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結    果

ドキュメント内 方   法 (ページ 44-50)

対象児の指さし行動の持続時間,ターゲット選択率に ついて統計的分析を行った結果,全ての項目について有 意な性差はなかった。また,テストフェーズにおいて,

対象児が選択した刺激の種類,位置についての有意差も 認められなかった。したがって,以下ではこれらの変数 は考慮しなかった。

1 .ターゲットフェーズにおける指さし行動

月齢間の比較 ターゲットフェーズの各条件で生起し た指さし行動の平均持続時間を,月齢間で比較した。ター ゲットフェーズの各条件(無視,反応,共同注意)を対 象者内,月齢(1歳前半,1歳後半)を対象者間要因とし,

2要因分散分析を行った。その結果,条件と月齢の交互 作用(F(2, 120)= 11.97,p < .01)および条件の主効果

(F(2, 120)= 11.27,p < .01)がみられた。月齢の主効果 はみられなかった(F(1, 60)= 0.17,n.s., 1歳後半児平

均 5.58,1歳前半児平均 5.00)。単純主効果の検定によ

り,1歳後半児において条件間で有意差がみられた(F

(2, 81)= 11.26,p < .01)。 多 重 比 較(TukeyのHSD検 定)を行ったところ,共同注意条件における指さし行動 の持続時間(平均0.50)が,無視条件(平均7.72)お よび反応条件(平均8.51)より有意に短いことが示され た(p s < .01)。1歳前半児においては,条件間で有意差 がみられなかった(F(2, 99)= 0.04,n.s.)(Figure 3)。

指さし行動の生起パターン ターゲットフェーズで出 現した指さし行動の生起パターンを検討するため,以下 の2つの特徴に基づき対象児を分類した。

(1)E1がターゲットに反応した共同注意条件で,指 さし行動を行った対象児を「共有継続群」とした(無視 条件,反応条件で指さし行動を行った対象児も含む)。

それ以外の対象児,共同注意条件において全く指さし行 動を行わなかった対象児を「非共有継続群」とした。

(2)反応条件で指さし行動を行い,かつ,共同注意条

件に入った直後にE1がターゲットに反応してからは指 さし行動を行わなかった対象児を「共有達成群」とした。

それ以外の対象児,1)共同注意条件でE1がターゲッ トに反応してからも指さし行動を行った児,2)反応条 件で指さし行動を行わなかった児を「非共有達成群」と した。

ターゲットフェーズの各条件(無視,反応,共同注意)

を対象者内,指さし行動の2つの生起パターン(共有継 続群,共有達成群)を対象者間要因として2要因分散 分析を行ったところ,条件とパターンの交互作用(F(2, 114)= 11.53,p < .01)および条件の主効果(F(2, 114)

= 11.15,p < .01)がみられた。パターンの主効果はみ

られなかった(F(1, 57)= 0.07,n.s.,共有継続群平均

= 6.71,共有達成群平均= 6.35)。単純主効果の検定に より,共有達成群(F(2, 93)= 17.80,p < .01)において 条件間で有意差がみられた。多重比較(TukeyのHSD 検定)により,共同注意条件での指さし行動の持続時間

(平均0.98)は,無視条件(平均8.28)および反応条件(平 均9.80)より有意に短いことが示された(p s < .01)。共 有継続群においては,条件間で有意差がみられなかった

(F(2, 78)= 0.14,n.s.)(Figure 4)。

月齢と指さし行動生起パターンの関連 各条件におけ

Figure 3 月齢別の各条件における指さし行動の平均持続

時間

注.エラーバーは標準誤差を示す。**p < .01

Figure 4 分類別の各条件における指さし行動の平均持続

時間

注.エラーバーは標準誤差を示す。**p < .01

Table 1 各分類における月齢ごとの対象児の人数

1歳前半 1歳後半

共有継続群  23**(18**)  4 ( 4)  非共有継続群 11 (11)  24 (23)  共有達成群 11 (10)   21**(20**) 非共有達成群 23 (19)   7 ( 7) 

注.( )内の数字はテストフェーズにおいて何も選択しなかっ た対象児を除いた人数を示す。

  **p < .01

る指さし行動生起パターンによる分類を,月齢ごとに

Table 1に示した。各分類についてFisherの正確確率検

定を行ったところ,全ての分類において有意差がみられ た。すなわち,共有達成群には1歳後半児が(p < .01),

共有継続群には1歳前半児が多かった( p < .01, 全て両 側検定)。

2 .テストフェーズにおける選択刺激

ターゲットを選択した対象児の人数をTable 2に示し た。指さし行動生起パターンについて,Fisherの正確確 率検定を用いて群間比較をしたところ,共有達成の有無 による分類でのみ,ターゲット選択数に有意差がみられ た。つまり共有達成群は,非共有達成群より有意に多く ターゲットを選択した(p < .05,両側検定)。次に,二 項検定を用いて,ターゲット選択数をチャンスレベル

