第 3 章 再帰動詞の本質
3.2 先行研究
3.2.1 再帰動詞に関する先行研究
3.2.1.1仁田(1982)
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(1) 彼は入浴後いつも冷水を浴びることにしている。
(2) そこにはベレー帽をかぶった猫が立っていた。
「浴びる」「かぶる」などの動詞を<再帰動詞>と称する。これらの動詞の 示す働きかけは、他の存在ではなく、常に動作主自身に及ぶことによって、動 作が終結するのが、この種の動詞である。(1)の場合、動作主「彼」の「浴び る」という働きかけは、動作主自身に及んで充足する。同様に、(2)において も、動作主「猫」の「かぶる」という働きかけの及ぶ先は、動作主の猫自身で あり、猫に及んで動作は完結する。
「再帰動詞」の代表は「はく、着る、脱ぐ」など、衣服等の着脱に関わる動 詞である。再帰は、働きかけが動作主に戻って来ることによって、その動作が 終結を見る、といった現象である。従って、働きかけを有していない自動詞は、
再帰といった現象に関わってこない。自動詞に再帰といった現象はないが、再 帰動詞は自動詞に近くなる。動作主の動作が結局動作主に戻って来るのが再帰 動詞であり、動作主以外に動作が波及しないのが自動詞である。再帰動詞が対 象たるヲ格を有しながら、典型的な他動詞からはずれ、自動詞に近づいた存在 であるがわかったとしている。
3.2.1.2権(1996)
プロトタイプ的な立場から次のような意味素性を想定し、典型的な再帰動詞 はすべての条件を満たすものと考える。
[1] 無対動詞:1 項文、2 項文のいずれの場合も対応する自・他動詞形を 持たない。
[2] 求心的運動:動作主を軸とする求心的運動を表す。
[3] 所有性:動作主と対格が所有関係を有する。
[4] 可視性:動作が視覚的に確認可能である。
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再帰動詞の下位分類は次のようである。
[A]着脱動作
着る、かぶる、羽織る、はく、握る、持つ、掴む、担ぐ、背負う、抱く、抱 える、加える、拾う、脱ぐ等
[B]身体の手入れ、吸収動作
剃る、拭う、浴びる、食べる、飲む、嗅ぐ、吸う、読む、書く、見る、聞く 等
[C]姿勢変化
座る、立つ、寝る、屈む、起きる、すくむ、ひざまずく等
[D]非転送的動作、自動的運動
うなずく、瞬く、回る、眠る、歩く、走る、運ぶ、滑る、遊ぶ、歌う、泣く、
笑う等
[A]着脱動詞と[B]身体の手入れを表す動詞は 2 項体制をとる再帰動詞で ある。しかし、両タイプは動きの性質で異なっている。[A]タイプは点的な動 作であり、可視的な結果をもたらすための結果まで含意する再帰動詞である。
(3) 緑は、マルボロをくわえて火をつけた。
(4) 由美が、スキーを担いで、ホームを、5 号車に向かって歩いていると、
「由美ッ」と、大きな声で、呼ばれた。
一方、[B]タイプは時間的な幅を持つ動作を表し、また、結果状態が非可視 的なため、結果を含意せず、動作の側面が強い再帰動詞である。
(5) 夕里子は、グーッとコーヒーを飲みほして、「ああ、おいしかった!」
(6) 園子は、いい香りの紅茶を運んできた。「どうぞ」「恐れ入ります」綾子 は匂いをかいで、「-素敵な匂い!何の紅茶ですの?」
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[C]「姿勢変化動詞と[D]非転送的動作・自動的運動を表す動詞は1項体制 の再帰動詞である。これらはヲ格が深層に隠れている。そのヲ格を表層に顕現 させたものが再帰用法である。時間的な幅を持つ動作であるかどうかの違いが 両タイプにも存在する。
[C]は点的な動作であるため、結果を含意する。
(7)「あら、あなたは―」衣子はカクテルのグラスから顔をあげ、傍に立っ ている長身の女を見上げた。
[D]は時間的な幅を持つ動作を表すため、動作の側面が強調される。従って、
結果状態を含意しない動詞である。
(8)僕は騙されたような気分のまま、仕方なく肯いた。
(9)「先生、わかりました」と堀江が、また走って戻ってきた。
繰り返しになるが、結果を含意するかどうかは、再帰性の結果生じる意味で はなく、動作の性質の違いから生じてくる意味である。
3.2.1.3小柳(2015)