第7章 本研究の総合考察
第3節 今後の課題と展望
今後の課題と展望として、以下の4点を述べる。
1.対象児と保護者の実態の相違による効果的な連携方法の検討
研究1-1及び研究1-2は、保護者と教師のニーズがほぼ一致した事例と異なる事例であ った。対象児の所属学校は、それぞれ特別支援学校中学部2年、中学校特別支援学級2年 で、障害種は自閉症、ADHDであった。支援対象の行動問題は、研究1-1では活動への滞 り、バスの乗降車や排尿など、研究1-2では学習に取り組まないことや他者のものを取る 行動であった。保護者は、家族構成、対象児の他に特別な支援を必要とするきょうだいの 有無、対象児に関わることのできる時間、対象児に対するニーズなどが異なっていた。研 究3~研究5における「協議ツール」の活用に関しても上記と同様なことが言える。研究 3~研究5の対象児5名は、すべて自閉症児で、年齢層は小学6年生から高校1年生まで であった。所属学校は、特別支援学級と特別支援学校であった。行動の型は、自傷行動(研 究3、研究5のC1)、他害行動(研究5のC2)、繰り返し同じ言葉を言う行動(研究3)、着替 えとは異なる行動(研究 4)、物を落とす行動(研究 5のC3)であった。支援にあたる保護者 は母親が多く、きょうだいへの支援や仕事の関係で対象児の支援が限られる事例があった。
今後は、LaVigna and Willis (2012)の指摘する行動問題の強度や頻度の観点に加え、対 象児の障害種、年齢、所属学校や、保護者の対象児を取り巻く環境の違いがある場合にお いても、保護者と教師の効果的な連携方法や「協議ツール」の効果を検討する必要がある。
2.他機関間における「協議ツール」の活用方法の検討
特別支援学校の学習指導要領(文部科学省,2009)には、家庭及び地域や医療、福祉、保
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健、労働等の業務を行う関係機関との連携を行い、長期的な視点で児童又は生徒への教育 的支援を行うために、個別の教育支援計画を作成することが義務付けられた。行動問題を 示す発達障害児の中には、下校後に福祉施設を利用するケース(研究 4 の対象児)や就労を 目的として福祉施設と連携するケース(例えば、高畑・牧野,2004)などが想定される。
例えば、高畑・牧野(2004)では、特別支援学校高等部3年に在籍する重度知的障害を伴 う自閉症生徒に対して、リネン会社における校外現場実習から卒業後の作業行動と行動問 題を通して、学校と福祉施設の連携の在り方が検討された。対象生徒は、支援ツール(キッ チンタイマーとチェックリストから構成)を用いて洗濯機やおむつたたみなどの作業を行 った。また、卒業後のスムーズな移行のために、卒業時に関係機関の担当者を招いて「個 別の移行会議」を試行的に実施した。対象生徒は支援開始前、校内外への飛び出し、大声 のエコラリア、落書きなどの行動問題が頻発し、持続的な作業が困難であった。実践の結 果、おむつたたみ業務では安定して作業に取り組めたが、洗濯機操作業務では会社の水準 を満たせず、リネン会社への就労は実現しなかった。
高畑・牧野(2004)の考察では、対象生徒が在学中に就労支援担当者と工場長との協議が できていたら、より効果的な支援方法が検討でき、対象生徒を取り巻く環境を具体的で計 画的なものに整備できたかも知れないと述べられている。この考察にあるように、他機関 との連携を考える時、計画的に関係者間で協議を行って、就労であれば、その環境で求め られるもの(標的行動)、効果的な支援方法(支援手続き)は何かを具体的に検討して、両機関 で情報を共有する必要がある。そのために、「協議ツール」は学校と家庭だけではなく、
それ以外の他機関との連携にも活用が可能と思われる。
ところで、研究1-1、1-2ではおもに学校場面での指導・支援結果を示し、家庭場面での 結果は保護者からの聞き取りであった。逆に、研究3~研究5ではおもに家庭場面の結果 が示され、学校場面での記録はなかった。研究1-1~研究5 の研究計画は、いずれもAB デザインであった。Barlow and Hersen(1984)は、「B段階での変化は治療介入の導入と は無関係に生じたのかも知れないし、何かの偶然の出来事との相関の結果によるのかも知 れない」と指摘している。上段と合わせて考えると、今後は学校場面あるいは家庭場面だ けではなく、両場面さらには福祉施設など対象児が利用している機関においても「協議ツ ール」を活用して、その効果の検討が求められる。さらに他機関との連携において、それ ぞれの文脈に適合した「協議ツール」の活用方法を、実際の事例で検討することが求めら れるだろう。しかしながら、行動の型が同じであっても、行動の機能が異なる可能性があ
