• 検索結果がありません。

考 察

ドキュメント内 仕事の誇りと安全行動: (ページ 61-66)

第2部 研究

3.4 考 察

3.4.1 安全行動意思をもつ作業者像

本研究の結果は,作業者の職業的自尊心がその人の安全行動をとる意思を支えることを 示唆した。そこで示された作業者像は以下のようなものであった。

自分の仕事に価値があり,社会的な役割を担っていると感じている作業者は,仕事上の達 成や技術向上,効率のための工夫に意欲を持っており,一方で作業予定厳守の意欲は抑制さ れる。仕事上の技量工夫に対して意欲を持つ者は,自分自身が安全行動をとるという行動の 構えを持つとともに,安全管理システムの整備と実行が安全実現につながると考えている。

安全行動の構えは,職場で自分が安全行動をとることができるという知覚を促す。安全行動 の構えと安全行動がとれるという知覚,主観的な安全規範が安全行動をとる意思を促す。

3.4.2 仮説の検証:職業的自尊心は安全行動意思を促進する

本調査結果では,職業的自尊心は安全態度の個人行動重視因子を直接促進するとともに,

業務推進意欲の技量工夫因子を促進する効果と作業予定厳守因子を抑制する効果を介して 間接的にも促進していた。個人行動重視の安全態度は安全行動意思を直接促進するととも に,作業者自身が主体的に安全行動がとれるという知覚を高め,この主体的行動の制御可能 性の知覚が安全行動意思を促進していた。以上により,本仮説は支持された。

3.4.3 業務推進意欲が安全態度に与える効果

業務推進意欲が安全態度に与える効果を探索的に検討した。

まず各要因の因子分析により,業務推進意欲は独立した2因子,技量工夫因子と作業予定 厳守因子から,安全態度は比較的相関関係が弱い2因子,個人行動重視因子とシステム重視 因子から構成されているという結果が得られた。関係が不分明であった業務推進意欲と安 全態度のそれぞれで性質の異なる2因子が見出されたことにより,2つの要因の関係性を検 討することができた。

50 業務推進意欲

業務推進意欲について抽出された因子は,技量工夫因子と作業予定厳守因子であった。

技量工夫因子はHerzberg(1966)が唱える職務満足の動機づけ要因(達成,承認,仕事そ のものから満足感を得ようとする方向)や日本労働研究機構(1995)であげられた成長・

能力発揮,技能・知識の活用といったワークモチベーションに該当すると考えられる。作 業予定厳守因子は組織の要請を実現しようとするために生じる意識あるいは意欲と考え られるが,作業者が組織の要請を実現しようする態度は日本労働研究機構(1995)が指摘 する経済生活維持,労働義務感,また佐々木(1996)が指摘する経済的欲求といったワー クモチベーションに基づいていると考えられる。

モチベーションについてDeci & Flaste (1995, 桜井訳 1999)は,内発的動機づけと外 発的動機づけの分類に加えて,外発的動機づけを自律性の程度によって分ける有機的統 合理論を唱えている(櫻井, 2012)。本研究で見出された業務推進意欲の2因子の観測項目 を有機的統合理論の観点からみると,「新しい仕事を生み出す」,「スキルを磨く」,「どう すれば効率がいいかを考える」といった技量工夫因子は,外発的動機づけであってもより 自律性が高く,統合的調整と考えられる。作業予定厳守因子は,行動の基準である作業予 定が本質的に作業者個人の自己決定に依拠しておらず,自律性が低い取り入れ的調整段 階の外発的動機づけであろう。

安全態度

安全態度でみられた 2 因子のうち,個人行動重視因子は従来から安全態度として推奨 されてきた,事故に対して予測的に備える,作業に際して心身状態を整える,基本的な作 業手順を守る意思を持つといった,態度の行動的成分を測定している。

一方,システム重視因子と命名した観測項目群は,一見したところ,「安全規則や作業 の基本を守れば,事故は防止できると思う」など,事故楽観視の態度と思われた。しかし,

