2.6.6.9.1 単回及び反復投与試験
カスポファンギンをマウスの雌、雄及びラットに静脈内投与した際の概略の50%致死量はそれ
ぞれ
19
、27
及び38 mg/kg
であった。分解物を含むカスポファンギン凍結乾燥製剤をラットに静脈内投与した際の概略の50%致死量は25~50 mg/kgであり、原薬の場合と類似していた。カスポフ ァンギンを皮下投与した際の概略の
50%
致死量は、マウスで200 mg/kg
、ラットで150 mg/kg
であ った。カスポファンギンを16 mg/kgの用量で雄ウサギに静脈内投与したところ、投与後30分以内に死 亡した。雌雄各
1
例のウサギに8
又は12 mg/kg
の用量を投与しても、本薬の投与に関連する一般状 態の変化及び死亡はみられなかった。カスポファンギン(原薬又は凍結乾燥製剤)を用いてラット及びアカゲザルの各種反復静脈内 投与毒性試験を実施した。カスポファンギンの原薬を投与した試験の用量は、ラットの
14
日間探 索試験で2及び5 mg/kg/日、ラットの5週間投与試験で0.5、2及び5 mg/kg/日、サルの5週間投与試験
で2
、5
及び8 mg/kg/
日、ラット及びサルの14
週間投与試験で0.5
、2
及び5 mg/kg/
日であった。カス ポファンギンの凍結乾燥製剤を投与した試験の用量は、サルの5週間投与試験で0.5、2及び5 mg/kg/
日、27週間投与試験ではラットで1.8、3.6及び7.2 mg/kg/日及びサルで1.5、3及び6 mg/kg/日であっ た。凍結乾燥製剤中には分解物が存在することから、
5
週間試験では、最終製剤の規格値と同等か そ れ 以 上 の 濃 度 で 被 験 物 質 中 に こ れ ら の 分 解 物 [ ( )、( :カスポファンギンの主要代謝物)、 ( )及び
( )]が含まれているものを使用した。
以上の5から27週間投与試験でみられた毒性所見は、(a)ラットにおけるヒスタミンの遊離によ る症状、
(b)
両動物種における投与部位の刺激性、及び(c)
サルにおける血清トランスアミナーゼの 増加であった。以下に、これら所見について考察した。(
a
)ヒスタミンの遊離による症状ある種の構造を含む化学物質はヒスタミンの遊離を惹起する傾向があることが既に知られてい る。Goodmanと
Gilman
のThe Pharmacological Basis of Therapeutics [資料4.3: 15]によれば、
「数多 くの治療薬を含む多くの化合物が、肥満細胞に直接作用して、あらかじめ感作することなくヒス タミン遊離を惹起する。このような反応は、特に有機塩基のような、ある種のカテゴリーに含ま れる物質を静脈内投与した後に発現しやすい。そのような塩基としては、アミド、アミジン、第4
級アンモニウム化合物、ピリジニウム化合物、ピペリジン、アルカロイド及び抗生物質などがあ る。」とあり、また「塩基性ポリペプチドのあるものは、強力なヒスタミン遊離物質であり、その 強さは、限られた範囲内では、一般的に塩基性基の数とともに増大する。ポリミキシンB
は非常 に強力な活性を持つ。その他に、ブラジキニン及びサブスタンスP
がある。」と報告されている。リポペプチドの一種であるカスポファンギンは塩基性ポリペプチドであるため、アカゲザル及 びラットに本薬を静脈内投与することにより、内在性ヒスタミンの遊離が惹起されることが予想 された。そこで、ラットの5週間投与試験の開始に先立ち、2及び5 mg/kg/日を静脈内投与する14 類縁物質N* 類縁物質N* 類縁物質E*
類縁物質E* 類縁物質Q* 類縁物質R*
類縁物質R*
類縁物質Q*
日間探索試験を実施した。その結果、ヒスタミンの遊離による症状、すなわち、四肢の充血及び 腫脹、活動性低下、歩行失調並びに横臥位がみられた。なお、活動性低下、歩行失調及び横臥位 は5 mg/kg/日群の投与初日のみにみられた。
副次的薬理試験
[
資料4.2.1.3.2: F69]
において、抗ヒスタミン薬(ジフェンヒドラミン)の前投与 により上記の症状が有意に軽減され、加えて致死性の反応が抑制された。これらのことから、こ れらの有害な影響の機序は内在性ヒスタミンの遊離であることが確認された。さらに、in vitro試 験から、ラット腹腔の肥満細胞からのヒスタミン遊離を確認し、in vivoでの反応と関連すること が明らかにされた[資料4.2.1.2.5: F72]。すなわち、カスポファンギン濃度が10及び100 µg/mLのと きのヒスタミン遊離率はそれぞれ61.8%
及び72.5%
