• 検索結果がありません。

52

第1節

53

Scheme 2-3

・ジアリールエーテルの脱水素型環化反応

Pd触媒によるジアリールエーテルの脱水素を伴った酸化的環化反応による合 成法も検討されている。Itataniらの報告例は遷移金属触媒によるジベンゾフラン 合成の最初の例である(Scheme 2-4)4a)。その後Fagnouらにより改良型の触媒 系が報告されている(Scheme 2-5)4b)

Scheme 2-4

Scheme 2-5

54

・2-アリールフェノールの脱水素型環化反応

オルト位にアリール基を有するフェノール類の脱水素を伴った酸化的環化反 応はこれまで3例報告されている。最初の2例は、Pd触媒5a,5b)による反応例で あるが、ごく最近になり安価な銅触媒 5c)でも進行することが明らかにされた

(Scheme 2-6, 2-7, 2-8)。

Scheme 2-6

Scheme 2-7

Scheme 2-8

55

・2-アリーロキシ安息香酸の減炭型環化反応

2-アリーロキシ安息香酸を用いた環化反応が 2 つの研究グループから独立に 報告された。最初の報告例はCrabtreeら6a)によるもので、二価のPd触媒と銀塩 を用いる減炭型環化反応であるが、本論文中では反応例は 1 例のみとなってい

る(Scheme 2-9)。その後、Gloriusら6b)によって改良型の反応系が報告され、様々

な基質が適応可能であることが示された(Scheme 2-10)。 Scheme 2-9

Scheme 2-10

これらの反応系では、カルボン酸の脱炭酸反応が鍵過程とされており、以下 に示す反応機構が提唱されている(Scheme 2-11)。まず、銀塩によってカルボン 酸の脱炭酸が進行し、Pd(II)種との間でトランスメタル化、続いてフェノキシ基 のオルト位上でC-Hアリール化反応が進行する。そして、六員環パラダサイク ルを形成後、還元的脱離によりジベンゾフランと Pd(0)が生成する。生成した

Pd(0)は銀塩により再酸化されてPd(II)が再生し、触媒サイクルが完結する。近年、

このような脱炭酸を鍵としたカルボン酸を用いるカップリング反応が数多く報 告されている7)

56

Scheme 2-11

第1章において、著者はIrやFe触媒を用いて長鎖脂肪族カルボン酸の反応を 行うと脱カルボニル化反応が進行し、オレフィンが効率良く得られることを示 したが、この反応系を 2-アリーロキシ安息香酸の環化反応に適応した場合、脱 炭酸ではなく、脱カルボニル化を伴った環化反応が進行し、ジベンゾフランが 得られてくるのではないかと考え、種々検討を行った(Scheme 2-12)。

Scheme 2-12: This work

その結果、遷移金属触媒としてRh触媒を用いることで、2-アリーロキシ安息 香酸の脱カルボニル的環化反応が進行し、ジベンゾフラン類が高収率で得られ ることを新たに見出した。さらに、2-アリーロキシ安息香酸エステルを基質とし た場合には、Ir触媒を用いることで同様の環化反応が進行することも明らかとし た。以下、第2節では2-アリーロキシ安息香酸の脱カルボニル化的環化反応に おける最適条件および基質一般性の検討結果について述べ、第3節では反応機 構に関する考察について述べる。そして、第4節では、2-アリーロキシ安息香酸 エステルの脱カルボニル的環化反応における反応条件の最適化検討について述 べる。

57

第2節

反応条件の最適化および一般性の検討

1. 反応条件の最適化

基質として2-フェノキシ安息香酸(1a)を用い、脂肪族カルボン酸の脱カル ボニル化反応において効果的であったKI(触媒に対して10当量)とAc2O(3 当量)を添加した系において、種々の金属錯体を用いて検討を行った。結果を Table 2-1に示す。

Table 2-1

触媒としてIrCl(CO)(PPh3)2や[IrCl(cod)]2を用いて160 ℃、20時間反応を行っ たところ、目的のジベンゾフラン(2a)が僅かではあるが確認された。この時、

キサントン3aが低収率ながら生成していた。これは、脱カルボニル化せずに環 化反応が進行して得られたものと考えられる(entry 1-2)。Fe触媒(FeCl2/DPPPent)、 Pd触媒(PdCl2)、Ni触媒(NiCl2)を用いて同様の反応を行ったが、収率の向上

58

は見られなかった(entry 3-5)。触媒を[RhCl(cod)]2に変更して検討を行ったとこ ろ、期待した環化反応が良好に進行し、ジベンゾフランが 88%の収率で得られ た(entry 6)。[RhCl(CO)2]2を用いてもほぼ同様の結果が得られた(entry 7)。

検討の結果、本反応においては脂肪族カルボン酸の脱カルボニル化反応にお いて活性を示したIrやFe触媒はほとんど機能せず、Rh触媒が高い活性を示す ことが明らかとなった。

次に、[RhCl(cod)]2を触媒とする系において、KIとAc2Oの当量数について検 討を行った。結果をTable 2-2に示す。

Table 2-2

添加剤無しの場合、反応は全く進行せず、原料が回収された(entry 2)。KIの みの場合でも結果は同様であった(entry 3)。Ac2O のみを添加した場合、2a の 収率は大幅に低下した(entry 4)。Ac2OとKIの当量数をentry 1の条件から半分 にして検討を行ったところ、若干の収率の低下が見られた(entry 5-6)。

