1.本研究の概要
本稿では,Resource Developmeht and Installation(資源の開発と植え付け;以下RDI)
について想起する記憶を操作的に定義した上での効果を検討することを目的として検討を 行った。Eye movement Desehsitization and Reprocessing(眼球運動による脱感作と再処 理法;以下EMDR)及びRDIは,近年Post Traulnatic Stress Diso楓er(心的外傷後スト
レス障害;以下やTSD>を初めとした様々な心理的障害に対してのアプローチが検討され 始め,行動療怯や認知行動療法などとの効果の比較研究が検討され始めている心理療法で ある(e.g., Van E枇en&Taylo罵1998;Devi11y&Spence,1999;Bradley;e七.al.,2005;
Muris, et.al.,1995;1997;1998;Twomb取2000;Fensterheiln,1996;鈴木,2003;K6搬&
Leeds,2002;Ichii,2003;城開,2004;上原,2005;岡田,2006;東郷,2007)。
しかしながらこれらの研究は,・事例検討的な内容の研究(e.g.,鈴木,2003)や,実験者が
EMDRのトレーニングを適切に受けていないもしくは,適切なEMDRの手続きに則って
いない研究(e.g., Devilly&Spe丑ce,1999),または, RDIに用いる記憶¢)内容の検討が不十 分であるといった問題(e.g.ラ上原,2005;岡田,2006)などが存在し, EMPR及びRDIに用 いる記憶の効果についての検討の必要性が残されていた。
また,先行研究におけるRDIの効果検討での実験協力者は,抑うつ傾向の高い大学生・
大学院生の実験協力者に限定されており,今後抑うつ傾向以外の対象についてもRDIの効 果を検討する必要性が考えられる。このように,RDIにおいて,想起する記憶を操作的に 定義した上での要因分析の検討は本邦では見当たらず欧米においても見受けられない上に 上記のような問題が山積していた。
そこで本研究では,A1{b塾。, et.a1.(1994)において,抑うつ傾向との相関の高いシャイネ スという個人差要因に対して想起する記憶の内容によるRDIの効果を検討することを目 的として研究を行った。
まず,本研究で用いるシャイネスの定義を,先行研究(e.g., Cheek&Buss,1981;Cheek &Melchio蔦真990;Cheek&Watso駐,1989;Lang,1968;Lang,1977;Leary;1983;
・51一
Leary;1986;Pilkoロis,1977;菅原,1998;Watson&:Friend,1969)をレビューした上 で「現実の,あるいは想像上の対人場面において,他者からの評価に直面したり,もし
くはそれを予測したりすることから生じる不安状態であり,そのシャイネスの反応は,
認知・生理・行動といった3側面から構成されており,その3側面を総合的にとらえる
.べきものである」と定義を行った。
そして,実験協力者の選別のために既存のシャイネスを測定する尺度のうちで,上記 の定義に適した形で認知・感情・行動というシャイネスの3側面を多面的に測定するこ
との可能な尺度としてWaseda Shyness Scale(早稲田シャイネス尺度;以下WSS)を用 いて,シャイネス傾向の高い実験協力者を選別した。
さらにRDI忙用いる記憶を操作的に定義するために,対処したい問題と関連の強い記 憶として,「同一線上の記憶」,関連の無い記憶としで「非同一線上の記憶」,そして,
対象者が実際に体験したことのある記憶としそ,「実体験の記憶」,対象者が実際に体験 したわけではなく他者やアニメのキャラクターなどの対処し旧い問題に対して高い能力 を有すると被験者が感じる「モデルとしての記憶」という記憶を定義してRDIによる介
入を行った(Figure.3,参照)。
さらに榊(2005)は,想起する記憶の重要度が感情の制御に有効であると述べているこ とから,RDIに用いた記憶の重要度の高低及び,東郷(2006)の述べている記憶の鮮明度 の高低におけるRDIの効果を検討することも目的として研究を進めた。
2.本研究における成果
2,1.研究1における成果
研究1では,先に述べたRDIの先行研究の問題点のうち, RDIに用いた記憶の内容の 混在に着自し,記憶の内容を操作的に定義した上でRDIの効果の検討を試みた.その結果,
想起する記億が異なる4群全てにおいて,SUDsの低下, VbRの増加, PANAS?の増加 及びPANAS・Nの低下というRDIの効果が示された。また,本来ポジティブ感情の増進
という目.的で行うことの多いRDIにおいて, PANAS・Nの得点の減少というネガティブ感
