本章では、研究対象楽曲を集計した結果に基づく統計結果と、複数の舞踏種にまたがっ て取り扱うべき総合的な分析結果を論じる。その性質上、一部の項目では本論で取り扱う 舞踏種9種類以外にも言及することとする。各舞踏種の集計結果を確認し、分析によって 明らかになった用いられるリズム型の種類を整理し、続いて各舞踏種で共通する要素につ いての総合的考察を行う。具体的には用いられる拍子記号と実質的拍子、形式、シークエ ンスの構成、速度標語、特定の書法およびテクスチュアについて論じる。
本論で取り上げる A 基準の楽曲は全て別表2 研究対象楽曲分析表において掲載され ている。ここでは分析対象楽曲それぞれの用いられる拍子記号、実質的な拍子、アウフタ クトの形態、形式、テクスチュアに関する事項、テンポの標語、楽曲の総スキーマ数と、
観察されたリズム型のうち主要なものの数、およびリズム型のタイプ別の数が示される。
4-1 研究対象楽曲の集計結果
研究対象作品の中から抽出された舞踏種舞曲の総数は751曲であった(表 4-1)。その うち本論で取り扱う9種類の舞踏種に相当する楽曲の数は673曲であった。このうち第2 章で定義した今回の研究対象楽曲の数である「A基準(単)」(表太字)が541曲であった が、資料に楽曲冒頭の数小節しか掲載されていない(本論 p. 55 参照)ことで分析対象か らは外れた楽曲数(「+」記号と共に括弧で記述されている数)と、分析上2曲に分けた楽 曲([ ]内は分析上の総数)を考慮すると、統計上は540曲を扱うことになる。次いで本論 で「B基準」とみなす楽曲は、声楽曲と器楽曲合わせて130件存在した。
本論で統計的分析を行う9種類の舞踏種に関して、A基準の楽曲数はすべて20を超えて いた。突出して多いのがメヌエット、次いでパスピエで、それぞれ他の舞踏種の3倍、2 倍ほどである。これに50曲程度のリゴドン、サラバンド、ジーグが続き、ブーレとガヴォ ットは40曲程度で、ルール、カナリーの順に少なくなっていく。
表 4-1には併せて、本論の研究対象となる9種類以外の舞踏種についても、作品の中 に含まれていた数を示している。集計にあたって、ブランルではさまざまな種類(ブラン ル・ゲ、ブランル・ア・ムネ等)は区別していない。シャコンヌとパッサカイユに関して はB基準に相当する楽曲もA基準の楽曲に接続して全体で1曲として成立しているため、
B基準としての数は示さない。ここに掲載されていない舞踏種(ガイヤルド、シシリエン
第4章 統計と分析:総合的考察
ヌなど)は、今回の研究対象基準に該当するものが現れなかった。ただし、行進曲(Marche)
は集計を行っていない。
表 4-1:本論の研究対象楽曲および本論研究範囲内の舞踏種舞曲一覧 A基準(単) B基準(声) B基準(器) 合計
Bourée 39 (+1) 3 0 43
Rigaudon 48 4 0 52
Gavotte 38 15 2 55
Menuet 148 (+1) 56 5 210
Passepied 105 [106] 3 1 109 [110]
Sarabande 48 [51] (+1) 23 0 72 [73]
Gigue 54 9 0 63
Canarie 26 0 0 26
Loure 32 9 0 41
小計 538 [540] (+3) 122 8 671 [673]
Chaconne 52 (51+1) - - 51
Passacaille 22 - - 22
Forlane 6 0 0 6
Contredanse 8 0 0 8
Branle 7 0 0 7
Pavane 1 0 0 1
Allemande 1 0 0 1
Courante 1 0 0 1
Tambourin 1 0 0 1
Saltarelle 2 0 0 2
合計 642 122 8 773
シャコンヌとパッサカイユはそれぞれ一定の数が観察され、ルイ 14 世治世下の劇場作 品では比較的好んで用いられていたことが指摘できる。尚、A基準のうち2連続するシャ コンヌは5件、3連続するシャコンヌは1件観察され、2連続するパッサカイユは1件観 察されたため、合計で61になるが、これが75曲の実質的研究対象作品の殆どに入ってい た。研究範囲の劇場作品には、シャコンヌないしパッサカイユが必ず1曲は含まれるべき という了解があった可能性も見えてくる。これに関しては今後の研究課題とする。
これ以外の舞踏種、具体的にはフォルラーヌ、コントルダンス、ブランル、パヴァーヌ、
アルマンド、クーラント、タンブラン、サルタレッロは、いずれも楽曲数が10以下であっ た。この中ではコントルダンスが最も多く、先行研究で殆ど注目されてこなかった舞踏種 として興味深い。そのほかにもこれらが劇場作品に組み込まれる理由について等個別に興 味深い研究課題といえるが、ここでは研究対象作品に含まれていた数を示すに留める。
