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職業的自尊心についての知見

ドキュメント内 仕事の誇りと安全行動: (ページ 158-163)

第3部 考察 職業的自尊心は作業者の自律性を促進し,安全行動意思を促す

8.1 職業的自尊心についての知見

本研究では「職業的自尊心が安全行動を促すエンジンとなるかどうか」を検討し,職業的 自尊心が安全行動意思を促進させる効果が検証された。

5つの研究を通して,職業的自尊心–安全行動意思モデルおよび拡大版職業的自尊心–安全 行動意思モデルの適合が確認された。職業的自尊心について,安全行動意思への促進効果,

自律性への動機づけ,職業価値実現への志向性(作業安全,品質保証),効果の大きさと業 種業態との関連,安全レジリエンスへの貢献の可能性という知見が得られた。安全行動の要 因間の効果について,研究で得られたパス係数をTable 8-1に,安全行動意思/作業ミス防 止行動意思に対する総合効果をTable 8-2にまとめた。

職業的自尊心の要因得点は対象群により値に開きがみられた(各研究対象群の要因得点

をFigure 8-1にまとめた)。たとえば,web 調査で得られたデータは職業的自尊心が低い傾

向があった。しかし,いずれの群においても職業的自尊心が安全行動意思に対して促進効果 を見せた。安全な作業の遂行を脅かす圧力はどの職場にもみられるだろうが,その状況は職 場によって異なる。状況のいかんにかかわらず,職業的自尊心は安全行動意思を支えていた。

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Table 8-1 研究1―研究5の構造方程式モデリングで得られたパス係数

職業的自尊心が与える効果

技量工夫 <--- 職業的自尊心 .60*** .31*** .43 *** .41***

作業予定厳守 <--- 職業的自尊心 -.25*** -.27*** -.01 -.42***

個人行動重視 <--- 職業的自尊心 .25*** .15*** .19 ***

システム重視 <--- 職業的自尊心 .01 -.04 -.10 主観的規範 <--- 職業的自尊心 .44*** .28*** .09 *

情緒的コミットメントが与える効果

技量工夫 <--- 情緒的コミットメント .34*** .11 ** .21***

作業予定厳守 <--- 情緒的コミットメント .10* .00 .22***

個人行動重視 <--- 情緒的コミットメント .02 -.15 ***

システム重視 <--- 情緒的コミットメント -.01 -.15 **

組織的公正が与える効果

職業的自尊心 <--- 組織的公正 .45*** .54 *** .49***

情緒的コミットメント <--- 組織的公正 .59*** .75 *** .66***

主観的規範 <--- 組織的公正 .52*** .72 ***

業務推進意欲が与える効果

個人行動重視 <--- 技量工夫 .46*** .56*** .82 ***

安全レジリエンス方略の選択 <--- 技量工夫 .39***

システム重視 <--- 技量工夫 .32*** -.06 .29 ***

個人行動重視 <--- 作業予定厳守 -.41*** -.47*** -.13 ***

安全レジリエンス方略の選択 <--- 作業予定厳守 -.22***

システム重視 <--- 作業予定厳守 .09 .34*** .33 ***

安全態度/作業ミス防止行動態度が与える効果

主体的行動 <--- 個人行動重視 .63*** .64*** .65 ***

安全行動意思/

作業ミス防止行動意思 <--- 個人行動重視 .37*** .46*** .46 ***

安全行動意思/

作業ミス防止行動意思 <--- システム重視 .00 .13*** .05

主観的規範が与える効果 安全行動意思/

作業ミス防止行動意思 <--- 主観的規範 .07* .15*** .09 *

知覚された制御可能性が与える効果

主体的行動 <--- 環境的阻害 .37*** .37*** .32 ***

安全行動意思/

作業ミス防止行動意思 <--- 主体的行動 .59*** .42*** .36 ***

p<.10, * p<.05, ** p<.01,*** p<.001。

(N=1178) (N = 1800) (N = 1157) (N = 751) 研究1 研究2 研究4 研究5

データソースの都合により、一部データの公開保留

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Table 8-1(承前) 研究1―研究5の構造方程式モデリングで得られたパス係数

Table 8-2 安全行動意思/作業ミス防止行動意思に与える総合効果

研究2 研究4 研究2A群 研究2B群 研究2C群 研究2D群 職業的自尊心 0.40 0.39 0.29 0.29 0.43 0.23 情緒的コミットメント 0.12 -0.05 0.18 0.10 0.07 0.16 組織的公正 0.37 0.24 0.41 0.24 0.19 0.34

研究3 研究5

職業的自尊心が与える効果

技量工夫 <--- 職業的自尊心 .22** .30 *** .37*** .32*** .43*** .47*** .42***

作業予定厳守 <--- 職業的自尊心 -.28** -.19 *** -.19* -.28** -.13 -.17 -.20 個人行動重視 <--- 職業的自尊心 .13 .13 ** .24*** .07

