6 カーソル移動制御ソフトウェアのユーザビリティ実証評価
表26 CMC適用によるユーザビリティ評価の指標
有効性(effectiveness) ・操作に混乱を招かなかったか
・指示する方向に正確に移動できたか
効率(efficiency) ・カーソル移動操作が短時間でできるようになったか
・操作しづらかった方向が楽になったか
満足度(satisfaction) ユーザの主観的評価はどうだったか
6.6.2 CMCの効果 (1)有効性
CMC適用後のカーソル軌跡記録より両ユーザとも正確さが向上したように見える.A 氏は総括的な意見からもわかるように,CMCによるベクトル制御は本人の手指動作を補 助するように有効に作用した.しかしB氏は,方向や倍率を個別設定した時には「どち らに動かしたらよいかわからなくなる」という操作への混乱があった.これは慣れにより 解消されるとも考えられるが,B氏のような粗大動作による操作方法は,操作姿勢の不安 定さ等による変動要因が大きいため,個別設定にすると有効性が低下してしまうと推測 する.
(2)効率
カーソル移動時間の変化では,A氏には時間短縮の効果が大きく特定の方向への操作の しづらさが解消され,効率が向上した.一方,B氏からは倍率が大きいほうが楽に操作で きるという意見を得たので,さらに倍率を大きくすることでカーソル総移動時間の短縮 が期待できるが,方向別移動時間比がCMC適用前とは異なる分布を示したことから(図
39(b)),ある倍率以上では操作に対する正確さに影響を与え効率低下の原因になると考え
られる.
カーソル移動時間の変化では,A氏には時間短縮の効果が大きく特定の方向への操作 のしづらさが解消され,効率が向上した.また,初動方向の割合は変化なかったが,ター ゲット接近操作においてCMC適用前に操作がしづらいと回答のあった移動方向Dv,Rd, LdのFwの割合が有意差に増えたことから,効率良く操作がされたことが考えられる.
B氏からは倍率が大きいほうが楽に操作できるという意見を得たので,さらに倍率を大 きくすることでカーソル総移動時間の短縮が期待できるが,方向別移動時間比を見ると
(図39(b))操作時間が短くなった方向もあるが,長くなった方向あったので,ある倍率以
上では操作に対する正確さに影響を与え効率低下の原因になると考えられる.この点は,
初動方向の割合に変化があったこと,特にターゲット接近操作で有意差のあった方向では Dv,Lhを除き,Fw方向の割合が減り,OpやSsの割合が増えていることからも推測で きる.
6 カーソル移動制御ソフトウェアのユーザビリティ実証評価 (3)満足度について
また満足度については前節に述べたようにA氏にとってCMC適用が大変良好であり,
今後も使ってみたいとの意見を得て満足度の向上に繋がった.B氏においては楽に操作で きるようになったとの意見を得たが,最も良好だったのは全方向同倍率での設定であり,
現状のマウスドライバでも対応可能であるため,直接的に満足度向上には関与しなかっ た.以上の検討より,CMCはA氏には効果的に作用し,B氏には制御方向や倍率を個別 に制御すると有効性,効率性の低下を招き,その結果として満足度を低下させる恐れのあ ることがわかった.
6.6.3 他の障害への展開可能性
次に可動域制限がある場合の操作方法の特徴から考察する.A氏のような操作方法をば らつきのある直接操作型とした時,リウマチ等の関節疾患や筋ジストロフィー,筋萎縮性 側索硬化症等の神経筋疾患により,可動域制限や変形がある状態では,同様に個別に移動 方向と倍率を制御することでCMCの独立制御モードは効果的に作用すると考えられる.
一方,B氏の操作方法を粗大動作による交番操作型とした時(交番とは方向と量が変化 するという意味),B氏のような随意的な操作では,カーソル移動経路は本人の代償動作方 法に依存するため,操作の正確さ(有効性)とのトレードオフ[11, 12]ではあるが,本人の 操作(移動量)の倍率を上げて補助することが有効である.なぜならば図37(b),図37(c) が示すように,倍率を上げることで可動域を大きくすることと同等の効果を上げることが できるため,交番操作で代償する必要性が低下するためである.
同様に頸髄損傷等によるマウススティックやタイピングエイド等の自助具を用いたポイ ンティングデバイス操作時にも適用可能であると考えられる.また,アテトーゼや失調等 の不随意運動による交番操作の場合も図35(b)のようなカーソル軌跡を描くと思われるが 対応方法は異なり,CMCの2方向モードを適用し不随意運動に依存しないように制御す ることで利用者本人が意図する操作を実現できる可能性がある.例えば,脳性麻痺や脊髄 小脳変性症等による不随意運動がある場合にアナログ型ジョイスティックやゲームコント ローラ利用時に有効であると思われる.