印刷譜の出版年による楽曲数の推移は、舞踏種の流行の衰退をある程度示しているとい える(図 4-1)1。1678年以前と1691年と1692年は楽曲がないが、これは本論での研究
1 ここではシークエンスを形成している楽曲は、シークエンス単位で1曲として数えている。
対象基準に適合する資料がこの期間に出版されていないためである。本研究での研究対象 範囲を通じてメヌエット、ブーレ、ガヴォット、ジーグは安定して作曲がされている。新 しい舞曲と呼ばれることの多いパスピエは1684年、リゴドンは1687年の資料で初出だが、
古いとされるカナリーやサラバンドもそれぞれ1685年と1686年に初めて現れている2。年 代についてあまり言及がされないルールの初出は1685年であった。その後の作曲数はそれ ぞれ安定しているように見えるが、次第に作品数が増えていくかのようなパスピエに比べ、
カナリーは1707年以降には作品例がない。
図 4-1:資料に記載された各舞踏種の数の推移
4-1-1 資料によるタイトルの差異
同一の楽曲で資料によるタイトルの差異が見られたものは9件存在した(表 4-2)。こ こで、研究対象として採用した版は太字で示している。殆どの楽曲では初期の版でタイト
2 ただし両者ともSchneiderCから、1671年以前の作品にこれらの舞踏種舞曲が含まれていたこ とがわかる。
16 71 16 72
16 73 16 74
16 75 16 76 16 77
16 78 16 79 16 80
16 81 16 82 16 83
16 84 16 85 16 86
16 87 16 88 16 89
16 90 16 91 16 92
16 93 16 94 16 95
16 96 16 97 16 98
16 99 17 00 17 01
17 02 17 03
17 04 17 05 17 06
17 07 17 08 17 09
17 10 17 11 17 12
17 13 17 14 17 15 Br 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 0 0 1 2 0 1 0 0 0 2 0 2 3 1 3 2 2 1 2 0 1 1 0 0 1 1 1 1 1 2 0 Rg 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 0 0 0 0 1 1 1 0 4 1 2 1 0 2 0 1 1 2 0 1 0 1 0 1 2 1 1 Gv 0 0 0 0 0 0 0 0 0 2 1 0 0 0 3 2 0 1 2 0 0 0 4 1 0 0 4 0 4 1 0 0 1 0 0 0 0 1 0 1 1 2 1 3 0 Mn 0 0 0 0 0 0 0 0 2 2 4 1 1 1 7 4 1 3 3 3 0 0 6 4 2 1 6 2 3 3 2 8 1 0 2 5 3 2 2 3 3 6 2 8 4 Pp 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 0 1 0 1 0 0 1 3 1 0 3 1 3 4 2 2 2 0 2 3 1 3 3 3 3 6 4 5 2 Sb 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 1 0 0 1 2 1 0 5 0 0 0 0 4 1 0 2 5 2 0 2 2 3 4 2 3 1 Gg 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 2 0 0 1 1 2 0 0 2 2 0 1 2 0 1 3 2 2 1 0 2 3 2 3 3 5 1 2 4 0 0 Cn 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 1 1 0 0 1 0 0 1 2 1 0 3 1 3 0 1 2 0 0 1 0 1 0 0 0 0 0 0 0 0 Lr 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 0 1 0 1 0 2 0 0 0 0 3 0 0 1 1 3 1 1 3 0 0 2 2 1 1 1 1 2 1 0 1 1
0 5 10 15 20 25 30 35
楽曲数
出版年
第4章 統計と分析:総合的考察
ルが付いていなかったものが、後の版で記入されるようになった結果とみなすことができ る。タイトルが大きく変更になった例として、1697.05/Mn2aは初版で〈SECOND AIR DES
EUROPEENS〉であったのが(1697.05ISS/1697/I: 207)、第2版ではMENUET.というタイト
ルに変更されている(1697.05ISS/1708/II: 256)。この作品は初版での3幕構成が第2版で5 幕構成に変更されており、楽曲の掲載位置も大きく移動するが、その中で単なる「エール」
