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結論

ドキュメント内 連体修飾節の日中対照研究 (ページ 160-173)

6.1 本研究のまとめ

本研究では、日中両言語における連体修飾節について、主要部外在型連体修飾節、主要 部内在型連体修飾節、空所のない連体修飾節及び人魚構文に分けて、それぞれ考察を行い、

連体修飾節の成立及びその使用に関して、中国語のほうが日本語より制限が多いことを明 らかにした。考察の具体的な結論は以下の通りである。

第2章では主要部外在型連体修飾節について考察した。このタイプは日中両言語で非常 によく似ており、制限もほとんどないように見えるが、以下のような相違点も見られる。

(1) a. 酒瓶を戸棚に入れた中尉 (『黒い雨』、日中対訳コーパス)

b. 把 酒瓶 放进 橱柜里 的 中尉

bǎ jiǔpíng fàngjìn chúguìlǐ de zhōngwèi を 酒瓶 入れる 戸棚の中 DE 中尉

(2) a. それで私、庄原の伯母に頼みまして、一升瓶を都合つけて風呂敷に包んで届け に行きますと、酒瓶を戸棚に入れた中尉は風呂敷を床板に投げつけて、『こんな もの、持って帰れ』と云いました。 (同上)

b. ? (直訳) 于是, 我 托 庄原的伯母 给弄来 一瓶酒,

yúshì wǒ tuō zhuāngyuándebómǔ gěinònglái yīpíngjiǔ そして 私 頼む 庄原の伯母 入手する 一本の酒 用 包袱皮 包好 送了去。

yòng bāofúpí bāohǎo sòngleqù で 風呂敷 包む 届けて行った 把 酒瓶 放进 橱柜里 的 中尉,

bǎ jiǔpíng fàngjìn chúguìlǐ de zhōngwèi を 酒瓶 入れる 戸棚の中 DE 中尉

把 包袱皮 往地板上 一扔 说: “这东西, 拿走吧。”

bǎ bāofúpí wǎngdìbǎnshàng yīrēng shuō zhèdōngxī názǒuba を 風呂敷 床の上に 投げる 言う こんなもの 持って帰れ

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c. 于是, 我 托 庄原的伯母 给弄来 一瓶酒,

yúshì wǒ tuō zhuāngyuándebómǔ gěinònglái yīpíngjiǔ そして 私 頼む 庄原の伯母 入手する 一本の酒 用 包袱皮 包好 送了去。

yòng bāofúpí bāohǎo sòngleqù で 風呂敷 包む 届けて行った 中尉 把 酒 放 在 橱柜里,

zhōngwèi bǎ jiǔ fàng zài chúguìlǐ 中尉 を 酒 置く に 戸棚の中

把 包袱皮 往地板上 一扔 说:“这东西, 拿走吧。”(同上)

bǎ bāofúpí wǎngdìbǎnshàng yīrēng shuō zhèdōngxī názǒuba を 風呂敷 床の上に 投げる 言う こんなもの 持って帰れ

「(直訳)そして私は庄原の伯母に頼んで一升瓶を都合つけて風呂敷に包んで届 けに行くと、中尉は酒を戸棚に入れて、風呂敷を床板に投げつけて、『こんなも の、持って帰れ』と言った。」

(1)の連体修飾節は両言語で問題なく対応しているように見えるが、(2)に示している ようにこの二つの名詞句をそれぞれ文脈の中に置くと、日本語の例文(2a)は依然として 自然であるが、中国語の例文(2b)は文法的ではあっても、不自然である。中国語では同 じ意味を表す場合、(2c)のように連体修飾構造を取らずに、他の従属節を使用するほうが 自然である。このように本研究では、統語制約に違反していない連体修飾節が、ある文脈 に置かれると不自然になる現象があることに着目し、連体修飾節が実際に使用される状況 を考慮に入れ、自然な談話から集めた用例を情報構造の観点から分析を行うことにより、

日中両言語で情報構造による制限が異なることを見出した。具体的な制限は以下のように まとめられる。

i) 日本語でも中国語でも、名詞句が旧情報の主題である場合、定義上、限定的連体修飾 節による修飾を受けない。

ii) 修飾を受ける主名詞が主題となる場合、日本語では非限定的連体修飾節の使用が可能 であるが、中国語ではその使用が避けられる。修飾を受ける主名詞が焦点内にある場 合、このような制限は見られない。

