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図5−14 第10回九州産業大学建築設計競技「既存建築物の再利用」
(2)課題皿「卒業設計」
課題1の作品をさらに密度を上げ、社会的要請にも応えより現実性に帯びた総合的な建築物 としての作品内容をさらに再検討し、図面枚数も5〜6枚程度にし内容・密度を上げていく。
今年3,月に第56回目本建築学会近畿地区卒業設計コンクール出品した作品の指導について述
べる。
1)設定条件の分析・整理
生徒の調べ学習、資料の収集から始まる。
平成10年度、龍野市の全世帯アンケート調査結果(龍野市総務部広報課編集)から龍野市 を将来どのような性格の「まち」にしたいかの10%以上を見ると
山や川を生かした自然環境都市 ・・・・・・・… 26.3%
公園や緑の多い住宅環境都市 ・・・・・・・・… 18.9%
教育施設や教育環境が整った文教都市 ・・・・… 13.4%
史跡や文化遺産の保存された歴史的観光都市 ・… 13.4%
交通網が整い、人が集まる商業都市 ・・・・・… 11.7%
の5つの項目があげられる。龍野の住民は自然環境に恵まれた住宅都市、教育施設・環境の整 備、歴史的観光都市、商業都市を要望している。
次に、表5−1龍野市の各施設整備状況のアンケート調査結果(回答世帯10083戸)から、わ からないと回答した平均比率が19.1%、無回答の平均比率が約8.7%と2つを合計すると 27。8%を占め、全体の4分半1以上となり市民の無関心さがうかがえる。その中で、やや不満、
不満の合計をみると、
幼稚園、小学校、中学校などの教育施設の整備状況… 17.9%
保育所施設の整備状況 ・・・・・・・・・・・・… 18.5%
高齢者福祉の状況 ・・・・・・… ●●●● 33.6%
商店街の整備状況 ・・・・・・・・・・・・・… 4α4%
図書館その他の社会施設の整備状況 ・・・・・・… 30.6%
教育施設、高齢者福祉、公共施設などについてやや不満、不満の比率が非常に高いことがわ
かる。
表5−1 龍野市の各施設整備状況のアンケート集計 (単位:%)
満足 普通 やや不満 不満 わからない 無回答
幼稚園、小学校、中学校など教育施設の整備状況 9.7 50.1 11.3 6.6 16.6 6.3 保育所施設の整備状況 6.1 40.3 11.3 7.2 25.7 9.5
高齢者福祉施設の状況 4.2 31.2 18.3 15.6 22.2 8.5 商店街の整備状況 2.2 29.3 21.7 18.7 17.7 10.4 図書館その他の社会施設の整備状況 6.3 40.8 18.7 11.9 13.4 8.9
また、時代の背景を考え、小学生・児童の殺傷事件、通り魔事件、幼児虐待など子供を対象 とした事件が多発している。地域住民の商店街のおじいちゃん・おばあちゃんの声は「今時の、
若夫婦は孫を連れて遊びにもこない」「孫の世話ぐらいできるのに」、また若い夫婦の声は、共 稼ぎで忙しい「幼稚園が午前中しかみてくれない」「夕方まで、子供を見てくれる所はないか な」と聞こえてくる。
2)目標(コンセプト)の決定
上記の問題点に留意して、設計主旨の5つのポイント ①住民の心のふれあい
②伝統文化の継承 ③町並みの再生 ④ビオトープ
⑤下河原商店街の活性化
を取り入れた計画案が展開されていく。すなわち
古くなった建築物、商店街、人の心、自然の大切さ、生き返らせる計画を考える。
↓
この寺小屋の体験で得た子供たちは、将来への野作りづくり、人の心づくりを担って行く。
↓
平成版寺小屋の設計
この流れから課題は「平成版寺小屋物語」と名づけ、サブタイトルとして「下河原商店街の 活性化を求めて」とした。龍野の下河原商店街を敷地と設定し、町の人の心と建築物の再活用 を考えた計画案が出来上がった。
