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 本稿の目的は、慢性疾患児のinformationneedsを量的及び質的 に検討するものである。実際には、統計的な量的研究とそれを補完 する目的として質的研究を行った。これは、質的研究と量的研究が 排他的な関係ではなく互いに補い合うようになれば、より精度の高 い結果が抽出できるのではないかという1っの方法論への試みでも

あった。

 研究を分類する場合、「量的研究」とr質的研究」に大別すること が多く、量的研究とは、一般的に「統計学に依拠し、数字に還元し て分析する研究」(福島2000)と定義づけられている。対して「質的 研究」とは、数字に還元する統計学に頼らず、人々が実際にどのよ うに行動するのかなど、ある現象の意味の真相を多元的に知り、そ の中の変化の過程を把握することを目的としている(長谷2000)。量 的研究と質的研究を二分法的に比較すると、量的研究は、演繹的推 論に基づいて尺度などを使用して統計的に標本を抽出するもので、

質的研究は、帰納的な推論で観察や面接を通じて理論的標本を抽出 するものである。そして、量的研究においても質的研究においても、

それぞれ限界や問題点を有している。

 本稿で、第2章から第3章までにおいての量的研究の限界は、ま ず第1にサンプリングの問題があげられる。本稿の対象者は、患者 会に属している人々である。この対象者が質問紙に回答する場合、

「患者会」に属しているという条件がなんらかの反応バイアスを引 き起こす可能性がある。例えば、患者会に属する動機が情報収集の ためであれば当然inform&tionneeds及びseekingは一般的な患者 よりは高くなる。また、患者会に属する人々の中で生まれたインフ ォーマルな集団規範がなんらかの影響を与えているかもしれない。

そのような意味では、対象者を入院中または通院中の患者を無作為 に抽出した場合のほうが、反応バイアスの介在を抑えることができ るであろう。無論完全に反応バイアスを統制する方法など存在しな いが、今後はできるだけ反応バイアスを抑えるサンプリングも検討

しなければならない。

 本稿の量的研究における第2の問題点は、データが後方視的なも のであるがゆえの対象者の内省能力の限界が上げられる。過去の経 験であるr入院時において、患児であった対象者がどのように感じ

たか」という事項が、r過去の入院時において、現在の大人である対 象者がどのように感じたか」に摩り替えられる可能性が指摘できる。

つまり、多くのことを経験した大人の視点をもつ対象者の知識や信 念が、子どもの視点の内省にバイアスをかけ、、測定の妥当性を低下 させている可能性が高いということである。これは後方視的研究の 欠点でもあり、今後は今現在の患児を対象とした研究が望ましいと

思われる。

 統計学は論理的には美しいものであるが、上述のように限界や問 題点もあげられる。統計的検定とは、そもそも第一種の過誤を低減 させるように高度に体系化されたものであり、判断の材料ではある ものの判断そのものではない(佐藤2002)ことを忘れてはならない。

もともと、どのような心理現象にも非常に多くの変数が複雑に交絡 し合い関与しており、これを数量に還元することには限界があって 当然といえる。実際に心理尺度や統計手法を駆使した研究結果は、

臨床現場の実感とは違ったり、本質とのずれが生じたりすることは 多くある(高橋2000)。人々は実際にはどのように行動するのか、

人々が自身の経験や行動を述べる言葉の裏にはどのような意味があ るのかなど、量的研究では手に負えない複雑な現象や領域において 質的研究はその価値を発揮するものと思われる。

 本稿の第4章における質的分析は、上述で指摘した量的分析にお ける限界を補完する目的として実施した。尺度で提示された心理量 の妥当性の検討と、数字では表出できない現場の心理現象を探るた めである。方法としては、院内学級へのフィールドワークと患児へ の半構造化面接を実施した。質的研究の問題の1つとして、調査者 のバイアスの問題があるがこれは筆者が初心者フィールドワーカー として最も苦慮した問題でもあった。

 フィールドワーカーが、フィールドに入って最初に直面するのは、

「私は一体何者なのか」というアイデンティティクライシスの問題 である。この問題は、第14回発達心理学会のシンポジウムrフィ ールドの狭間でもだえる自己」の中でも取り上げられており、多く のフィールドワーカーが直面している。例えば、看護師の場合、か つては看護スタッフとして医療者サイドに帰属していたが、病棟に フィールドワーカーとして入ることで一時的に看護スタッフではな い研究者としての自己と出会うことになる。筆者の場合は、教師と しての自己、研究目的の院生としての自己、そして患児の母親とし

ての自己、この三者の自己がフィールド内に介在し、より複雑なア イデンティティクライシスを経験することとなった。中でも患児の 母親としての自己を統制することは難しく、観察者としての自己に 大きなバイアスを与えていたと思われる。反面、「患児の母親」とい う経験値が、フィールド内での患児たちの母親と短期間でラポール を成立させることができたのも事実である。半構造化面接において も、常に逆転移している自身を意識しながら「母親」という自己を 統制してインタビューを実施するのは難しい。この質的研究におけ る問題点をいかに解決するのか、現在もフィールドワークを継続中 である筆者の大きな課題である。

 方法論に関する議論の中では量的と質的の区別が明確で対立的に 述べられている場合も多いが、今日では、量的・質的と区別するこ とは不必要な亀裂を生み、学問の発達にはほとんど貢献していない という認識が社会学では高まっている(大滝ら1999)。量的研究と質 的研究の統合に関する位置づけは研究者によって多様である。筆者 は、フィールドワークを潮流とした佐藤(1992)の「恥知らずの折衷 主義」とも呼ばれるマルチメソッドの発想よりも倉沢ら(1986)の「モ ノメソッドではなく、量的質的方法にまたがるデュアルないしマル チプルなメソッド」に質量統合の意味と理解している。特にトライ アンギュレーション(triangul&tion:研究視点の輻湊化・異なる方法

論の併用)によって妥当性を検討する作業の一部にもなり得る

(Pope1996)と言われており、今後はより精度を高めた量的及び質的 研究を行いたい。

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