第5章 統計と分析:2拍子系舞踏種 ブーレ、リゴドン、ガヴォット
2拍子系の舞踏種では、ブーレ、リゴドン、ガヴォットの3種を分析した。これらの楽 曲はリトルのメトリック・レヴェルでは全て同じ拍節構造(II-2-2 型)であるとされ、主 要に用いられるステップも共通であるため、先行研究では一まとめに取り上げられてきた。
これらの舞踏種は、アウフタクトの長さ、用いられる特徴的リズムが異なり、このうち特 にアウフタクトの長さは、ブーレ、リゴドンとガヴォットを区別するための明確な指標と
される(LJ: 50-51)。他にブーレの特徴的リズムとして言及されるのが、四分音符-二分音
符のシンコペーションの型で、フレーズ内での具体的な出現場所も指摘されている(GMO)
が、これがリゴドンとガヴォットではどの程度用いられるかは、実際には検証が十分にさ れていない。
舞曲の音楽的解釈の側面からは、持つとされる性格や速さの差異、舞踏種の名を冠した ステップとの関連が指摘されてきた。性格や速さの違いは主に言説研究によって行われて いるが、「遅いものも速いものも存在する」とされるガヴォットに対し、一概に「速い」と されるブーレとリゴド ンの差異は明確になっ ていない(GMO “Bourrée”, “Rigaudon”,
“Gavotte”)。
一方でステップでの差異に関しては、個々で取り上げる2拍子系の舞踏種はそれぞれ パ・ド・ブレ(pas de bourée)、パ・ド・リゴドン(pas de rigaudon)、コントルタン・ド・
ガヴォット(contretem[p]s de gavotte)という舞踏種の名を冠したステップ1の存在が指摘さ れているが、現存する舞踏譜ではこれらのステップが使用されている率は、特定の舞踏種 と舞踏種のタイトルが付いたステップの関連性が強いものではないことを示している
(FLC: XXXIX)。すなわち、パ・ド・リゴドンの使用率はブーレ、リゴドン、ガヴォットに
おいてそれぞれ4%, 7%, 4%であり、確かにリゴドンでの使用率は他と比較して若干高いも のの、事実上差があるとは言いがたい。パ・ド・ブレとコントルタン・ド・ガヴォットに ついてもほぼ同じことが言え、用いられるステップから舞踏種の性質を明らかにすること は困難である。
以上のように先行研究ではブーレ、リゴドン、ガヴォットのうち、特にブーレとリゴド ンの区別が明確にできていない。したがってここでは、より明確な両者の違いを統計によ って明らかにすることを一つの大きな目的とした。
1 厳密には、単独の1歩からなるパ・サンプル(pas simple)が複数組み合わされた複合ステッ プのパ・コンポゼ(pas composé)の名称。詳細はFLCやHilton 1981等を参照。
5-1 2拍子系舞踏種の総論
本論で取り扱う2拍子系舞踏種の研究対象楽曲の総数は、A基準の楽曲はブーレが40(う ち楽曲の冒頭のみしか記載されていないものが1曲)、リゴドンが48、ガヴォットが38存 在した。B基準の楽曲を含めると、ブーレが43、リゴドンが52、ガヴォットが55になる
(表 5-1)。
表 5-1:本論の研究対象楽曲一覧:2拍子系(表 4-1より抜粋)
A基準(単) B基準(声) B基準(器) 合計
Bourée 39 (+1) 3 0 42 (+1)
Rigaudon 48 4 0 52
Gavotte 38 15 2 55
A基準の楽曲は平均して40曲前後と、コーパスの数はある程度まとまりを持ったものと いえる。このなかではリゴドンが多いが、どれも同じ程度の数が集まった。B基準に相当 する楽曲の数はガヴォット以外では多くない。B基準の楽曲の大半が声楽曲であることに 鑑みると、ブーレとリゴドンは歌詞が付きにくい舞踏種であった可能性がある。
5-1-1 アウフタクト
研究対象から、アウフタクトの長さは具体的にほぼ以下の3種類に分けることができる。
すなわちアウフタクト無し、パルス1つ分のアウフタクト、ビート1つ分の長さのアウフ タクトの3種である。このほかにスキーマより長いもので、ビート1つ半の長さのアウフ タクトを持った楽曲もある。
楽曲冒頭のアウフタクトの長さを舞踏種ごとに比較すると、。殆どのブーレとリゴドン がスキーマの半分の長さのアウフタクトを持っている一方で、ガヴォットはスキーマ一つ 分の長さのアウフタクトを持っている(表 5-2)。本論の研究対象範囲を見る限りは、舞 踏種ごとに傾向が収束することが明らかとなった。先行研究での指摘どおり、アウフタク トの長さがブーレ、リゴドンとガヴォットを区別するための明確な指標といえる。
表 5-2:2拍子系舞踏種の楽曲冒頭のアウフタクトの長さ なし ビート1 パルス1 その他
Bourée 0 37 1 1
Rigaudon 2 42 0 4
