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2.6.6 毒性試験の概要文

2.6.6.5 がん原性試験

2.6.6.5 がん原性試験

サキサグリプチンのがん原性をマウス及びラットを用いた104 週間経口投与によって評価した。

サキサグリプチン及びBMS-510849の平均定常状態全身暴露を投与6ヵ月後に測定した。ヒト,

マウス,ラットにおけるAUCの比較と安全域を以下の表(表 2.6.6-4)に示した。

表 2.6.6-4 マウス及びラットにおけるがん原性試験における定常AUC暴露と安全域

AUC (ng•h/mL)a ヒト暴露量との比較(倍)b

サキサグリプチン BMS-510849 サキサグリプチン BMS-510849 動物種 試験

(採材時期)

用量

mg/k

g 雄 雌 雄 雌 雄 雌 雄 雌

50 1605 2615 6246 7643 21 34 29 36 250 34661 30483 76123 49443 444 391 356 231 マウス 104

26週)

600 c 70436 94393 147802 131654 903 1210 691 615 25 3492 8763 1174 2658 45 112 5 12 75 13993 30808 3843 7672 179 395 18 36 150 c 28724 81962 9204 15226 368 1051 43 71 ラット 104

(26週)

300 c 68568 179606 28569 29730 879 2303 134 139 a 計算は0時から血漿中に検出された最終時までで実施した。その範囲は824時間。初回試験のデータを示

している。

b ヒト5 mg投与時のAUCは,サキサグリプチンは78 ng•h/mLBMS-510849214 ng•h/mL CV181037)。

BMS-510849 の最初の分析法とより特異的な分析法との違いを評価したブリッジングトキシコキネティクス試

(詳細は第2.6.6.8.5項) に基づくと,最初の分析法ではAUCをマウスでは9.620.8%,ラットでは4.4

42.7%まで過大評価していたことが判明した。この暴露の違いはヒトの安全性評価に衝撃を与えるものではなか

ったので,最初のデータと暴露倍率を示した。

c 薬物に関連する腫瘍に対する無作用量。雄ラットにおいては,300 mg/kg/日群は早期に終了したためがん原性 評価の最高用量は150 mg/kg/日。

<概要表 2.6.7.3 トキシコキネティクス項より抜粋>

2.6.6.5.1 マウス3ヵ月経口投与用量設定試験(GLP適用)

(概要表2.6.7.7.1,報告書番号019436)

サキサグリプチン安息香酸塩を1.25%Avicel®溶液(媒体)に懸濁し,30,100,300,600,1000,

1500 mg/kgの投与量で1日1回,各群雌雄10匹のCD-1マウスに3ヵ月間投与した。雌雄各10 匹からなる対照群2群には,媒体1.25%Avicel®を他の群と同量(6又は8 mL/kg)投与した。生存 段階における各種観察,血液学,血清生化学,器官重量,剖検,対照群と最高用量群では組織学 的検査によって評価を行った。サキサグリプチン及びBMS-510849の血漿中濃度を投与29日に測 定し,全身暴露を評価した。

サキサグリプチン及び BMS-510849の全身暴露は用量に比例して増加し,性差は見られなかっ た。BMS-510849 の暴露(AUC)は未変化体の 1.5~6.8倍を示し,低用量ほどその開きは大きか った。

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300 mg/kgまでの用量では薬物に関連した変化はみられなかった。600 mg/kg以上において,薬

物に関連した変化として,血清アルブミンのごく軽度から軽度の低下,ごく軽度な肺組織球症,

組織学的変化を伴わない肝臓重量の増加(600 mg/kg/日[雄],1500 mg/kg/日),重量低下を伴う ストレス関連の胸腺萎縮(1500 mg/kg/日)がみられた。1000及び1500 mg/kg/日において,薬物に 関連した変化として瀕死及び死亡,活動性低下,後肢の腫脹(1000 mg/kg/日の雄1例),雄にお いて血清コレステロール及びトリグリセライドのごく軽度から軽度な減少がみられた。更に1500

mg/kg/日では,虚脱,無活動,呼吸困難,腹部膨満,ごく軽度な血清グロブリンの増加とA/G比

低下,雄において組織学的変化を伴わない脾臓重量のごく軽度な増加がみられた。

無作用量は300 mg/kg/日であった(サキサグリプチンの全身暴露AUCは,雄で29248 ng⋅h/mL, 雌で20942 ng⋅h/mL)。

2.6.6.5.2 マウス104週間反復強制経口投与がん原性試験(GLP適用)

(概要表2.6.7.10.1,報告書番号021430)