が舞踏種舞曲である「メヌエット」に変更されたことを示している。反対に後の版で舞踏 種タイトルが記載されなくなった例は 1675.01/Mn1 が唯一で、第1版 1675.01THE/1688/I でメヌエットと記されている一方で、第2版 1675.01THE/1711/IIではメヌエットのタイト ルはなくなっている。
表 4-2:資料によってタイトルの差異がある楽曲一覧
最初に出版された版 舞踏種タイトルが付く版
1675.01/Mn1 1675.01THE/1688/I 1675.01THE/1688/I(1711/IIで削除)
1676.01/Gv1 1676.01ATY/1689/I 1676.01ATY/1708/II
1676.01/Mn2a 1676.01ATY/1689/I 1676.01ATY/1708/II
1676.01/Gv2a 1676.01ATY/1689/I 1676.01ATY/1708/II
1682.01/Mn1ab 1682.01PER/1682/I 1682.01PER/1710/II
1686.01/Mn2a 1686.01ARM/1686/I 1686.01ARM/1710/II
1697.04/Lr1a 1697.04EGA/1697/I 1697.04EGA/1699/III
1697.05/Mn2a 1697.05ISS/1697/I 1697.05ISS/1708/II
1704.02/Mn2b 1704.02IET/1704air 1704.02IET/1711/I
4-2 リズム型の総覧とタイプ
次に研究対象楽曲中に存在したリズム型を、スキーマの構成に従い2拍子系と3拍子・
複合拍子系に分けて示す。同時に、第5章以降での分析の目的に従ったリズム型のタイプ 分けを行う。リズム型の種類は、特に3拍子系と複合拍子系のスキーマの分割方法が共通 する。
4-2-1 2拍子系舞踏種でのリズム型の一覧と区分
本論での研究対象楽曲の内容を調査した結果、2拍子では6つの種類が用いられていた
(表 4-3)。本論で2拍子系の舞踏種を論じる際は、ビート1つの型を「全拍」、パルス 2つの型を「均等型」、付点パルス1+タップ1の型を「付点型」と呼称する。
表 4-3:2拍子系のリズム型一覧
リズム型の形態 音価(スキーマ= ) 本論での呼称 タイプ
ビート1つ 全拍 全拍
パルス2つ 均等型 均等系
タップ2+パルス1 均等系
パルス1+タップ2 両義的
タップ4 両義的
付点パルス1+タップ1 付点型 付点系
いわゆる逆付点( )やタップの単位でのシンコペーション( )は観察されなかった。
尚、タップ2+パルス1の型( )も、今回の分析では殆ど観察されなかった。リトルは メトリック・レヴェルを打ち立てるにあたり、ビートは2段階まで分割することができ、
第1分割段階であるパルスをシンコペーションができる最小の単位としている(LJ 1991:
17)が、本論の結果はそれを裏付けるものとなっている。
ここで取り上げた2拍子系のリズム型は「全拍」「均等系」「両義的」「付点系」の4つ にタイプ分けをする。このタイプ分けは、主に「均等系」と「付点系」というタイプの対 立を明らかにするために設定されている。先行研究でもガヴォットなどで、付点系のリズ ムが用いられる楽曲と均等系のリズムが用いられる楽曲が存在することが言及されており、
2拍子系のリズム型で注目すべきは、スキーマで付点系のリズムが多く用いられるか、四 分音符の連続で構成されるかの差異といえる。2拍子系のリズム型における「両義的」と いう語句は、「均等系」としても「付点系」としてもみなしうるものという意味で用いる。
4-2-2 3拍子、複合拍子系舞踏種でのリズム型の一覧と区分
本論での研究対象楽曲の内容を調査した結果、3拍子では 15 種類のリズム型が用いら れていた(表 4-4)3。リトルはこれらのうち、第2パルスが付点の型( )はサラバ ンドの研究で「サラバンド・シンコペーション」、第1パルスが付点の型( )はジーグ やカナリーなどの複合拍子舞踏種の研究で「ソティヤン sautillant」なリズムと名づけてい
る(LJ 1991: 145-146)4。本論でもこの2つの型に関してはこの名称を用いることとするが、
その際に論じられている舞踏種は考慮しないものとする。このほか、本論で3拍子および 複合拍子系のリズム型を論じるにあたっては、ビート1つの型を「全拍」、パルス1+パル ス2つ分の音価1を「単純短長」、パルス3つの型を「均等型」、パルス2つ分の音価1+
パルス1を「単純長短」と呼称する。このうち、単純短長および単純長短のリズム型( ;
3 ここで示す音符は、スキーマが付点二分音符( )と等価の場合の音価で示されている。
4 マザーは「ternary dotted figure」(Mather 1987: 237)と表現している。