59

検討の結果、反応を効率良く進行させるためには、KIとAc2Oは共に必要で あり、KIは触媒に対して10当量8)、AC2Oは基質に対して3当量用いた場合に 良好な結果が得られることが明らかとなった。

続いて、[RhCl(cod)]2触媒、KI、Ac2O添加系において、反応温度の検討を行っ た。結果をTable 2-3に示す。

Table 2-3

反応温度を160 ℃から下げるにつれ2aの収率に低下が見られた。これにより、

本反応は温度に対して敏感なことが明らかとなり、160 ℃を最適な反応温度と した。

60

これまでの検討においては、無溶媒条件下にて検討を行なってきた。そこで、

溶媒により反応の加速化が見られるのか検討を行った。結果をTable 2-4に示す。

Table 2-4

NMP、DMPU、DMFなどの高極性溶媒を用いた場合、反応効率は大きく低下 した(entry 2-4)。diglyme溶媒として用いた場合、収率は中程度に留まった(entry 5)。o-キシレン、ノナンなどの低極性溶媒を用いた場合には、無溶媒条件と比較 すると若干の収率低下が見られたが、比較的良好な収率で2aが得られた(entry 7-8)。

検討の結果、本反応系は溶媒の使用による効率化は特に認められなかったこ とから無溶媒での反応を追求することとした。

61

以上の検討結果を踏まえて、最後に異なるRh触媒による検討を行った。結果 をTable 2-5に示す。

Table 2-5

[RhCl(CO)]2を触媒として用い、反応時間を10時間に短縮して検討を行ったと

ころ、収率に低下が見られた(entry 3)。一方、[Rh(OH)(cod)]2やRh(acac)(CO)2

を触媒として用いた場合、反応時間10時間で[RhCl(cod)]2および[RhCl(CO)2]2触 媒を用い20時間反応を行った結果と同程度の活性を示すことがわかった(entry 4-5)。Rh(acac)(cod)2触媒を用いた場合、2aの収率が91%に向上し、本触媒が最 も高い活性を示す触媒であることが明らかとした(entry 6)。Rhの0価錯体、2 価錯体、3価錯体も本反応においては活性を示したが、反応効率はRhの1価錯 体に比べ低下した(entry 7-9)。

以上の検討結果より、本反応の最適条件を触媒: Rh(acac)(cod)、添加剤: KI、 Ac2O、反応温度: 160 ℃、反応時間: 10 時間とした。

62

2. 基質一般性

最適条件の下、様々な2-アリーロキシ安息香酸類を用いて基質一般性の確認 を行った。結果を以下に示す(Scheme 2-13)。

Scheme 2-13

フェノキシ基のパラ位に電子供与性置換基(Me、OMe)を有する基質を用い た場合、対応するジベンゾフランが良好な収率で得られた(2b2c)。フェノキ シ基および安息香酸の芳香環上のハロゲン基(F、Cl、Br)を有する基質を用い た場合、官能基を損なうことなく反応が良好に進行した(2d2i)。フェノキシ 基のオルト位にメチル基を有する基質を用いて検討を行ったが、反応は問題な く進行した(2j)。1-ナフトール由来の基質の場合、芳香環が連結したジベンゾ フランを合成することができた(2k)。

メタ置換のフェノキシ基を有する基質についても検討を行った。2-ナフトール 由来の基質1mを用いて検討を行ったところ、反応は良好に進行したが、生成物

63

は位置異性体の混合物として得られた(Scheme 2-14)。2点存在する反応点の立 体反発の少ない側で環化反応が進行した位置異性体 2m が主生成物として得ら れたが、選択性は低かった。

Scheme 2-14

一方、フェノキシ基上のメタ位にメチル基を有する基質1nを用いた場合、位 置選択性が向上し、立体障害の少ない反応点で環化が進行した2nが98%の選択 性で得られた(Scheme 2-15)。さらに、フェニル基を有する基質1oの場合には、

位置異性体は全く確認されず、単一の生成物2oが良好な収率で得られることが わかった(Scheme 2-16)。

Scheme 2-15

Scheme 2-16

64

最近、Pd 触媒を用いてフェノキシ基上のオルト位にブロモ基を有するカルボ ン酸から脱炭酸と脱 HBr 反応を経た環化反応により、ジベンゾフランを合成す る手法が報告されている(Scheme 2-17)9)。この触媒系では、Crabtree6a)やGlorius6b) らの系と異なりオルト位の炭素-水素結合は保持され、炭素-臭素結合が選択 的に切断される。

Scheme 2-17

この基質を本触媒系に適応したところ、炭素-臭素結合は保持され、これま での検討結果と同様に炭素-水素結合の切断を経た環化体2pが74%の収率で得

られた(Scheme 2-18)。したがって、本反応において得られる生成物をクロスカ

ップリング反応により官能基化可能なことが考えられる。

Scheme 2-18

実際に検討を行った結果、2pとフェニルボロン酸との鈴木-宮浦カップリン グ反応を行った場合、対応するカップリング体2qが95%の高収率で得られた

(Scheme 2-19)。 Scheme 2-19

65

本系において得られるその他の炭素-臭素結合を有するジベンゾフラン2f2iにおいても変換反応を行うことができた。例えば、2fとフェニルアセチレン との薗頭反応を以下の条件の下行ったところ、期待した反応が良好に進行し、

対応するカップリング体2rが82%の収率で得られた(Scheme 2-20)。また、2i とスチレンとの溝呂木-ヘック反応においては、スチリル基が導入された生成 物2sを高収率で合成することができた(Scheme 2-21)。

Scheme 2-20

Scheme 2-21

関連したドキュメント