であり、用量に依存したヒスタミンの遊離が認 められた。ヒトの皮膚の肥満細胞では100 µg/mL の濃度でのヒスタミン遊離率が約10%であり、ヒト好塩基球又は肺の肥満細胞を用いた同様の in vitro 試験では明らかなヒスタミン遊離反応が みられなかった。
ラットの5及び14週間投与試験では、ヒスタミンの遊離による症状は高用量群(5 mg/kg/日)の みでみられ、投与
7
~9
日以降にはみられなくなった。これは、恐らく内在性ヒスタミンが枯渇し たためと考えられた。ラットの27週間投与試験では、ヒスタミンの遊離による症状は1.8 mg/kg/日群の1例で投与1日に、3.6及び7.2 mg/kg/日群で投与1~5日に限ってみられた。
サルの
5
、14
及び27
週間投与試験では、ヒスタミンの遊離による症状はみられなかった。これら の試験では、カスポファンギンをそれぞれ2、5及び8 mg/kg/日、0.5、2及び5 mg/kg/日、1.5、3及び
6 mg/kg/
日の用量で静脈内(20
分間点滴)投与した。また、凍結乾燥製剤を用いたサルの5
週間投与試験でも、ヒスタミンの遊離による症状はみられなかった。これらの毒性試験の前に実施し た副次的薬理試験[資料4.2.1.3.2: F69]で、アカゲザルにカスポファンギンを4又は8 mg/kgの用量で 急速静脈内投与したところ、ヒスタミンの遊離による症状が認められ、この症状はジフェンヒド ラミンの前投与によって軽減又は消失することが確認された。また、同試験では、8 mg/kg の用 量を20分間かけて点滴投与することで、これらの症状はみられないことも明らかにされた。
(b)投与部位の刺激性
ラットの5週間投与試験の5 mg/kg/日群(投与濃度2 mg/mL)で、投与部位の尾に紫色化がみら れ、最終的に痂皮形成、灰色化あるいは皮膚の壊死に至った。病理組織学的には、血管変性、表 皮の壊死及び血栓(血栓は30例中9例)が認められた。また、細胞浸潤、線維成分増加及び出血も みられ、その程度は
0.5
及び2 mg/kg/
日群(それぞれ投与濃度0.2
及び0.8 mg/mL
)及び対照群より も強かった。ラットの14週間投与試験の5 mg/kg/日群(投与濃度1 mg/mL)では、試験期間中に尾 静脈の拡張が困難となり、同群の2例は投与が不可能となったため投与期間終了前に試験系から除 外した。関連する病理組織学的変化として、細胞浸潤、線維成分増加及び血栓(血栓は30
例中2
例)が認められた。本試験における血栓に基づく無毒性量は2 mg/kg/日(投与濃度0.4 mg/mL)と 考えられた。ラットの27
週間投与試験では、3.6
及び7.2 mg/kg/
日群(それぞれ投与濃度0.36 mg/mL
と
0.72 mg/mL
)で対照群に比べて投与部位の変化の発現頻度及び程度が増加し、7
例を投与困難のため早期屠殺した。本試験における投与部位の刺激性についての無毒性量は1.8 mg/kg/日(投与濃
度
0.18 mg/mL
)と判断した。原薬を用いたサルの5週間投与試験では、
5及び8 mg/kg/日群(それぞれ投与濃度1.25 mg/mL
と2mg/mL)で投与部位の刺激性変化として、血管拡張、静脈周囲組織の硬化、投与液の静脈から皮
下組織への血管外漏出及び皮膚壊死がみられ、静脈内への投与が困難な例が増加した。病理組織 学的には、5及び8 mg/kg/日群の全例で静脈血栓が認められた。さらに、2 mg/kg/日群(投与濃度0.5 mg/mL
)の1
例でも投与部位に静脈血栓が認められた。刺激性のない用量を確認するために、0.5 mg/kg/日(投与濃度0.1 mg/mL)の用量で14日間の静脈内(20分間点滴)投与刺激性試験を実
施したところ、同用量では血管に刺激性変化はみられなかった。サルの
14
週間投与試験では、5 mg/kg/
日群(投与濃度0.625 mg/mL
)で投与部位の刺激性変化と して、静脈の硬化がみられ、静脈の視認が困難な例が増加した。病理組織学的には、同群の8例中2
例で静脈血栓が認められた。凍結乾燥製剤を用いた2
回目の5
週間投与試験では、最高用量を5
mg/kg/
日(投与濃度は同じ0.625 mg/mL
)としたが、投与部位に刺激性変化はみられなかった。これは、恐らく、
2回目の試験では投与前後にカテーテルラインを生理食塩液で洗浄(フラッシング)
したことが有効であったためと考えられた。
サルの27週間静脈内投与試験では、6 mg/kg/日群における投与部位の変化の程度が同時対照群 よりも強かった。したがって、本試験における投与部位の刺激性についての無毒性量は3 mg/kg/
日(投与濃度
0.25 mg/mL
)と考えられた。以上、投与部位の刺激性について、投与前後にカテーテルラインをフラッシングすることが有 効であり、この操作を行ったときの投与部位の刺激性についての無毒性量は、ラットでは