サキサグリプチンフリー体を酸性水に溶解し,50,250,600 mg/kg/日の用量で各群雌雄60匹の

Crl:CD-1マウスに104週間反復経口投与した。対照群として,1群雌雄60匹からなる2つの群に

酸性水を5 mL/kg/日投与した。投与量はマウスにおける3ヵ月用量設定試験の結果に基づいて設

定した(第 2.6.6.5.1項)。死亡,臨床観察(肉眼的又は触診による腫瘤の観察を含む),体重,

摂餌量,血液学検査(剖検時:数例の死亡雄にみられた感染を特徴付けるため),剖検及び病理 組織学的検査によって評価した。雄では,250及び600 mg/kg/日において早期に多くの死亡がみら れたため,生存例が約25%になった段階で投与終了時剖検を実施した(600 mg/kg/日群の雄は投与 90週,残りの雄全群は投与100週)。雌は全群,104週投与後に剖検した。サキサグリプチン及

びBMS-510849の血漿中濃度を投与6ヵ月目にサテライト群のマウスを用いて測定した。がん原

性の評価として,生存率に対する薬物の影響及び腫瘍性病変の発生(Peto-Pike傾向検定)を含め た。

50~600 mg/kg/日投与後のサキサグリプチン及び BMS-510849 のマウスにおける全身暴露は用

量の増加に伴って増加したが,そのCmax及びAUCは用量の増加よりも大きく増加していた(表

2.6.6-4)。暴露に一貫した性差はみられなかった。BMS-510849 の暴露はサキサグリプチンの暴

露の1.4~3.9倍であった。

薬物に関連した臨床症状はみられず,体重,摂餌量,血液学的パラメーターにも有害な影響は みられなかった。

250及び600 mg/kg/日の雄では,用量に依存した死亡率の増加がみられ,600 mg/kg/日群は投与

90週に,残りの雄全群は投与100週に早期終了した(250 mg/kg/日の雄でその生存率が約25%に 達した時点において,2つの対照群及び50 mg/kg/日群のそれぞれの生存率は51,38,36%であっ た)。雄マウスにおける早期死亡の原因は特定されていないが,その生存率及び投与期間は以下 のことよりがん原性評価に十分なものと考えられた。『医薬品のがん原性試験に関するガイドラ インの改正について(薬食審査発第1127001号,平成20年11月27日)』によれば,マウスの投 与期間は18ヵ月(78週)以上24ヵ月以内とされており,更に,その注釈の記載内容から試験成 績の評価には生存率 25%以上を確保することが望ましいものと考えられた。したがって,600

mg/kg/日群では生存率が25%まで低下した投与90週に投与を終了し,その後250 mg/kg/日群で生

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存率が約25%にまで低下した投与100週に対照群を含めたすべての雄性群で投与を終了したこと は適切であったと考える。なお,この早期試験終了は米国 FDA の Executive Carcinogenicity Assessment Committee (ECAC)から承認を得た上で実施した。投与104週後,雌の生存率は2つの 対照群が22%及び28%,50 mg/kg/日群が33%,250 mg/kg/日群が27%,600 mg/kg/日群が27%であ った。

いずれの用量においても,腫瘍発生率に対照群と統計学的に有意な差はみられなかった。すべ ての群において,非腫瘍性所見は同様であった。

結論として,サキサグリプチンは約104週間600 mg/kg/日までの用量を投与されたマウスに対 してがん原性を示さなかった。250及び600 mg/kg/日の雄で生存率が低下したが,雄では90週以 上,雌では 104週間,十分な生存率が維持されたので,これらの用量におけるサキサグリプチン のがん原性の評価に悪影響は与えなかった。更に,いずれの用量においても標的臓器毒性は認め られなかった。600 mg/kg/日でのサキサグリプチンの定常時全身暴露AUCは,雄で70436 ng·h/mL, 雌で94393 ng·h/mLであった。

2.6.6.5.3 ラット3ヵ月経口投与用量設定試験(GLP適用)

(概要表2.6.7.7.3,報告書番号019440)

ラットがん原性試験の用量選択に使用された 3 ヵ月経口投与用量設定試験は,第 2.6.6.3.1.3項 に記載した。

2.6.6.5.4 ラット104週間反復強制経口投与がん原性試験(GLP適用)

(概要表2.6.7.10.2,報告書番号021875) サキサグリプチンフリー体を酸性水に溶解し,25,75,150,300 mg/kg/日の用量で各群雌雄60 匹のHarlan Sprague Dawleyラットに最長で104週間まで反復経口投与した。対照群として,1群 雌雄60匹からなる2つの群に酸性水を5 mL/kg/日投与した。投与量はラットにおける3ヵ月用量 設定試験の結果に基づいて設定した(第 2.6.6.3.1.3 項)。死亡,臨床観察(肉眼的又は触診によ る腫瘤の観察を含む),体重,摂餌量,剖検及び病理組織学的検査によって評価した。300 mg/kg/

日の雄において早期に多くの死亡がみられたため投与68週に剖検し,がん原性の評価からは除外 した。雌は全群,投与105週目に剖検した。サキサグリプチン及びBMS-510849の血漿中濃度を 投与 6ヵ月目に試験動物の一部を用いて測定した。がん原性の評価として,生存率に対する薬物 の影響及び腫瘍性病変の発生(Peto-Pike傾向検定)を含めた。

