本論文では,人型つまり人間と同様の身体性を有するロボットをユーザインタフェース として利用することで,既存のインタフェースに比べ,情報世界や実世界に対してより直 感的なインタラクションを可能とするシステムの構築を試みた.
Robotic User Interfaceの章では,人型のロボットをユーザインタフェースとして使用する
Robotic User Interface (RUI) に関して述べた.ロボットの身体性を利用することで直感的な
入出力を可能とするRUIの概念や特徴を,他のユーザインタフェースと対比して説明した.
RUIとは,人型というアフォーダンスを利用した実世界指向インタフェースの一種であり,
人の身体性を利用した入力と,視覚・力覚情報の出力を同一のインタフェースで行うこと が可能である.力覚提示装置としてRUIを考えると,従来の「装着型」「把持型」「遭遇型」
とは異なり,「保持型」の力覚提示装置と定義することが出来る.提示装置が人型であるた め,間接的に人の全身に対する力覚提示が可能となる.また,視覚提示装置として考える と,RUIの動作や形状による情報提示が可能である.この時,力覚提示を更に伴うことで,
動作の「提示」だけでなく「教示」も可能になると考えられる.
RUIを用いた情報世界へのインタラクションシステムの章では,情報世界に対するイン タラクション方法として,情報世界のCGアバタと実世界のロボットの形状を同期するシ ステムを構築した.RUIと物理モデルを導入したアプリケーションを組み合わせることで,
直感的な入力を可能とし,力覚提示装置としてロボットを利用することが出来る.今回は,
実世界のRUIと形状同期を行う情報世界内のCGモデルが,2次元平面上で運動している 物体に対してインタラクションを行うものとして,エアホッケーの物理モデルを構築した.
このシステムにおいて,RUIを用いることでCGモデルを直感的に動かすことを可能にし,
情報世界からの出力を力覚として得ることを可能にした.そして,このCGモデルの入出 力方法において,従来のインタフェースを用いた入出力方法であるジョイパッドのボタン,
スティックを用いた入力,振動による出力を用いた場合と,RUIによる入出力を用いた場 合での比較実験を行った.その結果,RUIを用いた場合では,入力や出力の分かり易さや,
CGモデルに対する愛着に関して効果がある,という知見を得られた.
RUIを視覚提示装置として利用するシステムとしては,両足に自由度を持つRUIと物理 シミュレーションを適用した情報世界を用意し,情報世界内のCGモデルに歩行動作を行 わせ,その歩行動作を実世界のRUIで提示した.この際,CGモデルが情報世界内で他の 物体からの作用を受けると歩様が乱れたり,実世界のRUIに作用して歩行動作を妨げたり することを可能にした.このように,CG モデルの動作を実世界のロボットが動作して提 示することで,RUIを視覚提示装置として利用できることを確認した.また,RUIとして
このように,実世界のRUIと情報世界内のCGモデルの形状同期を行うことで,RUIを 情報の入出力装置として利用することを可能とした.
RUIを用いた実世界へのインタラクションシステムの章では,RUIの人型という身体性 に着目した機器制御法に関して述べた.RUIを用いて家電操作を行うシステムにおいて,
制御対象の機器選択や機器制御において,人型という身体形状を活かした入出力方式を実 現した.人が制御対象を選択する場合には,その対象を見ることで選択を行う.人が腕を 上げると「上げる」や「高い」という情報や,下げると「下げる」や「低い」という情報,
頷くと「了承」という情報を持つ.今回のRUIの入出力において,これらの動作や身体イ メージを利用した.制御対象の選択に関してはRUIの顔を向けることで行い,制御入力に おいては対象が電球である場合,RUIの腕を上げることで明るくなり,下げることで暗く なる,といったように腕の上げ下げでの入力を可能とした.また,制御対象をRUIが判別 した際に,RUIの腕が動作することで現在の機器の状態提示を行った.このように,RUI の身体性を利用して家電機器の選択,制御入力,情報提示を行うシステムを構築した.
そして,このRUIの身体性を利用した入出力方法に関して被験者実験を行った.RUIの 顔の向きを用いた対象の選択に関する実験では,ぬいぐるみの形状による視覚情報かRUI を持って操作している手の触覚から推測する形状情報を利用するかで精度が異なる結果と なった.腕の角度による情報入力に関する実験では,操作者のRUIに対する位置関係や持 ち方が,入力の精度に対して影響を及ぼす傾向が見られた.腕の角度による情報提示に関 しては,視覚情報が無くとも人はRUIから情報を受け取ることが出来る可能性が得られた.
