第 4 章 「再帰性をもつ」他動詞構文の分類について
4.2 先行研究と問題点
4.2.1 先行研究
4.2.1.1 二分類説
仁田(1982)は<再帰>に関わる用法を二分類し、「再帰動詞文」と「再帰 用法文」である。
「はく」「着る」「脱ぐ」などの再帰的にしか使われない動詞を有する文を再 帰動詞とする。
(1) その男はエナメルの靴を履き、派手な背広を着ていた。
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(2) 服ヲ脱ぐや、すぐに寝床に潜りこんでしまった。
一方、典型的な他動詞がその一用法として再帰的に使われる場合を、<再 帰用法>と仮称する。典型的な他動詞も、再帰用法を取れば、既述した再帰 動詞と同じような文法的振る舞いをする。
(3) 彼は盛んに旗を振っている。 (他動詞文)
(4) 彼は、こちらを向いて、手を振っている。(再帰用法文)
例(4)のほかに、他の例文も見られる。
(5) 彼は体を曲げて、入ってきた。
(6) 転んで、足を折った。
(7) 心(気持ち)を静めて、私の言うことを聞いてください。
(8) 胸をはらはらさせながらその光景を見ていた。
これらもすべて再帰用法の例である。再帰用法文の特色は、ヲ格成分が、動 作主に現に付随している動作主の分離不可能な一部を表す名詞類によって形 成されているということである。この分離不可能な一部には、物理的なものだ けではなく、「心、気持ち」といった心理的なものも含まれる。こういったも のを<身体部位>と仮称するとすれば、再帰用法のヲ格名詞は、<身体部位>
といった意味特徴を帯びたものである。再帰動詞文と再帰用法文はいずれも直 接受身文にならないとしている。
また、片山(2005)は日本語の他動詞の「再帰性」を「語彙的再帰性」と「構 文的再帰性」に分けた。
主体の働きかけが常に主体に帰ってくる語彙的な再帰性は、着脱を表す動詞 だけではなく、動作の後で主体と客体が一体化したり、客体が主体から離れた りする他の多くの動詞にもある。また、出現・発生を表す動詞や、常に主体自 身の身体部位を客体に取る感情表現や感覚表現もまた、主体への働きかけが外
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へ向かわないという点で語彙的な再帰性があると考えられる。これらの動詞は その内在する再帰性のために、他者に対して働きかけることはできない。
一方、構文的再帰性には、「取りつけ動詞」「取り外し動詞」のように主体と 客体の移動の着点または起点が全体・部分関係にあるもの、及び一般的な他動 詞の主体と客体が全体・部分関係にあるものがある。これらの再帰構文の主体 は、客体への働きかけるもの、外的な要因によって変化するもの、自ら変化を 引き起こすもの、あるいは依頼者になるものなど、様々な意味をもつ。
片山に従って、「語彙的再帰性」と「構文的再帰性」をさらに細かく分類す ると、以下のようになる(片山2005:365)。
①一般的な他動詞 主体の動作→客体の状態変化を表す。
②再帰動詞 主体の動作→主体の状態変化を表す。
「はく」「かぶる」「はく」「脱ぐ」
「得る」「失う」「なくす」
「取る」「出す」「垂れる」
「痛める、赤らめる、ゆるめる」
③取り付け動詞、取り外し動詞 主体の動作→主体の状態変化を表す。
「つける、はずす、積む、降ろす」
④主体の動作を表す再帰構文 主体の動作を表す。
「太郎は手をたたいた」
⑤主体の動作と状態変化を表す再帰構文 主体の動作→主体の状態変化を 表す。
「花子は手首を切った」
⑥主体の状態変化を表す再帰構文 外的な原因/第三者の動作→主体 の状態変化を表す。
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「花子は転んで額を切った」
⑦自然現象を表す再帰構文 自発→主体の状態変化を表す。
「植物が芽を出すためには日光が必要である」
⑧依頼者主体の再帰構文 主体の依頼→第三者の動作→主体 の状態変化を表す。
「太郎が(歯医者で)歯を抜いた」
②は「語彙的再帰性」の構文であり、③―⑧は「構文的再帰性」構文である。
主体の動作を表す再帰構文以外は、すべて主体の状態変化を表している。つ まり、再帰構文は、主体から客体への働きかけの有無に関わらず、動作主や外 的原因が後景に退き、主体が被った状態変化が焦点化されたものであるとして いる。
以上の二分類では、主に、動詞が帯びた語彙的再帰性と統語的再帰性が主張 されている。