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第 2 章 情報収集業務と実行業務のタスクデザイン 14

2.4 統合ケースの分析

この節では、経営者が業務の統合を選択したケースの部分ゲームにおける最適解を導出する。まず、情報の 非対称性が存在しない状況をベンチマークとして考え、次に、情報の非対称性が存在するケースをセカンドベ ストとして考察する。

2.4.1 ファーストベスト

ここでは、分離ケースと同様にして、情報が対称な状況を考える。(仮定1)〜(仮定3)により、経営者にとっ て望ましい行動は「情報収集させ、σGのときに実行、σBのときに中止という決定のもと、プロジェクト実行 時には費用削減努力をさせる」となる。このことを踏まえて、プリンシパルがファーストベストで解く問題は、

{tImax,tI,t˙I} θ[S−βG(C+tI)(1−βG)(C+tI)](1−θ) ˙tI

subject to

θ[βGtI+ (1−βG)tI−k] + (1−θ) ˙tI−c≥0

である。必要となる制約は部下Aにこの契約を受諾させるための参加制約だけでよい。

このときの経営者の利得WIf bは、

WIf b =θ[S−βGC−(1−βG)C−k]−c (2.12)

となり、分離ケースのファーストベストの目的関数の値と同じとなる。

2.4.2 セカンドベスト

分離ケースと同様にして、経営者と部下の間に情報の非対称性が存在する状況を考える。統合ケースでもま た、「情報収集し、σGのときに実行、σBのときに中止という決定のもと、プロジェクト実行時には費用削減 努力をする」が望ましい。

本モデルでは、情報の非対称性の問題が生じる段階は、部下Aが(i)情報収集したか否か、(ii)どのような シグナルを得たのか、(iii)プロジェクトの費用削減努力をしたか否かの三段階で生じている。すなわち、これ らの部下Aが持つ私的情報を経営者は観察することができない。したがって、以下では上記の行動を部下A に誘因付ける制約を課し、次の問題[PI]として定式化する。なお、上述の行動を取らせる場合のゲームツリー は図2.3のようになる。

問題[PI]

{tImax,tI,t˙I} θ[S−βG(C+tI)(1−βG)(C+tI)](1−θ) ˙tI (2.13) subject to

M =θ[βGtI+ (1−βG)tI −k] + (1−θ) ˙tI −c≥0 (2.14) M ≥θ[βGtI+ (1−βG)tI] + (1−θ)[βBtI+ (1−βB)tI]−k  (2.15)

M ≥tI (2.16)

M ≥t˙I (2.17)

βGtI + (1−βG)tI−k≥t˙I (2.18)

t˙I ≥βBtI+ (1−βB)tI −k (2.19)

t˙I ≥tI (2.20)

βGtI + (1−βG)tI−k≥tI (2.21)

tI, tI,t˙I 0 (2.22)

式(2.14)は部下Aの参加制約である。M は、この契約から部下Aが得る期待利得である。このM が留保

効用である0以上となることで部下Aはこの契約に参加する。式(2.15)、(2.16)、(2.17)は情報収集をさせ るための制約である。それぞれ「情報収集をせずσGを虚偽レポートし、費用削減努力をするときの部下A

の期待利得」、「情報収集をせずσGを虚偽レポートし、費用削減努力をしないときの部下Aの利得」、最後に

「情報収集をせずσBを虚偽レポートし、プロジェクトが中止されたときの利得」を表している。式(2.18)、 (2.19)、(2.20)は真の報告をさせるための制約である。式(2.18)は、情報収集しσGを獲得した部下AにσG

をレポートさせるための条件である。同式右辺は、σBの虚偽レポートをしたときの部下Aの利得となってい る。式(2.19)、(2.20)は、情報収集しσBを獲得した部下AにσBをレポートさせるための条件である。それ ぞれ「σGの虚偽レポートをし、かつ費用削減努力をするときの部下Aの期待利得」、「σGの虚偽レポートを し、かつ費用削減努力をしないときの部下Aの利得」となっている。式(2.21)は、費用削減努力をさせるため の制約である。右辺は、σGをレポートし費用削減努力をしないときの利得となっている。最後に、式(2.22) は有限責任制約である。

