第1節 先行研究
先行研究に関しては、国内論文、海外論文、書籍から、高齢者虐待に関すること、認知 症グループホームに関すること、介護職とストレスに関すること、管理者と教育指導に関 することを中心に、概要をまとめ、検討を行った。
1.国内研究論文
2016年に以下のキーワード別に医中誌、CiNii Articles、Google Scholar、インター ネット検索を行った。
「虐待・認知症高齢者」をキーワードとして56件がヒットした。そのうち施設や医療機 関の虐待に関する文献は7件であった。
「介護職・虐待」をキーワードとして97件がヒットした。そのうち本研究に関連する文 献は16件であった。
「介護職・ストレス」では、医中誌27件、CiNii 94件で重複を除くと54件であった。
「認知症グループホーム・管理者」では、医中誌 4件、CiNiiで 1件、Google Scholar で1件であった。
これらの中から、本研究に関係する以下の論文に対して検討を行った。
養介護施設における高齢者虐待に関する論文12件、介護職のストレスに関する論文14 件、養介護施設・認知症グループホームの介護職に関する論文 7 件、認知症グループホ ーム管理者に関する論文4件、介護職の教育研修・キャリアに関する論文8件である。
1)養介護施設における高齢者虐待について
1990年代後半から老人虐待に関する調査研究が散見され、2006年の高齢者虐待防止法制 定に伴い、論文数は急激に増加している。養介護施設や介護職、在宅高齢者等の虐待の実 態や要因等についての研究が多くみられるが、虐待防止法制定以降は、予防や防止策の実 践や効果等に関する論文が増えている。各研究の概要は次の通りである。
養介護施設における高齢者虐待の要因について、認知症グループホーム協会77(2007)は、
「虐待をおこした職員の生活・人間性」、「職員全般のケアサービスに対する認識」、「職員 全般の虐待に関する認識不足」、「介護職員の労働条件」をあげている。古屋78(2008)は、
虐待との関連で「有資格者が少ない」、「高齢者に関する知識を学習する機会が不足してい
77特定非営利活動法人全国認知症グループホーム協会編(2007):認知症グループホームにおける虐待防止・権利擁護 研究事業調査報告書、特定非営利活動法人全国認知症グループホーム協会.
78古屋博子(2008):高齢者福祉施設における援助職者の態度および意識と不適切ケアの実態調査、高齢者のケアと行 動科学、14(1)、20-28.
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る」ことを理由として報告している。谷田79(2010)の研究では、虐待の起こる状況は介護 者のストレスが高く、虐待を認識している人がその傾向にあると指摘している。また、虐 待の理解度が高い介護職は、虐待項目をすべて認識している人であると報告している。以 上の研究から、虐待や不適切なケアが起こる要因は、虐待や高齢者に関する知識や認識が 不足していること、学習の機会が不足していること、そして介護職にはストレスがあるこ とが関係していると理解できる。
虐待の行為や不適切なケアについて木下ら80(2013)は、高齢者の認知症の重度化で、対 応の困難さが増す事によって、個別性と尊厳に配慮した介護職と高齢者間の対人交流には なりにくくなっていると報告している。土屋81(2014)は、不適切なケアの例として異性に よる入浴介助、汚れた衣服の放置、車いす上での固定等が多いと報告している。任82(2014)、 は尊厳の侵害、役割の侵害、自律の侵害、交流の侵害を準虐待と定義している。倉林ら83(2014)
は、不適切行為の認識について、見守りで対応可能な高齢者を全介助すること、異性によ る入浴介助、居室の入り口に鍵をかける等をあげている。これらのことから、虐待が行わ れている事実と不適切であるケアが行われていること、虐待行為について理解をしている 介護職は、虐待の認識をしていると理解が出来る。つまり、虐待の認識を持つことが虐待 を防ぐ要因となる可能性があることを示している。加えて、認知症の重度化によって介護 職の対応が困難な状況が起こる可能性が高い重度の認知症高齢者は虐待の対象となりやす いことも理解できる。
虐待の予防について松本8485(2013.2015)は、労働環境、職場特性、知識・研修受講経 験等が予防因子であること、資格や虐待の研修受講のない職員ほど予防対策を受けていな い傾向にあることを報告している。さらに、佐藤ら86(2016)は、不適切なケアかどうか判 断に迷うときは、自分より経験値の高い人に相談することが効果的であると指摘する。。
先行研究からは、防止策、予防策については、上司や同僚との良好な人間関係、相談や アドバイスをうける体制整備等が図られている労働環境ほど効果があると理解できる。
79谷田恵美子(2010):高齢者の虐待認識群と非認識群の「認知症高齢者への対応」に関する比較、インターナショナ ルNursing Care Research 、9(2)、1-10.
80木下香織、中島望、太湯好子(2013):ケアスタッフの認知症高齢者への対応困難感と自我状態の認識が対人交流に 与える影響、日本認知症ケア学会誌12(2)、2013.
81土屋典子(2014):養護施設従事者の虐待への意識に関する調査研究-養介護施設における虐待予防のための実践ア プローチ、立正社会福祉研究、15(2)、57-59.
