第1節 慢性疾患児のinformationneeαs尺度試案の作成について 本稿は、needsassessmenttoo1開発の1つとして、r情報」に焦
点をあてたinformationneeds尺度試案の作成を試みた。
informationneedsの尺度は海外においては、多くの尺度が開発さ れているにもかかわらず、日本ではほとんど使用されていない状態 である。日本においては、医療スタッフと患者との間にはパターナ リスティックな関係が残り、患者は医療スタッフに本心を明かさな い可能性があり、医療サイドも患者のinformationneedsに対して 過小評価する傾向がある(大木・福原1997)といわれている。小児医 療に関しては、母親自身が医療スタッフに対して「子どもを人質に 捕られている」という意識があり(弐木クレイグヒル2000),筆者自身 も関わった患児の母親全てからr人質」という言葉を耳にしている。
このような環境下では、患児が自身のneedsを表出する機会を得る ことは困難なことと思われる。よって、本稿では、患児を主体とし て捉えることが困難である小児医療の領域で、患児のneedsを患児
自身に問う方法論の1つとして、informationneeds 尺度試案の
開発を試みた。
尺度試案の理論的枠組みには、多くのinformationneeds尺度の ベースとなっているDerdiarian(1987)の「lnformationalneedsof
recently diagnosed cancer p&tients:Atheoretical frame work」を
採用した。Derdiarianの開発したDerdiarianInform飢ionalNeeds Assessment(DINA)の特徴は、疾患を生物医学的視点からのみ捉 えず、患者の主観的経験に基づいた心理社会的視点を加味した領域 である「PersonalConcemsj(がんへの恐怖心・ボディイメージの 変化に対する不安・将来のこと)・「FamilyConcems」(親・きょう だいとの関係の変化・大切な人との関係の変化)・「SocialConcems」
(他のがん患者との人間関係)を取り入れていることである。しかし ながら、informationneeds尺度の多くは看護の領域で開発されて いるため、「医療」に関する項目がほとんどを占め、心理社会的な事 項はあまり重要視されていない傾向もある。
本稿において、尺度の項目は、P&tientLeamingNeeds Scale
(PLNs退院患者用)TorontolnformationNeedsQuestionnaire・
Breast Cancer(乳がん患者用)を邦訳・参照し作成した。PLNSは、
1990年にGalloway等によって開発された退院患者用の尺度である。
「退院」というキーワードにふさわしく、心理・社会的視点を捉え た項目を有し、本稿における尺度開発には適した資料となった。ま た、TorontoInformationNeedsQuestionnaire・BreastCancer(乳 がん患者用)も、乳房切除という乳がん患者特有のボディイメージの 変化に焦点をあてた項目を有した尺度で項目を作成する上で大変参 考になる資料であった。
今回の尺度試案では、「医療」の領域は当然ながら、心理社会・特 に教育の領域においての項目を取り入れた。これは、病気の子ども にとっての教育であるr病弱教育」は、子どもたちのQOL向上に は欠かせない最重要要素であり、子どもたちにとって「学校」は最 も身近な社会と捉えたからである。「学校」に関する項目は、プリテ ストの実施と、キャリーオーバーした慢性疾患患児や院内学級担当 教師からの経験的な意見を参考に選定した。その後の記述質問の分 析やフィールドワークなどから、本尺度の「学校」項目に共通する事 項が多く認められており、「学校」に関する項目内容の妥当性は高い と判断した。しかしながら、子どもたちのneedsが多様化している 現在、慢性疾患児のneedsを把握するためには、さらなる項目を検 討する必要があるだろう。
因子分析の結果では、3因子が明確に抽出されたが、先行研究で は、より仔細な因子が抽出されており、今後もそれぞれの領域で項 目を作成することが必要である。本稿では、探索的因子分析のみの 分析となったが、今後は検証的因子分析を行い、適合度を抽出し、
精度を高めていくことを課題としたい。
第2節 慢性疾患児のinformationneedsの量的分析について 本稿の対象者は慢性疾患児ではあるが、実際には小中学生時に入 院経験のある15歳以上のキャリーオーバーした慢性疾患者という 元患児である。分析対象には、現在も学齢期にある患児も含まれて いるものの、実際には「大人」の視点が多く含まれていると思われ る。本来ならば、今現在の患児を対象とすべきではあるが、本稿の 質問紙には「告知」や「ボディイメージ」など患児に直接心理的影 響を及ぼす可能性のある項目も含まれており、患児に対してこれら
