第1節 認知症グループホームの研修について
まず、認知症グループホームの研修について、実践者研修は、地域密着型サービス事業 所の指定基準によって、受講が義務付けられている。この研修は認知症介護の理念、知識 及び技術を修得させることを狙いとして実施されている。基本的に、従事している介護職 は、資格がなくてもこの研修を受講していることになる。また、実践リーダー研修は、実 践者研修で得られた知識・技術をさらに深め、施設・事業所においてケアチームを効果的・
効率的に機能させる能力を養成据えることを狙いとしている。
この研修について、調査184によると研修は自治体によって、実施体制は委託や指定によっ て行われており、社会福祉法人が過半数を占めている。実践者研修において、研修実施率 の低い標準教科は、「外部実習(1 日)」約40%、「援助者の位置づけと人間関係論」約45%、
「 援助関係を築く演習」約47%であり、半数以下の実施であったとしている。また、研修 日数の格差も各自治体で異なり、実践者研修は7.5倍、実践リーダー研修は2.0倍と結果を 示している。さらに、講師の指導スキルの差も大きく、受講者の経験やスキルの差も大き いという結果であった。さらに、研修期間が長く小規模施設の勤務者は受講しにくく、大 規模施設の受講者に偏る傾向にあるとしている。
認知症グループホームを運営していくうえで、勤務体制の確保として事業者は、資質向 上のためにその研修の機会を確保しなければならないという基準185がある。また、管理者 は、認知症他グループホーム事業者管理研修を受講する必要があり、事業所を管理・運営 していくうえで必要な「指定基準の正しい理解」「職員の労務管理」「適切なサービス提供 のあり方」などの知識技術を身につけることを狙いとしている。管理者研修は「地域密着 型サービス基準」「地域密着型サービスの取り組み」「介護従事者の労務管理」「適切なサー ビス提供のあり方」の4科目である。研修として検討すべきは、「適切なサービスの提供の あり方について」である。それは<地域との連携>、<サービスの質の向上>、<その他
>がある。そのなかでも、研修については『サービスの質の向上と人材育成』とある。管 理者は、サービスの質の向上として必要な知識技術はもちろん、介護職として人材育成に 努める必要がある。しかし、「適切なサービスの提供のあり方について」の講義は、5.5時 間であり、具体的な内容や方法までは規定されていない。そうなると、管理者の采配によ るところが大きいと思われる。調査2の管理者の特徴において、管理者としての成り立ち や経験年数によって思いや人材育成方法が異なることがみえてきた。全体としては、介護
184 (株)日本能率協会総合研究所:平成25 年度 老人保健事業推進費等補助金老人保健健康増進等事業 認知症ライフ
サポートモデルを実現するための認知症多職種協働研修における効果的な人材育成のあり方及び既存研修のあり方に関 する調査研究事業報告書(2014.3)
185 基準は、指定地域密着型サービスの事業がその目的を達成するために必要な最低限度の基準を定めたものであり、
指定地域密着型サービス事業者は、常にその事業の運営の向上に努めなければならなービス事業者は、常にその事業の 運営の向上に努めなければならないこと。と定めている。
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職としての基本的な資質や認知症高齢者の生活を保持する方法、キャリアとして必要なこ と等が明らかになった。
以上のことから、介護職や管理者として認知症グループホームで働くためには、基本的 な研修受講が規定されている。しかし、認知症介護実践研修においては、各自治体の研修 実施内容のばらつきが大きく、受講者や指導者の知識や技術の差が大きいことが示された。
また、外部研修に出向く時間がなく、小規模施設の介護職にとって研修の機会を受けにく く、また経験やスキルが未熟な場合があり、受講しても効果的な研修と言えず、認知症介 護実践研修として成立しがたい状況となっている。さらに、管理者としての人材育成への 思いが研修内容や方法に影響している可能性がある。
第2節 調査結果および認知症介護実践者研修から検討すること
第 3 章の「認知症グループホームの介護職におけるストレスの実態と虐待の認識との関 連における調査」から、虐待の認識がストレスに関連していることが明らかになった。そ の中で、認知症の理解が乏しいことや介護の専門的知識が不足していること、認知症のケ アのケアの経験が乏しいことが、ストレスを高い状態にしていることが明らかとなった。
