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移植に伴う感染症

九州大学大学院医学研究院成長発達医学分野(小 児科)

楠原 浩一 移植医療の発展とともに,移植に伴う感染症の診療も急 速に進歩してきた.特に抗原検出や定量 PCR などの診断 技術の向上は先制治療や治療効果のモニタリングを可能と し,予後の改善に寄与している.一方で,予防,診断,治 療の困難さから移植患者の生命や QOL を脅かす感染症も 依然として多く存在する.移植に伴う感染症における新し

い知見や重要な臨床報告の発表の場として企画した本ワー クショップでは,新しく開発された CMV RNA 検出法

(transcription-reverse transcription concerted reaction

[TRC])の移植後 CMV 感染モニタリングおける有用性 を検討した演題,特徴的な症状と画像所見を呈する症例の 存在が注目されている造血幹細胞移植後の HHV-6 脳炎の 臨床的背景の解析を行った演題,移植後に生ずる重篤な EBV 感染症である移植後リンパ増殖性疾患(PTLD)の 発症頻度,予後,危険因子等を腎移植症例で検討した演題,

病棟全体に HEPA フィルターを設置した無菌病床への移 転後にアスペルギルス症の新規発症者が減少した事例を報 告した演題,の 4 つが発表される予定である.これらの興 味深い発表に対して活発な議論が行われ,移植に伴う感染 症の診療の進歩につながることを期待したい.

1.サイトメガロウイルス RNA の定量検査

東北大学医学部保健学科1),東北大学大学院医学 系研究科内科病態学講座血液・免疫病学分野2), 東ソー株式会社3),東北大学大学院医学系研究科 内科病態学講座感染制御・検査診断学分野4)

石井 恵子1)張替 秀郎2)林 俊典3)

川上 和義1)賀来 満夫4)

【目的】サイトメガロウイルス(CMV)感染症は移植成績 に大きな影響を与える.しかし,信頼性の高い検査とそれ に基づく治療により発症を制御することが可能である.

CMV 抗原血症を検出するアンチジェネミア法は迅速診断 法として広く利用されるが,操作が煩雑で判定に熟練を要 する.一方,定量 PCR 法は感度が高すぎる点や標準化に 問 題 が あ る.Transcription-reverse transcription con-certed reaction(TRC)法は簡便かつ迅速な RNA 定量検 査法であり,試薬と機器の供給により標準化が可能であ る.本研究では CMV RNA 検出用 TRC 試薬を開発し,

移植後 CMV 感染の検査における有用性を検討した.

【材料と方法】1.東北大学病院で骨髄移植および臓器(心,

膵島,肝)移植を受けた患者 10 名より,同意を得て経時 的に末梢血を採取した.CMV 抗原検査はビー・エム・エ ルで行われた.2.ヘルペス科ウイルス感染細胞は宮崎大 学,岡山大学および名古屋大学より分与された.3.CMV β2.7 RNA を増幅するプライマーとプローブを設計し,

CMV-TRC 反応試薬を調製した.4.検体より RNA を抽 出し,CMV-TRC 試薬を用いて CMV RNA の定量検出を 行った.5.検体より DNA を抽出し,US17 遺伝子を増幅 するプライマーおよび TaqMan プロ ー ブ を 用 い て 定 量 PCR を行った.

【成績】1.CMV-TRC 試薬は,HSV-1,HSV-2,EBV,HHV-6,HHV-7 の RNA を増幅しなかった.2.TRC による RNA 検出は PCR による DNA 検出およびアンチジェネミアに よる抗原検出の結果におおむね相関した.3.検出開始時 期の比較が可能であった 2 例において,RNA および DNA は抗原よりも早期に検出された.4.RNA 陰性かつ DNA 陽性の検体の 2!3 が抗原陰性であった.

【結論】迅速で簡便な TRC 法は PCR 法と同程度に早期検 出が可能であり,かつ感度が高すぎないことから,CMV 感染のモニタリングに有用であると考えられる.

(本研究は東北大学病院検査部,心臓血管外科,移植・

再建・内視鏡外科との共同研究である.)

