本章では,操作環境の違いがポインティングデバイス操作に与える影響について検討し た.特に,II期レベルの肢体不自由者のポインティングデバイス操作を想定し,ディスプ レイ設置位置と操作姿勢を変化させた時の影響について,単指でのトラックボール操作に よるカーソル移動実験を実施し確認した.その結果,ディスプレイ設置位置や仰臥位姿勢 での操作時の背上げ角度が,肢体不自由者のポインティングデバイス操作に影響を与えて いることがわかり,以下のような知見を得ることができた.
・ ディスプレイをベッド側面に設置する場合は両側を試してみること.
・ 背上げ角度にかかわらず,ディスプレイが利用者の正面に対峙するように設置する ほうがよいこと.
・ 背角度が変えられる電動ベッドでは,背上げして操作するほうがよいこと.
・ 背上げ角度の影響によって操作に制限を与えないように,操作姿勢への対策を施す こと.
・ 臥位姿勢,ディスプレイ設置位置,そして本人との相対的位置関係を変えた時に は,慣れる時間を確保すること.
これらは,肢体不自由者のポインティングデバイス操作において,肢体不自由者の運動 機能の差異や程度には関係なく必要な支援技術である.つまり,このような検討がなされ ないことで,II期レベルの肢体不自由者のポインティングデバイス操作を困難にし,III期 レベルのパソコン操作方法を適用しなければならない一因となっていると考えられる.
参考文献
参考文献
[1] 人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-ワークステーションのレイアウト及 び姿勢の要求事項; JISZ8515,日本規格協会(2002).
[2] 横溝克己, 小松原明哲: マン-マシンインタフェースと人間との空間的位置関係;エン ジニアのための人間工学,日本出版サービス,第4版, pp.69-75 (2006).
[3] JISZ8519附属書B(参考)効率及び有効性の試験;人間工学-視覚表示装置を用いるオ フィス作業-非キーボードの入力装置の要求事項,日本規格協会, pp.22-29 (2007).
[4] 人間工学-視覚表示装置を用いるオフィス作業-視覚表示装置の要求事項; JISZ8513, 日本規格協会(1994).
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[8] MacKenzie, I. S., Kauppinen, T. & Silfverberg, M.: Accuracy measures for evaluating computer pointing devices;Proceedings of the SIGCHI Conference on Human Factors in Computing Systems, ACM, pp.9- 16 (2001).
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[12] 高橋純, 藤田和弘編著: 障害児の発達とポジショニング指導; ぶどう社, pp.33-35 (1986).
[13] J.Castaing & J.J.Santini著(井原秀俊, 中山彰一,井原和彦訳): 図解 関節・運動器の機 能解剖(上巻-上肢・脊柱編);協同医書出版, pp.79-97 (1986).
[14] 渡辺崇史,畠山卓朗,冨板充,奥山俊博,手嶋教之: 電動ベッド仰臥位姿勢環境にお ける単指でのポインティングデバイス操作の特徴;ヒューマンインタフェース学会論 文誌,Vol.15, No.3, pp.73-82 (2013).
5.1 開発の背景
第3章では肢体不自由者の運動障害機能の差異に依存しない,共通する身体構造に起因 するポインティングデバイス操作の特徴を明らかにし,第4章では操作環境の違いによる 影響について明らかした.これらから得た知見を要約すると,
・ ポインティングデバイス操作に制限を与えないような位置に手指を置くこと
・ 操作手指の動きに制限を与えないように身体の適切な姿勢保持をすること
・ 操作手指の動きを最も活用できる位置にポインティングデバイスを設置すること
・ ディスプレイの側面設置は操作の混乱や巧緻性低下等をまねく場合があるので,正 面に設置するほうがよい
・ ディスプレイと操作者との相対的位置関係を変えた時は,操作に慣れるための時間 を確保すること
である.適切なポインティングデバイスを選定すること,ポジショニングピローや適切な クッション,あるいは装具等を利用して操作しやすい手指位置の確保や姿勢保持をする,
ディスプレイについては,望ましい位置に設置できるように,ベッド用オーバテーブルや パソコン専用スタンドを利用する等の機器選定と支援技術サービスが展開されることが必 要である.ポインティングデバイスや周辺の福祉用具に関する情報は,関連データベース や展示会等にて容易に入手でき,地域の介護・実習普及センターでは機器試用等も可能で
ある[1–5].まずは,このような支援技術が展開されることが,入力デバイス検討モデル
の空白を埋め(図9),肢体不自由者の問題(ニーズ)に対応できると考える.
ポインティングデバイス操作に関しては,オブジェクトを選択しやすくする方法とし
て,Fittsの法則[6]に基づいて,ディスプレイ上にてそのターゲットまでの距離を短縮す
る方法やターゲットを拡大する方法[7],カーソルが選択する有効範囲を広げる工夫等が 提案されている[8, 9].ただしこれらは,目的とする方向と量だけカーソルを移動させる ことができる身体の運動機能を有することが必要である.また,肢体不自由者のカーソル 移動に関する問題に対応するために,カーソル移動方向を90度刻みに回転させる設定が でき,マウス等の入力デバイスの置き方を変更できるようにした頸髄損傷者向けのマウス ドライバ[10]の他に,同様の機能を備え90度ごとに設置の向きが変更できるトラック パッドや,縦または横移動のみにカーソル移動を限定できるジョイスティック[11]等が ある.しかしながら,肢体不自由者は同じ疾患名であっても運動機能の個人差は大きく,
日々の体調や生活環境による影響もあること,進行性疾患であれば肢体不自由者自身の経 時的な筋活動の変化もあることから,さらに多様な傾向を示す[12–14].
5 カーソル移動制御ソフトウェア(CMC)の開発
そこで,肢体不自由者の多様な個別性に対応するポインティングデバイスの操作手段 として,ポインティングデバイスの種類に依存することなく,肢体不自由者の運動機能 に応じて適切なカーソル移動を実現するソフトウェア,カーソル移動制御ソフトウェア (Cursor Movement Control software以下,CMC)を開発した.本章では,CMCの機能と 対応する運動機能障害について述べる.