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2.6.6 毒性試験の概要文

2.6.6.9 考察及び結論

2.6.6.9 考察及び結論

サキサグリプチンの動物における毒性は,ICH及びGLPに従った以下の一連の試験によって総 合的に評価した:ラット,イヌ及び/又はサルにおける単回投与及び反復投与試験,in vitro及びin vivo の一連の遺伝毒性試験,マウス及びラットのがん原性試験,ラット及びウサギにおける生殖 発生試験,in vitro及びin vivo(マウス及びウサギ)の局所刺激性試験,ラットにおける免疫毒性 試験,更に,雄ラット特異的脳病変のシアンに関連した機序の特定並びにサルにみられた潰瘍性 皮膚病変及び多組織における単核細胞浸潤の特徴付けのための数多くの探索的試験。安全性薬理 検討項目(心循環系,中枢神経系,呼吸器系)は,反復投与毒性試験の一部に盛り込んだ。主要 な反復投与毒性試験,in vivo 遺伝毒性試験,胚・胎児発生試験及びがん原性試験の用量設定を助け るために,げっ歯類,ウサギ,イヌ及びサルを用いた経口投与用量設定試験を適切に実施した。

更に,以下のことを評価するために試験を実施した:雄ラット特異的神経毒性に対するサキサグ リプチンの主活性代謝物であるBMS-510849の役割,BMS-510849の定量におけるより特異的な生 物分析法を用いた暴露の違い,マウス及びラットにおけるサキサグリプチンの安息香酸塩及びフ リ ー 体 の ト キ シ コ キ ネ テ ィ ク ス 同 等 性 , 原 薬 及 び 製 剤 に 存 在 す る 2 種 の 不 純 物/分 解 物

( 及び )の安全性,メトホルミン併用投与による安全性。

サキサグリプチンは高用量においてのみ急性毒性を示した。マウス及びラットでは2000 mg/kg まで,サルでは25 mg/kgまでの単回経口投与に著明な毒性はもたらされなかった。死亡は,げっ 歯類では4000 mg/kgで,サルでは50 mg/kgでみられた。

サキサグリプチンの反復投与後,2 種又はそれ以上の動物種でみられた影響は,1)皮膚病変,

2)脾臓及び/又は骨髄リンパ性過形成,3)多組織における単核細胞浸潤,4)肺組織球症,5)胸 腺リンパ性枯渇,6)血小板数減少,であった。

1) 皮膚病変は,イヌ及びサルにみられたが,その経過,臨床的及び病理組織学的な像には動 物種間で大きな違いがあった。イヌにおいては,用量に相関した足の肉球表面の表皮/角質の糜爛

(“肉球の裂傷”)が,約 7 ヵ月の連続投与後にみられた。これらの肉球(足の腹側面,サルには みられない解剖学的部位)のごく軽度から軽度で小さい限局した病巣は,限局した上皮変性(基 底部表皮及び基底膜の露出を伴わない表層上皮細胞の空胞化及び剥離),軽度な限局性皮膚出血 及び単核細胞浸潤によって特徴付けられた。これらの病変は,サルの高用量で早いものでは 2週 目からみられた変化とまったく対照的であり,サルの皮膚病変は,手及び足の腹側よりもむしろ 背側に限局し,ごく軽度から重度な炎症反応を伴う限局的ないし限局性に拡大した潰瘍性病変で あった。ヒトにおける臨床推奨用量5 mg投与時の全身暴露AUCと比べて,皮膚変化に対する無 毒性量は,イヌでは4~5倍,サルでは1~3倍のAUCを示す用量であった。重要なことは,イヌ やサルにみられた皮膚病変に相当する変化は,サキサグリプチンのヒトにおける治験においてみ られていないことであり,更に,サルにおける皮膚変化はサキサグリプチン唯一のものではない ことである。ビルダグリプチン(Galvus®)もサキサグリプチンと同様に皮膚病変を生じ,更に重 度な手/足の浮腫及び皮膚(尾及び指)の水疱というサキサグリプチンでは見られない著明な臨床 的影響が,臨床用量 100 mgの10倍量の投与でみられた。サキサグリプチンでは,臨床推奨用量 5 mgの120倍までの投与においても皮膚の浮腫及び水疱はみられていない。