の事項を直接質問紙のみで扱うには危険性があると判断し倫理的な 配慮の面で、対象者をかつて入院経験のある慢性疾患患者とした。
以上のことより、本稿は後方視的な研究となり、今現在の患児の needsを明確に捉えているとは言いがたく、研究としても1つの限 界と捉えていきたい。対象者のサンプリングについても、筆者の乏 しい資源の結果、統計的に偏りのあるサンプルとなった。因子分析 を行うにあたっては、サンプルサイズは十分ではあったが、疾患別 の分析では、統計的には問題のあるサンプルサイズとなり、本稿は ひとつの傾向という結果であり、今後はそれぞれの疾患で対象者を 増やし、再検討する必要がある。
しかしながら、慢性疾患者全体の分析では、多くの特徴を得た結 果となった。欠損値の分析では、共通質問では、1項目のみ検討す べき項目が認められたが、19項目においては慢性疾患児に共通する 質問として使用可能と判断した。今後疾患別の尺度を開発する際に は、本稿での共通質問に欠損値を検討した選択質問を加え、作成を 進めていきたい。
慢性疾患児のinformationneedsの特徴の1つとして、「医療」の 領域に高いneedsがあるという結果が認められた。これは、先行研 究でも同様の結果が得られている。患児たちが「医療」の領域の情 報を大切だと感じ、知りたいということは、患児へのインフォーム
ドコンセントの必要性を示唆するものである。
しかしながら、患児に対する情報提供、いわゆるインフォームド コンセントは大人以上の重要性を持つ。それは、子どもはr常に成 長・発達し続ける存在である」という特質をもつが故に、大人サイ
ドでは子どもを捉えにくく、的確な情報提供が困難であることがあ げられる。また本来インフォームドコンセントは、意思決定主体の 文脈で問題とされてきたものであるが、子どもの場合は、結果発生 主体との関係でも重要なものと考えなければならない(加部・後藤 1998)とされている。つまり大人であれば、情報提供によって自分 の意思を決定し、自分で結果を引き受ける意思決定主体=結果発生 主体で処理できるが、子どもは多くの場合自分の意思で決定できな いにもかかわらず、結果発生主体になるという状況(何らかの医療処 置をする)になる。それゆえ、例え子どもが自己決定できなくても、
子ども自身に病気についての情報を知らせ、理解させ、納得させ、
意見を聞くことが重要となる。しかしながら、本郷ら(1997)の小児
がん患児に対するQOL研究において、r自分の病気に対して知りた くない」という回答が頻度として多く認められている。つまり、「知 りたい情報」とr知りたくない情報」が存在することも忘れてはな らない。これらの事を加味して子どもに情報提供を行う場合は、情 報は子どもにとって「最善の利益」と判断して提供されなければな らない。その判断は、権利主体である子どもの視点に立って行われ るべきであり、情報の必要性、内容については患児のinform段tion
needsを患児に直接問うことが不可欠となり、そのための
informationneeds測定は、子どもにとって必要な情報と大人(医療 者・親)が子どもに必要だと考える情報の認知的な差異を最小限にす る方法論の1つとして、重要と思われる。以上のことより、これか らの小児医療においては、患児自身に対する情報提供の重要性(告知 も含む)を深遠に理解しなければならないであろう。
次に慢性疾患者が高いneedsをもちながら、実際には情報が欠如 している」とする現実的な課題として重要な事項を算出した。結果 は「心理・生活」の領域の項目が上位を占めていた。この結果は、
患児は心理的援助の情報を必要としているにもかかわらず、その情 報が満たされていないという特徴を示すことになる。慢性疾患児の 心理的問題に関しては、医療・心理・教育の領域で多く取り上げら れている。欧米の病院では、チャイルドライフスペシャリストやプ
レイセラピストの活躍により患児への心理的アプローチがなされて おり、学校復帰に関しても、アメリカでは制度が確立し、チェック リストやガイドブックに基づいた患児の復学が日常化している(東 山1997)。しかし、日本の診療報酬体制では、心理社会的支援技術 が無形の技術として位置付けられ、治療や検査など有形の技術に対 して低く評価されており、このように心理的支援の資源が乏しい日 本では、性急に支援体制が整うことは難しいと思われる。このよう な状況の中で、最も心理的支援の期待となるのが病弱教育であり、
病弱教育担当教員と思われる。昭和30年代後半頃までの結核全盛 期の病弱教育は病気を克服させる取り組みが中心であったが、その 後慢性疾患の増加により病気と共に生きていくという共病が中心と なり、昭和60年代頃からは心身症の増加により、カウンセリング マインドを取り入れたかかわりをもっている(横田2000)。 筆者が 実際に経験した院内学級でのフィールドワークにおいても、院内学 級と担当教師は、教育を通して患児とその家族に対して心理的アプ