島根大学医学部地域医療教育学講座
熊倉 俊一 血球貪食症候群(hemophagocytic syndrome;HPS あ るいは hemophagocytic lymphohistiocytosis;HLH)は,
骨髄,肝臓,脾臓,リンパ節など網内系における組織球,
マクロファージによる自己血球の貪食を特徴とし,発熱,
汎血球減少,凝固異常,肝機能障害など多彩な臨床症状を 呈する.発症メカニズムの詳細については明らかでないも のの,宿主の免疫制御機構の破綻に起因し,T 細胞やマク ロファージに由来する高サイトカイン血症が病態形成に関 与していると考えられている.
HPS は,一次性(原発性)と基礎疾患に起因して発症 する二次性(反応性)HPS に分類される.一次性 HPS は,
小児に発症し,その大部分は,家族性血球貪食性リンパ組 織球症(FHL)であるが,その他,Chediak-Higashi 症候 群,Griscelli 症候群や X-linked lymphoproliferative disor-der(XLP)などが知られている.二次性 HPS では,感染
症,悪性腫瘍あるいは自己免疫疾患を基礎疾患として発症 する場合が多く,感染症に続発する場合は,感染(症)関 連血球貪食症候群(infection-associated hemophagocytic syndrome;IAHS)と呼ばれ,ウイルスをはじめ細菌,真 菌,リケッチアなど種々の病原性微生物よる感染症に起因 して発症することが知られている.
IAHS は,良好な経過を示す症例も存在する一方,一般 的には難治性であり,急激な経過を辿り死に至るものも少 なくない.治療は,感染症に対する特異的療法のみにて改 善する症例から,強力な免疫抑制療法あるいは造血幹細胞 移植療法を要するものまで様々である.
本ワークショップでは,感染症に関連した HPS の症例 及び臨床研究を報告いただき,IAHS の診断と治療戦略に ついて新たな方向性を示したい.
1.日本紅斑熱における血球貪食症候群:骨髄および血 液学的検討
山田赤十字病院内科1),三重大学医動物教室2)
坂部 茂俊1)東 澄1)柴崎 哲典1)
山村賢太郎1)臼井 英治1)谷口 正益1)
玉木 茂久1)谷川 元昭1)辻 幸太1)
安藤 勝彦2)鎮西 康雄2)
【背景】昨年の本学会で,1:志摩半島に日本紅斑熱が流行 すること,2:血球貪食症候群合併例を経験したことを報 告した.リケッチア感染症と血球貪食症候群の合併は,報 告レベルでは散見するが,まとまったものはない.当院の 日本紅斑熱症例における血球貪食を検討した.
【方法】日本紅斑熱の診断には,血液および皮膚 PCR,ペ ア血清抗体,皮膚抗原検査を用い,確定診断が得られた 13 例を対象とした.日本紅斑熱は流行と臨床経過から診断が 容易で,全例に骨髄検査を施行することは倫理的に問題が ある.病初期に同疾患と診断できなかった 3 例は骨髄検査 を施行したが他の 10 例は血液学的検討のみおこなった.
【結果】骨髄検査を施行した 3 例:1)29 歳女性,2)76 歳,
3)46 歳女性では血球貪食像が見られ,有核細胞に占める 貪食細胞は順に 1)2.6%,2)1.6%,3)2.0% だった.13 例の血液学的検討では,急性期血液検査で血小板数 79,000!
µL(33,000-259,000),リンパ球数 631!µL(220-2074),Alb 値 2.9g!dL(2.1-3.9),Na 値 133mEq!L(122-140)の 減 少 があった.AST 値 83IU!L(36-215),ALT 値 63IU! L(25-179),LDH 値 377IU!L(260-672),フェリチ ン 値 452ng!
mL(212-2126)は上昇を示した.Hb は正常だった.凝固 検査では PT 14.5sec.(12.9-21.5)延長,FDP 13.3µg!mL
(3.9-85.2)上昇があったが,DIC 傾向を伴うものと,全 く伴わないものに分かれた.また腹部 CT,エコーが施行 された症例ではすべて肝脾腫を認めた.
【考察とまとめ】骨髄検査した 3 症例は血球貪食症候群と 診断した.13 例の血液学的検討では全体に血球貪食症候 群の傾向を示した.
【考察】骨髄に血球貪食を認めた 3 例と,他の 10 例に臨床 経過及び血液検査所見に大きな差はなかった.日本紅斑熱
では殆どで血球貪食を生じる可能性が示唆された.しかし 今宿らの提唱する診断基準(1994 年)には及ばず,赤血 球の減少がないなど,一般的なの血球貪食症候群とは若干 異なる.今後症例を蓄積する必要がある.