2.同種造血細胞幹移植後に合併した HHV-6 脳炎の 6

京都大学医学部附属病院感染制御部1),同 血液 腫瘍内科2)

齋藤 崇1)山下 浩平2)白野 倫徳1)

松島 晶1)長尾 美紀1)藤原 尚子1)

高倉 俊二1)伊藤 穣1)飯沼 由嗣1)

一山 智1)

【はじめに】同種造血幹細胞移植後の HHV-6 脳炎の発生頻 度は 0.1%−6.5% と報告されている.当院における同種造 血幹細胞移植後に合併した 6 例の HHV-6 脳炎例の臨床的 背景を検討した.

【対象と方法】2006 年 1 月〜2007 年 10 月に同種造血幹細 胞移植を受けた 56 例のうち,髄液の HHV-6 DNA 量を測 定した 13 例を対象とした.HHV-6 脳炎は神経症状があ り,髄液の HHV-6 DNA 量が陽性(>100copies!mL)と なった症例と定義した.

【結果】HHV-6 脳炎と診断された症例は 6 例であった.平 均年齢は 61 歳(範 囲:47〜64 歳),男 性 が 5 例,全 例 が 急性骨髄性白血病の症例であった.移植源は骨髄が 2 例,

臍帯血が 4 例であった.非骨髄破壊的移植が 4 例,HLA 不一致移植も 4 例であった.神経症状の出現は移植後平均 26 日(範 囲:18〜33 日)で,生 着 前 に 1 例,生 着 後 に 5 例であった.その症状は発熱(5 例),失見当識(2 例),

意識障害(2 例),異常行動(2 例),呼吸抑 制(2 例)で あった.MRI 検査は 5 例において実施されたが,いずれ の症例においても脳炎を示唆する所見は認められなかっ た.神経症状出現から髄液検査までに平均 4 日(範囲:0〜

13 日)を要した.診断時の髄液の HHV-6 DNA 量は中央 値 2,400copies!mL(範囲:570-1,300,000copies!mL)であっ た.1 例は治療開始前に死亡したため,治療は 5 例におい て行われ,4 例がホスカルネット,1 例がガンシクロビル であった.5 例は臨床症状が改善し,1 例は HHV-6 脳炎が 死因と考えられた.

【結論】同種造血幹細胞移植後早期に神経症状が出現した 場合には,HHV-6 脳炎を念頭におき,髄液検査などを積 極的に実施し早期診断・治療につなげていくのが重要であ ると考える.

3.腎移植 1,042 例における EBV 陽性移植後リンパ増 殖性疾患の検討

名古屋第二赤十字病院腎臓病総合医療センター 後藤 憲彦

【背景】移植後 Epstein-Barr virus(EBV)感染症は,移植後 リンパ増殖性疾患(PTLD)に進展し,致死的になる可能 性がある.多くの治療法が trial として検討されているが,

最良の治療法は未だ不 明 で あ る.移 植 専 門 医 に と っ て PTLD 発症をいかに抑えるかということは大きな問題点と して残っている.

【方法】2007.3.31 までに当院で施行した腎移植患者 1,042 名に対して PTLD の発症頻度,予後,危険因子等を検討 した.

【結果】11 名(1.1%)にリンパ増殖性疾患を認めた.B cell リンパ腫 8 名,T cell 由来 1 名,NK!T cell 由来 1 名,形 質細胞腫由来 1 名であった.免疫染色にて組織内に EBV を認めた PTLD は 6 名で原発は頸部リンパ節 2 名,腹腔 内リンパ節 1 名,膀胱 1 名,前立腺 1 名,小脳 1 名であっ た.移植から発症までの期間は 35±43(2〜126)カ月で,

6 名中 4 名は多クローン性,2 名は単クローン性であった.

移植から 27 カ月以内の発症はすべて多クローン性であっ た.生存 3 名,死亡 3 名であったが,生存者は移植から平 均 14.7 カ月の発症,死亡者は平均 54.3 カ月の発症であっ た.生存者のうち 1 名はシクロスポリン中止のみで CR,

1 名はタクロリムスをシクロスポリンに変更して CR,も う 1 名はミコフェノール酸モフェチル中止,シクロスポリ ン減量に加え,リツキサン+CHOP+放射線療法にて PR となっている.6 名中 4 名で移植前の EBV 抗体価が測定 されていて,3 名が EBV 未感染,1 名が EBV 既感染であっ た.