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iii) 主題はすでに背景情報を持ち、しかも限定されている場合がほとんどである。このよ うにすでに限定され、背景情報をもつ主題にさらに新しい情報を追加する言語表現は 中国語では好まれない。

iv) 中国語構文でまれに主題の位置に連体修飾節が生起する現象が見られるが、これらの 連体修飾節で提示した内容は前の文脈ですでに提示され、主題に対する新情報の追加 がない。この場合、連体修飾節の使用が許容される。

以上から分かるように、中国語における連体修飾節の使用は日本語より情報構造に関連 する制限が多い。このため中国語では、統語制限に違反していなくても不自然な修飾構造 が存在することを、第2章の考察によって明らかにした。

第3章では主要部内在型連体修飾節について考察した。日本語における主要部内在型連 体修飾節は、(3a)のように、主要部が修飾節の主語であると同時に、主要部を含めた修飾 節が主語になるパターンが見られるほか、(3b)のように主要部が修飾節の目的語で修飾節 が主節の目的語になるパターンもあれば、(3c)のように主要部が修飾節の主語で修飾節全 体が主節の目的語に当たるパターンも見られる。このように、日本語における主要部外在 型連体修飾節において、主要部が修飾節のどの成分に当たるのか、そして修飾節全体が主 節のどの成分に当たるのかによって様々なパターンが見られる。

(3) a. [駅で[酔っ払い]が騒いでいたの]が警官に捕まった。 (黒田1999:27)

b. 太郎が[[林檎]が皿の上にあるの]を取った。 (同上)

c. 警官が[銀行から[強盗]が出てきたの]を捕まえた。 (黒田1999:53)

主要部内在型の修飾構造は中国語にも存在し、おもに書き言葉で使用されている。

(4) a. [[ 申请人] 对决定 不服 的],

shēnqǐngrén duìjuédìng búfú de 申請者 決定に 服さない DE

可以 在 接到 决定 时 申请 复议 一次。

kěyǐ zài jiēdào juédìng shí shēnqǐng fùyì yīcì できる に 受ける 決定 時 申請する 再議 一回

「(直訳)申請者が決定に不服なのが、判決が下りた時に再議を申し出ることが できる。」

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b. [[现役军官] 按照规定 服役 已 满最高年龄 的],

xiànyìjūnguān ànzhàoguīdìng fúyì yǐ mǎnzuìgāoniánlíng de 現役軍人 規定に沿う 兵役に服する すでに 年限に達する DE

退出现役。

tuìchūxiànyì. 退役する

「(直訳)規定によって軍人が年限に達したのが、退役する。」

(『中華人民共和国兵役法』第四章第二十九項)

だだし、中国語の主要内在型修飾構造は、(4)に示すように、主要部が修飾節の主語で あると同時に、名詞句全体が主節の主語に当たるという制限が課されている。この条件を 満たせば、日本語の主要部内在型の用例をそのまま(5)のように中国語で対応させること ができる。

(5) a. 学生が夏休みに帰省していたのがお土産を買ってきてくれた。(坪本1994:163)

b. [[ 学生们] 暑假 回 老家 探亲 的] 给 我 xuéshēngmen shǔjiǎ huí lǎojiā tànqīn de gěi wǒ 学生たち 夏休み 帰る 故郷 帰省する DE に 私 带了 土特产。

dàile tǔtèchǎn 持つ-完了 お土産

このように中国語において、統語上の主語は主要部が内在する名詞句全体であるが、意 味上の主語は修飾節の中に位置するというような主要部内在型修飾節が存在することが分 かった。しかしこの修飾構造は、中国語の場合は日本語より統語上の制限が非常に厳しい ため、日本語の主要部内在型修飾構造をそのまま中国語で対応させることができない。

第4章では、空所のない連体修飾節について考察した。空所のない連体修飾節には、「短 絡した内の関係」修飾構造と「外の関係」修飾構造があり、いずれも修飾節内に主名詞を 埋め込む空所は見られない。まず、日本語の「短絡した内の関係」を持つ修飾構造には、

