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微小空間でのタンパク質の 晶析挙動の解析

2-1 序論

タンパク質の機能はその立体構造と密接に関係している。そのため、医薬品 開発においてタンパク質の立体構造の情報を基にした薬剤設計などが期待され ている。タンパク質の立体構造は、主にタンパク質の単結晶を用いた単結晶 X 線構造解析によって決定されている。タンパク質の結晶は、回折強度が弱いた め研究室レベルのX線回折装置で測定を行うためには、1辺が100 µm程度の単 結晶が必要である。また、X 線回折実験においては、成長させた 1 個の単結晶 をクライオループを用いて、X 線回折装置にマウントする必要がある。一般的 に、タンパク質の結晶はその結晶格子中に 30~50%の水分子を含んでいるため、

脆くて壊れやすい特徴を持つ。したがって、このマウント操作には経験と結晶 の熟練したハンドリング技術が必要となる。そこで、近年タンパク質結晶構造 解析のさらなる効率化を目的として、タンパク質結晶化と X 線回折実験の自動 化が進められている。しかしながら、それぞれの自動化システムは独立してい るため、それらを統合したシステムの開発が望まれている[1-3]。その1つとして、

キャピラリー中の微小液滴内でタンパク質の結晶化を行い、キャピラリーごとX 線回折装置にマウントし、測定を行うシステムが考えられる。これまでに、キ ャピラリーやマイクロ流体デバイスを用いてタンパク質の結晶化から X 線回折 実験までを試みた研究は報告されている[4-6]。しかしながら、これらのデバイス は主に結晶化条件の探索を試みているものであり、従来法のスケールダウンを 行ったにすぎない。そのため、系内に複数の結晶が析出する場合があり、結晶 化の制御は行われていない。系内に複数の結晶が析出すると、構造解析におい て回折点同士の重複が生じて正しい積分強度の見積もりができない場合や、解 析自体が不可能なデータである場合がある。また、複数の核形成が生じた場合 は、その核形成の分だけタンパク質分子が消費されて、得られる結晶サイズが 小さくなる。このような理由から、デバイスから結晶を取り出さずに X 線回折

実験を行うためには、微小液滴中やデバイスの系内で結晶化を制御して、100 µm 程度の大きさの1個の単結晶を作製する必要がある。そのためには、微小空間・

微小液滴中でのタンパク質の晶析挙動に関する知見が必要となるが、マイクロ 空間でのタンパク質の詳細な晶析挙動は解明されていない。特に、微小空間で は体積力よりも表面張力が支配的な環境であり、それらが結晶成長過程に影響 を与えている可能性も考えられる。そこで、本章では微小液滴の体積、形状が タンパク質結晶の核形成、結晶成長に与える影響について調査した。

2-2 実験方法 2-2-1 溶液調製

モデルタンパク質にはThaumatococcus daniellii由来のソーマチンを用いた。ソ ーマチンは和光純薬工業から購入し、再精製などは行わず結晶化実験に使用し

[7-8]。ソーマチン溶液は、適量のソーマチンを100 mM N-(2-acetamido)

iminodiacetic acid (ADA) 緩衝液(pH 6.5、シグマアルドリッチ)に溶解し、30

mg/mLの濃度に調製した。調製した溶液は、13200 rpmで遠心分離を行い、上清

を回収した。ソーマチンの正確な濃度は、ナノドロップ(Nano Drop 1000、サー モフィッシャー・サイエンティフィック)によって280 nm の吸光度を測定し、

A280 nm = 1.25 = 1 mg/mLとして算出した。その後、ソーマチンストック溶液は0.1

M ADA緩衝液(pH 6.5)によって希釈し、20 mg/mLソーマチン溶液を得た。沈

殿剤は、1.6 M酒石酸カリウムナトリウム(和光純薬工業)、50 mM

4-(2-hydroxyethyl)-1-piperazineethanesulfonic acid(HEPES)緩衝液(pH 7.0、和光 純薬工業)を用いた。すべての溶液は、調製後に0.45 µmのシリンジフィルター

(Minisart RC25; Sartorius Stedium Biotech)を通した。

2-2-2 マイクロ流体デバイスの作製

マイクロ流体デバイスは、ポリジメチルシロキサン(PDMS)(SILPOT 184 W/C

Dow Corning Toray)を用いて作製した。デバイス作製には以前報告した

Replica-molding法を用いた[9]。また、体積1 nLの液滴を生成する場合には、一

般的なリソグラフィー法でデバイスを作製した[10]。まず、基本形状のチップの 母型となるPMMAチップを微細加工で作製し、これを用いてPDMSマスターを 作製した。続けて、このPDMSマスターを用いてPDMSレプリカを作製し、別 途作製したPDMSプレートとプラズマ処理(160 W, 40 SCCM, 30 s)(CUTE-1 MP、

Femto Science)後、貼り合わせてマイクロ流体デバイスを作製した。また、プラ ズマ処理を行う前に、それぞれのPDMSは100 °Cで2時間以上加熱した。

貼り合わせ後、作製したマイクロ流体デバイスの流路は、trichloro(1H, 1H, 2H, 2H-perfluorooctyl)silane(シグマアルドリッチ)を用いて気相法で表面修飾を施

