1.はじめに
第1章第2節では複数の調査研究により、発達障害児は学齢期に行動問題を示しやすい ことが示唆された。行動問題が生起するために、発達障害児の学習活動が阻害され、発達 障害児のQOLの低下につながることが予想される。文部科学省(2009)の『学習指導要領』
によれば、小学校・中学校では、障害のある児童生徒に対する指導内容や指導方法の工夫 を計画的、組織的に行うことや、特別支援学校では自立活動の指導のみならず、各教科等 にわたり個別の指導計画の作成が求められるようになった。また、特別支援学級又は通級 による指導では、教師間の連携に努め、効果的な指導を行うことと記されている。さらに 保護者も、障害のある児童生徒の重要な支援者の一員とされており、教師と保護者の連携 の重要性が指摘されている。
行動問題を示す発達障害児に対しても、関係者が連携を図りながら問題を解決していく
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ことが求められる。そのため、教師は学校内外の関係者と連携を図りながら、これまで以 上に充実した個別の指導計画を作成して、行動問題を示す発達障害児に活用して、発達障 害児の学習活動を保障してQOL を高めることが求められる。個別の指導計画作成の手順 は、文部科学省(2009)の『特別支援学校学習指導要領解説 総則等編』(pp. 182-183)を参 考にすると、次の①~⑤のように考えられる。①児童生徒の実態把握、②実態把握に応じ た目標の設定、③目標を達成するための指導・支援計画の作成、④指導・支援計画に基づ く実践、⑤指導・支援計画と実践に基づく評価を行った見直しをして、以下、①から⑤を 繰り返す。対象児に関わる関係者の「連携方法」は、対象児の実態把握、指導目標の選定、
指導・支援の選定及び実施、指導・支援の評価までの各過程における関係者の役割とする。
しかし平澤(2003)は、異なる立場のもの同士が連携を図ることの難しさを指摘する。そ のため、関係者と連携を図る際には、上記の①~⑤で誰がどのような連携をとって実態把 握から評価までを行うかを検討する必要がある。発達障害児の行動問題の改善を試みた指 導・支援研究を概観することにより、行動問題を低減し適応行動を増加する目的による指 導・支援につなげていくための連携のポイントを整理することが可能と思われる。
一方、関係者との連携を促進させるものとして、個別の指導計画などのツールの活用が 有効と思われる。例えば、加藤・里見・浅沼・千田・柳本(2005)は、特別支援学校に在籍 する児童の給食場面に対して教師と作業療法士がどのような手続きで、児童の実態に関す る情報や目標の共通理解を促進させるかを検討した。評価表を一緒に作成・活用して、そ れを基にして協議が繰り返し行われた結果、共通理解が得られ、対象児の行動の変容が示 唆された。この評価表は、行動が要素で分けられて段階で評価できるようになっていた。
以上のことから本節では、学校で行動問題を示す発達障害児に対して、指導・支援を行 うために、誰が実態把握から評価までに関与し、対象児に関わる支援者同士がどのような 目的で、どのような特徴を持つツールを活用しているのかを、近年に発表された学校で行 動問題を示す発達障害児を対象にした研究論文を概観して、現状を分析した。
以下の観点から、現状を分析した。研究論文の分析項目は、対象児の「障害種」「学校 種・学年」と、個別の指導計画の手順を参考にして、「実態把握:誰が、対象児の行動問 題に関する情報収集に関与したか。誰が誰から情報を収集したか」「目標の選定:誰が、
対象児の目標を選定したか」「指導・支援計画の立案:対象児の目標を達成するために、
誰が指導・支援計画を立案したか」「指導・支援から評価までの実施:実際の指導・支援 にあたり、どのような関係者が、どのような目的でどのような様式の特徴を持つツールを
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用いて連携を行ったか。誰が主体者(関係者の招集や助言を行う人物)になって連携を行っ たか」とした。
2.行動問題を示す発達障害児の関係者による連携方法
Table 2-1からTable 2-3に、行動問題を示す発達障害児の実態把握から指導・支援計画
の結果までの連携方法に関する研究論文を挙げた。以下、対象児の属性、対象児の実態把 握から指導・支援計画までの連携方法を述べる。
(1)対象児の属性