Gavotte 0 1 37 0
第5章 統計と分析:2拍子系舞踏種 ブーレ、リゴドン、ガヴォット
5-1-2 リズム型
2拍子舞踏種全体で用いられるリズム型のタイプ別割合は、3種類の舞踏種で共通して 均等系が40%程度で最も高く、リゴドンでは全拍系、ガヴォットでは付点系の率が他に比 べて若干高い(表 5-3)。ここでは、タップの単位での付点は付点が無い状態のに変換し た上で統計をとる( → )。この型はガヴォットのみ2曲で観察され、ブーレとリゴ ドンでは現れない。尚、アウフタクトやシンコペーションを構成しているスキーマのリズ ム型はここでは統計に含めていない。
表 5-3:2拍子系舞踏種でのリズム型のタイプ別使用率
全拍系( ) 均等系( ) 両義的( ; ) 付点系( )
Br 10% 38% 20% 13%
Rg 24% 44% 16% 4%
Gv 12% 40% 13% 24%
リゴドンにおける全拍系、ガヴォットにおける付点系の優位は、しかしながらいずれも それほど顕著な差となって現れているとはいえない。これ以外のタイプを比較しても、用 いられるリズム型自体は舞踏種ごとに顕著な差がないといえる。したがって特定のリズム 型の使用率から舞踏種を識別することは困難である。また、均等系の40%前後という使用 率は、これを支配的パターンとみなすには不十分であることを示している。先行研究でも 支配的パターンに相当するものの存在は指摘されなかったが、統計結果はこれを裏付ける ものとなっている。
小節単位(スキーマ2つ)での分析
2拍子系舞曲は、スキーマ2つが1小節に相当する。したがって小節単位でのリズム型 は、スキーマを小節の単位で2つ1組に捉える。ここで先行研究で指摘されていた2つの リズム型、すなわちシンコペーションと二分音符2つの型に着目する。シンコペーション はブーレの特徴とされ、具体的には2拍子の1拍目裏に四分音符より長い音価が配置され る形をとり、スキーマ2つにまたがって1小節内で生じる(LJ 1991: 40-41)。研究対象で はこれに該当するものとして4種類( ; ; ; )が観察された。一方で二分 音符2つの型( )は、かつてランスロのみがリゴドンで観察されると指摘したもので(FLC:
XLI)、本論ではビート2つの型と呼称する。
シンコペーションを持っているもの、およびビート2つの型を持っている楽曲と現れる 箇所の総数を見ると、シンコペーションの型はブーレでしか現れないこと、さらにビート 2つの型はリゴドンで突出して多いことが判明する(表 5-4)。
表 5-4:2拍子系舞踏種でのシンコペーションおよびビート2つの型
Br(全39曲) Rg(全48曲) Gv(全38曲)
シンコペーション 23曲(55箇所) 0曲 0曲
ビート2つ 5曲(12箇所) 42曲(158箇所) 2曲(3箇所)
これらは楽曲を通じて現れるわけではないが、用いられることによって舞踏種を特徴付 ける示唆的リズム型である。とりわけビート2つの型は、リゴドンのうち単独で構成され た楽曲には例外なく含まれ、シークエンスでは構成楽曲のいずれかで必ず観察された。し たがってシークエンスを1曲と捉えた場合、ビート2つの型はリゴドンが必ず持っている 必須の要素となり、リゴドンを特徴付ける明確な示唆的リズム型とみなせる。一方でブー レのシンコペーションは先行研究で注目されていたにもかかわらず、必ずしも全てで用い られるものではないことも明らかになった。
5-2 ブーレ
ブーレはバロック舞曲研究において、基本的な舞踏種として取り上げられてきた。偶数 拍子で比較的規則的なフレーズ構造を保つ例が多いためか、バロック舞曲一般に関する演 奏および拍節感覚の把握はブーレを通じて仔細に論じられることが多い。先行研究では、
2/2ないし2/4拍子で、四分音符1つ分のアウフタクトを持ち、単純なテクスチュアで快活 な性格と速いテンポを特徴としているという意見で一致している。ブーレを説明するため の典型的な例としては、特に先述の〈アシルのブーレ〉がダンスのステップを理解するう えでも、音楽の拍節構造や演奏解釈を把握する上でも用いられることが多い。しかしなが ら〈アシルのブーレ〉は本論で取り扱う資料ではタイトルにブーレの語を含んでおらず(本
論p. 53参照)、本論では研究対象に含まれない。これを含め、伴奏舞曲の研究は十分に行
われているとはいえない。したがって本論では先行研究で理解されているブーレ像が、本 論での研究対象のブーレとどれほど一致するかに焦点を当てる。
5-2-1 分析対象楽曲
ブーレはA基準が40曲、B基準が3曲、合計43曲研究対象作品に含まれていた。研究 対象資料中では1683.01PHA/1683/Iが初出で、対象期間末付近の1714.03T&C/1714/Iまで断 続的に記載がある。