第三章 神経障害性疼痛への脊髄カンナビノイド CB 2 受容体の関与
3.3 考察
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内投与は、VFフィラメント刺激で誘発される二次神経細胞の広域作動性神経細胞の発火を抑 制することを報告し、カンナビノイド CB2受容体が脊髄での神経伝達を直接制御することを 示した89)。カンナビノイドCB2受容体刺激薬が、カプサイシン刺激による培養後根神経節細 胞からのCGRPの遊離を抑制することも報告されている90)。これらの報告から、カンナビノ イド CB2受容体は、グリア細胞だけでなく、脊髄での神経伝達も制御する可能性が考えられ た。
本研究で、PSL作製前のカンナビノイドCB2受容体 KOマウスの疼痛閾値は、wild-typeマ ウスのそれと同様のものであった。カンナビノイドCB2 受容体は主に脾臓あるいは胸腺とい った免疫系組織に分布し、サイトカインの発現及び免疫機能の調節を行うとされており 73)、 正常状態での痛覚伝達に対するカンナビノイド CB2受容体の寄与は低いと考えられた。本章 での結果は、同様にカンナビノイドCB2受容体KOマウスを用いたRaczらの報告と一致する
67)。その一方で、Ibrahimらは、カンナビノイドCB2受容体KO/PSLマウスで、熱刺激に対す る逃避行動(熱刺激に対する反応潜時)が増悪傾向、つまり神経障害性疼痛の症状が増悪さ れたことを報告した91)。しかしながら、本実験では、カンナビノイドCB2受容体KO/PSLマ ウスの疼痛閾値の低下は、wild-type マウスのそれと同程度であり、神経障害性疼痛の症状の 増悪は認められなかった。Ibrahimらは熱刺激に対する反応潜時を測定したため、この評価法 の違いがカンナビノイドCB2受容体KO マウスの疼痛閾値の変化に対する差異になったと考 えられた。
神経障害性疼痛モデルの脊髄では、カンナビノイド CB2受容体の発現増加に加えて、内因 性カンナビノイドの一つである2-arachidonoyl glycerol(2-AG)及びN-arachidonoylethanolamide
(AEA)の増加も報告されているものの、これらの増大の度合いが、神経障害性疼痛の発症 を抑制するレベルには至らないと報告されている 92)。このことから、増加した内因性カンナ ビノイドでは、カンナビノイドCB2受容体を十分に活性化できていない可能性が考えられた。
加えて、これら内因性カンナビノイド(2-AG及びAEA)は、TRPV1 チャネルも活性化させ
るため93, 94)、カンナビノイド受容体を介した鎮痛作用が減弱された可能性も考えられた。今
回、外因性に投与した JWH133 が PSL マウスの神経障害性疼痛の症状を軽減したことから、
脊髄のカンナビノイド CB2受容体を標的とした薬物は、神経障害性疼痛の新たな治療薬とな ると考えられた。
カンナビノイドCB2 受容体は主に脾臓や胸腺の免疫系組織に分布し、サイトカインの発現 及び免疫機能の調節を行っていることから73)、末梢のカンナビノイドCB2受容体を介した神 経障害性疼痛軽減作用も期待される。カンナビノイド CB2受容体刺激薬の坐骨神経束内への 投与あるいは中枢移行性の低いカンナビノイド CB2受容体刺激薬を用いることで、末梢のカ ンナビノイド CB2受容体の役割を検討できると考えられる。また、カンナビノイドCB2受容 体刺激薬は神経障害性疼痛の緩和作用に加えて、疼痛の発症軽減作用も報告されている 81)。 これらを明らかにすることで、神経障害性疼痛に対するカンナビノイド CB2受容体の役割を 明らかにできると考える。今後の検討課題である。
これらの結果から、神経障害性疼痛の軽減に、脊髄カンナビノイド CB2受容体が関与し、
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カンナビノイドCB2受容体刺激が神経障害性疼痛の新たな治療薬になることを提示した。
52 総括
本研究では、神経障害性疼痛への炎症反応の関与及びその分子標的の解明を目的に、神経 障害性疼痛モデルの病態解析、TRPV1 チャネル及びカンナビノイドCB2受容体に対する選択 的リガンドを用いた薬理学的検討を行った。
第一章では、神経障害性疼痛モデルの末梢神経及び脊髄での経時的な組織学的変化を観察 した。その結果、神経障害性疼痛モデルの坐骨神経では、損傷後早期から、好中球、リンパ 球及びマクロファージ等の増加、すなわち免疫細胞の集簇が示された。また、一次求心性神 経の入力部位である脊髄後角では、アストロサイトの活性化が示された。これらのことから、