サキサグリプチン及びBMS-510849の平均Cmax及びAUCは雌雄とも,全般的に用量に比例し て増加した(表 2.6.6-4)。300 mg/kg/日では雌雄でBMS-510849の全身暴露が同様であった以外,

サキサグリプチン及びBMS-510849の全身暴露(AUC)は,雄に比べて雌が約1.7~2.9倍であっ た。BMS-510849の暴露(AUC)はサキサグリプチンの暴露の約0.2~0.4倍であった。

300 mg/kg/日の雄は,その生存率が25%に達した投与68週に終了させた。残りの雄全群はその

生存率が2つの対照群で22%及び15%,25 mg/kg/日群が35%,75 mg/kg/日群が27%,150 mg/kg/

日群が27%になった投与99週に剖検したが,以下のことよりその生存率及び投与期間は発がん性

2.6.6 毒性試験の概要文:2.6.6.5 がん原性試験 35

評価に十分なものと考えられた。『医薬品のがん原性試験に関するガイドラインの改正について

(薬食審査発第1127001号,平成20年11月27日)』の注釈には,『最低用量群又は対照群の動 物の雌雄いずれか一方において累積死亡率が 75%になった場合には,その時点でその性の生存例 を屠殺し,試験を終了する』との記載がある。したがって,雄において対照群の生存率が 25%を 下回った時点で雄全群の最終屠殺(投与99週)が決定されたことは適切であり,その時点での評 価対象最高用量150 mg/kg/日群での生存率27%は,試験成績の評価に適切と考えられる生存率25%

以上を確保しており,本薬のがん原性を評価する上で問題は無いと考える。なお,この早期試験 終了は米国FDAのExecutive Carcinogenicity Assessment Committee (ECAC)からの推奨に従って実 施した。投与104週後,雌の生存率は2つの対照群が43%及び42%,25 mg/kg/日群が45%,75 mg/kg/

日群が50%,150 mg/kg/日群が47%,300 mg/kg/日群が50%であった。

300 mg/kg/日の雄では,死亡率の増加に加えて,振戦,呼吸異常(聞き取れる,不規則又は労作),

及び横臥(シアン毒性及びサキサグリプチンの同様の用量で以前にみられた変化に一致),体重 減少(剖検前において対照群と比べて21%減少)がみられた。

評価したいずれの用量においても,腫瘍発生率に対照群と統計学的に有意な差はみられなかっ た。計画屠殺及び非計画的屠殺されたラットにおいて,薬物に関連した非腫瘍性組織学的所見が 脳(雄),肺,眼付属腺,精巣上体,膀胱及び肝臓にみられた。対照群と比べて,限局性単核細 胞浸潤の数及び分布にごく軽度な増加が以下の組織に認められた:肺(肺組織球症,雌75 mg/kg/

日以上),膀胱(雌150 mg/kg/日以上,雄300 mg/kg/日),眼付属腺(雌150 mg/kg/日以上),肝

臓(雄150 mg/kg/日),精巣上体(雄300 mg/kg/日)。単核細胞浸潤は,以前実施したラット試験

の肺,眼付属腺,肝臓において同様の程度でみられていた。薬物に関連した脳の組織学的所見は

150 mg/kg/日以上の雄に限られ,脳梁,尾状核被殻,頻度は低いが視床,300 mg/kg/日では更に梨

状/側頭皮質にみられた。その所見の主な特徴は,神経網変性/粗化,格子細胞細胞質内にミエリン 分解物及び細胞破片を持つ神経膠症であった。脳病変及びそれの発生した用量は慢性探索的CNS

試験(第2.6.6.8.3.1(1)項参照)でみられたものと同じであった。この慢性探索的CNS試験におい

て,雄ラット脳病変はシアン毒性によるものとされ,300 mg/kg/日の雄ラットにおける生存率の低 下のもっともらしい原因と考えられた。更に,慢性探索的CNS試験と同様に,雌においてはその 全身暴露がより高いにも関わらず,このがん原性試験のいずれの用量においても脳病変は発生し なかった。

結論として,雄では150 mg/kg/日まで,雌では300 mg/kg/日までの用量で約104週間投与された ラットに対し,サキサグリプチンはがん原性を示さなかった。300 mg/kg/日の雄において生存率が 低下したが,他の雄では99週間,雌では104週間,十分な生存率が維持されたので,その低下は がん原性の評価に悪い影響は及ぼさなかった。短期の試験と一致して,主な薬物関連の非腫瘍性

変化は 75 mg/kg/日以上でのごく軽度な多組織性単核細胞浸潤,慢性CNS試験と一致する雄にお

ける 150 mg/kg/日以上での神経変性脳病変がみられたが,新たな所見はみられなかった。がん原

性に対する無作用量におけるサキサグリプチンの全身暴露 AUC は,雄で 28274 ng⋅h/mL,雌で 179606 ng⋅h/mLであった。

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