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臨界サイズを基にした 微小液滴による結晶化制御

4-1 序論

序論で述べたように、結晶化溶液の過飽和度は結晶化における重要なパラメ ータである。タンパク質の結晶化の相図は大きく3つに分けることができる(図 1-2)。1つ目は、溶液が過飽和に達していない未飽和領域である。2つ目は、溶 液が過飽和に達しているが過飽和比が小さい準安定領である。さらに、3つ目は 過飽和比が大きい核形成領域である。この相図作成は、タンパク質の結晶化に おいて結晶化条件探索と同様に重要な過程である[1]。一般的に、核形成領域では 系内で結晶核の発生と結晶の成長という2つの現象が生じている。溶液中の核 形成は、エンブリオ(幼核)が発生と消滅を繰り返しており、臨界核半径を超 えるサイズの核が発生した場合にその核が結晶成長すると考えられている。タ ンパク質結晶化における特徴の1つは、他の低分子や無機化合物と比較して、

準安定領域が大きいことがあげられる。そのために、核形成には高い過飽和比 が必要となるが、高い過飽和比の溶液からは微結晶の析出や結晶同士の集合が 生じやすい。そのため、研究室レベルでの構造解析に適した100 µm程度の単結 晶を作製するためには試行錯誤を繰り返す必要がある。従来は、タンパク質の 結晶化制御は熟練者の経験と勘に依存していた。しかしながら、近年ではマク ロスケールだけではなく、マイクロ流体技術を用いた結晶化制御方法が考案さ

れている[2-4]。マイクロ流体デバイスを用いたタンパク質の結晶化は、結晶化条

件探索デバイスの開発からその応用まで幅広く報告されている[5-13]。しかしなが ら、これまでの研究はマクロスケールの実験系を小型化しただけである。した がって、従来法を含めて微小空間でもタンパク質の結晶化制御方法は未だに確 立されておらず、より詳細な晶析挙動の解析が必要である。本論文の第2章、

および第3章では、微小液滴中でのタンパク質結晶化における網羅的な晶析挙 動の調査と理論的検討を行った[14-16]。その結果、微小液滴ではタンパク質分子

の拡散が結晶成長における律速段階であること示唆された。また、結晶化を制 御し得る液滴の大きさを理論的に推算可能であることを示した。これらの結果 から、タンパク質分子の拡散、および、それに伴う液滴内部の過飽和状態の変 化が結晶化制御の需要な要素であることが考えられた。微小液滴内で結晶化を 制御して、系内に100 µm程度の単結晶を1個だけ作製する技術は[17,18]、結晶同 士の重なりを抑制してX線回折実験の半自動化を考える上で必要不可欠な技術 である。また、研究室レベルのビーム径が約100~200 µmのX線によって、デバ イスのままX線回折実験を行うためにも結晶化制御方法の確立が必要である。

そこで、本章では臨界サイズを基にした微小液滴によるタンパク質結晶化制御 法の検討を行った。タンパク質の分子拡散が結晶化に与える影響を調査するた めに、モデルタンパク質として分子量が大きく異なるリゾチーム(14 kDa)、ソ ーマチン(22 kDa)、グルコースイソメラーゼ(179 kDa、4量体)、フェリチン

(440 kDa、24量体)を用いた[19-27]。また、結晶化溶液の過飽和比と液滴の大き

さを変えて、液滴内部の過飽和の緩和状態が晶析挙動に与える影響についても 調査を行った。

4-2 実験方法 4-2-1 溶液調製

モデルタンパク質としてニワトリ卵白由来のリゾチーム(6回再結晶、生化学 バイオビジネス)、Thaumatococcus daniellii由来のソーマチン(和光純薬工業)、

