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藤岡ミドリさんが経験したユウキ君の小学校への就学

ドキュメント内 障害のある子どもの就学に関する研究 (ページ 102-123)

第1節 インタビューまでのミドリさんとのやりとり

「私」がミドリさんと初めてコンタクトを取ったのは、サチコさんを介して聞き取りの 承諾が得られた当日の電話での会話であった。サチコさんの勤務先の小学校に電話をかけ、

ミドリさんを呼んでもらうと電話口に「は~い」と元気な明るい声で現れた。「私」が名乗 り、サチコさんのことを言うと「あ、お母さんから聞いていますよ~」と好意的な雰囲気 の返事があった。詳細を説明しようと話し始めたところで、ミドリさんが「いつがいいで すか?」と切り出したのをきっかけに「場所は小学校でさせてほしい」、「時間帯は放課後 に」という希望が出され、瞬く間にいろいろなことが決まった。多少なりとも緊張しなが ら電話をした「私」にとっては、ミドリさんの好意的な声と話し方も相まって、スムーズ に決まったことに正直なところホッとした。日程調整が終わり「私」が最後の挨拶をして いると、ミドリさんから「それで・・・その時なんですが・・・」ということで少し話し にくそうに、インタビュー時にはサチコさんも同席することが条件として挙げられた。

お母さんの思っていることと、こちらが思っていることの間に齟齬があるといけないから、

お母さんも同席ということでお願いします。事前にお母さんにもその旨伝えています。

あと、この件もね・・・・お母さんからの依頼やから、お引き受けするんです・・。はい。

(依頼の際の電話より)

ミドリさんのインタビュー協力に関しては、サチコさんに打診をしてもらった際、すぐ にミドリさんから承諾が得られたことや、「私」の電話での依頼時にもミドリさんは好意的 な様子で受け答えをしていたため、「私」はミドリさんがインタビューを、ミドリさんが前 向きに捉えていると単純に考えていた。しかし、電話依頼時の「母親同席が条件」という 申し出により、ミドリさんがインタビューを「断れない立場」にいることを察した。

当日は、サチコさんに同行してもらい約束の時間に小学校の職員室に向かった。電話の 最後の時には少し硬い雰囲気のミドリさんであったために「私」は少し不安を感じていた。

職員室の入り口のところで小柄で細身のショートカットの女性が立っており、サチコさん をみかけると「お母さん、今日はわざわざどうも」と笑顔で話しかけたことから、その人 がミドリさんであることが分かった。ミドリさんは「私」にも「遠いところようこそお越 しくださいました」、「今日はなんでも聞いてくださいね」と笑顔で話しかけた。

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すぐに校長室に通され、校長、ミドリさん、サチコさん、「私」の 4 名で、天候や先日 あった学校行事の話をした。ミドリさんはハキハキとした喋り方で、元気よく少し高い明 るい声で話す、イメージ通りの小学校教諭という雰囲気であった。10分程4名で話をした 後、校長が退室した。インタビューを開始しようと「私」がミドリさんとサチコさんの双 方を見ながら「お母さんも同席ということですよね」と切り出した。

ミドリさん:そうそう、お母さんに一緒に聞いてもらって。お母さん、私が間違ったこと 言ったり、忘れとったら、教えてね~

サチコさん:いえいえ、いいですよ。私がいなくてもいいです。(退室しようとする)

ミドリさん:え、そう?あ・・お母さん、いてもらう方がいいかな・・・・

サチコさんが退室しようとすると、ミドリさんは何度か「話を聞いていてもらいたい」

ということを話した。サチコさんは退室しながら、「自分が不在でも何でも話してほしい」

とミドリさんに伝えると、ミドリさんはそれ以上引き止めたりすることなく、サチコさん の退室に対し、納得した様子を見せた。明るくハキハキと意見を述べる印象のミドリさん はサチコさんに対しても同様の対応であったものの、この時は困ったような表情となり、

部屋に留まってほしいということも「お母さん、いてもらう方がいいかな」、「え、ホント に帰ってしまう?」というような話し方で、強く言うことはなかった。このやりとりから

「私」は、保護者であるサチコさんに対し、ミドリさんがどこか気を遣っている気配を感 じた。母親に同席してもらい、自らが話すことを全て聞いてもらうことで、後々のトラブ ルを防ぎたい心情であったと思われる。この出来事から、昨年度担任していた際にミドリ さん(或いは小学校)と母親の間に、いろいろな行き違いがあり、そのことが原因でぎこ ちない雰囲気が流れていたのではないかということが推測された。「私」は、電話依頼の際 に感じた、サチコさんとミドリさんの間の緊張感を再度実感し、サチコさんの仲介でやっ てきた「私」に対して距離を取り、話すことを躊躇うことのないように、ミドリさんが話 しやすいと思われる内容から語りを引き出そうと考えた。