システム重視 <--- 職業的自尊心 .02 .05 .04 -.02 主観的規範 <--- 職業的自尊心 .14* .24 *** .21*** .10

情緒的コミットメントが与える効果

技量工夫 <--- 情緒的コミットメント .44*** .27 *** .15 .47*** .07 .06 .42***

作業予定厳守 <--- 情緒的コミットメント .07 .06 .09 .06 .00 .25 .12 個人行動重視 <--- 情緒的コミットメント -.04 .01 .01 -.05

システム重視 <--- 情緒的コミットメント .03 -.05 -.14 .03

組織的公正が与える効果

職業的自尊心 <--- 組織的公正 .54*** .44 *** .35*** .53*** .53*** .55*** .36***

情緒的コミットメント <--- 組織的公正 .56*** .58 *** .63*** .57*** .64*** .80*** .55***

主観的規範 <--- 組織的公正 .71*** .44 *** .65*** .68***

業務推進意欲が与える効果

個人行動重視 <--- 技量工夫 .63*** .54 *** .51*** .53***

安全レジリエンス方略の選択 <--- 技量工夫 .63*** .30** .30* システム重視 <--- 技量工夫 -.13 -.01 -.07 -.07

個人行動重視 <--- 作業予定厳守 -.44*** -.56 *** -.47*** -.44***

安全レジリエンス方略の選択 <--- 作業予定厳守 -.25** -.21* -.13 システム重視 <--- 作業予定厳守 .29*** .41 *** .21** .40***

安全態度/作業ミス防止行動態度が与える効果

主体的行動 <--- 個人行動重視 .72*** .50 *** .62*** .66***

安全行動意思/

作業ミス防止行動意思 <--- 個人行動重視 .39*** .50 *** .40*** .31**

安全行動意思/

作業ミス防止行動意思 <--- システム重視 .06 .16 *** .28*** .07

主観的規範が与える効果 安全行動意思/

作業ミス防止行動意思 <--- 主観的規範 .21*** .13 ** -.06 .19*

知覚された制御可能性が与える効果

主体的行動 <--- 環境的阻害 .38*** .44 *** .37*** .33***

安全行動意思/

作業ミス防止行動意思 <--- 主体的行動 .39*** .35 *** .75*** .49***

p<.10, * p<.05, ** p<.01,*** p<.001。

B:病院 A:製造業群

(n = 407) (n = 235)

C:運輸業 D:情報イン

フラ業

A:販売・

サービス業

B:製造・運

輸業 C:看護師

(n = 791) (n = 362) (n = 240) (n = 303) (n = 213)

データソースの都合により、一部データの公開保留

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データソースの都合により、一部データの公開保留

Figure 8-1.研究対象群の要因得点。

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本研究は,仕事の場にある一人の作業者の中に,2 つの心理的メカニズムを見出した。1 つは組織成員としての心理メカニズムである。所属組織への愛着や一体化,また所属の継続 を望む組織コミットメントをもとに,組織内行動が方向づけられる。2つ目は働く職業人と しての心理メカニズムである。多くの作業者は産業組織の従業員だが,一方で,自分が就い ている職業と直接につながり,職業価値をもとに職業人としての行動が方向づけられる。組 織的公正は組織についての知覚であるから,本来,組織成員としての心理メカニズムに対す る組織側からの重要な入力だが,本研究の結果は,組織の公正さの知覚が,仕事自体に対す る価値感情と評価的認知である職業的自尊心と連携することを示唆した。

4章(研究2)で,組織的公正と職業的自尊心の連携について,次のように考察した。所 属組織を公正と感じることが,組織に対する自尊心を高める(公正の絆理論(大渕,2004;

大渕・福野,2003))。作業者とその仕事との関係性と,作業者と所属組織との関係性は,別 物である。しかし,組織成員である作業者は,組織によって決定された仕事や業務内容と所 属組織そのものを,日常的に明確に区分して認知してはいない。そのことが,組織について の自尊心が職業的自尊心を支える要因となる。

重要なのは,職業的自尊心が,組織の枠内で仕事をしている作業者が組織成員としての心 理を離れる分岐点となることである。職業的自尊心とは,組織に所属していることとは別の 次元で社会からの負託を認識し,職業価値について高い評価の感情と認知を持つ態度であ る。組織に所属し組織から評価を受けるという組織成員の心理から切り離されているため に,そこで作業者が認識した職業像,仕事像は内的な行動規範となりうる。

本研究では,仕事についての正統的周辺参加から得た「連続的つながりを基盤にした「未 来像」」(Lave & Wenger, 1991),すなわち「(自分はまだなっていないかもしれないけれど,

やがて自分もなるであろう)一人前の〇〇」の姿に誇りを持ち,それを実現することは快で ある,とア・プリオリに置いた。仮説の段階では,作業者がおかれている仕事の場の圧力に くらべて,職業的自尊心の力は蟷螂の斧のようにか弱いことが危惧された。しかし,本研究 では,職業的自尊心が検討したすべての仕事の場で安全行動意思を支えることが示された。

そこには社会からの負託を引き受け,職業価値の実現に日々の努力を傾け,自律的に仕事に 取り組む作業者の姿があった。

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