第7章 本研究の総合考察
第1節 本研究の成果
本研究の主要な目的は、行動問題を示す発達障害児をもつ保護者と教師による効果的な 連携方法と、その効果を上げるためのツールを作成し、効果を検討することであった。
1.保護者と教師の効果的な連携方法
研究1-1では、行動問題を示す発達障害児をもつ保護者と教師の行動問題のニーズがほ ぼ一致した事例として取り上げた。日常的な連携方法、つまり、教師が保護者に、おもに 指導・支援手続きの結果などを含む学校の様子を連絡帳、電話や定期懇談会などで情報共 有を行うことにより、対象児の行動問題は学校場面だけではなく家庭場面においても低減 した。また、保護者からは支援手続きに対する肯定的な評価が得られた。
研究1-2 では、他児のものを取ったり、学習時に逸脱活動をしたりするADHD児をも つ保護者と教師の行動問題に対するニーズが異なる事例を取り上げた。研究1-1で行った 日常的な連携方法と個別の指導計画の活用によって、保護者と教師が効果的な連携が可能 かを2年間の経過から検討した。その結果、教師が、①対象児の実態把握を行い、対象児 の願いを反映させた上で、②保護者のニーズも反映させて個別の指導計画を立てたことと、
③個別の指導計画をもとにした協議により、対象児の学習行動は増加し、保護者の学校に 対する理解が深まったことが示唆された。
保護者と教師の行動問題に対するニーズがほぼ同様の場合には、教師のニーズが保護者 のニーズでもあった。そのため、学校での行動問題に関する情報は、家庭でも参考になっ た。しかし、保護者と教師のニーズが異なる場合では、対象児の教育的ニーズをもとに個 別の指導計画を立案しても、保護者には理解されることはなかった。つまり、上述した連 携方法の過程「②保護者のニーズを反映」について、研究1-1のように保護者と教師のニ ーズがほぼ一致した事例では、必然的に保護者のニーズが反映されていると考えられる。
しかし、研究1-2のように保護者と教師のニーズが異なる事例では、対象児の実態把握を した上で保護者のニーズを反映させる必要があることが示唆された。また、個別の指導計 画が効果的な連携方法に関与したことが示唆された。
先行研究では、保護者と教師のニーズが異なる場合の保護者の困難さ(松村・岩崎,1998)
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を感想などで紹介したもの、調査結果を示したもの(三宅,2012)や、対象児と保護者の願 いを書き込んだ個別の指導計画の様式例の紹介(文部科学省,2004)は示されているものの、
保護者と教師のニーズが異なる場合は、保護者と教師がどのように個別の指導計画を活用 して効果的な連携を行えば良いのかは示されていなかった。事例研究として保護者と教師 のニーズがほぼ一致している事例、異なる事例として効果的な連携方法を示すことができ たことは、本研究の成果の1つであると言えるだろう。
2.「協議ツール」の開発
上記1の①から③の連携方法を行った結果、指導場面では適応行動が増加しても、家庭 場面には般化しない事例があった(岡本・井澤,2013a)。そこで、研究 2 では家庭場面に おいて専門家と障害児者をもつ保護者が協働で行われた研究論文のメタ分析を行い、その 結果をもとに研究3では家庭場面で活用できる個別の指導計画として、4種類で構成され る「協議ツール」が検討された。協議ツール⑴は、支援対象の行動問題を選定するために 用いられた。研究3~研究5に参加した保護者は、全員が協議ツール⑴で選定された行動 問題及び評価の観点が妥当であると評価した。したがって、メタ分析に基づいて作成した 協議ツール⑴の評価の観点は、保護者の優先順位の高い行動問題のニーズを選定する上で 妥当であったと考えられる。
協議ツール⑵~⑷は、支援手続きに関して用いられた。協議ツール⑵は、機能的アセス メントに基づいた支援計画を立案し、保護者に複数の支援手続きを提示するものであった。
協議ツール⑶は、保護者が協議ツール⑵を評価し、支援手続きの優先順位を決定するため に用いられた。協議ツール⑷は、保護者が支援を実施した後に支援手続きの再評価を行う ために用いられた。研究3~研究5に参加した保護者5名中4名は提示された支援手続き を実施することで、対象児の行動問題は低減し、最終的な協議ツール⑷の評価は高かった。
残りの1名は、教師より具体的な支援手続きの助言をしてもらった段階で、既に支援対象 の行動問題の低減が示され、支援手続きの実施には至らなかった。