1.8 mg/kg/
日(投与濃度0.18 mg/mL
)、サルでは3 mg/kg/
日(投与濃度0.25 mg/mL
)であった。(
c
)血清トランスアミナーゼの増加原薬を用いたサルの5及び14週間投与試験における
AST
又はALT
の軽度の増加[資料4.2.3.2.5:TT 6380] [資料4.2.3.2.7: TT 6130]を[表2.6.6: 19]及び[表2.6.6: 20]に示す。
表2.6.6: 19 サルの5週間静脈内投与毒性試験におけるAST及びALTの増加
AST ALT
投与量 (mg/kg/日) 0† 2 5 8‡ 0† 2 5 8‡ 投与2週の平均値 (U/L)
対照群からの増加率%
投与4週の平均値 (U/L) 対照群からの増加率%
41 42
41 43
56 +37
51 +21
74 +80
71 +69
33 30
33 37
70 +112
55 +83
96 +191
83 +177
†生理食塩液
‡ 投与4週の8例中3例のビリルビン: 0.5 mg/dL
表2.6.6: 20 サルの14週間静脈内投与毒性試験におけるALTの増加 ALT
投与量 (mg/kg/日) 0† 0.5 2 5 投与3週の平均値(U/L)
対照群と比較した増加率(%)
投与7週の平均値(U/L)
対照群と比較した増加率(%)
投与12週の平均値(U/L)
対照群と比較した増加率(%)
35 33 39
35 0 34 +3 37 -5
38 +9 35 +6 34 -13
70 +100
65 +97
54 +38
†生理食塩液
トランスアミナーゼの増加は、いずれの試験でも試験期間中に投与を継続しても軽減する傾向 がみられた。
5
週間投与試験の病理組織学的検査では、5 mg/kg/
日群の8
例中2
例及び8 mg/kg/
日群 の8例中4例の肝臓に散在性の被膜下壊死巣を認めた(8 mg/kg/日群の1例では軽度、その他はごく 軽度)が、個体別には必ずしもトランスアミナーゼの増加に関連していなかった。また、14
週間 投与試験では、5 mg/kg/日群の8例中1例で肝被膜下にごく軽度な瘢痕がみられた。凍結乾燥製剤を用いたサルの5週間投与試験(0.5、
2及び5 mg/kg/日)では、 5 mg/kg/日群で ALT
が増加した。増加の程度は、同用量のカスポファンギン原薬を用いて実施したサルの5
及び14
週間 投与試験と同様であった。0.5 mg/kg/日群の8例中4例及び2 mg/kg/日群の8例中2例で ALT
のごく軽 度の増加がみられたが、発現頻度が用量依存的ではなく、対照群の個体でも同程度の増加がみら れたこと、当該施設で実施した他の静脈内投与試験[
資料4.3: 31]
でも対照群でALT
の増加が同様 の頻度で認められたことから、毒性学的意義はないと考えられた。同試験[2.6.7.7.E 項]では、い ずれの例においても肝臓の被膜下壊死はみられなかった。サルの27週間投与試験では、次の[表2.6.6: 21]に示すとおり、6 mg/kg/日群で投与4、12及び25 週に
ALT
の増加[資料4.2.3.2.8: TT 1210]がみられた。表2.6.6: 21 サルの27週間静脈内投与毒性試験の6 mg/kg/日群におけるALTの増加
測定時期 対照群と比較した平均値の増加率(%) 個体別の最高値(U/L)† 投与4週
投与12週 投与25週
53 72 52
67 74 67
†背景データの95%範囲: 18~53 U/L
肝臓の病理組織学的検査では、トランスアミナーゼの増加に関連する変化は認められなかった。
3 mg/kg/日群の1例で投与4週に ALT
がごく軽度の増加(56 U/L)がみられた。この値は対照群でみられた投与4週(53 U/L)及び投与25週(52 U/L)の値と同程度であった。同例のその後の
ALT
値は、投与12
週に37 U/L
、投与25
週に39 U/L
と正常の範囲内であった。しかし、本試験の6 mg/kg/
日群で本薬の投与に関連した
ALT
の増加がみられたことを考慮すると、3 mg/kg/日群の1例でみら
れたALT
の一過性の増加と本薬投与との関連を否定することはできないと考えられた。カスポファンギンをラットに静脈内投与した
14
日間(用量2
及び5 mg/kg/
日)、5
週間(同0.5
、2
及び5 mg/kg/日)、14週間(同0.5、 2及び5 mg/kg/日)及び27週間投与試験(同1.8、 3.6及び7.2 mg/kg/
日)では、血清生化学的検査及び病理組織学的検査において肝毒性を示唆する変化は認められな