*:新薬承認情報提供時に置き換えた 類縁物質E*

類縁物質A*

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2)脾臓及び/又は骨髄リンパ性過形成は,ラット及びサルに通常見られる形態学的所見である。

ごく軽度から軽度な脾臓リンパ性過形成が,6ヵ月間20 mg/kg/日以上投与されたラットにみられ たが,広い用量範囲(25~300 mg/kg/日)で82週まで,又は150 mg/kg/日を104週まで投与され たラットにはみられなかった。ラットにおける脾臓リンパ球フェノタイピング及び血清免疫学的 分析によって,CD3+ Tリンパ球及びCD45RA+ Bリンパ球,血清IgG及びIgMが,脾臓の重量増 加(長期投与では過形成あり)と共に増加していたことより,リンパ性過形成は非特異的なもの と考えられた。ただし,これらの所見は,サキサグリプチンによるDPP-4-蛋白分解性開裂の抑制 が,免疫調整に関与する他の酵素前駆体にまで影響を及ぼしたかもしれないので,過剰な薬理学 的作用を反映しているのかもしれない。DPP-4-蛋白分解性酵素活性は,リンパ球機能発現経路に 関与する多種の分泌サイトカイン/ケモカインの調節に不可欠なものである8, 9, 10。免疫調節性酵 素前駆体に対するDPP-4-蛋白分解は,増殖又は免疫グロブリン合成というようなリンパ球機能を 亢進的又は抑制的に調節する,刺激性又は抑制性分泌蛋白活性をもたらすかもしれない。したが って,免疫毒性試験(第 2.6.6.8.1 項)において,サキサグリプチンは目標としない非酵素的

DPP-4/CD26活性阻害を介した,抗原又は細胞分裂促進物質による T及び Bリンパ球機能に悪影

響をもたらさなかったが,目標とするサキサグリプチンの DPP-4/CD26 酵素活性阻害が,分泌蛋 白の直接的又は間接的な変化を介して非特異的なリンパ性過形成をもたらしたかもしれない。非 常に重要なことは,リンパ性過形成はごく軽度から軽度で,非進行性で,ラットでみられたよう に時間経過と共に回復することである。特に,300 mg/kg/日までの用量のサキサグリプチンを 82 週~104 週間投与されたラットにおいて,リンパ腫を含むリンパ性増殖疾患も自己免疫も見られ ず,この軽度な免疫系活性は長期投与後に明らかな組織形態学的続発症をもたらさなかったこと に注目すべきである。同様に,脾臓のリンパ性過形成(ごく軽度で回復性あり)がラット以外の 動物種としてサルにみられたが,3 mg/kg/日を3ヵ月投与されてもリンパ性増殖疾患も自己免疫も 認められなかった。更に,マウスでは600 mg/kg/日までを104週間,イヌでは10 mg/kg/日までを 12ヵ月投与されても,脾臓を含むいずれのリンパ性臓器にもリンパ性過形成は発現せず,リンパ 性過形成はラット及びサルにおける種特異的なものであると考えられた。脾臓及び/又は骨髄のリ ンパ性過形成は,ビルダグリプチン及びシタグリプチン(Januvia®)を亜急性から亜慢性投与され たサルにも見られていることは注目に値する。これらの所見は更に,リンパ性過形成がサルにお ける薬理学的作用を介したクラスエフェクトであるかもしれないことを支持した。サキサグリプ チンのリンパ性過形成に対する無作用量における全身暴露は,臨床推奨用量 5 mg における全身 暴露に対して,ラットでは3~9倍(6ヵ月試験),サルでは1~3倍(3ヵ月試験)であった。両 動物種において,リンパ性過形成は休薬により回復した。