契約提示 受諾

情報収集 情報収集

S−C−tI

σB

図2.3:統合ケースにおけるゲームツリー A

σG

する

P

t˙I

−t˙I

Good θ

A 報告 A

報告 成功 失敗 tI−c−k S−C−tI

tI−c−k S−C−tI tI−k

S−C−tI

tI−k

σB

σG

報告 報告 (βG) (1−βG) 成功G) (1失敗−βG)

t˙I−c

−t˙I

A 受諾 契約提示 拒否

情報収集 A する

しない

情報収集 しない

A A

1Bad−θ P

A 拒否

00 00

A A

努力

する 努力 しない

努力

する 努力 しない S−C−tI

tI−c S−C−tI

tI

σB

σG

報告 報告

σB

σG

報告 報告

t˙I

−t˙I

t˙I−c

−t˙I

努力 する

努力

しない 努力 する

努力 しない

成功 失敗

B) (1−βB) 成功B) (1失敗−βB) S−C−tI

tI −c−k S−C−tI

tI−c−k S−C−tI

tI −k S−C−tI

tI−k S−C−tI

tI−c S−C−tI

tI

*Pと書かれた○は経営者の決定手番、Aと書かれた○は部下Aの決定手番であり、□は自然が決定するこ とを表している(不確実性)。各節の終わりにはプレイヤーの利得が記されており、上が経営者、下が部下A

の利得となっている。

この問題を解く上での重要なポイントが二点ある。一点目は、費用削減努力をさせるための誘因を与える制 約式(式(2.16)、(2.20)、(2.21))が不要となるという点である。まず、最適契約が式(2.18)、(2.20)を満たす ならば、式(2.21)が成り立つことがわかる。次に、式(2.17)、(2.20)を満たすならば、式(2.16)が成り立つ。

式(2.20)に関しては、これを無視して解き、最後に最適解が満たすことを確認することができる。

二点目は、真のレポートをさせるための誘因を与える制約式(式(2.18)、式(2.19))もまた不要となるとい う点である。式(2.15)を変形すると、

t˙I ≥βBtI + (1−βB)tI+ c

1−θ−k  (2.150)

となる。c >0,1−θ >0より、式(2.15)が成り立てば、式(2.19)が満たされる。同様にして、式(2.17)を 変形すると、

βGtI+ (1−βG)tI ≥t˙I+c

θ+k  (2.170)

となり、θc+k >0より、式(2.17)が成り立てば、式(2.18)が満たされている。式(2.14)の参加制約は、式

(2.17)と有限責任制約t˙I 0 が満たされていれば成り立つので無視することができ、問題[PI]は以下の問題

[PI*]に書き換えることができる。

問題[PI*]

{tImax,tI,t˙I} θ[S−βG(C+tI)(1−βG)(C+tI)](1−θ) ˙tI (2.13) subject to

t˙I ≥βBtI + (1−βB)tI+ c

1−θ−k  (2.150)

βGtI+ (1−βG)tI ≥t˙I+c

θ+k (2.170)

tI, tI,t˙I 0 (2.22)

この問題[PI*]が意味するのは、情報収集をさせる誘因を与える制約式を満たすことができれば、真のレ

ポートと費用削減努力の誘因を付けることができるということである。これは後に、本章での主要な結果であ る「望ましいタスクデザインは統合である」という結論の主要因になる。

問題[PI*]において、最適な報酬をtI, tI,t˙I とし、そのときのプリンシパルの目的関数の値をWI、部下A の情報レントをUI とすると、以下の命題にまとめることができる。なお、ここで考えた経営者の行動が望ま しい行動であるためにWI は正であることを仮定する。

命題2.2:統合ケースにおけるセカンドベストな解と目的関数の値、情報レントは以下のようになる(βG−βB=

∆β)。

tI = 0, tI = c

θ(1−θ)∆β, t˙I = βB+θ∆β θ(1−θ)∆βc−k WI =θ[S−βGC−(1−βG)C]−t˙I−c

UI = ˙tI