よって、介護職のストレスマネジメントをすることによって、ストレスが低減し虐待防止 につながることが確認できた。そして、介護職の人材育成を支援し、達成感が得られるこ とでストレスが低減し、本研究の目指す認知症高齢者の虐待防止につなげることができる と思われた。
また、第 4 章の「認知症グループホームの管理者の介護職に対する人材育成体制の認識 に関する調査」結果と、前節の認知症グループホーム研修の実態から、介護職における研 修受講に大きな格差があることや、事業所として研修計画や受講をさせる必要があること が示された。対象となった管理者は、これらのことを理解しているが、認知症グループホ ームが小規模施設であることや、特に夜勤体制などの運営管理方法等を検討すると、効果 的な研修内容や方法が困難な状況となっているのではないかと思われる。さらに、認知症 グループホームの人材育成に不可欠な内容も明らかとなった。
これらのことから、研修の企画運営を工夫することと虐待や不適切ケアを防止する研修 は、入居している認知症高齢者にとってもちろん必要であり、管理者と介護職員にとって も介護職の倫理性を養う上でも重要な研修であると考える。
そこで、経験年数や資格の有無、知識やスキルに個々の格差があっても、従事する介護 職にとって効果的な研修企画を検討したいと考える。そして、特に筆者が検討してきた虐 待や不適切ケアを防止する研修内容が必要と考えた。
これらの研修内容に近似している2件の先行研究をあげる。
伊藤(2011)186は権利擁護に関するプログラム実践の報告をしている。その中で、不適
186 伊藤薫(2011):認知症介護実践者研修会における権利擁護に関するプログラム開発への実践報告 危険予知トレ
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切ケアに対する危険予知訓練シートを活用し、施設内虐待の教育に活用されるという結果 を得たと報告している。原田(2014)187は、高齢者の精神認知機能の特徴や、問題への対 応について、2時間の研修プログラムを実施した結果、困難感の軽減が図られたと報告して いる。この先行研究から、研修の効果はあると思われるが、筆者の方法論とは異なる。
以下に、方法論を述べる。
第3節 調査結果から今後に向けた取り組みの提言
今後も認知症高齢者数は増加し、認知症の症状や進行は個人によって多様である。また、
糖尿病や脳血管疾患、骨・関節疾患等の多様な基礎疾患を持ちながら、認知症となる高齢 者も増加すると思われる。
認知症グループホームは重要な生活支援の場であり、年々増加している。認知症グルー プホームで働く介護職は、24時間認知症高齢者の生活支援を行っているが、施設の規定上、
職員数も限られ、特に一人夜勤はほとんどの施設で行われている状況である。
虐待の認識とストレスに関する調査から、達成感の低い人はストレスが高いことが明ら かとなった。また介護行動を虐待と認識している介護職ほど、ストレスが高いことが明ら かとなった。また、先行研究を支持する結果ではあったが、20 歳代は他の年齢に比較しス トレスが高いことも明らかとなった。これらの結果を踏まえると認知症高齢者の生活を支 援する介護職のストレスは高く、ストレスマネジメントが重要と考える。
また、管理者の人材育成に関する認識調査結果から、認知症 GH の介護職の人材育成の 特徴として、認知症高齢者の生活を支えること、認知症ケアの専門的知識・技術を習得す ること、小規模集団としてチームで責任ある行動をすることが重要であることが明らかに なった。
以上の結果をふまえて、介護職として個々の達成感が得られること、適切な知識や技術 を修得することによって、ストレスマネジメントができることを検討する。それが、人材 育成につながることとして、次のような研修内容と方法を提案する。また、その介護職が ストレスマネジメントをできる、働きやすい職場環境を整備する方法を整理する。
島井らは、効果的なストレス対処188において、状況に合わせた対処の選択として、自分 の努力で事態を変えられる可能性が高い状況には問題焦点型対処を用いることが有効とし ている。それは、問題に直接的・積極的に働きかけることであるとされている。また、他 者からの援助や支持は社会的サポートとして、重要な資源となると述べている。これらの ことを踏まえると、介護職の達成感の低さというストレスに対処するためには、専門家と いう他者のサポートによって、介護職としての専門的知識や技術を自ら学び習得すること
ーニングを用いた研修内容とその評価、日本認知症ケア学会誌、10(3)、369-378.
187 原田小夜(2014):介護職の対処能力向上プログラムの効果と課題、日本健康医学会雑誌、22(4)、253-263.
188 島井哲志・長田久雄・小玉正博(編)健康心理学・入門、有斐閣アルマ、75-82、2016.