(.33)と比較したところ,共有達成群がチャンスレベル より多くのターゲットを選択したが(p < .01),非共有 達成群のターゲット選択はチャンスレベルにとどまった

(n.s.)。

ターゲット選択数について,月齢間で同様の比較を 行ったところ,1歳前半児と1歳後半児との間に有意 差はなく(正確確率検定:n.s.,両側検定),1歳前半 児,1歳後半児ともにチャンスレベルより有意に多く ターゲットを選択した(二項検定:それぞれ,p < .05,

p < .01)。

考   察

1 .ターゲットフェーズにおける指さし行動

指さし行動の出現は1歳児全般で確認できたが,その 生起パターンは,1歳後半児において顕著に変化するこ とが本研究によって明らかとなった。ターゲットフェー ズにおいて実験者が無視条件,反応条件,共同注意条件 と反応を時系列に従って変化させたとき,1歳後半児で は共同注意条件における指さし行動の平均時間が,他の 2条件(無視,反応条件)よりも短くなった。他方,1 歳前半児では,指さしを行う時間に変化はみられなかっ た。この月齢間の差異は,指さし行動の生起パターンに よる分類においてもみられた。1歳後半児は他者とター ゲットへの注意が共有されると指さし行動を止めたが,

1歳前半児ではそうした反応はみられなかった。これら の結果から,1歳後半児は,実験者の注意が反応条件の 段階ではまだターゲットに向けられておらず,共同注意 条件の段階でようやく向けられたことを理解していた ことがわかる。この結果は,ヒトは1歳後半から2歳 にかけて,自分の興味ある対象へ相手の注意を向けさ せるために指さしを用いるようになるというMoore &

DʼEntremont (2001)とも一致する。

ただし,これらの結果をもって,1歳前半児は他者の 注意を理解できていないと結論づけることは早急であ る。なぜなら,この時期の指さしは,他者の反応によっ てその動機づけが変化するとも考えられるからである。

例えば,Mooreらが主張するように,共同注意条件に

おける1歳前半児の指さし行動が実験者とのインタラク ションそのものを展開させようという動機づけに基づく 行動であったとしても,そのことは,反応条件における 指さし行動が実験者の注意をターゲットに向けさせるこ とを目的とした行動であったことは否定できない。

本研究の結果から,指さしが出現して間もない1歳前 半,乳児は他者とのコミュニケーションにおいて多様な 動機づけに基づいて指さしを行い,1歳後半から2歳に かけて,より限定された明確な意図,すなわち他者の注 意を操作するという意図をもった指さしがみられるとい う発達的変化が示された。

2 .テストフェーズにおけるターゲット選択

対象児によるターゲット選択数は,「共有達成群」に おいてチャンスレベル(.33)よりも頻度が高く,かつ「非 共有達成群」よりも多かった。一方,「共有継続群」に おけるターゲット選択は「非共有継続群」との間に差が 認められなかった。1.で示した指さし行動の生起パター ンと月齢の要因,および両者の関連を考慮すると,共有 達成群におけるターゲット選択の頻度の高さは,単純に 加齢に伴う上昇である可能性も考えられた。しかし,1 歳前半児,後半児ともにターゲットをチャンスレベルよ りも高い頻度で選択し,両者のターゲット選択数の間に は差は認められなかったという結果から,この可能性は 排除できる。また,ここでの結果はMoll et al. (2008) と 一致しており,ヒトは1歳前半から,他者と共有した

Table 2 各分類における対象児が選択した刺激

1歳前半 1歳後半

ターゲット ディストラクタ ターゲット ディストラクタ

共有継続群 10  8  2 2

非共有継続群  5  6 18 5

共有達成群  6  4 17 3

非共有達成群  9 10  3 4

注.数字は各刺激を選択した対象児の人数を示す。

特別な経験に基づいて他者の指示対象を選択するといえ る。以上より,指さした指示対象に他者が注意を向けた ときに乳児が指さしを止めるという行動は,その対象を 他者と共有することを目的としていたと考えられる。

叙述の指さしと共有経験の理解との関連は,Liebal, Carpenter, & Tomasello (2010)が議論している。Liebal らは,18ヶ月児と14ヶ月児を比較し,18ヶ月児は2 人の実験者との共有経験を区別し,それぞれに応じて 正確に対象を指さすことを示した。他方,14ヶ月児は 2人の実験者のうち後にインタラクションをもった者 についてのみ正確な対象を指さしたことから,Liebal らは,14ヶ月児は特定の他者との共有経験に基づいて コミュニケーションを行うことはできるものの,相手 が2人であるという状況は14ヶ月という時点では複雑 過ぎたと解釈する(Ganea & Saylor, 2007; Liebal, Behne, Carpenter, & Tomasello, 2009; Saylor & Ganea, 2007 も参 照)。本研究では,乳児と大人が共有した経験は,乳児 の主体的な指さし行動がもたらしたものだった。大人の 反応しだいで乳児の指さしが変化したこと,他者との共 有経験の理解度との間に関連があったことは,この時期 の他者との共有経験の理解は単に加齢に伴い発達するわ けではなく,乳児が他者と対象を共有したいという動機 に基づくインタラクション経験の蓄積とともに発達する 可能性を示唆している。

