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第 2 章 保険の理論的分析

6) 最適環境保険のメリット

2.3 保険の理論的脆弱性

2.3.2 保険の需要供給理論

以下の保険の需要供給理論については,酒井[1982],高尾[1991]を参考とし,より保険論・

保険学的に書いたものである。

いま,保険契約者の資産の初期保有量をAとし,確率πで損害Lの事故が発生するもの とする。このとき事故が発生する場合を状態1,発生しない場合の状態を2とする。また,

状態1の保険契約者の資産をX,状態2の資産をYとすると

X=A-L ……(2.51) ,Y=A ……(2.52) となる。

一方,このとき保険料:P,支払い保険金8:Iの保険に加入したとすれば X=A-L-P+I ……(2.53),Y=A-P ……(2.54) となる。

ところで保険料率をrとすれば,Ir=P ……(2.55) であるから (2.53),(2.54),(2.55)式より

( )

(

XAAY+L

)

=1rr ……(2.56) ここで,保険の価格

r 1 p r

= − ……(2.57)

とすれば,保険商品の外生的制約条件である機会直線 pX+Y=p(A-L)+A ……(2.58) が導かれる。なお,

( )

1 r 0 1 dr dp

2 >

= − である。

保険契約者は,(2.58)式の制約の下に自己の期待効用EUを最大化することとなる。

EU=πU(X)+(1-π)U(Y) ……(2.59) なお,U(・)は,資産が保険契約者に与える効用水準である。

ここで,(2.59)式の両辺を全微分して,左辺を0とおいて無差別曲線の傾きを算出すると

( )

) Y ( U

X U 1 dX dY

′ π

− π

= ……(2.60) いま,保険契約者はリスク回避者であることから

( )

X 0,U

( )

Y 0,U

( )

X 0,U

( )

Y 0

U′ > ′ > ′′ < ′′ < ……(2.61) (2.60),(2.61)式より 0

dX dY <

Yを固定したときX→∞ ならば 0 dX

dY → ……(2.62)

Xを固定したときY→∞ ならば →−∞

dX dY

さらに

( ) ( ) ( ) ( ) ( )

{ }

2

2 2

Y U

dX Y dY U X U X U Y U dX 1

Y d

′′

− ′

′′

′ π

− π

= および,(2.61),(2.62)式より

dX 0 Y d

2 2

> ……(2.63)

(2.62),(2.63)式より無差別曲線は,X-Y平面上の原点に対して凸となることがわかる。

したがって,保険契約者が期待効用を最大化させるのは,機会直線と無差別曲線が接する 点においてである。

つまり,

( ) ( )

Y U

X U p 1

′ π

= π ……(2.64) を満足する点である。

以上のことを図示すれば図2-4のとおりとなる。

8 保険学・保険論でいうところの保険金額のことである。やや,紛らわしいが2.3.2~2.3.4におけるI保険 金,I保険需要は,保険金額のことである。

【図2-4】機会直線と無差別曲線 Y

図2-4において,傾きが-pの直線が機会直線である。また,2本の曲線が無差別曲線と なる。点Eが保険契約なしの場合の初期点であり,Qが保険契約がある場合の均衡点であ る。

E2Q2は,保険料Pであり,E1Q1は,支払い保険金から保険料を差し引いたものである。

つまり,E1Q1=I-P=I-Ir=(1-r)Iであるので,保険契約者の需要する支払い保険金(保 険需要)は,I=

( )

1 r 1

− E1Q1 によって求めることができる。

また,保険契約により実質的に保険契約者に支払われる額,つまり支払い保険金から保険 料を差し引いた額(純保険需要)Hは,

H=I-P=E1Q1 によって求めることができる。

各パラメーターの純保険需要に与える影響は,次のとおり。

① 保険料率r

保険料率rが増加すれば保険価格pが上昇し,それに伴い純保険需要は減少する。図2-4 で機会直線の傾きの絶対値pが増加すれば,純保険需要が減少することは幾何学的に明ら かである。

② 事故率π

事故率πの増加に伴い無差別曲線の傾きの絶対値が増加することから,機会直線と無差別 曲線との接点は,右方向へシフトすることとなる。したがって,純保険需要は増加する。

③ 損害額L

損害額Lが増加すると機会直線が左下方向に平行移動する。したがって,Yが同じ値を示 す機会直線上の点を通る無差別曲線の傾きの絶対値が大きくなり,それに伴い機会直線と 無差別曲線の接点は,保険契約がない場合の初期点Eに対して,より右方向へシフトする。

したがって純保険需要は増加する。

X O

Q Q

Q

E2 E

p E1

次に,保険の需給の均衡について論ずる。

保険会社の事業費を無視すれば,保険会社の期待利潤Πは,

Π=π(P-I)+(1-π)P ……(2.65)

となる。競争市場における長期的な均衡時には,Π=0となることから,

(

) (

+ −π

)

= ⇔π

(

) (

+ −π

)

= ⇔π

( ) (

− + −π

)

= ⇔ π

=

Π P I 1 P 0 Ir I 1 Ir 0 r 1 1 r 0

π

= π⇔

= π

− r

1 r 1

r ……(2.66) (2.57),(2.64)式より

( ) ( )

Y

U X U 1 r 1

r

′ π

= π

− となり,(2.66)式により

( ) ( ) ( )

( )

Y 1 X Y U

X U Y U

X U r 1

r r 1

r = ⇔ =

⇔ ′

= −

− が導き出される。

また,このとき(2.53),(2.54)式より,I=Lとなることがわかる。

以上を図示すれば図2-5のようになる。

【図2-5】保険の長期競争的均衡

Y

保険需給の長期競争均衡点は,機会直線と原点を通る傾き1の直線の交点Q*となる。こ の原点をとおる傾き1の直線を確実性直線という。

図2-4,図2-5に基づいて作成した長期競争市場における保険の需要・供給曲線は,図2-6

のとおりとなる。

X O

Q* Q*

Q*

E

E1

E2

p 45°

【図2-6】長期競争市場における保険の需要・供給曲線 r(保険料率)

R

長期競争市場においては,図2-6の点Rにて需給が均衡する。そのときの保険料率がOH で,需要量がOKとなる。

なお,以上の保険会社による保険の供給の分析は,保険会社がリスク中立的であることを 前提としている。また,保険会社の事業費を無視した分析であることにも注意を要する。

したがって,それらの前提条件が満たされないような場合は,この分析は,現実的でない こともありうる9