(6)に示すように、修飾節内の述語動詞が「ル形」を取るものと、「タ形」を取るものが ある。

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(6) a. 夜トイレに行けなくなる話 (Matsumoto 1997:48)

b. 当初の計画で、なんとかやっていけるわよ。私のお給料と、ときどき家具や 美術品を売るお金で。 (『スペインの悪魔』)

c. パーティに来られなかった宿題 (Matsumoto 1997:48)

d. 帝王切開した傷跡 (楊2011:3)

(6)の「短絡した内の関係」修飾構造の用例には、主名詞と関係の深い述語動詞の補充 が必要とされるほか、「主名詞+補充された述語動詞」が表す事象と「修飾節」が表す事象 が「因果関係」で結ばれる。また、因果関係の表し方により、さらに「ル形I類」、「ル形 II類」、「タ形I類」、「タ形II類」に下位分類した。(6a)は「ル形I類」、(6b)は「ル形II 類」、(6c)は「タ形I類」、(6d)は「タ形II類」に属している。この4種類の「短絡した 内の関係」修飾構造が表す論理関係は下表にまとめられる。

述語動詞の形

論理関係

「ル形」 「タ形」

IIIIII

「原因・条件」

事象を担う部分

主名詞+

補充述語

修飾節

主名詞+

補充述語

修飾節

「結果」事象を 担う部分

修飾節 主名詞+

補充述語

修飾節 主名詞+

補充述語 表 6.1 「短絡した内の関係」が表す論理関係

日本語における「短絡した内の関係」の用例において、「タ形」を取る場合、以下のよう に容認度が下がることがある。これは、連体修飾節が表す事象がすでに成立していなけれ ばならないという条件が課されているためである。容認度が高い(7a)では、修飾節で表 す事象が完了した後で「主名詞+補充述語」で表される事象が生起する。この時間関係が 成立しない(7b)の容認度は低い。

(7) a. 帝王切開した傷跡 (楊2011:3)

b. ? ボクシングした傷跡 (楊2011:3)

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中国語には「短絡した内の関係」修飾構造が存在しない。日本語の「短絡した内の関係」

修飾構造と同じ意味を表すには、中国語では空所のある「内の関係」修飾構造または他の 従属節を使用しなければならない。日本語の「短絡した内の関係」修飾構造のように、語 用論的推論によって述語が補充されるような言語現象は中国語には見られないのである。

第4章では、「外の関係」修飾構造についても考察した。中国語では日本語に比べると、

その使用が制限されている。主名詞は感覚、時間の前後と因果関係を表す場合には日中両 言語とも問題なく成立するが、それ以外の場合の「外の関係」の場合には、日本語では成 立しても、中国語では同じような修飾構造では対応させることができない。

第4章の考察から分かるように、空所のない連体修飾節による修飾構造については、中 国語は日本語に比べると、その使用は全般的に制約が多いことが明らかになった。

最後の第5章では、連体修飾構造に関連する人魚構文について考察した。日本語では、

人魚構文の文末名詞には様々な名詞群に属する名詞が現れる。本研究では、角田(2011, 2012)、 Tunoda(2013)、川島(2016)を踏まえ、文末名詞が表す機能的な意味と、統語的な性質 から、以下のように大きく二種類に分類した。

モーダル・証拠性:

[1]「予定、計画」、[2]「見込み」、[3]「感じ」、[4]「状況、状態」、

[5]「決まり、習慣」

個体レベル(individual predicate)・局面:

[6]「性格、性質」、[7]「役目、責任」、[8]「体の特徴」、[9]「無生物の構成」

中国語にも人魚構文と思われる構文が存在し、その特徴や構文的位置付け、通時的変化 などについて考察した。その結果、中国語における人魚構文には主に4種類があることを 明らかにした。中国語の人魚構文に見られる文末名詞と表す意味は以下のとおりである。

i) 証拠性を表すもの。「感觉(感じ)」、「味道(味)」、「气味(匂い)」、「形象(イメージ)」、

「印象(印象)」、「情形(状況)」、「状态(状態)」、「气氛(雰囲気)」、「氛围(雰囲気)」 ii) モーダルを表すもの。「节奏(テンポ)」

iii) 証拠性とモーダルを表すもの。「样子(様子)」

iv) 個体レベルの恒常的状態を表すもの。「性格(性格)」、「性子、脾气(気質)」、「类型

(タイプ)」

ドキュメント内 連体修飾節の日中対照研究 (ページ 160-173)

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