(あの、今日はユウキ君の就学についてお聞きしたいんですが、この間、電話でもお伝え したかと思うんですけど、先生のこれまでの特別支援のご経験とか、小学校教諭を目指し たきっかけなども聞かせていただきたいと思っています。)ハイ、ちょっと考えてきてます ので話せると思います(笑い声)。(あ、それはありがとうございます。嬉しいです。それ で・・・何からお聞きしましょうか・・えっと、それじゃあ・・・先生が、教員を目指さ れたきっかけからお話していただけますか?)(20XX 年 9 月 20 日の語りより)

ミドリさんは「私」の質問に対し、サチコさんが退室した時の表情とは異なる溌剌とし た雰囲気で語りはじめたことから、「私」は少し安堵したとともに、ミドリさんにとって話

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しづらいことがあるだろうユウキ君の登校渋りについてどのように質問をしていくかとい うことを考えていた。

当日、ミドリさんは当時のことを想起しやすくするためか、昨年自分が個人的に書き溜 めていた記録ノートを持参し、それを見ながら話をした。登校渋りが出始めた時期などは そのノートのページをぺらぺらとあちこちめくり確認しながら、話をした。ユウキ君につ いては、発想が豊かで「あそびの達人」という姿が具体的なエピソードにより語られた。

それまでの短い時間でのかかわりの中で、ミドリさんは、少し早口でハキハキと明瞭に話 す方のように思っていたが、ユウキ君のことになると、少し口ごもったり、どこか他の話 題と話し方が違うという印象を受けた。特に、登校渋りのことに話が及ぶと、「う~ん」や

「えっと・・・・・」と悩みながら言葉を選んでいる様子であった。これまでの自らの実 践になると、ノートには目を落とさず、「私」の方を見ながらいろいろな話が語られた。

サチコさんと「私」が知り合いと思っているために、話しにくいこともあるかと考え、

依頼時に説明した事項(ここでミドリさんが話したことは、サチコさんには伝えないこと、

それは他の人に関しても同様で、「私」が仲介し、互いの経験やその際の心情などを伝える ことは決してないというルール)を、再度伝えた。しかし、それ以降もミドリさんの様子 にそれほど変化はなく、話しにくそうな様子であった。

帰宅後、「私」がICレコーダーを聞きなおすと、自らの教育経験などに関する話題では、

地方の方言が出やすく砕けた話し方になるのに対し、ユウキ君のことを話すときは、標準 語に近いような話し方になっており、インタビュー時に感じた違和感はこのためだったの かという気づきがあった。

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第2節 ミドリさんの小学校就学に関する考え方やこれまでの経験

ミドリさんは、一年生を担任していた時の経験から、保育所幼稚園で重視していること が、小学校就学後の生活に一致していない部分があると感じていた。小学校生活の中では、

まずは「注目をして人の話を聞くこと」が大切であると語った。その背景として、人の話 を聞くスキルを獲得している子どもは、小学校生活にスムーズに慣れたという教員として の経験があったと思われる。ミドリさんのここでの語りは、「1年生を担任した際のことを 聞かせてほしい」という質問で話されたことである。ここで表出した語りは、ミドリさん が特別支援教育を語る際の内容である「一人ひとりに合せた教育」や「意欲を大切にした」

といった語りとは異なっており、「必要なスキル」についての話題であった。特別支援教育 の語りでは、「個を重視」するものであるのに対し、ここでの語りでは、「子どもにつけさ せておくべき力」である。ここからは、ミドリさんが、通常学級と特別支援学級での教育 について根本的な違いを認識していることが考えられる。

え~っと、その・・・・あの、幼稚園で、こう・・大事にしているっていう部分・・遊び の中でいろいろなことを生みだせたり、積極的に取り組めたりすることは、小学校でも大 事にしていることなんですけど、小学校に入った途端に、こう・・話を聞くっていうのが ものすごく大切な重要なスキルになってくるように思うんです。その部分で、注目ができ ないというか、耳を傾けて聞くというのが難しかったりすると、指示が抜けてしまうとこ ろがありますよね。幼稚園や保育園と違ってお迎えに来てもらえるわけではないので、あ る程度自分の中で聞いてお家の人に伝えるっていう作業がありますから。その部分のスキ ルが育っている子どもは、小学校に入学したときも、ある部分ではスムーズにいくお子さ んではないかな、と思います。(20XX 年 9 月 20 日の語りより)

ミドリさんの語りに何度か、スキルという言葉が表出したことから「私」が、「小学生に なるために必要なスキルはあると思うか」と問うと、基本的生活習慣の自立などとともに、

「苦手でもやってみたことがあると思えること」が必要という答えであった。またそれは、

障害のある子どもについても同様であるが、障害のある子どもの場合、どこまでできるか ということを教員が見極める必要があると考えていた。

やっぱり、基本的な生活習慣の自立とかは大事なスキルですよね。(・・スキル)はい。あ と、苦手なこととか嫌なこととかに直面したときに「でも、やってみよう」という経験は 大事だと思います。「苦手でもやってみたことがある」って思えるスキルは必要ですよね。

(スキル・・・あの・・障害のある子どもの場合はどうですか?)はい、基本的には同じ だと思います。ただ、障害のある子どもさんの場合、やっぱり難しい部分もありますし、

どこまでできるか、どこまでやらせるのかを教員が見極めてあげる必要があると思ってま

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