情が減少するという効果が示されたことは,今後のRDIの実施に際して重要な示唆を与え るものと思われる。
また,これまで想起する記憶を操作的に定義した上でのRDIの効果の検討は不十分な検 討に終わっていた(e.9.,上原,2005;岡田,2006)。本研究の結果より,実体三一モデルと いった要因よりもむしろ,シャイネスを感じた場面に直接関連する可能性のある場面での 例外的な成功体験という同一線の記憶よりも,シャイネスを感じる場面と非関連にポジテ ィブな記憶という非同一線の記憶のほうが,RDIは効果を示すという結果が見られた。こ の結果は,これまでRDIに用いる記憶の選択を対象者に委ねていたことを考えると,治療 者がより効果的な記憶を選択できる可能性を示唆しているという点で,研究1は非常に意 義深い結論であったと考えられる。
2、2.研究耳における成果
研究Hにおいては,:RDIに用いる記憶を実験協力者にとっての重要度の高低と鮮明度の 高低という要因によって区分したうえで,RDIの効果の検討を行った。
その結果,鮮明度の高低というよりもむしろ重要度が高い記憶を用いてRDIを実施した ほうがより効果が高いことが示された(Figure.8,9,10参照)。自伝的記憶の保持には質的に
異なる複数の水準があると考えられ(Christianson&Engelberg,1999;Healy&
Williams,199の、重要度の高い記憶は重要度の低い記憶とは異なる水準で保持されていた と考えられる。この重要度の高い記憶のほうが感情制御に効果的であるという結果につい て榊(2005)は,重:要度の高い記憶というものは,感覚・知覚レベルの保持がなされており,・
そのために重要度の高い記憶のほうがより当時の感情を想起させやすいと述べている。ま た,Conway&Pleydell・Pearce(2000)1ま,感覚・知覚レベルの記憶のほうがよりあたかも 今その出来事を体験しているかのように感情を再体験することが出来ると述べている。こ れらのことから,本研究において重要度の高い記憶を用いて1もDIを実施した群のほうがよ
り当時の感情を想起することができ,結果としてポジティブ感情の増加につながったので はないかと考えられる。
本研究の結果は,RDIによる自尊:心の向上の検討を目的として行った東郷(2006)と剛叢 の結果となり,RDIを行う際には用いる記憶を重要度の高い記憶で行ったほうがより効果 的であるという先行研究を支持した。これらのことより,本研究の結論は,シャイネスに
.53.
対してもRDIによってポジティブな自伝的記憶を想起する介入により,ポジティブ感情の 増加が示された点や,研究1と同様にRDIに用いる記憶をより効率よく選択することの出 来る可能性を高めたという点において非常に意義深いと考えられる。
3.今後の検討すべき課題
3.1.さらなる要因分析
本研究においては,同一線一非同一線及び実体験一モデルという2次元及び,重要度と 鮮明度の高低においてRDIに用いる記憶を操作的に区分してRDIの効果の測定を行った。
しかしながら,自伝的記憶と感情との関連は上記のような2次元のみで区分されるもの ではない。例えば,自伝的記憶について榊(2007)は,階層線形モデルによる分析を行って いる。その結果,自己嫌悪や恥ずかしさといった感情は,友人関係についての記憶よりも 勉強に関する記憶領域において関連が強いことを示している。したがって,これらの感情 を感じている場合には,勉強に関する記憶領域は感情の影響を受けやすく,ポジティブな 記憶の想起と同時にネガティブな記憶も同時に想起してしまう可能性が示唆される。その ため,自己嫌悪や恥ずかしさを感じているときには,勉強に関する記憶ではなく,友人関 係に関する記憶に注意を向けることで悪循環を回避できると述べている。
この結果は,対象者個々人の問題に応じてポジティブ感情を促進し,ネガティブ感情を 抑制しうる適切な記憶があることを示唆しており,今後このような自伝的記憶の領域構造 についての検討も必要であると考えられる。
また,西村・長瀬・寺田・王(2004>は,自伝的記憶と非自伝的記憶の想起に伴う脳神経 活動について,fUnctional Magnetic Resonance Imaging(以下;fMRI)を用いて検討して いる。その結果,自伝的記憶の方がより脳の活動範囲が広いことを明らかにするのと同時 に,新しく否定的な記憶く新しく肯定的な記憶く古く否定的な記憶く古く肯定的な記憶の順 で脳の活動範囲が広くなることを明らかにしている。この結果より,RDrに用いる記憶に ついても記憶の貯蔵された時期という要因での分析が必要になってくるだろう。
また,本研究はRDIに用いる両側性の刺激として眼球運動を用いている。しかし,