以下に、対象児の障害種を示す。障害種別では、自閉症あるいは自閉症スペクトラム (Butler & Luiselli, 2007;Clarke et al., 2002;Crozier & Tincani, 2005;Devlin, Healy, Leader, & Hughes, 2011; 遠 藤 ,2008;Hawkins, Kingsdorf, Charnock, Szabo, Middleton, Phillips, & Gautreaux, 2011;平澤・藤原,2000;Hirasawa et al., 2009;
廣瀬・加藤・小林,2003;本田・村中,2010;梶・藤田,2006;Lee, Odom, & Loftin, 2007;Mancina, Tankersley, Kamps, Kravits, & Parrett, 2000;Murray et al., 2002;
高畑,2004;高畑・牧野,2004;大久保・福永・井上,2007;大谷,2005;小笠原ら,
2013;佐藤・武田・内海,2007;関戸,2004;清水・小田,2001;下山・園山,2010;
Tincani & Crozier, 2007;若杉・藤野,2009)、広汎性発達障害(Cole & Levinson, 2002;
梶・藤田,2006;竹村・杉山,2003;興津・関戸,2007;関戸・安田,2011)、高機能自 閉症(福原ら,2008)、アスペルガー症候群(Gomi & Noro,2010;五味ら,2009;Sansosti, 2012;関戸・田中,2010;式部・井澤,2009)、特定不能の広汎性発達障害(野口ら,2008)、
ADHD(Cihak et al., 2009;本田・佐々木,2008;梶・藤田,2006;河田・森・一門・緒 方,2005;Kern et al., 2006;近藤・光真坊,2006;古田島ら,2006;長尾,2003;長 澤・福田,2009;野口・野呂,2006;野呂・藤村,2002;及川・宮崎,2008;Radford & Ervin, 2002;関原,2008;Stahr et al., 2006)、LD(Cihak et al., 2009;近藤・光真坊,
2006;近藤・氏家・松木,2002;長澤,2002)など広汎性発達障害(自閉症、アスペルガー
症候群など)やADHDを対象にしたものが多かった。また、対象児の年齢層は小学校の段 階で、所属学校は小学校の通常学級が多い傾向にあった。
(2)対象児の実態把握から指導・支援計画まで
以下に、行動問題を示す発達障害児の実態把握に関与した人物を示す。以下に示す「教 師」とはおもに担任、教科担任、補助教員で、中には管理職が含まれることもあった。「大 学スタッフ」とは、大学教員、内地留学中の教師、大学院生、大学生であった。「教育委
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実態把握 障害種学年・ 年齢誰が誰がどのように選定誰がどのように主な指導・支援誰が誰に (誰と誰が)活用したツール目的や内容 平澤・藤原(2000)Aut特支 高1教師教師対象児の実態教師FAFAに基づいた支援教師全般的手続きの手順図情報共有攻撃行動は低減し,相手の生徒との適切なかかわりが 増加した.生徒同士のかかわりの分析が必要とされた Mancina, Tankersley, Kamps, Kravits, & Parrett(2000)Aut12大学 教師教師対象児の実態大学先行研究セルフマネージメント大学 教師自己記録シート情報共有セルフマネージメントによって,対象児の不適切な発声 は低減した 清水・小田(2001)Aut,MR特支 高教師教師対象児の実態教師記載なし動作法教師 保護者記録用紙情報共有 (行動問題の頻度)パニックが両場面で低減した Clarke, Worcester, Dunlap, Murray, & Bradley-Klug (2002)ASD12支援チーム支援チーム対象児の実態支援チームFAFAに基づいた支援支援チーム支援計画表記載なし4場面の課題において,FAに基づいた支援を行うことに よって,対象児の行動問題は低減し,適応行動が増加し た。さらに,大人との適切な相互作用が増加した Cole & Levinson (2002)
Keith:PDD,トゥレッ ト,MR Wally:Down,PDD, ADD,MR