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るため、場面ごとに機能的アセスメントを実施し、機能的アセスメントに基づいた支援計 画を立案して、その効果を検討することには留意が必要である。
3.適応行動の増加を目指した連携方法の検討
本研究では、いずれも行動問題を示す発達障害児が対象で、行動問題を低減させること が目的の1つであった。著者の教育相談の事例(岡本,2014c)では、小学校5年で特別支援 学級に在籍する発達障害児をもつ保護者のニーズとして「漢字書字」が挙げられた。発達 障害児の学習スキルを獲得させるためには、学校の指導だけではなく、家庭場面で保護者 の協力を得ながら進めていくことが重要であると思われる。例えば、保護者が専門家と連 携を図り、発達障害児に学習スキルを獲得させた事例として道城・松見(2006)が挙げられ る。この研究では、大学スタッフが定期的に家庭訪問を行い、自閉症児をもつ母親に対し 対象児に算数科の学習を教授する際の助言を行った。その結果、母親の協力により対象児 の計算スキルの習得に貢献したことが示唆された。このように、保護者が家庭場面で子ど もに学習スキルの支援を行う場合は、専門家との連携が重要と思われる。
保護者が子どもに支援を行う際は、専門家は保護者に指導方法の教授だけでなく、保護 者を取り巻く環境(例えば、保護者が対象児以外のきょうだいへの対応を同時に行う状況) の検討を行い、対象児及び保護者の負担や取り組みやすさなどにも配慮する必要があるだ ろう。
発達障害児の学習スキルの獲得を目的として保護者と専門家が連携を行った先行研究で は、家庭場面を訓練室と類似した物理的な環境に設定して、効果的な指導方法の助言(竹内
ら,2005)や、応用行動分析の手法に基づいた指導方法の助言(道城・松見,2006)が行われ
ている。これらの研究では、実際に支援を行う保護者の支援手続き上の「負担」「取り組 みやすさ」などの観点に関する記述は見られなかった。研究2では、専門家が保護者に支 援手続きの提案を行う際には、これらを含む複数の観点から保護者に評価を依頼して、評 価の高いものを実際の支援手続きにすることが重要であると指摘された。これらのことか ら、専門家が保護者に学習スキルに関する助言を行う際にも、保護者の支援手続き上の「負 担」や「取り組みやすさ」などを踏まえて検討を行う必要がある。
こうした観点から、発達障害児をもつ保護者と専門家との「協議ツール」を活用した協 働的アプローチ(研究3~研究5)を参考にして実践を行うことにより、問題解決につながる 可能性が考えられる。「協議ツール」は、発達障害児の行動問題を低減させるために用い られたが、学習スキルを獲得させるためにも適用可能であると思われる。
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岡本(2014c)を例にして、発達障害児Eの漢字書字スキルの獲得を試みた「協議ツール」
の活用方法を検討する。岡本(2014c)の研究の目的は、漢字書字スキルの獲得を試みる発達 障害児をもつ保護者との「協議ツール」を活用した協働的アプローチを実施し、その効果 を検討することであった。対象は、Eとその母親であった。「協議ツール」の一部は、加 筆修正されて適用された。支援計画は心理検査結果から検討され、協議ツール⑵から協議 ツール⑷までの過程は、研究3の手順に従った。協議ツール⑵と協議ツール⑶を活用した 結果、聴覚法(例えば、「木」の上に「立」つのが「親」のように、既知部分を組み合わせ て覚える方法)が選定された。支援対象の漢字は、漢字書字が未習得であった小学1年から 3年のうちの83字であった。約13か月の支援の結果、支援対象の多くは漢字書字が可能 となり、協議ツール⑷よりEと母親のこの取り組みに対する負担はないことが示唆された。