Streptomyces rubiginosus由来のグルコースイソメラーゼ(Hampton Research)、ウ マ ひ蔵由来のフェリチン(シグマアルドリッチ)を用いた。これらのタンパク 質は、再精製などは行わず結晶化実験に用いた。リゾチーム溶液は、適量のリ ゾチームを100 mM 酢酸カリウム緩衝液(pH 4.5、和光純薬工業)に溶解し、100

mg/mLの濃度に調製した。リゾチームの正確な濃度は、ナノドロップ(Nano Drop

1000、サーモフィッシャー・サイエンティフィック)によって280 nmの吸光度

を測定し、A280 nm = 2.65 = 1 mg/mL として算出した[19,20]。その後、リゾチームス トック溶液は、100 mM 酢酸カリウム緩衝液(pH 4.5)によって希釈し、80 mg/mL リゾチーム溶液を得た。沈殿剤は、1.0 M NaCl(和光純薬工業)、100 mM酢酸カ リウム緩衝液(pH 4.5、和光純薬工業)を用いた。ソーマチン溶液は、適量のソ ーマチンを100 mM N-(2-acetamido) iminodiacetic acid (ADA) 緩衝液(pH 6.5、シ グマアルドリッチ)に溶解し、40 mg/mLの濃度に調製した。調製した溶液は、

13200 rpmで遠心分離を行い、上清を回収した。ソーマチンの正確な濃度は、ナ

ノドロップによって280 nmの吸光度を測定し、A280 nm = 1.25 = 1 mg/mL として

算出した[21-23]。その後、ソーマチンストック溶液は、100 mM ADA緩衝液(pH 6.5)

によって希釈し、30 mg/mLソーマチン溶液を得た。沈殿剤は、1.6 M酒石酸カ リウムナトリウム(和光純薬工業)、50 mM HEPES緩衝液(pH 7.0、和光純薬工 業)を用いた。グルコースイソメラーゼ溶液は、1 mM MgCl2、10 mM HEPES緩 衝液(pH 7.0)で透析を一晩行った。透析後、限外ろ過による濃縮で50 mg/mL のグルコースイソメラーゼ溶液を得た。沈殿剤は、30% w/v PEG 4000、200 mM 硫酸アンモニウム、100 mMクエン酸ナトリウム緩衝液(pH 6.5)を用いた。フ ェリチン溶液は、13200 rpmで15分間の遠心分離を行い、その上清を回収した。

その後、150 mM NaCl水溶液によって希釈し、50 mg/mLのフェリチン溶液を得

た。沈殿剤は、60、または80 mM 硫酸カドミウム、1 M酢酸ナトリウム、100 mM

HEPES緩衝液(pH 7.5)を用いた。すべての溶液は、調製後に0.45 µmのシリン ジフィルター(Minisart RC25; Sartorius Stedium Biotech)、または、0.20 µmのシ リンジフィルター(Minisart RC4; Sartorius Stedium Biotech)を通した。

4-2-2 マイクロ流体デバイスの作製

マイクロ流体デバイスは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(SILPOT 184 W/C Dow Corning Toray)を用いて作製した。作製方法は、以前報告した

Replica-molding法を用いた[28,29]。図4-1にマイクロ流体デバイスの概略図、表

4-1にマイクロ流路の寸法を示す。マイクロ流路を有するPDMS板は、別途作製 した平面のPDMS板とプラズマ処理(160 W, 40 SCCM, 30 s)(CUTE-1 MP、Femto

Science)後に貼り合わせた。プラズマ処理を行う前に、それぞれのPDMSは

100 °Cで2時間以上加熱した。貼り合わせ後、作製したマイクロ流体デバイス

の流路は、trichloro(1H, 1H, 2H, 2H-perfluorooctyl)silane(シグマアルドリッチ)

によって気相法で表面修飾を施した[30,31]。表面修飾を施したマイクロ流体デバ イスは、フロリナートFC-40(3 M)と1 H, 1 H, 2 H, 2 H- perfuluoro-1-octanol(PFO)

(シグマアルドリッチ)の混合液 (10:1、v/v) を流路内に流入し、3時間ほど 50 °Cで乾燥させた。その後、液滴を回収するためのperfluoroalkoxy alkane (PFA) キャピラリー(Upchurch Scientific、Zeus)をPDMSデバイスの出口に接続し、