また、個別の指導計画や教師と保護者の連携の困難さとして、教師は「個別の指導計画 に保護者の願いをどのように反映すればよいかが難しい」、保護者は「家庭での困ったこ とを教師に話しづらい(安藤・上村,2012)」とある。しかし、「協議ツール」の活用によ り、教師は「保護者の考え、意見が点数で出るのでわかりやすい(研究5)」、保護者は「言 いたいことを聞いてもらえた(研究4)」「背中を押してもらえて最後までできた(研究3)」
などのように、双方から肯定的な意見が挙げられた。
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これらのことから、保護者と教師が協議ツール⑴~⑷の活用することにより、家庭文脈 に適合した支援を提供することが示唆された。つまり、「協議ツール」は、効果的な連携 方法を行う際の、家庭で活用可能な個別の指導計画の役割を果たしたと考えられる。
3.保護者と教師の「協議ツール」を活用した連携方法の過程
さらに、上記1の連携方法の過程①から③は、「協議ツール」の開発により、以下に示 す連携方法の提示が可能になった。
(1)アセスメントシート 1 の記入依頼
教師が保護者にアセスメントシート1(資料2-1-1、2-1-2)を提示して、記述を依頼する。
アセスメントシート1には、対象児の好き・苦手な活動や食べ物、言語に関する質問など が記述された。
(2)支援対象の行動問題の選定
保護者に、家庭で困っている行動を挙げてもらう。保護者が直接、協議ツール⑴に困っ ている行動を記述する、あるいは、教師が保護者より挙げられた行動を書き取る。すべて の困っている行動が挙げられたら、保護者に点数化をしてもらう。そして、合計点数を出 して順位づけを行い、上位を支援対象の行動問題とする。点数をつけることが難しい箇所 があれば空欄にしておく。その場合は学校でも同様に教師が点数化を行い、家庭場面と比 較して上位になった行動を支援対象の行動問題とする。
(3)アセスメントシート 2 の記入依頼
教師が保護者にアセスメントシート2(資料2-2-1、2-2-2)を提示して、記述を依頼する。
これらの資料では、対象児の支援対象の行動問題に関する詳細なアセスメント、増やした い適応行動、家族で大切にしていることや家族の日課などの記入欄が設けられた。
(4)MAS と行動観察の依頼
教師は、保護者に支援対象の行動問題に関するMASへのチェックと支援対象の行動問 題に関する記録の依頼を行う。
(5)機能的アセスメント
教師は、MAS の結果と対象児の支援対象の行動問題に関する聞き取りをもとに機能的 アセスメントを行い、支援対象の行動問題の機能の推定をする。
(6)機能的アセスメントに基づいた支援計画の立案
教師は、機能的アセスメント結果とアセスメントシート 1、2 の結果を踏まえて、機能 的アセスメントに基づいた支援計画を立案する。協議ツール⑵を用いて、複数の支援手続
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(7)協議ツール⑵の作成と提示
教師は、上記(6)で立案した支援計画をもとに、協議ツール⑵に複数の支援手続きを 記述して、保護者に提示する。
(8)保護者による支援手続きの評価
保護者は、協議ツール⑵の説明を読んだ後(教師から聞いた後)、協議ツール⑶を用いて 各観点に沿って点数化する。そして、合計点数を出して順位づけを行い、上位のものを実 際に用いる支援手続きとする。
(9)場面ごとの具体的な支援手続きの説明
教師は協議ツール⑶で上位の支援手続きを、場面ごとにより詳細に決定する。決めた場 面ごとの支援手続きを文書にして、保護者に提示して説明を加える。
(10)家庭における支援の実行
保護者は、決められた場面や時間帯ごとの支援手続きを家庭で実施し、記録を収集する。
(11)支援手続きの見直し
保護者は、協議ツール⑷を用いて点数化する。また、家庭で実際にとった記録と保護者 による協議ツール⑷の評価をもとに、教師と保護者が支援手続きの見直しを行う。以下、
「(10)家庭における支援の実行」「(11)支援手続きの見直し」を繰り返す。
(12)アンケート 1 の実施
「(11)支援手続きの見直し」で、支援対象の行動問題と支援手続きに対する肯定的な 評価が得られたら、一時、協働的アプローチを終了する。また、月に1度の割合でアンケ ート1を実施して、「支援対象の行動問題に対する評価」「支援行動の維持」を検討する。
行動問題に対する評価が低い場合や支援行動が維持していない場合には、再度協議ツール
⑷の評価を依頼する。さらに、上記(7)~(11)を繰り返す。