2.血球貪食症候群および Paradoxical Reaction を伴っ た粟粒結核の 1 例
東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科1),同 薬害監視学講座2),東京医科歯科大学医学部付属 病院臨床試験管理センター3)
金子佳代子1)小池 竜司3)針谷 正祥2)
症例は 38 歳男性.難治性の皮疹の精査目的に当院皮膚 科に入院中,高熱,汎血球減少および意識障害が出現.皮 膚生検組織所見でループスバンドテスト陽性を認め,汎血 球減少については血清 LDH 高値(1,405IU!L)およびフェ リチン著明高値(14,755ng!dL)を認めたことから血球貪 食症候群を疑った.中枢神経症状に血球貪食症候群を伴っ た全身性エリテマトーデスと診断し,当科転科の上でパル ス療法を含むステロイド大量療法およびシクロファスファ ミドパルス療法にて治療を開始した.その後一旦症状は軽 快したが,2 カ月後に血球貪食症候群の再燃と共に肺野全 体に広がる粟粒陰影が出現し,胃液,骨髄穿刺液より Myco-bacterium tuberculosisが検出されたことから粟粒結核と診 断した.抗結核薬(INH・RFP・EB・PZA)にて治療を 開始し,培養検査で薬剤感受性が確認された.しかしその 後治療経過中に血球貪食症候群の再燃を反復し,さらに 7 週間後には肺陰影の増悪と局所からM. tuberculosisの検出 を伴う左上腕骨骨髄炎を併発し,いわゆる paradoxical re-action に相当すると考えられた.Paradoxical rere-action は 免疫再構築症候群と類似した病態が推測され,本症例にお いても全身状態の改善や免疫抑制状態からの回復過程が発 症の引き金になった可能性が考えられる.さらに本症例の 全経過は粟粒結核のみでは説明困難な多彩な症状を伴って おり,結核菌感染と宿主防御機構を検討する上で興味深い 症例と考えられたことから,文献的考察を加えて報告す る.
(非会員共同研究者:高田和生,南木敏宏,上阪等,宮 坂信之;東京医科歯科大学膠原病・リウマチ内科)
3.水痘肝炎から血球貪食症候群を続発した重症成人水 痘の 1 例
名古屋記念病院総合内科
井口 光孝,水野 泰志,西岡 弘晶
【患者】43 歳男性
【主訴】発疹,腹痛
【既往歴】特記すべき疾患なし.水痘罹患歴・ワクチン接 種歴不明.
【職業歴】カメラマン
【家族歴】免疫不全・自己免疫疾患なし.
【現病歴】入院 3 週間前に不特定多数の子供に接触する機 会あり.入院 3 日前より間欠的な腹痛,2 日前より体幹を 中心とした発疹と発熱が出現.水痘の診断で valaciclovir
処方されるも全身状態悪化し入院.
【身体診察所見】体温 39.1℃,心拍数 66 回!分,血圧 120! 60mmHg,呼吸数 16 回!分.意識清明.頭皮を含め全 身 に痂皮・水疱・膿疱・丘疹が混在.Tzank smear test で ballooning cell あり.心窩部に自発痛あり.肝脾触知せず.
【検査所見】WBC:4.4×103!µL,Plt:2.6×104!µL,AST:
613U!L,ALT:550U!L,LDH:1,406U!L.
【経過】成人水痘と診断.HIV 抗体陰性.valaciclovir 内服 継続するも 39-40℃ が持続.入院第 3 病日 AST:4,375,
ALT:2,610,LDH:7,326,PT:52.8% と著しい肝機能障 害及び Plt:1.1×104と血小板減少を認め水痘肝炎を伴っ た重症水痘と診断,aciclovir 静注に変更.第 4 病日全身状 態・肝機能は改善傾向も WBC:1.9×103(好中球 50%,
異型リンパ球 23%),Plt:0.4×104となり以後適宜血小板 輸血施行.第 7 病日まで発熱持続したため dexamethasone 開始し解熱,血小板上昇・肝機能障害軽快を確認.第 13 病 日 WBC:0.6×103,Hb:8.8g!dL,Plt:1.5×104と 汎 血 球減少を認め骨髄穿刺施行.macrophage の集簇及び血球 貪食像あり Hemophagocytic lymphohistiocytosis(HLH)
と診断.フェリチン 21,311ng!mL.ステロイドパルス療 法を施行したが黄色ブドウ球菌敗血症を併発.多臓器不全 から第 15 病日永眠.病理解剖は行われなかった.varicella-zoster virus(VZV)IgM!IgG は入院当日は陰性,第 13 病日陽性であった.
【考察】水痘肝炎及び VZV-associated HLH の症例報告は 散見されるものの,その二つが免疫正常者に続発した症例 として非常に貴重であると考え報告する.
4.EBV 感染後に致死的な血球貪食症候群をきたした X 連鎖リンパ増殖症候群の 1 家系
島根大学医学部附属病院輸血部1),島根大学医学 部小児科2),島根県立中央病院小児科3),富山大学 医学部小児科4)
竹谷 健1)金井 理恵2)津村 久美3)
浅井 康一3)金兼 弘和4)山口 清次2)
【はじめに】X 連鎖リンパ増殖症候群(XLP)は EBV に 対する特異的免疫応答が欠損する先天性免疫不全症であ る.XLP の原因遺伝子として SAP 遺伝子が同定された.
我々は XLP の 1 家系 3 症例を経験し,そのうち 2 例は血 球貪食症候群を発症して死亡したため,1 例は EBV 罹患 前に造血幹細胞移植を行った.これら 3 症例の臨床経過を 報告して,XLP の臨床像や治療について考察したい.
【症例】症例 1:1 歳 10 カ月男児.伝染性単核球症で入院.
PSL を投与したが汎血球減少を認め EBVAHS と診断し た.その後,免疫グロブリン,ステロイドパルスを行った が病状が悪化した.CyA・VP16 を投与したが,MOF,DIC のため第 30 病日に死亡した.死後,保存骨髄細胞から SAP 遺伝子異常が同定された.症例 2:2 歳 5 カ月男児.症例 1 の弟.1 か月前より感染を繰り返しており,発熱および 肝脾腫を認め,好中球減少および血小板減少をきたした.
EBVAHS と診断し,ステロイドパルスの後,DEX・CyA・