3) 種々の臓器及び組織における単核細胞浸潤は,3 種の動物にみられ,ラット及びイヌでの 発現頻度は限定的なものであり,サルでの頻度は他より高かった。3 動物種すべてにおいて,単 核細胞浸潤は時々ごく軽度な実質の傷害をもたらしたが,実質に明確な再構築修復反応を引き起 こすほどの強い傷害ではなく,回復性があり,リンパ性増殖性疾患/腫瘍/自己免疫反応にまで進行 するものではなかった。

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3-1) 単核細胞浸潤の概括的情報

単核細胞浸潤は主にリンパ球から構成され,時には大食細胞も伴う限局性の白血球集積である。

リンパ球及び大食細胞は炎症性細胞であるが,組織内での免疫監視,抗原処理の役目も果たし,

対照群の動物に通常みられる所見である。単核細胞は,組織内にしばしば不規則に位置するが,

他の炎症の特徴であるうっ血,浮腫,肉芽腫形成,顆粒球,及び/又は実質組織の傷害,という ものを伴わない場合の浸潤は炎症過程を示すものではない。それゆえ,このような状況において は浸潤の存在それ自身が追加的リスクとなるものではない。唯一の例外は過敏状態であり,その 場合は炎症自体が第一次変化として組織傷害をもたらす。サキサグリプチンの場合,サルの高用 量における速やかな変化の発現,及び過敏性の可能性を特別に検討した結果から,観察された炎 症又は単核細胞浸潤のいずれも過敏性が原因ではないことが示された。更に重要なことは,1 年 間投与イヌ試験及び 2年間投与げっ歯類がん原性試験において,サキサグリプチン関連の単核細 胞浸潤は変性性組織変化を引き起こさず,投与期間の長期な延長によってもその程度は増強され なかった,という結果が得られていることである。

3-2)サルにおける自然発生所見としての単核細胞浸潤

2 本のサル反復経口投与毒性試験報告書番号021432及び019619の結果は,対照群のサルの多数の組織 に単核細胞浸潤が広く存在することを示している。用量設定/探索試験(GLP 非適用)において,

3ヵ月2 mg/kg/日の投与により,サキサグリプチンに関連した影響として,種々の臓器に単核細胞

浸潤の程度又は分布の増加をもたらしていた。しかしながら,背景値の頻度/程度からの増加は ごくわずかであり,主たる反復投与毒性試験(GLP 適用)で同じ期間,3 mg/kg/日を投与された サル(血漿中サキサグリプチン暴露量は用量依存的に高かった)においてこの影響は再現されな かった。これは,用量設定/探索試験における投与動物と対照動物間の生物学的ばらつきに起因し ていた可能性も考えられた。実際,単核細胞浸潤のみられた臓器は,最近公表された正常対照群 サルにおいて白血球浸潤がある程度の頻度で自然発生的にみられる臓器のリスト 6 中に含まれて いる。サキサグリプチン投与試験の対照群のサルを考慮した場合,標準的に採材する45の組織の 内31の組織に単核細胞浸潤及び/又は炎症の所見がみられた。影響を受けていない組織の多くは,

骨髄,胸腺又はリンパ節であったが,これらの組織ではこの診断が容易ではないからであろう。

両試験の対照群のサルにおいて,少ない例でも 3種の組織にこのような細胞浸潤又は炎症がみら れ,同群の動物においてこれらの影響を受けていた組織の1例あたりの平均数は 7であった。

BMS社のNew Brunswick 施設(報告書番号021432試験が20 年に実施された施設)において 20 年~20 年にかけて実施されたサル試験を調査したところ,最低一つの組織について病理組 織学的検査を行っていた試験が19試験あった。これらの試験において,138匹の対照群サルが評 価され,この内の61匹(約50%)が少なくとも一つの組織に単核細胞浸潤の診断(又は同義の診 断)がされていた。これらの細胞浸潤/炎症はサルにおいて通常みられる所見であるということ は,公表されている文献によっても支持されている。最近の包括的概説文献は基本的にすべての 臓器にこのようなタイプの変化が存在することを示している。この文献において,炎症性細胞浸 潤はこの動物種を用いる毒性試験において最もありふれた偶発的所見であった。6

これらの所見が毒性の臨床的症状や他の有害作用とは関連していないという事実は,これらは

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