区別の態様が右目的との 関連で著しく不合理であることが明らかでない限り、その合理性を否定することができず」

12 最大判昭和57年7月7日民集36巻7号1235頁(堀木訴訟)「それが著しく合理性を欠き 明らかに裁量の逸脱・濫用と見ざるをえないような場合を除き」

13 最大判昭和47年11月22日刑集26巻9号586頁(小売市場判決)「その規制の手段・態 様においても、それが著しく不合理であることが明白であるとは認められない」

14 戸松・前掲書(注10)288頁

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る。が、規制目的と手段の間の因果関係についても抽象的・観念的な関連性があれば足りる として判断しており15、実質的には単なる合理性の基準と変わらないと評価される16

c)比較衡量

比較衡量は、対立する法的利益を比較して、どちらが重要であるかを判断する手法であ る。この手法は様々な領域で用いられているが、個別の事件で個別的に用いられている限り では審査基準と呼ぶことは適切ではない。比較対象が事件ごとに異なるから法則性が見いだ せないからである。

②中間的審査基準

文字どおり、緩やかな審査基準と厳格な審査基準の中間におかれる審査基準である。目的 と手段の審査において、単純に合理的であるか否かを判断するだけでなく、目的が重要なも のであるか、目的と手段の間に実質的関連性があるか否かを判断する手法である。が、「目 的の重要性」と「実質的関連性」が何であるかは、一般的定式化になじみにくく、判例の積 み重ねによって明らかになることを期待するしかない17

この基準に表現内容中立的規制が該当すると考えられている。表現の自由に対する規制の うち、表現内容に関わる規制は厳格な審査基準が適用され、表現内容と関わりのない、つま り表現の場所・時・方法についての規制は、必ずしも厳格な審査基準でなくてもよいとされ る。この表現内容中立的規制は審査基準そのものではないから(二準の基準論のように審査 基準を導く原理18と考えてよいだろう。)、これに対応した審査基準を示さなければなけれ ばならないが、それが明らかになっているとは思われない19。そもそも表現内容中立的規制 であれば、厳格な審査基準でなくてもよいということに理由があるのかという疑問もある。

15 目的と手段の因果関係については、後の同種の事件で、公務員が禁止される政治活動とは

「公務員の職務の遂行の政治的中立性を損なうおそれが、観念的なものにとどまらず、現実 的に起こり得るものとして実質的に認められるもの」と変更している(最判平成24年12月7 日刑集66巻12号1337頁)。

16 戸松・前掲書(注10)292頁

17 同前297頁

18 同前283頁

19 同前301頁

ドキュメント内 表現の自由・知る自由に対する制限 ―平成 (ページ 74-98)

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