以上より,1歳前半の乳児は,他者が自分とある対象 を共有できる存在であることをすでに理解してはいる が,そうした他者との共有経験をコミュニケーション場 面において柔軟に利用することにはまだ制約があるとい える。その制約には様々な要因が考えられるが,実際の コミュニケーション場面を想定すると,次のような解釈 が可能ではないだろうか。泣いたりして他者の注意を 自分に引きつけたり,社会的微笑のように社会的文脈 で他者に情動を表出する行動は生後2〜4ヶ月からみら れ,生後9〜12ヶ月になると乳児は他者が自分以外の対 象にも注意を向けていることを理解し始める。指さしも この頃からみられるようになるが,それを介したコミュ ニケーションは,多くの場合,特定の親密な大人による 積極的,主導的な応答により支えられている。例えば,

母親に抱きかかえられた乳児が指さしを行ったとした ら,母親はその先の面白そうなものを見つけて「ワンワ ンだね」などと自ら解釈する。このときの乳児の指さし が母親に犬の存在を気づかせるための行動であったか否 かはわからない。しかし,乳児の指さしに対する,大人 からの敏感で一貫した応答は,乳児が「自分自身の行動 が他者の注意を操作できる」という理解を促進する。そ うした理解が,叙述の指さしという機能をもたせること につながると考えられる。こうした乳児の行動に対する 大人の敏感で積極的な応答は,「足場づくり(scaffolding:

Wood et al., 1976)と呼ばれてきた。明和(2006)は,発 達初期の乳児に対する大人による足場づくりは,他の霊 長類にはみられない,ヒト固有の行動特徴である点を指 摘する。また,ヒトの環境で養育されたチンパンジーは,

ある程度の模倣や社会的参照を行ったといういくつかの 事例を紹介し,ヒト特有の他者からの積極的な働きかけ は,ヒト特有の社会的認知発達を促進する要因である可 能性を示している。

3 .今後の課題

本研究では,他者との共有経験の理解,言い換えれば,

対象を共有しうる存在としての他者理解は1歳前半にお いてすでに備わっていること,ただし,そうした理解を 自らの行動にうつし,コミュニケーション場面で利用す るには生後1年半まで待たねばならないことを明らかに した。

他者の心的状態の理解と表出行動のギャップについて は,Onishi & Baillargeon (2005)が注視時間を指標とし て乳児の誤信念理解を報告して以降,他者の信念理解 の領域でも議論されてきた。Song, Onishi, Baillargeon, &

Fisher (2008)は,18ヶ月児が,適切なコミュニケーショ ン状況があった場合にのみ他者の信念を修正できること を示した。また,Southgate, Chevallier, & Csibra (2010)

は,行動指標を用いて17ヶ月児を対象とした他者信念 理解課題の結果から,乳児自身がコミュニケーション場 面に参加することで,他者の信念により敏感となる可能 性を指摘している。Baillargeon, Scott, & He (2010)は,

乳児向けの注視時間を指標とした誤信念課題と幼児を対 象とした従来の質問返答式の誤信念課題における通過年 齢の差異に着目している。また,こうした年齢のギャッ プを埋める説明として,それぞれに関与する脳部位の機 能的結びつきの変化に焦点をあてた議論が展開されてい る。しかし,こうした発達的連続性を明らかにするには,

閉じた個の変化に焦点をあてるだけでは十分ではない。

乳児の行動に対する大人の敏感で適切な応答性,あるい は大人によって積極的にコミュニケーションの場に誘導 される環境要因についても考慮する必要がある。

また,他者理解の発達に伴う乳児の行動変化とともに,

他者および乳児の情動知覚,表出が与える影響につい ても,今後検討する必要がある(Jones, Collins, & Hong, 1991; Kuroki, 2007; Parlade et al., 2009)。何(物または他 者)に対するどのような情動状態が乳児の指さしを誘発 するのか,戸惑い,喜びなど,どのような情動状態が乳 児の指さしを止めさせたり継続させたりするのか。指さ しの出現に関連する情動要因を検討することで,乳児の コミュニケーションとその動機づけとの関連をよりダイ ナミックに捉えることができると考える。

ドキュメント内 方   法 (ページ 44-50)

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