【結論】移植後早期発症の PTLD は多クローン性で治療に 反応する可能性高い.術前 EBV 未感染レシピエントは high risk であり,術後のウイルス量や過剰免疫抑制状態 をきちんとフォローする必要がある.組織内 EBV(+),

CD20(+)であれば,リツキサンにある程度反応すると の文献もあり,早期診断して迅速な対応が必要である.

4.新しい無菌病棟におけるアスペルギルス感染症サー ベイランス

九州大学医学部病態修復内科学

前原 依子,土持 典子,門脇 雅子 江里口芳裕,長崎 洋司,内田勇二郎 下野 信行

【目的】アスペルギルスは広く自然界に存在するが,易感 染宿主に予後不良の侵襲性アスペルギルス症(IA)を惹 起するため,その感染予防が重要である.これまでに環境 要因とアスペルギルス症発症との関連が示唆され,造血幹 細胞移植時などの好中球減少期が 遷 延 す る 状 態 で は,

HEPA フィルターによる空調管理が推奨されている.今 回我々は,病棟全体に HEPA フィルターを設置した新無 菌病棟に移転した.移転に伴う環境変化が,IA の発症に 影響を及ぼしたかを検討するため調査を行った.

【方法】2004 年 4 月から 2006 年 9 月までの期間に,当科 でアスペルギルス感染を疑い血清ガラクトマンナン抗原を 測定した症例を抽出した.この 148 症例 773 検体を retro-spective に解析した.EORTC の改 訂 診 断 基 準 に 従 い,

Proven,Probabale,Possible IA に判別した.ガラクトマ ンナン抗原値は基礎疾患に関わらず,0.5 をカットオフ値

とした.EORTC の診断基準を満たす症状,画像所見,検 査所見のいずれかが最初に出現した日時を retrospective に同定し,発症日時とした.その発症日時が,入院後 10 日以降で認められたものを院内発症と定義し,10 日以内 に発症したものは院外もしくは同定不能とした.

【結果・考察】新規発症者数は 2005 年 10 月以降減少し,

新病棟移転後は認められなかった.Proven 症例はなく,

院内発症 Probable IA の発生率は 2004 年 4 月から 6 カ月 間毎に 1,000 患者・入院日あたり 1.26,1.22,1.36,0.73,

0.00 であった.新規発症者数減少に寄与する因子として,

侵襲性アスペルギルス症に奏効率の高い新規薬剤の導入 と,移転に伴う環境対策の充実が考えられた.その後につ いても同様に解析中であり,併せて報告する予定である.

ワークショップ 12

Clostridium difficileによる病院感染の現況とその対策 春日井市民病院

山本 俊信

C. difficileは抗菌薬の投与に伴い腸内細菌叢が乱れるこ

とにより容易に腸管内で増殖し,産生される毒素により腸 炎 を 発 症 す る.偽 膜 性 腸 炎 や 抗 菌 薬 関 連 腸 炎!下 痢 症

(CDAD)の原因菌である.C. difficileは偏性嫌気性グラ ム陽性桿菌であるが環境下に存在すると芽胞を形成し,長 く存在することが可能となるため,病院感染の原因菌のひ とつとして注目されている.しかし,本邦ではC. difficile による感染症への関心は決して高いとはいえず,適切な検 体採取および細菌学的検査がなされずに見過ごされている 症例も多いと考えられていた.

一方,欧米では CDAD への関心が高く,C. difficileによ る病院内での集団発生事例の報告は多い.今回本邦でのC.

difficileによる病院感染の現況を明らかにし,病院感染対

策を行っている先生方の関心を高める目的で,冨岡会長に お願いし,「Clostridium difficileによる病院感染の現況とそ の対策」という公募でのワークショップを企画したとこ ろ,14 題もの演題の応募があった.この事実から,本邦 においてもC. difficileの感染症に対する関心はすでに高 まっており,ワークショップの一番の目的は達成できたの ではないかと思われた.