82任 貞美(2014):介護職員の虐待認識に基づいた高齢者虐待定義の再構築への試み-「準虐待」の構造と特徴に着 目して-、社会福祉学、54(4)、57-59.
83倉林しのぶ、芝山江美子、宮崎有紀子(2014):養介護施設従事者における「高齢者虐待と不適切な行為」の認識及 びその認識に関わる背景と要因、生命倫理、24(1)、76-86.
84松本 望、今井幸充(2013):認知症グループホームの介護職員が求める虐待予防因子の構造と課題;職員・職場の 属性による認識の違いをもとに、高齢者虐待防止研究、9(1)、44-53.
85松本 望(2015):認知症グループホームにおける不適切なケアの予防要因の効果の検証-介護職員への質問紙調査 をもとに-、日本認知症ケア学会誌、14(2)、464-472.
86佐藤弥生、佐々木千晶(2016):介護職員の「不適切ケア」の判断の拠り所-アンケートの自由記述の分析から-、
岩手県立大学社会福祉学部紀要、第18巻、11-21.
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高齢者自身の虐待の認識について古川ら87(2009)の研究では、スウェーデンと日本の虐 待の実態調査の結果から比較・検討を行っている。施設内で虐待を受けていると回答した 高齢者は両国とも 30%以上であり、虐待に対する認識はスゥエーデンも日本も差異がない ことを報告している。虐待を受けている高齢者は、虐待を認識していることが理解できる。
先行研究からは、虐待や不適切なケアが起こる要因として、介護職員の虐待や高齢者に 対する知識・認識の不足が多く指摘されている。加えて認知症の重度化により、介護職の 対応が困難になるにつれて、悪循環のごとく虐待や不適切ケアへと結びついている。これ らの負の連鎖を断ち切るのに有効な手段は、介護職員が虐待行為をきちんと認識できるた めの、知識不足を補い、人権意識の向上に結びつける研修や講義等を受講することである。
加えて、対応や介護について困っている事に対して、同僚や上司に相談出来る職場環境 の形成が重要であるとされている。しかし、ストレスがなぜ虐待につながるのか、その要 因を明らかとする研究は見当たらなかった。
2)介護職のストレスについて
職場(組織環境、上司・同僚との関係性)、利用者(認知症高齢者、利用者の家族)、労 働条件、仕事内容等がストレスに関連があるという先行研究は多かった。養介護施設は特 別養護老人ホームの介護職を対象とするデータが多く、2000年~2010年にかけて多くが発 表されている。ストレス指標には、バーンアウト尺度を利用している研究が多かった。
その中でいくつかの研究概要を紹介すると、ストレスが高くなる要因は、一般的疲労が ストレッサーになること(音山ら88:1997)、組織の中の自分の役割、他職種との関係がス トレスにつながる(藤野89:2001)、同じく、ストレス要因として組織の人間関係・体制・
仕事量をあげているもの(高良90:2003)、利用者の受容(畦地ら91:2006)、利用者中心介 護(張ら92:2007)、上司とのコンフリクト(小野寺ら93:2007)、小規模ケアの事業所は事 務的仕事の負荷があり、労働意欲が低下する(長三ら94:2007)、心理的な仕事や仕事の質 に対する負担(三徳ら95:2008)、労働条件・個の尊重(渡辺ら96:2012)、急変時の対応(鈴
87古川潤子、堀米史一(2009):高齢者虐待に関する関心‐日・北欧比較‐、社会医学研究、26(2)、133-140.
88音山若穂、矢冨直美(1997):特別養護老人ホームの利用者中心的介護が介護スタッフのストレスに及ぼす影響、季 刊・社会保障研究、33(1)、80-89.
89藤野好美(2001):社会福祉従事者のバーンアウトとストレスについての研究、社会福祉学、42(1)、137-149.
90高良麻子(2003):特別養護老人ホーム職員のバーンアウトに関する研究(1)‐バーンアウトの予防を目指して-、
東京家政学院大学紀要、第43号、人文・社会科学系 抜粋、85-92.
91畦地良平、小野寺敦志、遠藤 忠(2006):介護職員の主観的ストレスに影響を与える要因-職場特性を中心とした 検討-、老年社会学、27(4)、427-437.
92張 充楨、長三紘平、黒田研二(2007):特別養護老人ホームにおける介護職員のストレスに関する研究‐小規模ケ ア型施設と従来型施設の比較‐、老年社会学、29(3)、366-374.
93小野寺敦志、畦地良平、志村ゆず(2007):高齢者介護職員のストレッサーとバーンアウトの関連、老年社会学、28
(4)、464-475.
94長三紘平、黒田研二(2007):特別養護老人ホームにおける小規模ケアの実施と介護職員のストレスの関係、厚生の 指標、54(10)、1-6.
95三徳和子、森本寛訓、矢野香代、他4名(2008):施設における高齢者ケア従事者の職業性ストレス要因とその特徴、
川崎医療福祉学会誌、18(1)、121-128.