3)計画条件の設定
①設計予定敷地の見学、その周辺の建築物や自然環境のフィールドワークと写真撮影 ②敷地場所の地図、建築用途条件の調査
③下河原商店街の歴史的な流れ
④将来の都市計画予定の調査(前面道路幅員の拡張など)
4)ブロック分け・ブロックプランの作成 ①住民の心のふれあいとしての広場ゾーン。
②保育、遊戯ゾーン。
③伝統文化の継承として、味噌、揖保の糸(素麺)、醤油饅頭などが製造できるゾーン ④町並みの再生として、外観は江戸時代後期、明治時代の瓦屋根と漆喰壁のゾーン ⑤ビオトープとして、如来寺と小川に蛍や陽炎やトンボが生息できるソーン
⑥下河原商店街の活性化として、目弾生活の必要な食品、雑貨品、本屋などのゾーン の6つの大きなゾーン分けを計画した。
5)計画案の作成
配置図兼平面図が具体的な形として形成される。何度もエスキチェックを終えて、8割程度 出来上がれば、断面図、立面図の検討へ入る。断面図、立面図の再構成をしながら、平面図の 再検討を何度も何度も検討を重ねながら、作品の課題とコンセプトが表現される内容をもつ空 間構成として形成されていく。
指導にあたって、次の3つの観点にたって指導展開を絶えずおこなう。
①教材観…身近な題材、住む町の伝統的な歴史文化の調査をする。
人間と自然との共存の場として考える。
コミュニケーションの場として考える。
家一戸の設計から、地域、町へとの視野を広げる。
②生徒観…設計テーマから何を訴え、何を表現し、どんなイメージをもち、どう図面として 表現できるか生徒とのコミュニケーションを大切にする。
どうか生徒の要望を重視して指導助言を続けていく。
その結果、全体の配置計画として龍野幼稚園から徒歩2分、如来寺、小川、ヒガシマルの醤 油工場、資料館、下川原商店街、近くに派出所のある既存の敷地を設定した。1階には地域住 民が心のふれあう場として中央に円形の「オアシス広場」を設け、小唄三味線教室は「子供の 音楽教室」に、醤油蔵や素麺工場は「体験学習」の場に、本屋は「簡易図書館」に、魚屋、饅 頭屋は親たちの「買い物の店」に、地蔵小屋は「遊び場」に変わる。2階には安全性を重視し た保育室、遊戯室、IT教室などを設けた保育空間が構成される。木製のオープンスペースは 多目的な空間として用いられ、正面に龍野城や鶏籠山を見ることができ、四季折々の木々の変 化を楽しむことが出きる。全ての建築設計教育の内容が集約完成された作品といえることが出 来る。その作品を図5−15・16・17・18・19に示す。
日本建築学会審査委員長講評:この計画は、城下町である龍野を舞台に、町並み保存とさら には街の活性化のその両方を担う核的施設を考えられたものである。龍野は、河川と山並み自 然と、瓦屋根と白と黒の壁塀、そして、味噌醤油蔵群など、失われつつある城下町の昔ながら の素朴さと地域性がまだ残る数少ない街である。この計画を見る限り作者は、この町並みに愛 着と親しみを持ち、そして、ここで想定される場所の選択や商店街が抱える問題など、この地 域の特性と現状をよく理解していることが解る。問題提起に対し、その建築的解決に正面から 挑み、醤油蔵群の保存と景観の再生、さらにはその建築物の保存的な形態だけに終わらず、街 の活性化を促す仕掛けを考え、商店街や自然のふれ合い、住民達の地域愛などの大切さを取り 戻そうとする、再生に向けたしっかりとしたコンセプトを掲げ、全体計画を見事にまとめあげ ている。高校生とはおもえないような大人の設計である。工業高等学校で唯一審査員満票を得 た作品である。
作品は目本建築学会近畿支部 http://news−sv. aij. or. jp/kinki/で紹介されています。