今回のワークショップでは,一般病院,癌専門病院,大 学の附属病院で病院感染対策を行っている 5 名の先生方か ら,C. difficileによる病院感染の自施設での現況について 報告を受け,本邦における病院感染対策上の問題点につい て討議していきたい.是非,多くの先生方にも参加してい ただき実りあるワークショップにしたいと考えています.

1.Clostridium difficileの 院 内 伝 播 に 関 す る パ ル ス フィールドゲル電気泳動を用いた検討

石心会狭山病院 ICT1),同 呼吸器内科2),同 看 護部3),同 薬剤室4),先心会狭山病院臨床検査部5)

青島 正大1)2)佐藤 逸1)3)石塚 明美1)3)

大木 孝夫1)4)矢部 恭代1)5)

当院は 349 床の地域の中核病院で,2007 年 4 月からの 3

カ月間で院内の慢性期病棟(以下 A 病棟)で連続して 6 例で便からC. difficileが分離され,6 月から ICT が介入を 行った.病院全体で下痢の患者に対し積極的にC. difficile の検出を試みることを推奨し,便やオムツの取り扱いに関 しては標準予防策+接触感染対策を行うことを指示.C.

difficile分離例に対しては可能な限りコホ ー テ ィ ン グ を

行った.これらにより A 病棟からの分離は一応終息をみ たが,積極的なC. difficile培養検査の結果,他の病棟でも

C. difficileの検出を認め,10 月末までの時点で,計 15 例

で便からC. difficileが分離され,A 病棟以外でも 5 つの急

性期病棟でC. difficileが分離された.これら分離例のうち 9 例は A 病棟の入院歴を有する患者であったが,このう ち 2 例は A 病棟入院前からC. difficileが検出されていた.

7 月以降のC. difficile分離例では伝播経路の検討のため 可能な限りパルスフィールドゲル電気泳動(以下 PFGE)

による解析を試みた.PFGE は BML に依頼した.C. difficile 単クローンを培養し菌体をアガロースに包埋し,溶菌,蛋 白分解を行い,Sma I でゲノム DNA を切断し電気泳動を 行った.PFGE を施行しえたのは 8 例で,うち 6 例で同一 の株(A 株)を,2 例ではそれぞれ別の株(B1,B2 株)

を認めた.A 株 6 例中 4 例は A 病棟入院中に初めて下痢 が出現しC. difficileが分離された例で,残り 2 例は A 病棟 への入院歴がない患者であった.B1,B2 株を認めた例は A 病棟への入院歴がなく持ち込みと考えられた.

A 株はC. difficileの院内伝播と判断したが,A 病棟入院

歴のない患者に A 株C. difficileが検出されたこと や,A 病棟でも 8 月以降下痢を有しC. difficile陽性例がいない状 況下で A 株C. difficileが再び検出されていることから,無 症候性キャリアの存在が想定される.現在さらに症例を追 加して検討中であるが,今後は院内伝播を遮断するために はこれら無症候性キャリアに対する対応が必要になると考 えられる.

2.当院におけるClostridium difficile施設内感染 岐阜赤十字病院内科1),国立感染症研究所細菌第 二部2)

伊藤陽一郎1)中村 俊之1)加藤 はる2)

【目的】本邦では欧米に比べC. difficile関連下痢症(C. diffi-cile-associated diarrhea,以下 CDAD)の院内集団発生に 関 す る 報 告 が 少 な い.一 方,当 院 で は 2005 年 1 月 以 降 CDAD が増加し,再発例も増加してきた.そこで,我々 は細菌学解析を加えて当院における施設内感染について検 討した.

【対象と方法】対象は 2005 年 1 月から 2007 年 9 月までに CDAD と診断され,細菌学的検討ができた 29 例である.

細菌学的検討として再発時を含めてC. difficileの分離培養 を行い,分離菌において PCR による毒素産生パターンの 同定及びタイピング解析を行った.なお当院は 2006 年 12 月に新病棟移転のため病床数 310 から 352 となり,病棟数 は 6 から 8 となった.

【結果】27 例の入院病棟は,のべ 8 病棟にわたっていた.

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