これらの実験を通じ,個人差やRUIの外装の有無,位置関係といった影響はあるが,RUI を用いた情報の入出力は可能である結果が得られた.
RUIと複合現実感技術の章では,RUIと複合現実感技術を組み合わせたシステムに関し て述べた.まず,RUIを自身の分身として利用することで,複合現実環境への直接的なイ ンタラクションを可能とするシステムを実現した.実際に複合現実環境の物体をRUIの両 手で挟んで移動させるシステムを体験してもらったところ,直感的であるという感想が得 られた.遠隔地とのコミュニケーションにおいても,複合現実感技術を用いることで従来 には無い視覚情報や力覚情報の提示を可能とした.操作者からの視点や,RUIと形状同期 を行う複合現実環境のCGモデルでの視点と切り替えることで,相手のCGモデルに対し て異なったインタラクションを行うことを可能とした.また,ロボットから得られる視覚 情報において,物理的に変更が困難であるロボットの外観・形状情報に関して,VST方式 によりCG画像をロボットに重畳することで容易に変更可能なシステムを実現した.重畳 する際に,現実のロボットとCG画像との間にズレが発生してしまうが,このズレを補正 する2種類の方式を提案し,実装を行った.次に,ロボットから得られる視覚情報のうち 動作情報に関しては,その動作表現を拡張する演出エンジンを提案した.この演出エンジ ンとは,物理シミュレーションにおいて設定する物理パラメータを変更することで,情報 世界内の CG モデルの動作を容易に変更可能とするものである.CG モデルの動作を変更
することで,形状同期を行う実世界のRUIの身体動作表現を拡張することが出来る.今回 は物体の衝突,接触という表現の実装を行い,物理パラメータを変更することで衝突の大 きさの変更を,情報世界側のCGモデルの大きさを変更することで,実世界では非接触で ありながら接触をしているかのような表現を実装した.そして,物体の衝突時において,
演出エンジンにおける効果的な物理パラメータに関する知見を得るための実験を行った.
結果として,演出エンジンの効果に関して確認する共に,関節硬さに関するパラメータが 効果的であるという知見を得られた.
このように,人と同形状のロボットを用い,身体性を利用したインタラクションシステ ムを構築することで,ユーザにとって分かりやすい入出力を可能とするとともに,ロボッ トから得られる情報を拡張した.RUIを用いた様々なインタラクションシステムの構築を 通じて,RUIに関する効果や知見を得ることができ,ロボットをインタフェースとして使 用する意義を高めることが出来たと考える.
今後の課題としては以下のことが考えられる.
まず,RUIに用いるロボットの設計が必要である.従来ロボットは,それ自身が動作を 行うことを目的に設計されており,外部から人が手で持って直接関節を動かすものではな く,RUIとして使用する場合には直接動かすためにバックドライバビリティを有する必要 がある.更に,RUIではロボットの動作中に外部から人が操作する場合があり,関節部に 強度を持たせる必要がある.今回使用したIP RobotPHONEではバックドライバビリティを 有していたが,強度に関しては難があり,ギアが破損する事例もあった.また,家電制御 における今後の課題として,目標に対して追従する機能の付加を提案したが,追従のため に関節部のモータ出力も必要となってくる,これらのことを考慮し,モータ出力を確保し つつ,外部から人が操作しても関節部が破損せず,バックドライバビリティを有したロボ ットを設計する必要がある.
更に,ロボットの自由度に関しても考慮する必要がある.本研究では,入力に使用する ものとしては全身に6自由度を持つIP RobotPHONEを,身体動作の出力に使用するものと しては17自由度を持つKHR-1を選択した.入力装置として使用する場合,自由度を多く 持たせると身体動作は豊富になるが,人が操作をする際に困難になってしまう.逆に,自 由度が少ないと入力は容易だが,入出力の内容が単純なものとなってしまう.これらのこ とを考慮し,RUIとして使用するロボットの自由度を決定する必要がある.しかし,一種 類のロボットで入力と出力全てをこなす必要は無く,入力と出力それぞれにおいて適した 自由度を設定すればよいと考えられる.また,物理的に自由度を考慮するのではなく,シ ステムを改良することで自由度の問題を解決できると考えられる.情報世界のCGモデル