PDMSで間隙を塞いだ。液滴の大きさは、3種類の内径が異なるPFAキャピラ

リー(I. D. 200、360、500 µm)によって制御した。また、PDMSデバイスへ送

液を行うために、Poly (ether ether ketone)(PEEK)キャピラリー(Upchurch

Scientific)を流路の入口に接続した。

4-2-3 結晶化実験

リゾチーム溶液は、酢酸カリウム緩衝液で60、70、80 mg/mLに希釈を行った。

ソーマチン溶液はADA緩衝液で20、24、30 mg/mLに希釈を行った。グルコー スイソメラーゼ溶液は、1 mM MgCl2、10 mM HEPES緩衝液で30、50 mg/mLに 調製した。液滴を生成するための連続相(油相)には、フロリナートFC40と PFOの混合液(10:1、v/v)を用いた。タンパク質溶液、沈殿剤、油相は、それ ぞれガラスシリンジ(GASTIGHT 1001、Hamilton)に充填し、シリンジポンプ

(Model 100、BAS)でPDMSデバイスへ送液した。微小液滴は、PDMSデバイ スで連続的に生成し、内径が異なるPFAキャピラリーに回収した。出口に接続 しているPFAキャピラリーは、液滴がキャピラリー全体に充填されていること を確認した後、デバイスから切り離した。その後、切断したキャピラリーは、

両端をキャピラリーワックス(Hampton Research)で封止した。結晶化実験は、

4 ºCの低温室で静置することで行った。微小液滴内で析出した結晶数は、光学

顕微鏡(Eclipse TS100, Nikon)によって観測を行った。

Figure 4-1. Photograph of the PDMS chip and an enlarged illustration of the microchannel.

Table 4-1. Dimensions of each PDMS chip.

4-3 結果および考察

本章では、タンパク質分子の拡散が晶析挙動に与える影響を調査するために リゾチーム(14 kDa)、ソーマチン(22 kDa)、グルコースイソメラーゼ(179 kDa、 4量体)、フェリチン(440 kDa、24量体)をモデルタンパク質として用いた。図 4-2に微小液滴を用いた結晶化制御方法の概略図を示す。本手法は、微小液滴中 で1個目の結晶が析出した後の過飽和度の緩和を利用している。ここで、第3 章と参考文献で導入した臨界サイズは、以下の計算式から推算することができ る[16]

Rc= 6DC0

q (1)

Dはタンパク質分子の拡散係数、C0はタンパク質初濃度、qはタンパク質消費速 度を表す。Rcは言い換えると、液滴内のタンパク質分子が結晶成長に寄与し得 る最長の拡散距離と考えることができる。したがって、分子量が大きく、拡散 係数が小さいタンパク質の場合には、液滴内に1個の単結晶を作製することが 困難になると考えられる。タンパク質分子の拡散係数は、これまでに様々な文 献で報告されている。例えば、分子量が小さいリゾチームとソーマチンの希釈 溶液中での拡散係数はほぼ同じで、20 ºCにおいて5 × 10-11 m2/sから1 × 10-10 m2/s である[32]。しかしながら、本研究での結晶化温度は4 ºCであり、液滴中には高 濃度のタンパク質と沈殿剤を含んでいる。そこで、4 ºCにおける微小液滴中で のリゾチームとソーマチンの拡散係数は、1 × 10-11 m2/sと見積もった。また、グ ルコースイソメラーゼとフェリチンは、それぞれ4量体と24量体を形成してお り、それらが結晶化の最小単位である。フェリチンについては、DLSによって 単量体の拡散係数が3.2 × 10-11 m2/sと報告されている[33]。前述の通り、フェリチ ンの結晶化最小単位は24量体であることを考慮して、4ºCにおけるグルコース イソメラーゼとフェリチンの拡散係数は1 × 10-12 m2/sと見積もり、臨界サイズ Rcの推算を行った。表4-2に4種類のモデルタンパク質の臨界サイズを示す。リ

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