• 検索結果がありません。

ユウキ君にとっての小学校への就学の経験

ドキュメント内 障害のある子どもの就学に関する研究 (ページ 42-52)

第1節 インタビューまでのユウキ君とのやりとり

「私」がユウキ君のいる自宅居間に入ると、「誰?」と尋ねてきたので、「お母さんの友 達の佐藤です。よろしく」と名乗ると、いきなり自分が見ていた昆虫の図鑑を「私」に見 せて、「アゲハ蝶知ってる?これはミカドアゲハよ」と話しかけてくる。2歳頃に1度会っ ただけなので、ユウキ君にとっては、ほぼ初対面の「私」であったが、自宅という事の安 心感もあるせいか、臆することなく話しかけてきた。

いきなり蝶の話が開始したことや、恥ずかしさを示さず親しげに話すユウキ君の姿に、

「私」は広汎性発達障害の子どもに見られるように、人との関わりの面での特性が出てい るのかと感じた(後日、サチコさんに確認すると、自分が興味を持っている事象に関心を 示してもらうと、知らない人にもなれなれしく話しかけることが多く、年齢相応の人との 距離の取り方が困難ということであった)。

写真6 アゲハの観察記録(小学校2年次7月)

「私」が関心を示すと、いろいろな蝶について説明を始めた。サチコさんが通りかかり、

「ユウキ、アゲハ蝶の羽化の観察、見てもらったら?」と声をかけると、自分の部屋から アルバムのようなものを持参した。私が訪問した少し前に、庭にいた卵が蝶に羽化するま での観察記録をつけたそうだ。羽化させるまでを母親が写真に残し、ユウキ君が観察記録 をつけて一冊の記録にまとめている。丁寧な文字で観察記録をつけ、自らの不思議な気持 ちなどを言葉で表現していた。「私」が驚きながらページをめくり、ユウキ君に賞賛の言葉 をかけると、ニヤッと笑ったものの、すぐに自分の部屋に入ってしまう。サチコさんの話 では、一冊の本にしようと提案をしたのはサチコさんだが、ユウキ君は毎日自発的に蝶の

40

観察をし、与えたノートに卵の変化の様子を記録したということだ。ユウキ君がその時話 したことを、サチコさんが書き止めて後日、「こういう気持ちだったね」ということをユウ キ君に確認し、ユウキ君が納得したことを自分で記述したということであった(写真6)。こ のように植物の成長記録をつけることは、1 年次の時から好んで行っていたようで、サチ コさんの話では、好むことについては、飽きることなく長期的に取り組めるということで ある。

15分くらい自室にいたユウキ君は、自分の部屋からゲーム機を持って居間に戻ってきた。

「私」にゲームをさせようと説明を行うユウキ君であった。ユウキ君は多弁で、積極的に

「私」に関わりをもってきた。

あのな、ゲームしてみる?ユウキが教えてあげる。できんの?わからん?このボタンを押 して、そうそう、そうやって動かしたらいいんよ。ゲーム楽しいよ。クリアできたら嬉し い。お母さんはな、あんまり長いことしたらアカンって言うんよ。あの・・・目が悪くな るから。・・・・カード見る?ユウキいっぱい持ってる(と言いながらファイルを開き見せ る)。これとこれだったら、こっちの方が強い。わかる?このマークがあるだろ?カードゲ ームは友達とする。あ・・・ちがう。友達でなくて親戚の子とするんだった。(20XX 年 8 月 17 日の語りより)

ユウキ君のインタビューは、「私」との遊びの中で行うものとした。ユウキ君は遊びの 合間の「私」の質問にすぐに答えることもあったし、即答せずにしばらく遊んだり別の話 をしているうちに、一言のみ答えるようなこともあった。また、何度か質問をしても、回 答のないこともあった。また、2 回のインタビュー時には、サチコさんにユウキ君の小学 校1年生の時に学習したプリントや、使用したノート、描いた絵などを、話を聞く机の付 近に出しておいてもらうよう依頼し、インタビュー時にそれらを見たり示したりしながら 話を聞くこととした。それらを手にとり、想起しやすいようにするとともに、ユウキ君の 作品やプリントなども分析対象とする。

41 第2節 ユウキ君の小学校就学の経験

ユウキ君は、保育所時代には就学を楽しみにしていたということであったが、小学校就 学後6月頃から毎朝泣いて、学校に行きたがらなくなっている。インタビュー時、遊びな がら「私」が小学校生活のことを問うと、教室環境や授業のことなどを笑顔で話した。

あのな、机があるんよ。ユウキの机が。(えっと、小学校に?) うん。ほんでな、ほんで座 って勉強するんよ。あの、あの・・国語とか。(あ、先生と?) そう。あの、ほんで、勝手 に歩いたりしたらあかんのよ。あの・・・勉強やけんな。「はい」って言わなあかん。小学 校行ったことないん?(20XX 年 9 月 11 日の語りより)