無条件で事故を希少事例と捉える観測項目「作業現場に危険はつきものだと思う(逆転)」

は共通性が低く因子分析から排除されたのに対し,これらの項目群は一つの因子を形成 していた。そのことから,「―ならば,事故は起こらないと思う」という文言に着目し,

設備,規則など安全管理システムによる安全確保を重視する態度と解釈した。

51 業務推進意欲が安全態度に与える効果

自律性の高いモチベーションである技量工夫因子は,安全に関して個人の安全行動の構 えも安全管理機能の高いシステムへの期待もともに高めていた。これは,外発的動機づけで あっても自律性の高い調整は目的行動をより意思的に(fully volitional)行わせる(Deci &

Ryan, 2000, p.237)という指摘に加えて,目的と関連した行動,つまりこの場合は安全行動 への構えも活性化することを示唆していると考えられる。

一方,自律性の低いモチベーションである作業予定厳守因子は,個人の安全行動の構えを 抑制していた。これは,作業の時間的制約を強く意識することから,業務遂行以外の作業を できるだけ省略したいという心理的要請のためと考えられる。作業予定厳守因子からシス テム重視態度への影響がみられなかったことについては,安全管理システムの整備への期 待は自分の行動準備を要請しないため,関連がなかったと考えられる。

3.4.4 安全行動における計画行動理論

計画行動理論(Ajzen, 1991)に基づいて安全行動意思の先行要因として設定した安全態度,

安全行動についての知覚された制御可能性,職場での安全行動についての主観的規範は,そ れぞれ安全行動意思に対して促進効果がみられ,安全行動においても計画行動理論が有効 であることが検証された。

3.4.5 現実的含意:安全対策としての職業的自尊心

研究1で検証された職業的自尊心–安全行動意思モデルは,人間工学的な安全対策や危険 予知活動などの安全努力に加えて,作業者個人の恒常的な安全行動を確保して組織として 安全精度をさらに高めるために,個人の内面である自尊心から発する態度–行動メカニズム を利用する可能性を示唆した。職業を対象とした自尊心に着目することで,組織からの働き かけの可能性が考えられる。そのためには,職業的自尊心を促進する要因を検討することが 必要となろう。

3.4.6 研究1の限界と課題

安全態度のシステム重視因子は,いわば産業組織の安全態度を作業者がどのようにみな しているかを示すものである。よって,作業者の安全行動意思と共存し,また支援する側面 も考えうる。研究1で用いたシステム重視因子の観測尺度は,信頼性が低く内的整合性が不

52

十分という問題がある。たとえば,当該尺度の項目が,安全システムの価値を積極的に認 めて利用する態度と,個人の安全行動遂行からの逃避としてシステムに頼ろうという消 極的態度の,両方を混じった形で測定している可能性が考えられる。より精緻な測定を試 みる必要があるだろう。

作業予定厳守因子も測定尺度としての信頼性が低かったので,精緻化を図る必要があ ろう。

53

4 章

研究2 組織的公正と情緒的コミットメント:

拡大版職業的自尊心–安全行動意思モデル

:研究2は,大谷華・芳賀繁(2017)を再分析したものである。

【4章 研究2の梗概】

仕事の誇りを高める要因は何か。研究2では,職業的自尊心の促進要因として組織 的公正を,職業的自尊心の効果の特性を明らかにするための比較対象として情緒的組 織コミットメントを導入し,拡大版職業的自尊心–安全行動意思モデルを開発した。製 造,医療,運輸,情報インフラの4業種で質問紙調査を実施した(N = 1800)。統合デ ータを用いて構造方程式モデリングを行い,妥当な適合度が得られた。

組織的公正は職業的自尊心を促進しており,仮説は支持された。また,組織的公正 は情緒的コミットメントも促進していた。

安全行動意思に対する総合効果は,職業的自尊心と組織的公正で大きく,情緒的コ ミットメントでは小さかった。この違いは,業務推進意欲に対する効果の違いを反映 していた。すなわち,職業的自尊心は技量工夫因子を促進し,作業予定厳守因子を抑 制していた。一方,情緒的コミットメントは技量工夫因子と作業予定厳守因子をとも に促進していた。職業的自尊心は社会から負託を受けた職業価値の達成という組織目 的以外の基盤をもっているために,作業者の態度や行動を内的な価値基準に従う方向 に,あるいは自律性の充足を求める方向に向かわせる。一方,情緒的コミットメント は所属集団への愛着と同一化という親集団的な基盤を持っているために,集団の目的 達成に沿って態度や行動を方向付ける,と考えられた。

ドキュメント内 仕事の誇りと安全行動: (ページ 61-66)