した[11,12]。表面修飾を施したマイクロ流体デバイスは、フロリナートFC-40(3 M) と1 H, 1 H, 2 H, 2 H- perfuluoro-1-octanol(PFO)(シグマアルドリッチ)の混合液

(10:1、 v/v) を流路内に流入し、3時間ほど50 °Cで乾燥させた。その後、液

滴を回収するためのperfluoroalkoxy alkane (PFA)キャピラリー(Upchurch

Scientific、Zeus)をPDMSデバイスの出口に接続し、PDMSで間隙を塞いだ。

液滴形状を制御するために3種類の内径が異なるPFAキャピラリー(I. D. 130、

200、360 µm)を用いた。また、PDMSデバイスへ送液を行うために、Poly (ether

ether ketone)(PEEK)キャピラリー(Upchurch Scientific)を流路の入口に接続し た。使用したPDMSチップと液滴生成部の拡大図を図2-1に示す。

2-2-2 結晶化実験

マクロスケールの結晶化実験は、マイクロバッチ法によって行った。まず、

10 µLのソーマチン溶液と10 µLの沈殿剤をマイクロチューブで混合した。その

後、混合した結晶化溶液を3 µL分取し、マイクロプレートのウェルにセットし た。結晶化溶液の蒸発を防ぐために、上から80 µLのミネラルオイル(シグマ アルドリッチ)で結晶化溶液を覆った。結晶化実験は4 ºCの低温室で行い、光 学顕微鏡(Eclipse TS100, Nikon)によって観測を行った。液滴を生成するための 連続相(油相)には、フロリナートFC40とPFOの混合液(10:1 v/v)を用いた。

分散相(水相)には、20 mg/mLのソーマチン溶液と1.6 M酒石酸カリウムナト リウム(和光純薬工業)、50 mM HEPES緩衝液(pH 7.0)を用いた。それぞれの 溶液は、ガラスシリンジ(GASTIGHT 1001、Hamilton)に充填し、シリンジポ

ンプ(Model 100、BAS)でPDMSデバイスへ送液した。微小液滴は、PDMSデ

バイスで連続的に生成し、それらを内径が異なるPFAキャピラリーに回収した。

出口に接続しているキャピラリーは、全体に液滴が充填されていることを確認 した後、デバイスから切り離した。その後、切断したキャピラリーは、両端を キャピラリーワックス(Hampton Research)で封止した。結晶化実験は、4 ºCの 低温室で静置することで行った。

Figure 2-1. Photographs of microfluidic chip.

(a) A photograph of PDMS chip. This dimension was easy to form more than 40 nL volume of droplet. (b) An enlarged illustration of Figure 2-1 a. (c) A photograph of PDMS chip. This dimension was easy to form less than 20 nL volume of droplet. (d) An enlarged illustration of Figure 2-1 c.

(a) (b)

400 µm 200 µm

200 µm 200 µm

1 mm

(c) (d)

200 µm 100 µm

100 µm 1 mm

2-3 結果および考察

PDMSデバイスの流路構造と送液量によって、微小液滴の体積は制御するこ とが可能であった。また、微小液滴の形状は回収するキャピラリーの内径によ って制御可能であった。ここで、同体積の液滴を内径が異なるキャピラリーに 回収した場合、内径が小さいキャピラリーでは、液滴の形状が細長くなる。一 方で、内径が大きいキャピラリーに回収した場合には、液滴の形状は楕円状と なる。例として、図2-2 (a)、(b)に50 nLの微小液滴を直径200、360 µmの キャピラリーに回収した写真を示す。微小液滴の外側は、油相として用いたFC40 とPFOの混合液である。これらの溶液は、水分子を全く透過しないので結晶化 実験中に液滴が濃縮されることはない。図2-2から分かるように、(a)および(b)

で体積は同じ50 nLであるが、その形状は大きく異なっていた。これらの微小液 滴でソーマチンの結晶化を行った結果、実験開始後、数時間で2〜3個の結晶が 析出した。図2-2 (c)、(d)に静置後24時間で微小液滴中に析出したソーマチ ン結晶の写真を示す。まず、微小液滴の体積がソーマチンの結晶化に与える影 響について調査した。そこで、PDMSデバイスで1 nL〜70 nLまでの様々な体積 の液滴を生成し、結晶化実験を行った。図2-3に微小液滴の体積と析出した結晶 数の関係を示す。図2-3から分かるように、3種類のチューブ全てにおいて液滴 体積の増加に伴い、液滴内で析出する結晶数が増加する傾向がみられた。そし て、液滴の体積が減少するほど、析出する結晶数のばらつきが小さくなる傾向 がみられた。これは、液滴体積が大きいほど液滴内部に多くのソーマチン分子 を含有している。したがって、液滴内で結晶が1個析出した後も核形成が起こ り得る過飽和度が維持され、さらに結晶が析出したと考えられる。また、液滴 体積が小さいほど核生成、結晶成長時に過飽和度が大きく低下するため、析出 する結晶数が少なくなり、結晶数のばらつきが小さくなると考えられる。一方 で、マイクロバッチ法の場合、結晶化開始から1〜2時間程度で3 µL結晶化液 滴中にソーマチンの結晶が析出することを確認した。図2-4にマイクロバッチ法 での結晶化結果を示す。さらに、24時間静置後には図に示すように結晶化液滴 中に多数のソーマチン結晶が析出していた。

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