結果から、対象児の認知機能には、聴覚法が効果的であるとする先行研究の知見を支持し た。また漢字書字のために用いられた教材は、対象児と母親の負担を低減させるために貢 献したことが示唆された。この研究結果から、「協議ツール」は行動問題の低減だけでは なく、漢字書字スキルの獲得を目的とする場合にも活用が可能であることを示唆している。
ただし、母親は当初からEの漢字書字スキルの獲得を希望していたので、協議ツール⑴は 適用されなかった。今後は、漢字書字だけではなく、他の学業スキル(例えば、買い物スキ ル(岡本・井澤,2011)や計算や図形の指導(岡本,2010)など)に関しても、「協議ツール」
の活用方法の検討が必要であると考えられる。
さらに、別の例として、研究1-2の事例では保護者のニーズとして「通常学級で勉強さ せたい」が挙げられた。このように、家族は発達障害児の学習行動(着席して課題に取り組 む)などの適応行動を希望する場合もある。しかし、希望として挙げられる背景には、学習 を妨げる行動(例えば、離席行動、私語を続ける行動、漫画を読む行動など)のある場合が 考えられる。その場合、学習を妨げる行動が必然的に行動問題として挙げられる。これら を勘案して「離席行動の低減と課題従事行動の増加」が選定される場合も考えられる。こ の場合、協議ツール⑵では機能的アセスメントに基づいて「離席行動」「課題従事行動」
の視点からの検討により、具体的な支援手続きの提案が可能と思われる。このような事例 研究については、今後検討する必要があるだろう。
4.改訂したマニュアルブックの活用による効果の検討
第6章及び本章第2 節の考察をもとに、マニュアルブックの改訂(資料2)を行った。改 訂箇所は、協働的アプローチの具体例を、「Ⅲ.「協議ツール」を活用した協働的アプロ
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ーチの実際」として提示したこと、協議ツール⑴決定後から支援の実施までのスケジュー ルに関する留意点、教師の記録の分析結果への検討に関することであった。研究5では、
特別支援学校に在籍する小・中学部及び高等部に在籍する自閉症児に対して、改訂前のマ ニュアルブックの効果を検討した。今後は、改定後のマニュアルブックを、小・中学校の 通常の学級、特別支援学級に在籍する発達障害児に対して活用して、その効果を検討する ことにより、マニュアルブックの活用の効果に関する妥当性を高めていくことが課題であ ると考える。
注
(注1)「適応行動」とは、「日常生活において機能するために人々が学習した概念的、
社会的及び実用的なスキルの集合」(AAMR,2002)である。
(注 2) 「(指導・)支援計画」とは、複数からなる(指導・)支援手続きをすべて合わせ たものである。教師が対象児への指導・支援を行うものを「指導・支援計画」とし、保護 者が家庭で対象児への支援を行うものを「支援計画」と呼ぶ。
(注3)「保護者のニーズ」とは、対象児の行動問題の改善、適応行動の増加、効果的 な支援方法の提供希望、就学・進路に関する希望などを総称して指す言葉とする。
(注4) 「ABC 分析」は、行動問題の「先行事象」及び「結果事象」を推定する分析 方法であり、本論文では「機能的アセスメント」のように行動問題の機能は分析されてい ないものと捉えた。
文献一覧
阿部美穂子・深澤大地(2011)教育相談機関におけるグループペアレント ・トレーニング の効果と参加者アンケートによるプログラムの妥当性の検討.富山大学人間発達科学部 紀要,5(2),29-39.
Albin, R. W., Lucyshyn, J. M., Horner, R. H., & Flannery, K. B. (1996) Contextal fit for behavioral support plans: A model for “goodness of fit”. In L. K. Koegel, R. L.
Koegel, Positive behavior support: Including people with difficult behavior in the community. Paul H. Brookes Baltimore Maryland, 81-98.
American Association on Mental Retardation (AAMR) (2002) Mental Retardation: