第1節 まとめ
本論文では、認知症グループホームの現状と、そこで働く介護職の教育課程や就労状況、
養介護施設の従事者の虐待の実態を理解した。そして、本論文の中心的検討課題の介護職 のストレスと虐待の認識の関連を明らかにした。また、ストレスと虐待の認識について、
認知症グループホームの管理者の人材育成にも課題があると思い、調査した。その結果と、
それをもとに、筆者が考えるストレスを低減するためのストレスマネジメントのための研 修方法と職場環境について提言した。
1.認知症グループホームの介護職の問題
認知症グループホームで働く介護職には以下の課題があると整理し認知症グループホー ムで、働く介護職員のストレスは次の 2 点から生じると考えた。①認知症高齢者の生活に 24時間密着して働くことによる、利用者との関連性から生じるストレスがある。②小規模 施設特有の少人数(特に一人夜勤)勤務による、労働の負担とストレスがある。これらの ストレスから利用者に対する虐待が生じる可能性が高くなるのではないか。
こうした虐待行為を回避するためには、介護福祉士養成課程において「人間の尊厳」等 の人権意識や職業倫理に関する教育が重要な役割を果たしていると考えるが、実際の現場 では、短時間教育と実務経験によって仕事に従事する者の割合が圧倒的に多い。また、実 務経験者に対しては、養成校で実施される「人間の尊厳」等の人権意識や職業倫理に関す る教育がない。さらに、介護職員の中には介護福祉士以外の者も従事していることから、
相対的に人権意識や職業倫理に関する知識が不足する介護職員が多いことが予測される。
このことは人間としての尊厳を基本とする認知症高齢者に対する理解不足につながり虐待 や不適切ケアにつながるのではないかと考えた。
2.高齢者虐待の関する実態
養護者と養介護施設の従事者が加害者となる高齢者虐待の実態について述べた。養介護 施設別ごとの虐待では、「介護老人福祉施設」30.6%と最も多く、次いで「有料老人ホーム」
20.9%、「認知症グループホーム」15.9%、の順であった。養介護施設の従事者による虐待
の種別は、「身体的虐待」61.4%と最も多く、「心理的虐待」27.6%、「介護放棄(ネグレク ト)」12.9%であった。
本来、養介護施設は高齢者の生活の保障の場である。その安定した生活を保障する養介 護施設の介護職員における虐待がなくならないことは大きな社会的問題であるため、養介
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護施設における虐待予防は急務な課題であるといえる。
特に認知症グループホームにおいては、認知症高齢者を対象とした日常生活中心の支援 をしていることから、認知症に現れる BPSD(幻覚、妄想、徘徊、異食、暴言暴力等)の 症状に振り回される可能性が高く、介護職員が対応に苦慮する多くはBPSDであると言わ れている。介護職員は認知症と理解していても、環境条件の違いや人間関係等で急に周辺 症状が出現したりすることもあり、常に細やかな対応をする必要がある。そのため、身体 的・心理的負担が高く、それに伴い「心理的虐待」が起こる可能性が高いと考える。さら に、資格がないことや研修を受けていないことで認知症や虐待の理解やその対応ができな い介護職員が多数存在する可能性はある。介護職員の養成課程や施設の研修等について現 状を把握することができた。
3.認知症対応型グループホームの現状
認知症グループホームは、1985年にスウェーデンで始まった試みであり、民家を改造し た小規模で家庭的な生活環境の下、介護者と認知症高齢者との共同生活を始めたのが発祥 と言われている。認知症高齢者ケアの実践と認知症グループホームの成果は社会的に評価 され、日本の認知症グループホームの基礎となったと言われている。
スウェーデンでの取り組みがなされていた同時期に、日本では、独自の宅老所ができてい る。その発祥は研究者によって異なっているが、その時点の宅老所は行政の制度に則って おらず、定義自体も明らかでないが、民家などを改造して高齢者が落ち着いて滞在できる 場所を指すと、山井 (2004)は説明している。そして、宅老所は住民やボランティア、福 祉施設の元職員が集まって自然発生的に始めることが多いとも述べている。
認知症グループホームは、2015 年度介護サービス施設・事業所調査 では、10 月現在
13,003事業所が登録されており前年比 3.9%増加し、利用者数は184,500 人となって、微
増していることが明らかとなった。認知症グループホームで働く介護職員の現状から、介 護職員は小規模で家庭的な生活環境で、入居者一人につき介護職員が 0.8 人と概ね 1 対 1 で、他施設と比較すると比較的手厚い介護ができており、少人数で認知症高齢者の生活を 支えている。彼らは、職務満足度において認知症グループホームの介護職員は75%が満足 と回答していることから、仕事に対してやりがいを持って働いていることが理解できた。
4.介護職の教育、就労状況
資格取得ルートは、養成校ルートと実務経験ルートに大きく分かれている(福祉系高校 ルートは除く)。養成校ルートの養成施設は大学、短期大学、専門学校と多様で、2016年度 までは養成施設を卒業すると国家資格が与えられた。当初、養成施設は社会状況と将来の 介護ニーズに適合したことで増加し、毎年多くの介護資格を取得した若い世代が介護の現
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場に就業していった。2006年をピークに養成校の入学者は定員割れとなり、養成校の定員 と入学者について2016年度は定員枠が16,700人(377校)に対し入学者は約7,700人に とどまり、この10年間で入学者は50%以下になった。
実務経験ルートは、3年以上の介護等の業務に関する実務経験、及び都道府県知事が指定 する実務者研修等(2016年度から開始)における必要な知識及び技能の修得を経た後に、
国家試験に合格して資格を取得する方法である。全体では、介護福祉士登録者数は年々増 加しており、厚労省によると2016年度では実務経験ルートが約77,000人、養成校ルート
が約8,700人と約8倍実務経験者が多くなっている。実務経験者コースは、教育時間が短
いことから、専門的知識の乏しい介護職員が介護福祉士の多数を占めていることが考えら れる。
5.介護職の人材確保の課題
介護職の人材確保において、最も大きな課題は、非正規職員の離職率の高さである。養 介護施設の介護職員の41%は非正規職員であり、非正規職員の離職率は21.3%と報告され ている。2点目の課題は、潜在介護福祉士が多いことである。3点目は、養成施設の減少で ある。介護福祉士養成施設への入学者が減少するということは、介護福祉士として専門的 教育を受けた人材が減少することにつながる。4点目は、賃金や待遇の低さ、労働条件等の 整備不足である。
人材不足は、新たな人材確保や職員としての教育等、組織管理への影響もあると思われ、
労働環境の整備も重要となる。介護人材の不足は、介護の質を低下させるだけではなく、
不適切なケアや虐待につながる可能性があることが理解できた。
6.調査仮説と解決問題
先行研究の結果から、虐待の関連要因や介護職のストレスの関連要因のそれぞれはまと められているが、認知症グループホームにおける介護職に関して、認知症高齢者への虐待 の認識と介護職のストレスを分析した研究は見当たらなかった。また、管理者を対象とし た教育指導体制について認識について分析した研究はなかった。
介護職のストレスによる虐待の認識との関連が明らかになれば、ストレスを低減するこ とができ、また介護行動の虐待に関する適切な認識を得ることで、虐待に結び付くことを 予防できるのではないかと、仮説を立てた。そして、本論文における調査によって、スト レス関連要因の分析することで、介護職の専門的知識や人間の尊厳等、倫理的思考の理解 度が不足していることも、関連していることも明らかになるのではないかと思われる。そ のため、介護職員の人権意識や職業倫理に関する知識不足を補う手段としては、職場内教 育や外部研修の受講による意識や知識向上が有効と考えた。
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次に、上記の調査を受けて、管理者の人材育成の体制の認識が明らかになれば、管理者 が必要としている教育支援体制を整備でき、不十分な教育が要因となる虐待が防止できる 可能性があると思われる。
7.認知症グループホームの介護職におけるストレスの実態と虐待の認識との関連
1)調査対象者の基本属性について
女性が圧倒的に多く、40~50 代の経験年数が少ない女性が多く、子育てが一段落した女 性が再就職していると理解した。専門的知識の乏しい介護職が多く、また経験年数が少な い人や非常勤者が夜勤をしており、緊張や不安が多い中で勤務している可能性が高い。さ らに「肩こりや腰痛」「疲れがとれない」などを自覚しており、これらの症状はストレスが 招く症状と言われており、心身ともにストレスを感じている介護職が多いのではないだろ うか。そのストレスによって、不適切なケアや虐待に結び付く可能性はある。
2)介護職の虐待の認識について
本研究の対象となるグループホームの介護職は、介護行動における虐待に関する知識や 理解不足が明らかとなった。特に、異性の排せつ介助は虐待と思わない割合が多く、本来 は相手を尊重した態度として配慮すべき行動であるが、介護職として当然の行為であると 思いケアを行っているのではないだろうか。しかし、本研究は、対象者が限られており一 般化できず、今後の研究課題である。
3)介護職の研修について
本研究の対象となった介護職の学習意欲は高い。しかし、研修受講や内容について、虐 待の認識が乏しい介護職や介護の仕方に疑問を持たない介護職が多かった。それは、人権 擁護や虐待に関心が少ないことを意味し、適切なケアが行われないの可能性があるという ことである。特に、若い世代や経験年数の少ない介護職はその傾向が高く、彼らへの教育 は重要であり、人権擁護や虐待に関する学習の機会は重要と考える。さらに経験年数が多 い介護職は、「メンタルケアに関する内容」の研修を求めていた。このことから、経験年数 の高い介護職は、仕事に対する精神的負担が大きくストレスを感じている可能性は高いと 思われる。よって、ストレスの要因や対処、緩和方法のための研修企画や外部研修を積極 的に受けるような職場環境体制も必要である。
4)介護職のストレスについて
本研究の対象者である認知症グループホームの介護職のストレスは全体的に問題のない 状況であった。しかし、ストレスの高い群がバーンアウト尺度の下位尺度項目によって14%
~50%であり、ストレスの高い介護職が多いことが明らかとなった。
このバーンアウト得点の高い群は、すなわちストレスの高い介護職である。虐待に関す る職場環境が、整備されていると思っている人ほどストレスが高いこと、また介護行動に 関して、虐待と認識している人ほどストレスが高いことが明らかとなった。