8 7大学 教師記載なし対象児の実態大学先行研究選択機会設定大学 教師記載なし記載なしいずれの参加者も,選択機会を設定することによって行 動問題(攻撃行動,物を投げる行動など)が低減した 近藤・氏家・松木 (2002)疑LD中1教育委員会教育委員会対象児の実態 (適応行動の増加)教育委員会実態遊びの共有など教育委員会 学校 保護者記載なし①面接②カンファレンスに よる情報共有およそ2年の教育支援の結果,集団活動への参加や教 室復帰に結び付けられた Murray, Clarke, & Worcester (2002)ASD12支援チーム記載なし記載なし支援チームFAFAに基づいた支援支援チーム記載なし記載なし支援チームによるFAに基づいた支援によって,対象児 のかんしゃくや自傷行動などの行動問題は低減し,活動 に参加する機会が増え,QOLが改善された 長澤(2002)LD
小 3 名 中 1 名
支援チーム支援チーム・対象児の実態 ・教師の希望 ・保護者の希望支援チーム先行研究セルフマネージメント支援チーム個別の指導計画情報共有対象児の学習や生活スキルに関してセルフマネージメン トを4か月間適用したところ,いずれの対象児にも短期目 標が達成した 野呂・藤村(2002)ADHD小4大学 教師大学・教師の希望 ・対象児の実態大学FA①FAに基づいた支援②トークンシステム ③張り紙など
教師 大学 保護者
①トークン表の記録 ②トークン表(バックアップ強 化子)
①張り紙,準備の指示など により,対象児の適応行動 の増加②対象児への賞賛 機会確保
ADHD児が教室内で示す行動問題に対して,FAの有効 性が示唆された Radford & Ervin (2002)ADHD13大学 教師大学対象児の実態大学 教師FAFAに基づいた支援 ①Adult Proximity ②Peer Buddy大学 教師介入チェックリスト介入の厳密性peer buddy 手続きは,対象児の仲間との不適切な関わ り行動を低減するのに有効であった 廣瀬・加藤・小林 (2003)Aut,MR小 特 学5教師教師・学級のニーズ ・教師の希望教師先行研究①ビデオによる弁別訓練②言行一致訓 練教師記載なしビデオ録画弁別訓練ではテープレコーダーが効果的で,言行一致 訓練の指導プログラムは有効であった 長尾(2003)ADHD小 特 学4大学 教師大学対象児の実態大学 教師実態①対象児に合った教科書作り②興味・関 心や認知特性に合った関わり大学 教師記述なし授業計画の協議対象児と大学生の信頼関係が成立すると,級友と対象 児も良好な関係に発展した 竹村・杉山(2003)PDD小3大学 教師大学対象児の実態 (行動問題の要因になってい る行動)大学先行研究フリーオペラント法記載なし記載なし記載なし個別指導場面での行動変化に伴い,授業場面での行動 問題が低減し,担任への視線が増加した 関戸(2004)Aut,MR小5大学 教師大学・担任の希望 ・対象児の実態大学先行研究①個別的支援②全校教師の対象児に対 する理解促進③学級の他児童への理解 促進
大学 教師 学級の他児童
①A4プリント1枚(支援上の留 意点など)②A4プリント2枚 (行動問題への対応)
①情報共有,助言②情報共 有③対象児への関わり方 教授対象児と支援者の間で交渉的なやりとりや役割交代が 成立し,学習態度の形成につながった 高畑(2004)Aut,MR特支 高1教師教師・対象児の実態 (作業学習時における機能的 に等価な行動)教師FA①FAに基づいた支援②支援ツール教師 保護者 福祉機関
①チェックリスト②チェックリス ト③支援ツール
①②賞賛依頼③支援ツー ルのメリットの説明・活用依 頼 対象児は支援ツールの活用により,比較的安定して校 内作業に従事し,行動問題も低減した 高畑・牧野(2004)Aut,MR特支 高3教師教師対象児の実態教師記載なし支援ツール
教師 対象児 保護者 外部機関 大学
①記載なし②個別の指導計 画③対象児サポートブック
①ジョブコーチ②個別の移 行会議③対象児の理解と 支援の手がかり
おむつたたみは安定して取り組めたが,洗濯機業務はA 社の要求水準を満たせなかった Crozier & Tincani (2005)Aut8大学 教師大学対象児の実態大学FA①FAに基づいた支援 ②SS大学 教師SS情報共有SSと言語プロンプトによって,行動問題(思いのままに 話す)は低減した 河田・森・ 一門・緒方(2005)A ADHD,ODD B ADHD,ODD小1 小5大学 教師記載なし記載なし記載なし記載なし個別支援大学記載なし記載なし通常学級での学生ボランティア活用は有効であった 大谷(2005)Aut特支 高2教師教師対象児の実態教師実態AAC(写真・PCSカード・VOCA)記載なし記述なし記載なしコミュニケーションが拡大し,行動問題は低減した
Table 2-1 行動問題を示す発達障害児の指導・支援に関する連携方法 論文目標の設定指導・支援計画の作成指導・支援計画に基づいた実践を促進させるための連携対象児 指導・支援結果