第 4 章 自動車大気汚染公害
1) 個別因果関係の認定方法について
かに裁判例の分析とはいえ,文章のみによって説明するよりは,数式や図を使用した方が はるかに分かりやすい場合があることから,ここでは,簡単な数式や図を用いた分析を行 うこととした。
判決における個
住しており,かつ,当該道路の交通量が4万台以上である。さらに,判決は,原告が主 張した東京都 23 区における面的大気汚染を否定し,健康被害の原因物質である窒素酸化 物,浮遊粒子状物質は道路から離れるとおおむね50mまでの範囲において急激に減衰し,
約50m以遠は,緩やかに減衰してバックグラウンド値と平衡することを認定している(以 下「減衰認定」という。)。
判決における個別因果関係認
18 国,東京都,首都高速道路公団のような公的機関は,豊富な財源を有しており,財物損壊を担保する保 険や,損害賠償責任保険などへの加入のインセンティブは極めて小さく,実際の加入例も極めて少ない。
【図4-1】判決認定領域
き
に
y
の認定は自己矛盾しており誤ったものといえる。具体的に い
こで,a,b を正の定数として,f(x,y)=ay/(x+b)としてみよう。この関数は,道路から の
距離(m) 台数(万台)
4
50 O
今,道路端から原告である被害者までの距離を x(m)とし,道路の交通量を y(台)としたと に,被害者の有害物質の暴露量を f(x,y)で表すことができる。f(x,y)は,x の減少関数,y の増加関数であるから,図4-1の判決認定領域でのf(x,y)の最小値は,f(50,40000)である。
ここで,判決の認定方法に誤りがないためには,図 4-1 の認定領域以外のすべての x,y 対して,f(x,y)<f(50,40000)である必要がある。そうでなければ,認定領域以外にも,有 害物質の暴露量が認定領域の被害者よりも大きい被害者が存在することとなるからである。
したがって,0≦y<40000であれば,f(0,y)<f(50,40000)が成立するはずである。ここで,
を限りなく40000に近づけると,f(x,y)の連続性19より,f(0,40000)≦f(50,40000)が導き出 せる。ところが,このことは,f(x,y)がxの減少関数であること,具体的には判決における「減 衰認定」に反することとなる。別な言い方をすれば,面的汚染を否定しておきながら,面 的汚染を認めているのである。
以上より,判決の個別因果関係
えば,たとえ道路の交通量が 2 万台であったとしても,道路に極めて近い場所に居住し ていれば,有害物質の暴露量の道路端からの距離による減衰の仕方によっては,十分健康 被害を惹起する可能性があることを判決は無視しているのである。
こ
距離に反比例し,道路の交通量に比例するようになっていることから直感的の受け入れ ることができるものである。このとき,認定すべき領域は,ay/(x+b)≧f(50,40000)である。
この領域を図示すれば次の図4-2の斜線部分のようになる。
19 有害物質の暴露量は自然現象の結果である。自然現象において,不連続な結果をもたらすことは,あり えない。
【図4-2】f(x,y)=ay/(x+b)の場合の認定領域
つまり,判決の認定では,図4-1と図4-2の認定領域の差,図4-3の斜線部分に該当する 被
果関係の認定方法には,致命的な欠陥があ り
図4-3】認定漏れ領域
害者の認定漏れの可能性があることとなる。
したがって,東京大気汚染訴訟の判決の個別因
,本来,個別因果関係を認定されるべき原告である被害者が,認定されていない可能性 が大きい。したがって,有害物質の暴露量の道路端からの距離による減衰の仕方によって は,救済されるべき原告である被害者の数は,判決の 7 名よりも,多くなる可能性が十分 にある。
【
距離(m) 台数(万台)
4
O 50
距離(m) 4
50 台数(万台)
O