第 5 章 病理・生理現象を表す他動詞文と再帰性
5.4 病理・生理現象他動詞文の他動性
5.4.1 病理・生理現象他動詞文の他動性の度合い
(1)食べられないものを食べればいつもお腹を壊す。
この文の中では、「お腹を壊す」という意図を持ち、「お腹を壊す」という動 作を行うわけではない。食べられないものを食べて、下痢をするという状況で
ある。Hopper and Thompson(1980:252)の他動性の基準の10項目を合わせみ
れば、例(1)の他動性は右側のLowに属し、きわめて低いと考えられる。例
(6)「太郎が窓ガラスを壊した」のようなプロトタイプの他動詞文と比べると、
両者の違いがはっきりにわかる。
(6)「太郎が窓ガラスを壊した」
参加者は「太郎」と「窓ガラス」の二つ、太郎が自分の意志の元に、「ガラ スを壊す」という動作・行為の遂行を試みることが可能である。動作性、瞬間 性、意志性の要素が揃っている。目的語のガラスが動作主の太郎によって影響 を受けている。また、「ガラス」は形のある個体の存在で、個体性が強い。「他 動性」のパラメータをすべて満たしており、プロトタイプの他動詞構文である。
このような文は最も高い他動性を示すと言える。形式的には「窓ガラスが太郎 に壊された」の直接受身文が完全に成立する。
この構文に反映する事象のプロセスは次のような図式である。
動作主 対象 対象の結果状態 図1 プロトタイプ他動詞構文のプロセス
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図1のモデルでは、一番左側の円は動作主を表し、二番目の円は対象を示し ている。両者を結びつける矢印は動作主から対象に対して働きかけを示してい る。その右側の矢印は働きかけを受けた対象の変化を示し、一番右側の円の中 に、破線の矢印は変化を受けて、対象の結果状態を示している。
そして、(1)「食べられないものを食べればいつもお腹を壊す」のプロセス を見てみよう。
(1)「食べられないものを食べればいつもお腹を壊す」
この文の中には、参加者は一つ「お腹(主体の体の一部分)」であり、「お腹」
に変化が起こるとともに、主体に変化も生じる。主体が自分の意志の元に、「お 腹を壊す」という動作・行為の遂行を試みることが不可能である。動作性、瞬 間性、意志性の要素が存在しない。「お腹」は主体の体の一部分、個体性が弱 い。「他動性」のパラメータを満たさない。形式的には「お腹が壊された」の 直接受身文が成立しない。
この構文に反映する事象のプロセスは次のような図式である。
主体(お腹) お腹
図2 病理他動詞文のプロセス
小さい円(〇)は主体の一部分の「お腹」を表す。
点線の矢印( )は主体意図的に発する働きかけがないことを表す。
虚のブロック矢印( )は動作・行為を受けた対象に生じた結果 は最終的にまた動作主自身に内在されることを示す。
図1、図2のプロセスを比較すると、病理現象他動詞文とプロトタイプの他
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動詞構文の違いが明きからになる。主体からの働きかけもないし、客体は個別 性のものではなく、客体に目に見えない変化が起こったことによって、主体に も変化が生じた。このような特徴をもつ病理現象他動詞文の他動性の度合いが 低いと考えられる。
では、生理現象他動詞文はどのような他動性を示しているのであろうか。
(5)「先生はうっすらと汗をかいて、両手の中で手巾をごしゃごしゃにした り、引っ張ったりしている」
5.3.1.2 では「あせをかく」というコロケーションを検討した。「汗」は皮膚
から出てきた液体で、肌の表に残っている。述語の「かく」は「痕跡を残す」
という意味を表すことができる。例文(5)には、実際の参加者は一つである。
暑い感じたとき、緊張したとき、意志的に「汗をかく」という動作を行うのは 考えられないことである。また、「汗」は主体からできてきた液体で、主体と 切り離すことができなく、限定された個体と思われない。個別性の低いもので ある。客体の影響より、主体の状態変化が起こる。10のパラメータを照らして みると、生理現象他動詞文は他動性が低いという事実が明らかになる。プロト タイプの他動詞文から外れて、周辺の他動詞文に位置している。「*汗がかか れた」の直接受身文が成立することも不可能である。この構文に反映する事象 のプロセスは次のようになる。
(5)「先生はうっすらと汗をかいて、両手の中で手巾をごしゃごしゃにした り、引っ張ったりしている」
主体(汗) 汗
図3 生理現象他動詞文のプロセス
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小さい円(〇)は主体から出てきた「汗」を表す。
点線の矢印( )は主体からの働きかけがないことを表す。
虚のブロック矢印( )は動作・行為を受けた対象に生じた結果 は最終的にまた動作主自身に内在されることを示す。
図3のプロセスの中では、生理現象他動詞文には主体からの働きかけもない し、客体は個別性のものではなく、主体にも変化が生じた。このような特徴を もつ生理現象他動詞文の他動性の度合いが低いと考えられる。