6. 自己修正に関する結果及び分析
6.4. 自己修正の種類
6.4.2. 自己修正の種類の分類結果
協力者の1次自己修正数175、2次自己修正数342を合わせた総自己修正数517を 分析対象とする。分析は大きく、1次自己修正と2次自己修正に分けて検討する。協力 者が主に自分の感覚に基づいて修正を行う1次自己修正と、教師からのフィードバック を基に修正を行う2次自己修正は、その条件が異なるからである。したがって、協力者
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の自己修正の特徴を理解するためには、1次と2次に分け、データをより詳細に検討す る必要があると考えられる。さらに、1次と2次に分けた後、表層レベルとテクストレ ベルに分け、その中の割合から各自己修正の間に共通点と相違点が存在するのかを検討 する。
図 6-6 表層レベルとテクストレベルの割合
図6-6は、協力者3人の総自己修正の中で、表層レベルとテクストレベルの割合を示 すものである。自己修正数517中、表層レベルに対する自己修正は 427 箇所(83%)、 テクストレベルは90箇所(17%)と、形式に関する修正が圧倒的多く行われていたこ とが分かる。これは、学習者が行う自己訂正の大半は、文意に影響を及ばない表層レベ ルについてが多いという、先行研究(石橋 2000、広瀬 2000)と一致した結果である。
図 6-7 1次自己修正における 図 6-8 2次自己修正における 表層レベルの各項目の割合 表層レベルの各項目の割合
表層レベ ル, 427,
83%
テクストレ ベル, 90,
17%
文法, 91, 66%
語彙, 23, 17%
表記, 11, 8%
句読 点, 9,
7%
形式, 2, 1% 文体, 1, 1%
文法, 145, 50%
語彙, 108, 37%
表記, 18, 6%
句読点,
16, 6% 形式, 2, 1% 文体, 1, 0%
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1次での表層レベルに対する自己修正数は137で、図6-7は137の中での各項目の 割合を示すものであり、表6-8は2次での表層レベルに対する自己修正数290の中、
各項目の割合を示す。
図6-7から、1次では、66%(91箇所)と半分以上が文法に対する修正がなされて おり、その次が17%(23箇所)と語彙であることが分かる。表記と句読点はそれぞ
れ8%(11箇所)と7%(9箇所)であり、形式と文体は1%(2箇所、1箇所)に止
まっている。一方、表6-8を見ると、2次では文法の割合が1次でより16%下がった
50%(145箇所)で、逆に語彙は1次でより20%上がり、37%(108箇所)であるこ
とが分かる。表記と句読点は6%の割合を占めており、1次での差はあまり見られなか った。
1次と2次の間に文法と語彙の割合に大きな差が起きたのは、教師のフィードバッ クが起因していると考えられる。1次での自己修正はまず、協力者が間違いか不自然 さに気づく必要があり、そういった気づきが起きないと修正という行動も起きない。
しかし、2次では協力者が気づかなくても、教師のフィードバックという要素が協力 者の注意を喚起する契機になり得る。つまり、2次では自己修正能力のみ要求される のに対し、1次では自己修正能力、かつ、気づきという認知的活動がさらに要求さ れ、協力者側からみると、2次より1次の方が自己修正の難易度が高いと推測でき る。
また、フィードバックの種類も語彙に対する修正率の向上と関連があると考えられ る。フィードバックは大きく、文法的な間違いと、文法は間違っていないが日本語と しては不自然な表現に分けられている。そうすると、協力者は文法の間違い以外にも 不自然だとフィードバックされた所にも注意を払うようになり、必然的に語彙を修正 する比率が向上するのである。
広瀬(2000)では、ピア・レスポンスにおいては約2割を占めていた表記7の修正 が、教師のフィードバックにおいては1割に止まっていた。これについて、「教師から 指摘されなかった、ひらがなを漢字に直すことや句読点の打ち方などにはあまり注意 が払われなかったからだと考えられる」と述べられている。だが、本研究の結果をみ
7 本研究では、漢字・カタカナなどの修正を表記と句読点の打ち方は句読点と分けている が、広瀬(2000)は、漢字・カタカナ・句読点などの修正をすべて表記にまとめている。
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ると、表記と句読点は1次で15%(表記8%、句読点7%)と2次で12%(表記
6%、句読点6%)と比較的に均等に修正が行われていた項目である。つまり、教師の
フィードバックの有無は表記と句読点の修正率にはさほど影響を与えないのではない かと考えられる。文法や語彙に関しては、協力者が間違いに気づかない可能性が高い が、脱字や誤字は文章を読み返しているうちに気づくことが可能であり、修正が容易 な項目であると考えられる。また、文法や語彙はその間違いに気づいても適切な表現 が見つからない場合が多いが、表記は、協力者がそれについての知識がなくても、十 分ウェブ上のリソースを利用することで正しく修正ができる確率の高い項目である。
形式と文体は、そもそも間違いの少ない項目であったため、自己修正数も少ない。
しかし、一度間違ったら、自ら形式に間違いのあることに気づくことが困難である項 目であることが分かった。実際、小論文には「デアル体」がふさわしいということが 知らなかった協力者は、フィードバックを受けても文法や形式のどちらかが間違って ると思い込んでしまい、教師が意図した修正まで至らなかったことが調査中で見られ た。
図 6-9 1次自己修正における 図 6-10 2次自己修正における
テクストレベルの各項目の割合 テクストレベルの各項目の割合
図6-9は、テクストレベルの1次自己修正数38の中、各項目の割合を示し、図 6-10はテクストレベルの2次自己修正数52の中の各割合を示したものである。1次で
は追加が50%(19箇所)で最も多く、その次が29%(11箇所)で書き換えであり、
削除は13%(5箇所)、改行は5%(2箇所)、移動は3%(1箇所)である。その一
追加, 19, 50%
書き換え, 11, 29%
削除, 5, 13%
改行, 2, 5%
移動, 1, 3%
削除, 23, 44%
書き換え, 20, 39%
追加, 9, 17%
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方、2次では削除が44%(23箇所)で最も多く、書き換えが39%(20箇所)、1次で 最も割合の高い追加は17%(9箇所)に止まり、1次と2次で大きな違いが見られた と言えるだろう。
2次では、フィードバックに対して適切な表現が見つからないほど、不適切だと言 われた箇所の一部や全体を削除することが見られた。または、指摘された表現をより 短く、別の言い方で書き換えた様子も多く見られ、2次で削除と書き換えの割合が増 加したのは必然的なことではないかと考えられる。つまり、間違いの明確な証拠があ る2次では、協力者の削除が生じやすくなるが、1次では、草稿作成の段階で既に調 べたり何回も考えて書いた表現であるため、間違ってる明確な証拠がない限り、削除 という行動までは繋がらないと推測できる。その上、1次は草稿の作成直後という、
内容への理解が最も高い時点であることも、新しい内容が追加されやすい要因の一つ ではないかと考えられる。