上記の話題については、すんなりと話をはじめ、着席をすること、立ち歩きをしないこ となど授業ルールに関することが多く語られた。授業ルールについては、小学校の中で明 確にされていたことと思われ、ユウキ君にとっても「守るべきこと」として認識されてい たのだろう。ユウキ君は「私」が学校について尋ねた時、即座に授業ルールを想起してい た。すぐに語りが見られたことから、「私」は続けてユウキ君の小学校生活について尋ねて いる。その時は、私の方を見るだけで話をせず、ゲームに「私」を誘った。15分程ゲーム をした後、ユウキ君の様子を見ながら「私」は再度同じ質問をしてみた。すると、ゲーム をしながら以下のような話をした。

(ユウキ君、小学校どう?) 学校、楽しくな~い。だってユウキは行きたくないもん。行っ ても全然楽しいことないし。(保育所の時はどうだった?) 保育所のことは忘れた。あ、虫 探しとかしたよ。あと、え~っと友達と遊んだりとか。でも、学校は勉強だけ。( お友達 は?)・・・知らん。分からん。(20XX 年 9 月 11 日の語りより)

ユウキ君は、保育所のことは「忘れた」としつつも、虫探しをしたことや、友達と遊ん だことを挙げた。2 年前の出来事であるが、A 保育所の思い出は楽しかった記憶として、

ユウキ君の中に残っていることがうかがえる。一方、小学校のことは「楽しくない」、「学 校は勉強だけ」という事が話されている。その後、休み時間に関する質問では、再び小学 校生活について語った。

( 休み時間は何するの?) あの・・サッカーとか。( ユウキ君、サッカー好きなんだ。誰 とするの?) 先生とすることもある。( 先生って、藤岡先生?) ほれは分からん。あのな、

あの、サッカーでボール蹴ってシュートするんよ。ユウキ、シュートできるよ。( すごい な、得意なんやね)うん。サッカー好き。あの~蹴ると、ボールがシュートできるんよ。外 れることもあるけど。(20XX 年 9 月 11 日の語りより)

42

ユウキ君からは語られることはなかったが、サチコさんの話では、休み時間も交流学級 である1年2組に行くことはないということである。また、特別支援学級にも年上の児童 ばかりなので、ユウキ君にとっては親しみを持ちづらい部分があり、教員と過ごすか一人 で過ごしているということである。小学校教諭であるミドリさんの話では、休み時間は、

他の年上の児童と共にサッカーや鬼ごっこをすることもあるということだ。

(ユウキ君、給食はあるの?)うん。(へ~、いいね、給食。給食おいしいの?)首を横に 振ってこの質問については答えようとしなかった。(20XX 年 8 月 17 日の語りより)

時間を置いて給食以外にも、算数、体育、音楽の授業のことについても質問を行ったが、

同様に返答がなかった。体育については、少し困ったような表情になり首を横に振る姿が 見られたが、音楽と算数については、首を振るなどの反応や困った表情すらも見られず、

知らん振りをして、カードゲームで遊び続けた。

写真は、ユウキ君が一年生時に学校で学習したプリントと、国語の時間に「みんなとも だち」と書いた用紙である。ひらがなは非常に丁寧にかれており、またプリントやノート は乱暴に扱われたような跡もなく綺麗に使用されている(写真 7,8,9,10)。これらプリント やノート類からは、ユウキ君が嫌々学習をしているような様子はうかがえず、ミドリさん の指示をよく聞いて、よい子でいようとしているユウキ君の姿が想像できる。

しかし、インタビュー当時、「私」はそのことに対して気づきがなかった。インタビュ ー時、プリント学習などについても質問を行っているが、ユウキ君からは特に何も話され ることがなかった。「私」は語りがないことから、プリント類もそれほど詳しく確認するこ とはなく、インタビュー後、サチコさんの許可をとり写真を撮らせてもらったものの、そ のままにしていた。分析を行う中で、ユウキ君の学習したプリント類のことを思い出しそ の写真を確認すると、そこには丁寧な文字で学習をしていたユウキ君の姿が浮かび上がっ た。丁寧な学習の跡は 1年次 11月辺りまで継続しており、登校渋りが見られている間に も、ユウキ君は熱心に学習に取り組んでいたと思われる。これらの記録物は、短絡的にユ ウキ君の登校渋りと学習を結び付けられないことを示している。ユウキ君にとって、学校 生活は、単に学校が嫌な場所という認識ではなく、一年生になったという誇らしい気持ち の中で、新しいことを学ぶ嬉しさを感じられる時間であったことが考えられる。

43

写真7 1年次5月に書いたもの 写真8 1年次5月のプリント

写真9 教諭作成のプリント(時期不明) 写真10 漢字の練習(7月)

ミドリさんの語りの中でも、ユウキ君が真面目に頑張りすぎる姿があり、ユウキ君はミ ドリさんら担任教諭から指導を受けたことについては、きっちりと守らねばならないとい う意識があったものと思われる。そして、その「守らねばならない」という気持ちが、学 習に関して「面倒くさい」、「いや」というような思いを強くしたのかもしれない。ユウキ 君にとって、B 小学校の特別支援学級での生活には「小学生になったから守らなければな

ドキュメント内 障害のある子どもの就学に関する研究 (ページ 42-52)