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自動車メーカーの責任について

第 4 章 自動車大気汚染公害

2) 自動車メーカーの責任について

カーが,間接寄与者であるために,被害を防止するために,どのような措置を取れば結果 を回避できるか判断できないとしているが,それは,直接寄与者による通常の工場公害で あっても,同じことであるから,取り立てて問題にする必要はない。

したがって,本判決が被告自動車メーカーを免責とすべき理由の一つとしている,間接寄

無の判断基準の一つに,当該結果回避義務を被告自動

判し,効用の個人間の

断する際には,道路の公共性

考え方を用いることもありうるという学説でも,生命・健康に被害

ーカーの結果回避義務の有無を判断するには,工学上の極

与者であることは,なんら,免責とすべき理由に値しないと考えられる。

c) 費用便益分析的考え方について 本判決において,結果回避義務の有

車メーカーに課すことによって被告自動車メーカーおよび社会が被る不利益の内容,程度 を比較考量するという費用便益分析的考え方が採用されている。

この費用便益分析的考え方については,その功利主義的考え方を批

比較は不可能であること,有用性の概念が抽象的で明確でないこと,有用性の大きさが,

損害賠償責任を否定する根拠とはならないことなどを指摘する学説がある。つまり,費用 便益分析的考え方そのものがおかしいという主張である。

たとえば,本判決においても,道路管理者の営造物責任を判

と原告の被害を比較考量した結果,限られた一部の少数者に対して,特別の犠牲を強いる ものとして,道路管理者の損害賠償責任を認めているのに対して,一方で,被告自動車メ ーカーが回避措置を行うことによる社会的不利益が大きいことから,被告自動車メーカー の損害賠償責任を認めていない。つまり道路の有用性が被告自動車メーカーの有用性を下 回るということである。このように,費用便益分析的考え方の有用性の判断基準は,曖昧 で整合性に欠ける。

次に,費用便益分析的

が出ている場合は,費用便益分析的考え方を用いることを否定するもの,4大公害事件判 決20を通じて,公害の場合全般には,この考え方を用いることを否定するものがみられる。

このような,状況を考慮すると,本判決は,公害裁判に費用便益分析的考え方を採用した という点においては,4大公害事件裁判よりも前に逆戻りしたものといわざるを得ない。

逆に,費用便益分析的考え方を採用しなかった場合は,被告自動車メーカーの結果回避義 務違反が認定される可能性が大きく,被告自動車メーカーが損害賠償責任を負うべきこと となったと考えられる。

d) 高度な技術的判断につい 本判決において,被告自動車メ

めて高度な技術的知識を要するものと考えられる。たとえば,本判決においては,ディー ゼルエンジン車をガソリンエンジン車で代替することは技術的に不可能としている。その 理由の一つとして,ガソリンエンジンでは得られない数万馬力の高出力が得られることを 挙げている。ディーゼルエンジンは比較的新しいもので,第二次大戦中は,普及しておら ず,大型軍用車両や軍用機用の2000馬力級の高出力エンジンは,ほとんどすべてがガソ リンエンジンであった国が存在する。つまり,ガソリンエンジンでも高出力は可能なので

20 四日市ぜん息事件判決(津地裁四日市支部判昭47・7・24判タ280100頁),阿賀野川・新潟水俣病事 件第一次訴訟判決(新潟地裁判昭46・9・29判時64296頁),イタイイタイ病事件判決(名古屋高裁金沢 支部判昭47・8・9判タ280182頁),熊本水俣病事件第一次訴訟判決(熊本地裁判昭48・3・20判タ294 108頁)。

ある。さらに,判決では,数万馬力の高出力を例示しているが,現在,日本で販売されて いる大型トラックの最高出力は,最も高出力のものでも450馬力程度であり,数万馬力の 高出力という例示は,本判決の技術的判断を正当化する材料としては,意味をなさない。

もちろん,このような指摘に対して,被告自動車メーカー側から反論はあるだろうが,ど ちらがより適切かは,厳正な中立の立場にある工学者の判断に委ねることとして,ここで は,司法が工学上の高度な技術的判断を正確に行えるかどうかについて問題提起をしてお きたい。本判決において,ディーゼルエンジン車がガソリン車によって,代替できるとい う認定がもし行われていたとしたら,被告自動車メーカーの損害賠償責任が認められた可 能性が高いのである。

また,前述の過失論のところで述べたように,古典的過失論を採用することによって,結

しているのは,自動車ユーザーである。自動車ユーザ

告自動車メーカーが原告である被害者に対して損害賠償を

東京大気汚染第1次訴訟第1審判決の概要・問題点を見てきたが,本訴訟は,現在,

果回避義務の有無が問題とならなくなり,司法が工学上の高度な技術的判断を行う必要が なくなることについても,指摘しておきたい。

e) 自動車ユーザーの責任について 実際に自動車を使用し,ガスを排出

ーにおいても,東京都23区において,自動車の集中集積が著しく,自動車の排出ガスに よる大気汚染公害が発生していることは理解しているはずである。また,自動車ユーザー の行動によって,ある程度は,自動車排出ガスによる大気汚染公害は改善できるはずであ る。つまり,自動車ユーザーは,不法行為に基づく損害賠償責任を有するともいえる。し かしながら,実際には,訴訟技術上の問題から,自動車ユーザーについて損害賠償を請求 することは,不可能である。

このような状況下において,被

支払い,その損害賠償額を自動車価格に上乗せして,自動車ユーザーから徴収すれば,事 実上,自動車ユーザーに対して,損害賠償責任を負わせることができることとなる。この 議論は,純粋な法律学的なものではないが,損害賠償責任制度を用いて,社会全体で被害 者の損失補償を行うことができるという点においても,被告自動車メーカーに損害賠償責 任を負わせることが適当であるといえるのである。

以上,

控訴審で争われているところである。自動車大気汚染公害に対する環境保険制度を実施す るのは,本訴訟の判決が確定する前でなければならないことに注意する必要がある。