第 3 章 環境保険の実際
3) 純保険料
損害賠償責任保険の純保険料は,被害者が加害者に損害賠償を請求し,その結果,加害者 から被害者に支払われる損害賠償額の期待値である。ここで注意しなければならないのは,
損害賠償額が弁護士費用などの取引費用を上回らない限り,被害者から加害者に対する損 害賠償の請求が行われないことである。
【図3-2】損害賠償と取引費用
図3-2は,取引費用と損害賠償額の関係を示したものである。損害賠償額の直線は傾きが 1
の図3-3は,加害者である企業の有害物質の排出量と,その企業の有害物質により損害 を
不連続な曲線OVoNMが純保険料を示し,連続な曲線ONM が 損
のものとなっており,点線で示された取引費用曲線と点Mで交わる。したがって,損害 賠償額がL0を超える場合は,被害者から加害者への損害賠償の請求が行われることとなる。
逆に損害賠償額がL0以下の場合は,損害賠償請求は行われない。
次
受けた被害者に対する企業の損害賠償責任を担保する保険の純保険料との関係を示した ものである。有害物質の排出量が V0のときに取引費用と損害賠償額がはじめて一致する。
したがって,実際に被害者から加害者に対して損害賠償の請求が行われるのは,有害物質 の排出量がV0を超えてからである。ゆえに純保険料は,有害物質の排出量が V0までは,
ゼロであり,それを超える排出量になったとき純保険料を示す曲線は,損害賠償額を示す 曲線と一致する。当然,有害物質の排出量がV0のときの純保険料の額は,前の図3-2のL0 に一致することになる。
つまり,図3-3における 害賠償額を示すのである。
損害賠償額 損害賠償額
取引費用 金額
M
45°
O L0
【図3-3】純保険料と損害賠償額
などは免 責
上より,外部不経済,損害賠償,純保険料の関係をまとめると下図のようになる。
【
これまでの分析により,①加害行為と損害の因果関係が明確であること,②加害行為から の
純保険料
有 害 物 質 N
V0 金額
L0
O
M
排出量
ここまでの議論で,純保険料は,損害賠償額よりも小さくなることがわかる。
さらに実際には,保険ではてん補すべきではない事象,具体的には加害者の故意 となることから,純保険料が損害賠償額よりも小さくなる程度はさらに強くなる。
以
図3-4】純保険料と外部不経済
損害賠償
純保険料
外部不経済
損害が早期に発生すること,③加害者の特定が容易であること,④損害額の算定が容易
であること,⑤無過失責任主義に基づく法律が適用されること,⑥予想される損害賠償が 取引費用に比べて十分大きくなること,以上 6 点の程度が大きいほど,純保険料と外部不 経済の齟齬が小さくなるといえる。
しかしながら,この6点のすべての程度が十分に大きく,純保険料と外部不経済の齟齬が 無
.4.2 実際の環境政策としての税(ボーモル=オーツ税)
ピグー税は,1単位の有害物質が発生 す
業共通の税率による課税を行い,
そ
論されている炭素税や,海外で実施されている環境税と呼ばれるものは,
す
おりである。
て,有害物質の排出削減費用の限界的値が税率に等しくなることから,社会
費用の効果的な削減ができない
有害物質に着目した環境税であるため,
視できるような理想的な「加害行為」と「発生した被害・損害」の組み合わせは,存在 しえない。また,保険会社が保有している膨大な事故データーも,純保険料に相当する部 分のデーターであることから,事実上,外部不経済の費用の正確な算出は不可能といえる。
3
2章2.2.1で述べたように,理論的な環境税である
る外部不経済の費用を把握し,それによって有害物質を排出する企業ごとに,税率を決 定しなければならない。つまり,ピグー税が可能な条件は,各企業が発生する外部不経済 の費用を把握する必要がある。しかしながら,3.4.1で述べたように外部不経済の費用の正 確な値は算出不可能であることから,ピグー税が実現する 2 つの経済効率性,つまり,社 会全体の外部不経済の費用の削減コストの総額が最小化することと,社会的余剰を最大化 するということを諦め,その代わりに,社会全体の有害物質の削減費用の最小化実現する,
実際の環境政策としての税がボーモル=オーツ税である。
具体的には,各企業が排出する有害物質の1単位に各企
の税率を試行錯誤的に変化させていき,目標とする社会全体の有害物質の削減を達成す るものである。
現在,日本で議
べて,このボーモル=オーツ税である13。 ボーモル=オーツ税のおもな特徴は,次のと