神経障害性疼痛モデルの末梢神経及び脊髄では、神経-免疫細胞あるいは神経-グリア細胞間の 相互作用による神経系の炎症反応が生じていると考えられた。引き続いて実施した免疫グロ ブリン製剤を用いた検討では、神経障害性疼痛への障害局所の炎症反応の関与は、疼痛の発 症期で高く、かつ維持期では低くなることも示した。
第二章では、炎症反応により惹起される疼痛の標的チャネルの一つと推測されている
TRPV1 チャネルに着目した。神経障害性疼痛モデルの後根神経節を用いた免疫染色の結果、
TRPV1チャネルは主に無髄C線維上に発現していた。この無髄C線維は痛覚伝達を担うこと
から、TPRV1 チャネルは神経障害性疼痛の痛覚伝達に関与することが示唆された。さらに、
TRPV1チャネル機能を低下させる機序が異なる2つの化合物を用いた検討から、TRPV1チャ
ネルが神経障害性疼痛の維持に関与していることも示した。
第三章では、一次求心性神経の入力部位である脊髄後角で、炎症反応に関与する分子カン ナビノイドCB2受容体に着目した。カンナビノイドCB1受容体を介した鎮痛作用と区別する ため、選択的カンナビノイドCB2受容体刺激薬を用いた。加えて、カンナビノイド CB2受容 体KO マウスを用いた薬理学的拮抗実験を行った。その結果、脊髄カンナビノイドCB2受容 体刺激が、神経障害性疼痛を軽減させることを示した。
末梢神経に損傷が生じると、障害局所で炎症反応が誘発される。この炎症反応により産生、
遊離された炎症性メディエーター及び炎症性サイトカインが、一次感覚神経を刺激し、神経 障害性疼痛を引き起こす。続いて、この炎症反応は、一次求心性感覚神経上に発現するTRPV1 チャネルの機能的及び量的変化を引き起こし、一次感覚神経の反応閾値の低下及びそれに続 く感覚神経の異常興奮、つまり末梢性感作を誘発すると考えられた。このTRPV1陽性感覚神 経を介した興奮刺激は、脊髄グリア細胞を活性化させることが報告されている62, 63)。近年、
TRPV1陽性一次感覚神経の刺激により、一過性に血液脊髄関門が破綻し、末梢由来の免疫細
胞(マクロファージ及びTリンパ球)が脊髄内に浸潤することも報告された95)。このように、
末梢神経の損傷後に脊髄でも炎症反応が生じ、活性化したグリア細胞から遊離された液性因 子を介して、二次神経細胞の興奮閾値の低下、つまり中枢性感作の誘発を介する神経障害性 疼痛の病態形成が示唆された。脊髄カンナビノイド CB2受容体は、グリア細胞の活性化及び 神経伝達を制御し、神経障害性疼痛を軽減させると考えられた。
本研究では、神経障害性疼痛の発症に、末梢神経及び脊髄での炎症反応が関与することを 示した。加えて、その標的分子として、TRPV1チャネル及びカンナビノイドCB2受容体が関
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与することも示した。現時点での神経障害性疼痛の治療では、発生した痛みに対する対症療 法として薬物治療が行われているが、第一章の結果から、交通事故のような外的傷害による 直接的な神経損傷時には、特に傷害早期から、免疫グロブリン製剤等を用いて、神経炎症反 応を抑制することにより、神経障害性疼痛の発症が軽減できる可能性が考えられた。腰椎ヘ ルニア及び糖尿病性神経障害患者では、血中の炎症性サイトカインレベルが増加しており、
この増加した炎症性サイトカインが疼痛の維持に関与しているとの仮説もある96, 97)。これら のことから、神経障害性疼痛の維持に炎症反応が関与している病態もあると考えられ、血液 学的検査による血中サイトカインレベルの測定等によって、炎症反応の関与が高い患者を選 択することで、免疫グロブリン製剤等の抗炎症作用を有する薬物が神経障害性疼痛の症状を 緩和できる可能性も期待される。免疫グロブリン製剤が、糖尿病性神経障害患者の疼痛症状 を軽減させたとの臨床側の報告もある98-100)。第二及び第三章の結果から、神経障害性疼痛発 症後は、TRPV1チャネル及びカンナビノイドCB2受容体を標的とした薬物が、神経障害性疼 痛の疼痛症状を軽減させる可能性を提示した。本研究での発症した神経障害性疼痛に対する
TRPV1チャネル遮断薬及びカンナビノイドCB2受容体刺激薬の効果から、このチャネル及び
受容体を標的とした薬物には、神経障害性疼痛の発症軽減作用も期待される。本研究で得ら れた知見は、神経障害性疼痛の病態解析及びその新たな治療薬創出に資するものと期待され る(Figure 30)。